表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彩色の魔女  作者: 唄海
2章 英国の闘い
31/115

針千本

 夕飯は俺と小夜、小夜のお母さん、ガル、そしてライヴで食べることになった。

 ガルの魔力は幾分回復したらしく、もう動いても大丈夫そうだった。


「それにしても珍しいわね。ライヴ、こっちに来ることなんて滅多にないじゃない?」

「そうかもね」


 俺達はテーブルを囲んで作ったうどんを食べながら話をしている。なんというか微妙にシュールな光景ではあるが、皆文句を言わずに食べてくれているので、作った側としては中々に誇らしい。


「それにしても、うどんだっけ。これ、中々美味しいじゃない」

「だろ? でも、パスタみたいな食い方はしないほうがいいと思うぞ」


 ライヴは上機嫌でパスタ、もというどんを口に運ぶ。やはりそこは外国人なのか、フォークを使って食べている。その際、パスタの様に巻いて食べている為、太いパスタを食べている様にしか見えない。

 まぁ、食べ方は色々と問題があるが、美味しいと言ってくれたから良しとしよう。


「おい、なんだこりゃ」


 ガルは一味唐辛子の瓶を見せながら聞いてくる。うどんを買う時についでに買っておいた物だ。なるほど、こっちでは見かけないか。


「……ふっふっふ」


 イイ考えを思いついた。これで、ガルに一泡吹かせてやろう。


「そいつはうどんに入れると更に美味くなる魔法の調味料だ。その赤い粉が麺と絡まると激ウマなんだぜ」

「へぇ、そいつはすげぇな」

「試しに入れてみろよ。あ、入れる時は多い方がいい。多ければ多いほど美味くなるんだ」


 俺は満面の笑みを浮かべながら、一味唐辛子の凄さをガルに説く。勿論半分ほど嘘だが、まんまと信じたガルは、ほぼ真っ赤になるまで唐辛子を入れ、うどんを勢い良く口に放り込む。

 見てるだけでも舌がヒリヒリする光景だった。


「……」


 口に入れた途端、ガルはピタリと動く事をやめた。そのままうどんを飲み込むと一言。


「超うめぇな!」

「……は?」


 これまで見た中で一番の笑顔を見せながら、ガルは次々と真っ赤に染まったうどんを平らげていく。


「お前、大丈夫か?」

「何がだ?」

「……なんでもない」


 内心ガルの舌に戦慄しながら、俺は自分のうどんを食べようとして───


「真君、あなたも入れてみたら?」

「えっ」

「入れるほどに美味しくなるんでしょ?」

「えっ」


 小夜のお母さんとライヴがニタリと笑いながら、手に唐辛子の瓶を持って近づいてくる。

「ほらほら、遠慮しないで」

「いやいや! 大丈夫だから!」

「いいからいいから」

「ぎゃあぁ!」


 抵抗むなしく、俺の器は真っ赤に染まる。


「うわぁ……真、頑張って」

「無理」

「頑張って」


 小夜は巻き込まれないように静かに二人から遠ざかる。一方のガルは相変わらず真っ赤なうどんを食べ続けてる。すげぇ。


「どうしようこれ」


 真っ赤な器を眺めながら呆然とする。作った物を残すのも悪いし、ここはやっぱり頑張って食べるしかないか。


「これが因果応報ってやつか……」


 先程の自分を恨む。もうあんなイタズラはしないようにしよう。

 なるべく白い所を探し、麺を掴む。よし、これなら耐えられそう。


「よっしゃ! いただくぜ!」


 そのまま勢い良く口に放り込む。途端、口の中を針で串刺しにされたような刺激に襲われ、見事に撃沈した。実際に針千本を飲まされたらこんな感じなのだろうか。


「が、あ、……ぁ」


 痛みと暑さが全身を這いずりまわる。耐えられずに、そのまま机に手をついて必死に堪らえる。


「うどん美味しいわね、ライヴちゃん」

「そうね、蒼夜」

「真、頑張って……」


 そんな俺を尻目に、他の奴らは美味しいうどんを存分に味わっている。



──その後、俺は死にかけながらもなんとか完食した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ