真槍
色々とありましたが、今は出来ることを全力でやります。
研究室──そう呼ばれる場所は、図書館の奥に空いた穴の奥に存在していた。
中は一面真っ白で、距離感が掴めない。
「うわ、気持ち悪……」
酔いそうな雰囲気に耐えながら、俺はその研究室へと踏み込む。
部屋の真ん中には、虹色で複雑な魔法陣が敷かれている。
「なんでここが研究室って呼ばれてるんだ?」
「真、あの槍みたいなの撃ってみて」
「こうか?」
俺は足元に展開した魔法陣から、黒い刃物を射出する。
それは加速しながら壁へぶつかると、壁に飲み込まれるように消えていった。
「ここの部屋は、魔力を吸収する壁で出来ているの。そして、吸収された魔力はそこの魔法陣に溜められているわ」
「つまり、遠慮なく魔法をぶっぱなして研究するから研究室?」
「そういう事」
もう一度刃物を撃ち込んでみる。刃物は水に沈むようにするりと飲み込まれていく。
「そういえばこの槍、触るとどうなるんだ?」
「うーん……踏んだ時は何ともなかったな」
「よしテメェ、ちょっとこの辺に撃ってみろ。俺がキャッチする」
ガルは自分の横を示して言う。
「よし、ぶっぱなしてやるぜ!!」
そう言うと俺はガルの顔面に向かって力を込めて刃物を放ち───
「っぶねぇクソが! 俺を狙うな!」
──避けられた。
「ッちィ!」
「いいぞもっとやっちゃえ」
「小夜テメ──」
「了解!」
空中にも魔法陣を展開。狙いをガルに定め、指令を出すように腕を突き出す。
「ぬわぁー!」
ガルはそれを必死に避ける。
「うーん、狙いが甘いな……」
「そうね」
刃物は一つも当たらずに、全て壁へと吸い込まれる。
「はぁっ、はぁっ……テメェら遊ぶな!」
「正直すまんかった。次はちゃんとやるから」
「ホントにだぞ!」
「へいへい」
言われた通りにガルの丁度隣の空間に刃物を撃ち込む。ガルはそれを横から掴むと───
「っ!」
「どうした?!」
刃物は掴まれた瞬間に消散し、ガルはその場に膝をついて倒れ込んだ。
「魔力が……ガッツリ……持ってかれた……」
「大丈夫か? 顔が真っ青だぞ」
「ちょいと……休ませてくれ……」
そう言うとガルは壁際へと移動し、そのまま壁に背をあずけへたり込んだ。
「魔力が持ってかれたって……ガル、何があったの?」
「あの槍みてぇな……どうやら……コッチの魔力を喰いやがる……」
「そんな……魔力の吸収なんて聞いたことが無いわ」
「つくづく不思議な力なんだな。黒色って」
俺は展開した魔法陣を凝視する。比較的シンプルなデザインの魔法陣は、その力を誇る様に黒く煌々と光っていた。
「俺は少し休む……小夜は構わず……ソイツに魔法を教えろ……」
ガルは息を切らしながら告げる。どうやら、かなり持ってかれたみたいだ。
「えぇ、ごめんなさい。少し休んでて」
ガルはそれきり喋らなくなった。いや、別に死んだわけではないから安心してくれ。
「まぁ、真の新しい力も分かったし……改めて魔法について話すわね」
「おう、頼む」
小夜は部屋の真ん中、つまり虹色の魔法陣の上をくるくると歩きながら解説を始める。
「まず、魔力が体力と共通なのは前にも話したわね。だから、魔力が切れると今のガルみたいに倒れてしまうの」
「あぁ、聞いた聞いた」
「それで、体力は心臓と肺が強ければ回復も早くなる。つまり、魔力も体力の回復が早ければ早く回復するの」
「へー」
「でも、たまに限界以上の力が出る時があるの。その分、後から反動で気絶、悪ければしばらく動けなくなるの」
「あぁ、なんかそういう時あるな」
おそらくはアドレナリン効果のような物だろう。
「それじゃあ問題。魔力を増やすにはどうしたらいいと思う?」
「心臓と肺を鍛える」
即答する。別にスポーツはやってないが、男は体を鍛えたくなる時期が来る。あれだ、特に使わないけど腹筋とか割りたくなるだろ?
そんな感じなので、脳筋的答案を返した。
「その発想はなかったわ」
小夜は驚いた表情をこちらに向ける。
いや、わりと真面目に答えたんだが。心肺機能を上げれば回復も早くなるんじゃないだろうか?
「確かにそれもありかもしれないわ。でも、それよりも手っ取り早い方法があるの」
「……思いつかんな」
まさか、ゲームのように回復アイテムでもあるのだろうか。魔力と体力が共通なら、エナジードリンクなんかアリかも。
「正解は、心臓を増やすのよ」
「心臓を……増やす……?」
「正確には魔力量かな。つまり、擬似的な心臓を増やして、魔力をその心臓から生み出すの」
「えーとつまり……」
俺は頭の中で蛇口を思い浮かべる。この蛇口は心臓で、魔力と言う水が流れ出ている。心臓を鍛えるという事は、水圧を上げたり蛇口の大きさを広げたりする事に近い。
それでも1度に出る水の量は増える。しかし、もし蛇口がもう一つ増えたとしたら、それよりも多くの水が流れる事になる。
「でもそれって、普通に無理じゃね?」
普通、心臓が複数ある人間なんていないし、そう簡単に心臓なんて作り出せない。
「だから擬似的な物なのよ。まだ気づかない? 真も何度かやってるわよ」
「……」
今まで使った魔法を思い出す。魔法陣を展開して、その中から槍の様な刃物を射出。刃物を増やす時には、魔法陣も増やす──
「あ」
俺はそこで気づく。あの刃物も魔法で作ったものなのだから─
「わかったでしょ」
「あぁ、魔法陣……あれが擬似的な心臓だろ」
「正解よ」
小夜は満足気に笑う。どうやら、俺の察しの良さに満足してくれたようだ。
「だからと言って、魔法陣を展開すると体力が回復する訳ではないの。魔法陣は、心臓を内包した一つの体、自分の分身のような物なの。別々の体では、体力は共有できないもの」
「色々と難しいんだな」
「えぇ、ここのところは間違えちゃダメよ。いくら魔法陣を展開しても、肝心の使う人が魔力切れじゃあ、まともに戦えないでしょ?」
「そりゃそうだな」
よくあるロボットアニメも、武器のエネルギーがあってもロボット自身がダメならば戦えない。それと同じだ。
「うん、魔力についてはこんな感じかな」
「あ、そうだ小夜。あの槍みたいな奴なんだが」
「……ごめんなさい、あれはよく分からないわ」
「いや、そうじゃない。あの槍みたいなの、呼びづらくない?」
「そうね、長いし」
槍みたいな刃物。これじゃあ、いざと言う時に呼びにくい。
「真、あの槍みたいな物で刺せ!」とか「行け! 槍みたいな刃物!」とかは正直ダサいし。
「となると、何か名前を付けた方がいいわね」
「何がいいかな」
俺は腕を組みながら考える。
「ゲイボルグ……なんてのは安直すぎるか。グングニル……うーん。蛇矛……は、矛か」
とりあえず色んな槍の名前を思い浮かべる。ロンギヌス、日本号、ブリューナク、トリアイナ、トリシューラ──
様々な分野で得た知識を、ここぞとばかりに漁る。
「んー……なんかイマイチだな」
どれもこれもチート級の武器なのだが、イマイチ用途が一致しない。もう少しシンプルで、何か特別っぽい名前のやつ──
「真の槍で真槍ってゆうのはどうかな? 魔力を侵食する侵槍とも掛けてあるのだけれど」
「真槍……うん、なんかしっくりくるな」
小夜がいい案を出してくれた。
『真槍』『侵槍』『進槍』『神槍』
色んな意味を持たせる事も出来るし、自分の名前も入っている。これ程ぴったりなのはないだろう。それに、小夜が自分の為に考えてくれた名前だ。使わないのは勿体ない。
「ありがとう、小夜」
「うん、真が気に入ってくれてよかった」
俺達は互いに笑い合う。そんな光景を、全く喋らず空気になりかけてた小夜のお母さん、蒼夜は──
「全く、私はどうしたらいいのかしらね」
そう、嬉しそうに呟いた。
真「正直、小夜から『真の槍』って単語聞いた時興奮した」
ライヴ「うるせぇ裁縫針」




