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彩色の魔女  作者: 唄海
2章 英国の闘い
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スタートライン

「ここは⋯⋯」


 必死に思考を巡らせ、今ここはどこなのかを考える。


「俺は確かにベッドで寝て、そっからは何もしてないはず」


 だとすればここは夢か。いや、それにしては感覚がハッキリしている。


「それは多分、君の魔法の力だろう」

「誰だ?」


 背後から声がした。しかし振り向いて見ると誰もいない。


「いや違う。見えないけど、誰かいるな」

「おぉ、やっと気づいてくれたか。これも真が魔女として目覚めてきた証拠だ」

「魔女?」


 俺は女じゃないから魔法使いじゃないのか。そう言いかけて、俺はある事を思い出す。


「そう。真の時代では違うけど、オレの時代じゃあ魔法を使う人は全員魔女だったんだ。男も女も関係なくね」

「お前の時代⋯⋯?」


 声の主のいう通り、魔法と言う概念が生まれた当初は魔法を扱うものは男であっても魔女と呼ばれていた。だがそれでは、この声の主は人間どころか生物としての寿命を軽く超越している。

 そう、まさしく不老不死の魔女のように。


「ま、そんな事は置いといて。今回は真を助けに来たんだ」

「助けに?」

「そう。真があの本に頼んだから、オレがこうやって助けに来たんだ」

「あの本の使い方、あれで合ってたのか!」


 まさか交換日記用の本だったとは思ってもみなかった。俺の知ってる交換日記は、もっとこう小学生とかが使うキラキラした感じの表紙とか装飾だった。


「何しろオレはとある事情で手が離せなくてね。あの本に書いてもらわないと読めないんだよ」

「とある事情、ねぇ」

「いずれ分かるさ。だから今は、目の前の事に集中しようか。というか、今目の前の事以外を教えてしまっても無駄なんだ」

「無駄だと?」

「あぁ、無駄だ。君は忘れているだろうけど、この夢は結局醒めてしまえば忘れてしまう。人の夢と書いて儚いとはよく言ったものだが、実際に夢は儚い物だ」

「⋯⋯そう言われると、何回か会った気もしなくはないな」


 あの時の会話はどんな感じだっただろうか。思い出そうとしても、霧がかかったように霞んで思い出せそうにない。


「オレと真は意識の上層部では完全に対話が抑制されてる。だから、下層部──君に分かるように言うなら、普遍的無意識下を通じて何とか対話が出来る」

「だから、忘れてしまうと」

「そうなる。いやぁ、真が思ったより優秀で助かるよ」

「⋯⋯⋯⋯」


 なんと言ったらいいものか。姿も見えない相手、素性も知らない相手に褒められたところで嬉しくもなんともない。


「まぁいい。本題に移ろう」

「そうだな」


 どうせ忘れるんだ、気楽にねと声の主はそう付け足す。


「率直に言おう。今のままでは、真はあの男に勝てるかどうかは分からない。ハッキリ言って、七対三くらいだと思う」

「もちろん三が俺だよなぁ⋯⋯」

「そうなる。君の魔法は魔女殺しとしては最上級のレベルだけど、使う人がてんで素人だ」


 容赦無く声の主は告げる。そうだ。ゲーム風に言うなれば、武器がいくら強くともキャラのレベルが低ければあっさり負けてしまう。


「そもそも君は魔法を武器としてしか思ってない。武器を介して魔力を喰うなんて、いくら何でも効率が悪い」

「へ?」


 思わず間の抜けた声が出る。魔法が武器では無い? 一体コイツは何を言ってるんだ。


「真が本気を出せば、勝てるかどうかの問題では無くなるハズなんだ。零対百でも足りないくらいね。いや、本当は零対十までしか無いだろうけどさ」


 それ程君の魔法は魔女に対して天敵だ。声の主は、まるで崇めるようにそう言った。


「あぁ、でもだ。普通に武器で殴ってくる敵には武器で返すといい。魔法で攻撃されないなら、魔法を使うまでもない」

「⋯⋯まるで意味がわからん。結局俺の魔法は何なんだ」

「そうやって無意識に正解を当てる力、素直に凄いと思うよ」

「え」

「黒色の属性。それを理解すれば、自ずと使い道も分かる。それを今日、オレは教えに来たんだ」


 どくん、と心臓が跳ね上がる。ここから一歩踏み出せば、もう戻れないと本能が訴えてくる。何処に? 俺は一体何処から何処に行こうとしてる?


「⋯⋯ここから先は忘れてしまうだろうから、言わないでいい事何だろうけど」


 申し訳なさそうな声。


「今の状態の真なら、まだ戻れる。けど、これを聞いてしまえば君は最終的には──」


 そこで声は一度言葉を切る。


「いいから言え」


 一歩。声の主のいるであろう場所に踏み出した。ここで退いても、何も変わらない。


「⋯⋯消えるだろうね」

「⋯⋯⋯⋯」


 そんな事だろうと思ったよ、と俺は呟く。俺の記憶じゃない。これは多分、魔法だ。魔法が俺に教えてくれた事だ。


「本当はこんな事言いたくないんだけど。君を駆り立ててしまうようで卑怯な手なんだろうけど」

「いい。いいから言えよ」

「───君がここで退けば、世界は滅ぶ。つまり君達は、ある日突然パッと消えてしまうんだ」


 突然の宣告だった。


「つまり、皆も消えるってのか」

「あぁ。すまない、オレ1人じゃあ無理だ」

「そうか⋯⋯無理か」


 目を瞑る。夢の中で目を瞑ると言うのも不思議な話だが、ともかく俺は考える為に目を瞑る。

 何の目的で滅ぶのか、誰が滅ぼすのかも、この声の主は分かってるのだろう。


「このまま君たちが幸せなまま消え去るなら、オレはそれでもいいと思う」

「そうだな」


 幸せなまま消え去るなら、それは最高に幸せな事だ。これから苦しむ事もない。けれども。


「小夜」


 少女の名を呟く。彼女が消えてしまうのは、嫌だ。それに俺は、彼女の為に戦うと決めたばっかりだ。


「幸せなまま消え去るのは確かに最高の終わりだ。けどな、それじゃあ誰も救われねぇ。例え何があろうと、在り続けた方が人間らしい」

「⋯⋯そうか」


 この答えは、俺が黒峯真であるなら絶対に変わらない答えだ。小夜が消え去るなど、俺には耐えられない。


「分かった。君が少しでも覚える様に、オレも全力で話そう。君の、黒峯真の魔法は───」

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