追い風
「ん⋯⋯」
ガルが目覚めて最初に感じたのは重さだった。うつ伏せに倒れた体は、鉛を詰めたようにずっしりと重い。
「く、あァ⋯⋯」
僅かに動く四肢を使い体を仰向けに回転させる。視界が逆転し、見た事のある天井が目に入った。
「ここは⋯⋯屋敷の中か」
思い出した。自分は黒峯真と激闘を繰り広げ、そして敗れ気絶していたのだ。
「あの野郎⋯⋯遠慮なく魔力持ってきやがって」
「悪いな、加減の仕方を知らないんだ」
「ん?」
呟きに返答が返ってくる。声のした方に首を向けると、事の発端であるあの魔法使いが立っていた。傍らには白い髪の死神が一緒になってガルを見下ろしている。
「立てるか?」
「あぁ」
真の差し出した手を取り立ち上がる。立ってみて分かったが、体中の魔力がほぼ空になっている。暫くは魔法も使えないだろう。
「悪いな」
「いや、気にするな。お前にやられなくとも、あの時点で魔力は切れかかってたからな」
思えばガル自信、なぜあの飽和攻撃で魔力が切れなかったのか不思議に思う。
「不思議と言えば、お前はどうやってアレを凌いだんだ?」
「え、あぁ⋯⋯あれか。俺にもよくわからん」
「わからない?」
「あぁ」
顎に手を添えて何か考え込む真。暫く考え込んだ後、真は口をゆっくりと開いてこう言った。
「多分、転移魔法だと思う」
「⋯⋯あぁ?」
あまりにも意外な応えにガルは思わず唖然とした。
「黒色ってのは転移魔法も使えるのか?」
「まぁ、な。と言っても俺も実際ポンポン使える訳じゃないんだ。使えたのはアレを含めて2回、自分自身を転移させるなら初めてだ」
「黒色の属性って一体何なんだよ⋯⋯」
改めてガルは黒色のイレギュラーさに驚かされた。身体能力の強化に槍の具現化、そして転移魔法──
「そして他の魔法使いの魔力を奪う力か。なぁ真、お前本当に一般人か?」
「今世限定ならな。前世とか別の世界線なら知らんが」
「そうか⋯⋯うーむ」
「と言うか緑さん緑さん」
今まで真とガルのやり取りを黙って見ていたアニマが突然口を開く。
「ご主人様の事、いつの間にか名前で読んでますね。というか全体的に態度が軟化したと言うかデレたと言うか」
「ブフォッ!」
真が思わず吹き出した。
「サリィ、男は戦えば戦うほど仲良くなれんだよ。なぁガル」
「ふ、くふふふ⋯⋯」
「ふふ、ははははは!」
突然笑いだした2人をサリィ──おそらくは真が名付けたであろう名前のアニマは不審な目で見ている。
「あぁそうさ。言いたい事言って殴り合えば、自然と仲良くなれるもんさ」
「そうゆうもんですかね」
「そういうもんさ」
どうゆうもんなんですか、と首を傾げるサリィを前に熱い視線を交わす男二人。
「それはさておき、だ。ガル、ホントにいいのか?」
「気にするな、俺は基本的に放任されてんだ。この程度、痛くも痒くもねぇよ」
それに、と続けるガル。
「小夜が義姉になるのは嫌だしな」
「そりゃあヤダな!」
「あぁ、そういう訳だ。だから頑張ってくれ」
ガルが拳を突き出した。
「もう一つ戦う理由が出来たぜ、ありがとよ」
その拳に、同じく拳を突き出す。がつん、と打ち付けられた拳を握りしめ、ガルと真は再び笑い合った。
「いやー、男の人ってよく分かんないですねー」
そんなやり取りをサリィは最後まで不思議そうに眺めていた。




