第17話 紅と蒼の看板娘(チカ・アンザリス&シオン・ワカマリスの場合)
日が暮れ始め、そろそろ看板を仕舞おうかという頃だ。
売上を帳簿に書き込み、会計をまとめていると――
カランカラン、とドアベルが鳴り、二人の少女が滑り込んできた。
まず目を引いたのは、その服装だ。
深いネイビーブルーを基調とし、豪華なゴールドの刺繍が施された制服。見るからに上質な素材で仕立てられている。騎士の正装を思わせる凛とした気品がありつつ、どこか作り物めいた洗練さも感じさせる。
……いや、ここは正真正銘の異世界なのだが、それにしても“お高い”雰囲気が漂っている。
「いらっしゃいませー」
いつものように声を掛けるが、二人は店内に入るなりキャッキャと話し始めた。こちらの挨拶は完全にシャットアウトだ。
一人は明るい金髪のショートボブ。大きな目をキラキラと輝かせ、商品棚を興味深そうに眺めている。
もう一人は腰まで届く艶やかな黒髪のロング。落ち着いた雰囲気で、静かに周囲を観察していた。
性格の違いが、そのまま見た目に表れている。
「ねえチカ、この店……ちょっと貧乏くさくない?」
「シオンから見ればそうかもしれないけど、置いてあるものはいいの。ほら、この小物なんて可愛いでしょ!」
……貧乏くさくて悪かったな。これでも王女様御用達の工房なんだぞ。
まあいい。異世界の常識では、俺みたいな平民の服屋は胡散臭くて当然だ。
この世界で学校に通えるのは、基本的に貴族だけ。しかもあの制服の質を見るに、かなりの上流階級。
間違いなく“良家のお嬢様”だろう。
「それよりシオン……マジで冒険者やるの?」
「だって、このままじゃ五十歳も離れたヒヒ爺と結婚しなきゃならないのよ。家を追い出されても自立できるように準備しておかないと」
なるほど、貴族のお嬢様もいろいろ大変らしい。
だが、そんな彼女たちの愚痴を横目に、俺の“目”は別の意味で釘付けになっていた。
明るい金髪をショートボブにした、太陽のように笑う少女――チカ。
黒髪をなびかせ、冷静な瞳で周囲を見渡す少女――シオン。
あれ? これはもしかして……?
――赤いリボン。
――紺の制服。
――銃を笑顔で構える少女と、無表情で支える相棒。
脳裏に浮かぶ、対照的な二人組。
天啓――!
「君たち! 明日も来てくれ!」
唐突に叫んだ俺に、二人がビクッと肩を震わせて振り返る。
「え、やだ。なにこのおじさん、なんか怖いんだけど……」
「……チカ、やはり変態の店だったようです。帰りましょう」
お、おじさんだと……!?
まだ二十代の俺に突き刺さる一言。だが、めげている暇はない。
「いいから来てくれ! 明日! 同じ時間に!」
二人は顔を見合わせ、やがて小さく溜息をついた。
「……とりあえず、話だけは聞いてあげましょうか。シオンもいい?」
「チカが言うなら……。ただし変なことをしたら即刻騎士団に通報しますわ」
「それでいい! ありがとう!」
……危なかった。騎士団沙汰は御免だ。
だが明日こそ、彼女たちを俺の最高傑作で彩ってやる。
うはははは!
―――――
夕食もそこそこに、俺は工房へと籠もった。
今回のテーマは――「赤と青」。
まず、チカ用の制服。
ベースカラーは燃えるような赤。一見すれば可憐な学生服だが、素材には「時空の歪み」を微細に発生させるクロノ・シルクを使用している。
着用者の反射神経を極限までブーストし、あらゆる遠距離攻撃の軌道を“視覚化”する機能を組み込んだ。
次に、シオン用の制服。
青を基調とした対比的なデザイン。こちらは合理性の塊だ。
彼女の冷静沈着さと精密射撃能力を最大限に引き出すため、「必中」の補助術式を内蔵。左胸とベスト部分には高品質な黒曜石を埋め込み、防御力と判断力を底上げする。
「……よし。ついでだ、特別機能も付けてやるか」
俺は脳内の欲望に従い、二着の制服へとさらなる機能を付与していく。
攻撃、防御、補助、そして――
「よし……我ながら完璧だ……ふふふ」
明日、王都に新たな伝説が生まれることを、まだ誰も知らない。
ーーー
翌日。予定通り、彼女たちはやってきた。
「一応来たけど、変なことしたら速攻で通報して帰るから」
「それでぇー、『いいもの』ってなにー?」
約束通り、呑気に獲物……もとい、モデルの二人がやってきた。ぐへへ、待ってたぞ。俺は一睡もせずに仕上げた「それ」を、恭しく二人に提示した。
「これだ! さあ、着替えてみてくれ!」
赤と青、二つの制服型衣装をドンとテーブルに置く。
二人は最高に胡散臭そうな顔でそれを眺めていたが、抗いがたい魔力(デザイン性)に引かれたのか、連れ立って試着室へと消えた。
数分後――。
扉が開いた瞬間、現れた二人を見て俺は震えた。
そこには、深紅と紺青のコントラストが鮮やかな「リ〇リ〇」の制服に身を包んだ少女たちがいた。
チカは赤いジャケットが彼女の天真爛漫さをさらに引き立て、シオンは紺色の制服がそのクールな美貌を一層際立たせている。
チカは赤いジャケットが彼女の天真爛漫さをさらに引き立て、シオンは紺色の制服がそのクールな美貌を一層際立たせている。完璧な対照、完璧なデュエットだ。
「いい!! 完璧だ!!」
「へー、変わってるけど、なかなかいいわね。……あれ、なんか身体が軽い?」
「可愛い……。しかもすごく動きやすい。まるで自分の肌の一部みたいですわ」
「ああ、君たちの身体能力を大幅に上げてるはずだ。だが、この服の真価はそれだけじゃない」
俺は興奮冷めやらぬまま、二人をいつもの実験場である海岸へと連れ出した。
そして腰に用意していた“魔銃”を装着させる。
チカには、近接戦向きのコンパクトモデル。
シオンには、質実剛健な軍用モデル風の一挺。
「弾丸は魔力によって自動補充される。思い切り撃ってみてくれ!」
二人は驚きながらも銃を構え、並んだ的に向かって引き金を引いた。
乾いた魔力排出音が連続して響く。チカは踊るような足捌きで距離を詰め、シオンは微動だにせず精密な射撃を繰り返す。特にシオンの命中率は、もはや異常と言っていいレベルだ。
「シオンの衣装には『必中狙撃』の補正がある。そしてチカ……君の衣装には、敵のわずかな動きから次の一撃を読み、至近距離の攻撃ですら紙一重で回避する能力を付加したんだ」
「すごい……これなら、本当に冒険者としてやっていけるかも!」
チカが目を輝かせたが、ふとシオンが現実的な問題を口にした。
「確かにこれは凄いですけれど……これ、相当な業物ですよね?」
「そうだねー。とても私たちのお小遣いじゃ買えないよー」
「いやいや! それはプレゼントするよ! 持って帰ってくれ! むしろそのまま君たちに着ていてほしいんだ!」
俺の太っ腹な提案に、シオンの目が冷たく光った。
「平民から施しを受けたとなれば、貴族の矜持に関わります。恥ずべき行為ですわ」
「そうだねー。ましてやおじさんからの施しだと、後で何を要求されるか分かんないし……」
「そ、そうか……」
俺は肩を落とす。
「せっかくこの服に“喫茶店経営能力”も付けたのに……」
ポツリと漏れた俺の呟きに、シオンがハッと顔を上げた。
「ちょっと待ってください! なんですか、それは!」
「いや、文字通りだ。喫茶店を運営できるように、美味しいお茶を淹れられたり、最高の軽食を作れたりするスキルを縫い込んだんだが……」
「それ!! それです!!」
「どれ?」
「私たちで喫茶店を経営しましょう!!」
突然の大声に面食らっていると、シオンは鼻息荒く語り始めた。
「冒険者は不安定で血生臭い職業です。でも、この服の力があれば安全かつ確実に稼げるはずです。そして『喫茶店経営能力』があれば! 普通の令嬢では絶対に経験できない人生を謳歌できますわ!」
「シオンったら現金ねえ。でも面白そう! やっちゃう?」
「これは施しではなく『共同経営』。もしくは『投資』。私たちが店を盛り上げ、その利益で代金を支払う形にすれば貴族としての体面も保てますわ!」
シオンの瞳に、今日一番の……いや、人生一番の希望の火が燃え上がった瞬間だった。
ーーー
後日。
我が布袋工房の隣に、『喫茶リコリコ』という看板を掲げたお洒落なカフェがオープンした。
看板娘は、あの赤と青の制服を着た少女たち――チカとシオンだ。
店では「どら焼きバーガー」という、この世界では馴染みのない「餡子」を使った珍しい料理が評判を呼んだ。甘い香りとカリカリの食感が絶妙で、試作品をつまみ食いした俺も唸らされたほどだ。
昼時には地元住民や冒険者、さらには俺の作った衣装を目当てに集まる貴族までやってきて、店内はいつも賑わっている。
楽しそうにパフェを運ぶチカ。
経理をこなしながらコーヒーを淹れるシオン。
そして時折、裏口から銃声のような音が聞こえるとか聞こえないとか。
ーーー
アイテムデータ】
【S級】リコリス制服・赤(チカ・アンザリス専用)
素材: 熟練竜翼鳥の羽根 × 聖獣の牙 × 絢爛レッドクロス
特徴:
・身体強化: 瞬発力、跳躍力の大幅上昇。
・危険察知: 敵の殺気を視覚化し、至近距離からの攻撃をステップで回避する。
・喫茶店運営: プロ級の焙煎・抽出技術。和洋菓子のレシピおよび調理スキル。
備考: パフェの盛り付け時に物理法則を無視して高く積める隠し機能付き。
【S級】リコリス制服・青(シオン・ワカマリス専用)
素材: 魔鉱銀製の鎖帷子 × 黒曜石製のプレート × 精緻ブルークロス
特徴:
・身体強化: スタミナ・集中力の増加。
・必中狙撃: 遠隔攻撃時の命中率100%補正。魔銃のサイトと視神経をリンクさせ、1km先の的すら射抜く。
・喫茶店運営: 在庫管理・経理能力。接客スマイル(圧強め)の向上。
備考: 帳簿の計算ミスを自動で検知し、音で知らせる機能付き。
書きおき分が無くなりましたので一度完結とします。
またネタを思いついたら投稿しようと思います。




