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彩色の魔女  作者: 唄海
2章 英国の闘い
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ヒキガネ

目の前の穴を銃口と理解した瞬間、俺は自分でも驚くほど綺麗なサマーソルトキックを決める。

直後、目が眩むような閃光と耳をつんざく破裂音が部屋に反響する。


「ッアァ! クソ! 何しやがるテメェ!」


バックステップでそのまま距離をとる。

しまった、相手が銃を持っているのならいくら距離をとろうが関係ない。


「ちっ」


だが相手は苛立たしげに舌打ちをしただけで、俺に追撃を加えようとはしてこなかった。

──いや、『できない』のだ。


「L96A1……実物で見るのは初めてだ。そいつはボルトアクションだろ。そいつじゃ間に合わねぇぞ」


相手が構えていた長物。

スナイパーライフルと言われるソレは、俺を仕留め損ねた不満を漏らすように、銃口から僅かに煙を吐き出していた。


「……よくそんな事知ってるね」

生憎(あいにく)、ゲームではお世話になってるからな」


俺はあの銃に見覚えがある。

ゲームなんかでもよく見られる銃だ。

そしてここで重要なのは……


───ボルトアクション

映画なんかでもよく見るだろう。

狙撃銃を撃った後に、横に付いてるレバーをガシャンと引いたりする事だ。

詳しい機構は割愛するが、要は連射ができない。


「……どうした、反撃しないの?」


目の前の人物は、俺を警戒したままそう言った。

だが俺はその人物の容姿を見た瞬間、反撃する気など全く失せてしまったのだ。


目の前の人物は、それは小柄な少女だった。

小夜も十分小柄だが、それとは比べ物にならない程だ。

なるほど、あれじゃあ確かに俺の目線では見えないはず。

そしてそれよりも、目を奪われる様な光景があった。

特徴的な濃い紫色のショートヘア。

そして───


「オッドアイ……」


幼さくも見えるが、端麗(たんれい)な顔にある二つの瞳。

それは左右で色が異なっていた。


左目は、凡百(あらゆる)宝石にも負けないくらい綺麗な碧眼。

右目は、青い瞳。

小夜の眼が海の青なら、彼女の眼は晴れた空の青だ。


それがあまりにも綺麗だったから俺は──


「いや、反撃はしないよ。別に打つ手が無い相手に反撃する程俺も好戦的じゃねーし」


そんな事を口にしたのだった。


「はぁ……変な人ね、アンタ」

「変な人ってのはまぁ……よく言われるけど」

「まぁいいや。それよりもっと変なのが、アタシの眼見ても全くキモがらない事だよ」

「え、なんで。すげー綺麗な眼だと思うぞ。俺もなりたいくらいだ、オッドアイ」

「……は?」


彼女は心底驚いたような表情を浮かべる。

俺、何か変な事言ったか……?


「はぁ、変な人。もういい、小さくて見えないって言った事は許す」

「え、それでもしかして撃ってきたの?」

「うん」

「……よく()けれたな、俺。下手したら死んでたぞ」

「なら、これに懲りて二度とアタシを小さいなんて言わない事ね」

「そうか、ところで小さいお前さんよ。名前を教えて──」

「フンッ!」

「ゾロアスター!」


何とか場を和ませようと叩いた軽口を、彼女はその顔ごと口を銃のストックでフルスイングする。

んにゃろう、変な悲鳴が出たじゃねーかよ。


「アンタ、やっぱり死ぬ? てか死ね」


彼女はそのまま銃のレバーを引く。

カツン、と銃から薬莢(やっきょう)が床へと落ちる。

落ちた薬莢が、まるで俺の切り落とされた首の様に見えた。


「あぁすいませんすいません許して下さい調子に乗りましたマジでごめんなさい!」


銃身を必死に抑え、謝罪の言葉を口から連射する。

こいつ、小さいクセに馬鹿力だ! 下手したら腕ごと持ってかれる!


「冗談だから! 冗談ですからぁ!」

「次言ったら本当に撃つからね」


必死な抵抗が通じたのか、ひとまず彼女は銃を下ろしてくれた。


「んで、名前はなんて言うんだ?」

「アタシはライヴ・ウィオラーケウス。ライヴでいい」

「そうか。よろしく、ライヴ」

「別に、よろしくする必要もない」

「ひでぇ!」

「まぁ……どうしてもって言うなら……仕方ないけど……」


そう言って目の前の少女──ライヴはカチャカチャと銃を指で(いじ)る。

正直、また撃たれそうで怖い。


「あぁ、わかった。仕方ない時は頼むよ」

「ん……そうして」

「あ! そう言えば!」

「何だよ急に」

「俺、元々小夜達を探してたんだっけ」

「あぁ、そう言えばそうだった」

「ライヴ、小夜達はどこ行ったか知らねぇか? 階段まで一緒だったんだけど」

「それなら心配ない。時期に来る」


ライヴがそう言った途端、外からバタバタと足音が聞こえてくる。


「真ー! どこー!?」

「多分ライヴのトコだろ」

「そう、ライヴのところに……そう言われるとそうね」

「アイツ、警戒心強いからな」

「でも、私達をわざわざ入口まで戻す必要ある?」

「そりゃあ、人質にされないようにとかだろ」

「真はそんな事しないわよ」

「そりゃそうだな」


──そんな会話が部屋の中まで聞こえてくる。


「入口まで戻すって……そんな事できるのかよ、ライヴ」

「滅多にやらないけどね」

「へぇー、良い奴なんだな」

「何が」

「だって、小夜達に被害を受けさせないために、滅多にやらない事までやったんだろ?」

「……お人好しと言うか、楽観的と言うか。めでたい頭の奴」

「ひでぇ! ……まぁいいや。それじゃ、俺は小夜達と合流するよ。またな、ライヴ」

「ん、また」


俺は扉を開け、廊下へと出る。

と、最後に。


「本当はライヴ、撃つつもりなんて無かっただろ。あれ、空砲(くうほう)だろ?」


そう告げて、部屋を後にした。

別に確信があったわけじゃない。

けど、撃たれたはずの弾は見当たらなかった。


「本当に……変な人……」


閉まった扉を見つめながら、銃を持った少女は罵倒の言葉を投げかける。


──そう罵倒した彼女の口元は笑っていた。





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