針千本
夕飯は俺と小夜、小夜のお母さん、ガル、そしてライヴで食べることになった。
ガルの魔力は幾分回復したらしく、もう動いても大丈夫そうだった。
「それにしても珍しいわね。ライヴ、こっちに来ることなんて滅多にないじゃない?」
「そうかもね」
俺達はテーブルを囲んで作ったうどんを食べながら話をしている。なんというか微妙にシュールな光景ではあるが、皆文句を言わずに食べてくれているので、作った側としては中々に誇らしい。
「それにしても、うどんだっけ。これ、中々美味しいじゃない」
「だろ? でも、パスタみたいな食い方はしないほうがいいと思うぞ」
ライヴは上機嫌でパスタ、もというどんを口に運ぶ。やはりそこは外国人なのか、フォークを使って食べている。その際、パスタの様に巻いて食べている為、太いパスタを食べている様にしか見えない。
まぁ、食べ方は色々と問題があるが、美味しいと言ってくれたから良しとしよう。
「おい、なんだこりゃ」
ガルは一味唐辛子の瓶を見せながら聞いてくる。うどんを買う時についでに買っておいた物だ。なるほど、こっちでは見かけないか。
「……ふっふっふ」
イイ考えを思いついた。これで、ガルに一泡吹かせてやろう。
「そいつはうどんに入れると更に美味くなる魔法の調味料だ。その赤い粉が麺と絡まると激ウマなんだぜ」
「へぇ、そいつはすげぇな」
「試しに入れてみろよ。あ、入れる時は多い方がいい。多ければ多いほど美味くなるんだ」
俺は満面の笑みを浮かべながら、一味唐辛子の凄さをガルに説く。勿論半分ほど嘘だが、まんまと信じたガルは、ほぼ真っ赤になるまで唐辛子を入れ、うどんを勢い良く口に放り込む。
見てるだけでも舌がヒリヒリする光景だった。
「……」
口に入れた途端、ガルはピタリと動く事をやめた。そのままうどんを飲み込むと一言。
「超うめぇな!」
「……は?」
これまで見た中で一番の笑顔を見せながら、ガルは次々と真っ赤に染まったうどんを平らげていく。
「お前、大丈夫か?」
「何がだ?」
「……なんでもない」
内心ガルの舌に戦慄しながら、俺は自分のうどんを食べようとして───
「真君、あなたも入れてみたら?」
「えっ」
「入れるほどに美味しくなるんでしょ?」
「えっ」
小夜のお母さんとライヴがニタリと笑いながら、手に唐辛子の瓶を持って近づいてくる。
「ほらほら、遠慮しないで」
「いやいや! 大丈夫だから!」
「いいからいいから」
「ぎゃあぁ!」
抵抗むなしく、俺の器は真っ赤に染まる。
「うわぁ……真、頑張って」
「無理」
「頑張って」
小夜は巻き込まれないように静かに二人から遠ざかる。一方のガルは相変わらず真っ赤なうどんを食べ続けてる。すげぇ。
「どうしようこれ」
真っ赤な器を眺めながら呆然とする。作った物を残すのも悪いし、ここはやっぱり頑張って食べるしかないか。
「これが因果応報ってやつか……」
先程の自分を恨む。もうあんなイタズラはしないようにしよう。
なるべく白い所を探し、麺を掴む。よし、これなら耐えられそう。
「よっしゃ! いただくぜ!」
そのまま勢い良く口に放り込む。途端、口の中を針で串刺しにされたような刺激に襲われ、見事に撃沈した。実際に針千本を飲まされたらこんな感じなのだろうか。
「が、あ、……ぁ」
痛みと暑さが全身を這いずりまわる。耐えられずに、そのまま机に手をついて必死に堪らえる。
「うどん美味しいわね、ライヴちゃん」
「そうね、蒼夜」
「真、頑張って……」
そんな俺を尻目に、他の奴らは美味しいうどんを存分に味わっている。
──その後、俺は死にかけながらもなんとか完食した。




