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彩色の魔女  作者: 唄海
2章 英国の闘い
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真槍

色々とありましたが、今は出来ることを全力でやります。

研究室──そう呼ばれる場所は、図書館の奥に空いた穴の奥に存在していた。


中は一面真っ白で、距離感が掴めない。


「うわ、気持ち悪……」


酔いそうな雰囲気に耐えながら、俺はその研究室へと踏み込む。

部屋の真ん中には、虹色で複雑な魔法陣が敷かれている。


「なんでここが研究室って呼ばれてるんだ?」

「真、あの槍みたいなの撃ってみて」

「こうか?」


俺は足元に展開した魔法陣から、黒い刃物を射出する。

それは加速しながら壁へぶつかると、壁に飲み込まれるように消えていった。


「ここの部屋は、魔力を吸収する壁で出来ているの。そして、吸収された魔力はそこの魔法陣に溜められているわ」

「つまり、遠慮なく魔法をぶっぱなして研究するから研究室?」

「そういう事」


 もう一度刃物を撃ち込んでみる。刃物は水に沈むようにするりと飲み込まれていく。


「そういえばこの槍、触るとどうなるんだ?」

「うーん……踏んだ時は何ともなかったな」

「よしテメェ、ちょっとこの辺に撃ってみろ。俺がキャッチする」


 ガルは自分の横を示して言う。


「よし、ぶっぱなしてやるぜ!!」


 そう言うと俺はガルの顔面に向かって力を込めて刃物を放ち───


「っぶねぇクソが! 俺を狙うな!」


──避けられた。


「ッちィ!」

「いいぞもっとやっちゃえ」

「小夜テメ──」

「了解!」


 空中にも魔法陣を展開。狙いをガルに定め、指令を出すように腕を突き出す。


「ぬわぁー!」


 ガルはそれを必死に避ける。


「うーん、狙いが甘いな……」

「そうね」


 刃物は一つも当たらずに、全て壁へと吸い込まれる。


「はぁっ、はぁっ……テメェら遊ぶな!」

「正直すまんかった。次はちゃんとやるから」

「ホントにだぞ!」

「へいへい」


 言われた通りにガルの丁度隣の空間に刃物を撃ち込む。ガルはそれを横から掴むと───


「っ!」

「どうした?!」


 刃物は掴まれた瞬間に消散し、ガルはその場に膝をついて倒れ込んだ。


「魔力が……ガッツリ……持ってかれた……」

「大丈夫か? 顔が真っ青だぞ」

「ちょいと……休ませてくれ……」


 そう言うとガルは壁際へと移動し、そのまま壁に背をあずけへたり込んだ。


「魔力が持ってかれたって……ガル、何があったの?」

「あの槍みてぇな……どうやら……コッチの魔力を喰いやがる……」

「そんな……魔力の吸収なんて聞いたことが無いわ」

「つくづく不思議な力なんだな。黒色って」


 俺は展開した魔法陣を凝視する。比較的シンプルなデザインの魔法陣は、その力を誇る様に黒く煌々と光っていた。


「俺は少し休む……小夜は構わず……ソイツに魔法を教えろ……」


 ガルは息を切らしながら告げる。どうやら、かなり持ってかれたみたいだ。


「えぇ、ごめんなさい。少し休んでて」


 ガルはそれきり喋らなくなった。いや、別に死んだわけではないから安心してくれ。


「まぁ、真の新しい力も分かったし……改めて魔法について話すわね」

「おう、頼む」


 小夜は部屋の真ん中、つまり虹色の魔法陣の上をくるくると歩きながら解説を始める。


「まず、魔力が体力と共通なのは前にも話したわね。だから、魔力が切れると今のガルみたいに倒れてしまうの」

「あぁ、聞いた聞いた」

「それで、体力は心臓と肺が強ければ回復も早くなる。つまり、魔力も体力の回復が早ければ早く回復するの」

「へー」

「でも、たまに限界以上の力が出る時があるの。その分、後から反動で気絶、悪ければしばらく動けなくなるの」

「あぁ、なんかそういう時あるな」


 おそらくはアドレナリン効果のような物だろう。


「それじゃあ問題。魔力を増やすにはどうしたらいいと思う?」

「心臓と肺を鍛える」


 即答する。別にスポーツはやってないが、男は体を鍛えたくなる時期が来る。あれだ、特に使わないけど腹筋とか割りたくなるだろ?

 そんな感じなので、脳筋的答案を返した。


「その発想はなかったわ」


 小夜は驚いた表情をこちらに向ける。

 いや、わりと真面目に答えたんだが。心肺機能を上げれば回復も早くなるんじゃないだろうか?


「確かにそれもありかもしれないわ。でも、それよりも手っ取り早い方法があるの」

「……思いつかんな」


 まさか、ゲームのように回復アイテムでもあるのだろうか。魔力と体力が共通なら、エナジードリンクなんかアリかも。


「正解は、心臓を増やすのよ」

「心臓を……増やす……?」

「正確には魔力量かな。つまり、擬似的な心臓を増やして、魔力をその心臓から生み出すの」

「えーとつまり……」


 俺は頭の中で蛇口を思い浮かべる。この蛇口は心臓で、魔力と言う水が流れ出ている。心臓を鍛えるという事は、水圧を上げたり蛇口の大きさを広げたりする事に近い。

 それでも1度に出る水の量は増える。しかし、もし蛇口がもう一つ増えたとしたら、それよりも多くの水が流れる事になる。


「でもそれって、普通に無理じゃね?」


 普通、心臓が複数ある人間なんていないし、そう簡単に心臓なんて作り出せない。


「だから擬似的な物なのよ。まだ気づかない? 真も何度かやってるわよ」

「……」


 今まで使った魔法を思い出す。魔法陣を展開して、その中から槍の様な刃物を射出。刃物を増やす時には、魔法陣も増やす──


「あ」


 俺はそこで気づく。あの刃物も魔法で作ったものなのだから─


「わかったでしょ」

「あぁ、魔法陣……あれが擬似的な心臓だろ」

「正解よ」


 小夜は満足気に笑う。どうやら、俺の察しの良さに満足してくれたようだ。


「だからと言って、魔法陣を展開すると体力が回復する訳ではないの。魔法陣は、心臓を内包した一つの体、自分の分身のような物なの。別々の体では、体力は共有できないもの」

「色々と難しいんだな」

「えぇ、ここのところは間違えちゃダメよ。いくら魔法陣を展開しても、肝心の使う人が魔力切れじゃあ、まともに戦えないでしょ?」

「そりゃそうだな」


 よくあるロボットアニメも、武器のエネルギーがあってもロボット自身がダメならば戦えない。それと同じだ。


「うん、魔力についてはこんな感じかな」

「あ、そうだ小夜。あの槍みたいな奴なんだが」

「……ごめんなさい、あれはよく分からないわ」

「いや、そうじゃない。あの槍みたいなの、呼びづらくない?」

「そうね、長いし」


 槍みたいな刃物。これじゃあ、いざと言う時に呼びにくい。

 「真、あの槍みたいな物で刺せ!」とか「行け! 槍みたいな刃物!」とかは正直ダサいし。


「となると、何か名前を付けた方がいいわね」

「何がいいかな」


 俺は腕を組みながら考える。


「ゲイボルグ……なんてのは安直すぎるか。グングニル……うーん。蛇矛(じゃぼう)……は、矛か」


 とりあえず色んな槍の名前を思い浮かべる。ロンギヌス、日本号、ブリューナク、トリアイナ、トリシューラ──

 様々な分野で得た知識を、ここぞとばかりに漁る。


「んー……なんかイマイチだな」


 どれもこれもチート級の武器なのだが、イマイチ用途が一致しない。もう少しシンプルで、何か特別っぽい名前のやつ──


「真の槍で真槍(しんそう)ってゆうのはどうかな? 魔力を侵食する侵槍(しんそう)とも掛けてあるのだけれど」

「真槍……うん、なんかしっくりくるな」


 小夜がいい案を出してくれた。

 『真槍』『侵槍』『進槍』『神槍』

 色んな意味を持たせる事も出来るし、自分の名前も入っている。これ程ぴったりなのはないだろう。それに、小夜が自分の為に考えてくれた名前だ。使わないのは勿体ない。


「ありがとう、小夜」

「うん、真が気に入ってくれてよかった」


 俺達は互いに笑い合う。そんな光景を、全く喋らず空気になりかけてた小夜のお母さん、蒼夜は──


「全く、私はどうしたらいいのかしらね」


 そう、嬉しそうに呟いた。






真「正直、小夜から『真の槍』って単語聞いた時興奮した」

ライヴ「うるせぇ裁縫針」

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