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彩色の魔女  作者: 唄海
2章 英国の闘い
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たったひとつの不確定なやりかた

「⋯⋯大丈夫か?」

「うん」


 どれくらいの時間が経っただろう。小夜は静かに顔を上げ、俺の顔をじっと見つめてくる。


「俺の顔に何か?」

「ううん、何も」

「そう」


 ならいい。小夜はやっぱり、俯かない方が可愛い。涙も乾き、晴れ晴れとした表情の小夜は誰よりも輝いて見える。


「でも、本当にいいの?」

「大丈夫だ。それに、まだ元の生活に戻れないって訳じゃない」


 幸いなことに、日本は魔女狩りの風習は無い。ベルとの決着をつければ、また普通に戻れる可能性は高い。


「⋯⋯あ」


 カチリ、と何かが頭の中でハマる。何かとても重要な、俺の考えを根本から覆してくれそうな何かが浮かんでは消えて行く。


「どうしたの真、何か難しそうな顔になって」

「いや、ちょっとな。何かが思い浮かびそうなんだ」


 考えろ。ライヴの話、魔法使いの生涯、魔女狩り、小夜。あと一押し、何かが足りない。


「そう言えば真、学校に連絡はちゃんと入れた? 休みならちゃんと休みと言わないと、後々面倒だって聞いたのだけど」

「あぁ、その点は大丈夫だ」


 むしろ小夜の方こそ大丈夫なのか心配になる。表向きとは言え、転校して来た子が次の日から休みなどあまり良いイメージでは無い。


「そう言えば小夜、今の所はうちの高校に在席してる扱いなんだよな。どうするんだ、これから」

「あぁ⋯⋯そうね」


 本来の理由である日本の魔法使い探しも終わってしまった今、これ以上小夜が日本にいる目的も無い。


「やっぱり、戻っちまうのか」

「そうなるのかしら。でも⋯⋯」


 小夜が何か懐かしむ様な表情になる。


「でも?」

「うん。でも、あの学校は楽しかった。海千流達とも、友達になれたし。何より、真と一緒に居られるのは嬉しかった」

「ぁぅ⋯⋯」

「どうしたの?」


 一緒に居て嬉しかった。その言葉が、じわじわと俺を優しく締め付ける。不覚にも少しときめいてしまった。


「いや、何でもない。続けて」


 何事もなかったかのように続きを促す。あぁ、自分がいかに異性と関わってこなかったかが丸分かりだ。


「そうね。海千流から聞いた体育祭や文化祭も見てみたいし、他に色んなこともしてみたいわ」

「じゃあ、そのままでいいんじゃないか」


 彼女があまりにも楽しそうに語るのを見て、俺は思わずそう言った。


「本当に?」

「あ、いや待て。俺が決闘に負けたら、小夜はどっちみち連れ戻されちまうからな。俺が勝ったらか」


 これはかなりの賭けになる。負けてしまえば全部失う上に、小夜の願いも叶えてやれない。


「真、私はアナタが勝つと信じてる」

「小夜⋯⋯」

「だから、お願いするわ。私を、アナタの高校にいさせてください。真と一緒に居られるように」


 見つめ合うこと数秒。俺は牙を剥く様な笑いを浮かべながら、全力で答えた。


「────任せろ、小夜」


 その瞬間、全ての歯車が噛み合ったような感覚になる。学校、そのキーワードがパズルのラストピースだ。


「そうか、そういう事か。俺が何をすればいいかわかった」


 魔法使いも魔女狩りも関係の無い場所。そこなら、魔法使い達もふざけた役割など捨てて生きていける。


「なぁ小夜。他に新しく二人程呼びたいんだがいい?」

「いいじゃない。人数は多い方が楽しいと思うわ」

「よし!」


 決まりだ。押しつけがましいと言われようが、ふざけた風習で縛りつけられるよりはよっぽどマシだ。明日、その二人に話をつけよう。


「後は俺が勝てばいい。やってやるさ、絶対に」


 心が決意で満たされる。迷いは晴れた。俺が勝てさせすれば、全てが上手くいく。


「小夜、待っててくれ。必ずお前を連れていく」

「うん、待ってる。約束よ」

「約束だ」


 月は昇る。夜は更に深くなり、世界は黒で染め上げられる。だがそれでも、小夜の笑顔は太陽よりもずっと明るく輝いていた。この笑顔の為なら、俺は全てを敵に回しても戦える気がする。


「じゃあ、お休み」

「お休みなさい。また明日ね」

「おう」

「真」

「ん?」

「ありがとう」

「⋯⋯ふ、どういたしまして」


 踵を返し、小夜と別れる。名残惜しいが、今はこれ以上ここでやれる事は無い。ベルとの決闘まで残された時間はあと一日。明日と言う短い時間でどうするかが重要だ。


「⋯⋯」


 無言で扉を開ける。ベッドに横たわった俺は、そこでようやくまだ風呂に入って無いことに気がついた。


「やべ」


 慌てて支度をして風呂場へ向かう。今日は誰も来ないといいのだが、果たして。

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