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サイレント・ベルフラワー  作者: ProjectAI.【プロジェクトアイ】
◇ Program Ⅴ ◆

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59/59

File.59「既視感・引金」

◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)

 本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆桔梗 レエナ (ききょう れえな) 16歳(高2)

  本作のメインヒロイン。口数が少なく、感情表現が苦手。陽彩の専属コーチ。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆白百合 結衣 (しらゆり ゆい) 15歳(高1)

 人見知りな性格だが、トキシーを前にすると狂戦士(バーサーカー)化する。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆翡翠 蘭 (ひすい らん) 17歳(高2)

  お淑やかな性格で、ヒュドール学園高等部の生徒会長を務めている。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆月下 人美 (つきした ひとみ) 17歳(高3)

 ギャルメイクと"うずらっち"が趣味の姉御肌。第1部隊(うずらっち)の頼れるリーダー。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆黒華 苧環 (くろばな おだまき) 15歳(高1)

 クロッカス入隊試験首席合格の優等生だが、キザで性格に難あり。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆アカツキ

 陽彩の相棒である初代ルミナスクロー。かつては牡丹田朱里のパートナーだった。

 お嬢様口調で、派手な見た目をしている。

「えっと……俺に?」


「……」


 白百合は唇を嚙み締めつつ、コクリと頷いた。心なしか息遣いと血色の悪化が同時に進行している気がする。


「体調でも悪いのか?」


「……それに、近しいですっ……と思います……」


 白百合は息苦しそうに言葉を紡ぐが、命乞いをする獣のようなその姿は、”あの時”を彷彿とさせている。


「もしかして……”ヤツ”が……?」


「……うっ……はっ……はいっ……!」


 白百合は今にも破裂しそうな自身の身体を必死に抑え込むようにして身を屈めた。


「んっ!?どっちだ!?」


 血眼になって周囲を見渡す俺の視線の先に、小刻みに震える白百合の人差し指が伸びている。


「あれっ、黒華が走って行った方角とは違う……てことは、アイツは一体……」


「はうっ……!ゔぁっっ……!!!」


「ユイ、大丈夫ですの!?」


 叫声とともに白百合は倒れ込み、肩で呼吸をし始めた。アカツキも動揺して足をバタつかせている。


「とりあえず、俺の背中に乗ってくれ!みんなと合流するぞ!」


 俺は白百合を背負い、全速力で薄暗い森の中へと駆けていった。



————————————————————◇◆



 俺はイヤホンに指を押し当て、うずらっち全体に向けて呼びかける。


「はぁ……はぁ……こちら御角、応答せよ!!」


『こちら桔梗、状況報告を』


 真っ先に桔梗先輩の冷静な返事が戻ってきた。


「白百合さんの体調が悪化しました!恐らく、トキシーが近くにいます!」


『了解……こちらに向かわれているようですね。そのまま北進してください、合流しましょう』


「了解です!」


 それから2,3分程で、俺は先輩たちと合流した。


「桔梗先輩!!お待たせしました……!」


「無事で何よりです。白百合さんの体調は?」


「さっきよりは落ち着きました……多分、トキシーから離れたからだと思います」


 俺は白百合の身体をそっと地面に寝かせた。まだ多少の呼吸の乱れはあるものの、黒百合に狂変することはなさそうだ。


「とりあえず、安静にしておきましょう。こちらもひと段落ついたようですし」


「ひと段落……あっ、誰ですかあの子?」


 俺の視線の先には、腕を組み困り果てた様子の月下先輩と、すずと同い年くらいの少年、そしてその少年の身動きを封じている黒華の姿があった。


「ハハッ☆暴れちゃダメだよ?迷子の仔猫チャン」


「はっ、離せよ!!!こんのっ!ぐっ……!!」


 少年は足をバタつかせて必死に抵抗するが、黒華の強靭な羽交締めはビクともしない。


 不可解な状況に唖然としていると、桔梗先輩の横で様子を窺っていた翡翠先輩と目が合った。眉を顰めて困り果てた表情を浮かべているが、そんなお顔もまた麗しい。


「どうやら、この森に迷い込んでいたみたいなの……それを苧環くんが見つけたみたいで……」


「それで急に飛び出していったってわけか。にしても身勝手な……」


「はいはい、大人しくしましょうね~☆」


 羽交締めにしている少年の頭を撫で回す黒華は、心底愉しそうだ。


「なんだよ急に追いかけてきやがって!どーせお前らクロッカスなんだろ!?」


「ああ、アタシはクロッカス代表の月下人美だ。少年、一体どこからやってきたんだ?」


 月下先輩は圧をかけるようにして少年に近づいていく。


「いっ、言うわけねぇだろ……」


 何か後ろめたいことでもあるのか、はたまた小っ恥ずかしいだけなのか、少年は露骨に視線を逸らした。


「ちょっと失礼すっぞ」


 月下先輩はスマホを取り出すと、少年の顔にカメラを近づける。


「ちょ、おいっ!!何すん――」


君嶋 翼(きみしま つばさ)、小学6年生。ここから約30km離れた第68コロニー在住。どうやら5日前に行方不明になってから、保護者の方が捜索届を出していたそうだ」


「なっ!?何でわかんだよっ!!」


 唐突に個人情報を次々に暴かれ、少年は目を丸くした。


 これが噂の”顔認証型国民管理システム”――クロッカスだけが保有する特権だ。


 それにしても、小学生で30kmを徒歩で移動とは……なかなか根性のある少年だな。


「へへっ、驚いたか?クロッカスはスゲーんだぞ?」


 月下先輩は破顔して少年――翼の頬をフニフニと(つま)んでいる。


「やめっ、やめろぉ……」


 先程の威勢が嘘であったかのように、翼はみるみる萎縮していった。


 ……まあ、気持ちは分らんでもないけどな。


「とりま、つばさっちの話を聞かせてもらえるか?アタシらはキミを保護する義務があるんだ。逃げようとしても無駄だぞ」


「翼くん、お願いっ」


 月下先輩に続き、翡翠先輩も翼に視線を合わせて優しく微笑む。


 おいっ、ズルいぞクソガキ!代われ!


「うっ……」


 案の定、翼は頬を赤らめて瞳を閉じた。何だか見てるこちらまで恥ずかしくなってくる。二人揃って年下の扱いがあまりにも上手すぎる気がするぞ……


「……わ、わかったよ」


 翼はようやく懲りたようで、大人しくその場に正座した。もう逃げ出す気力は無さそうだ。


「つばさっちは、どうして家出なんてしちまったんだ?」


「オレ……母親と喧嘩したんだ」


 翼は不貞腐れつつも、事情を話す気概はあるらしい。


「中学受験しろ!中学受験しろ!って毎日毎日言われて……オレ、ホントは地元の中学に通いたいんだ。勉強そんな好きじゃねーし、それに……みんなと離れ離れになっちまうのは……辛いよ……」


 翼は今にも零れそうな涙をグッと堪え、俺たちに本音を打ち明けた。


「そっか、つばさっちも大変だな……でもな」


 月下先輩は同情しつつも、顔を強張らせて翼をじっと見つめる。


「母ちゃんもきっと、つばさっちの将来を想って色々言ってくれてるんだと思うぞ。友達との別れがしんどいのはよーくわかる。アタシも昔、似たような経験をしたからな……」


 月下先輩はふと空を見上げ、儚げに目を細めた。元気溌剌とした彼女しか見たことがない俺にとっては、どこか新鮮だった。


「……姉ちゃんも?」


「あぁ……だから、こんな危ないところでトキシーに襲われでもしたら、母ちゃんも友達もきっと悲しむ。今もきっと、つばさっちの帰りを祈りながら待っているはずだ」


「で、でも……」


 気の迷いがあるであろう翼の背中を押すかのように、月下先輩は翼の肩を強めに叩く。


「大丈夫だ!つばさっちが信じて進んだ道なら、きっとどんな結果になっても母ちゃんは受け入れてくれるさ。それが親ってもんだ」



「……それは、姉ちゃんの親がそうだったから、だろ」



「……!」


 だが、月下先輩の言葉は翼の心に刺さることはなかった。せせらぎの音がやけに大きく聞こえるほど、その場の空気が瞬時に凍りつく。


 想定外の反応に月下先輩も言葉を失い、額には冷や汗が滲み出している。


「おっ……オレは、お前らみたいに恵まれた環境で甘い蜜を吸ってるわけじゃねーんだよ!一緒にすんな!!」


 懲りていたはずの翼は、再び殺気立って月下先輩に歯向かおうと立ち上がった。


「おやおや仔猫チャン、そんな乱暴な言い方は良くないんじゃないカナ?」


「オレは猫じゃねぇ!!」


 黒華は場を和ませようとしたのか、翼を揶揄うも真面目にツッコまれた。


「オレだって……ホントは……」


 わなわなと震える翼の感情が暴発してしまい、危うく収拾がつかなくなりそうになるが、その前に月下先輩が翼に対して深々と頭を下げる。


「……ごめんな!つばさっち!アタシ、どうも主観的に喋っちまったみたいだな。でも、ここは危険だから、アタシらと安全な場所に移動しよう……な?」


「……わかったよ」


 とても快諾とは程遠いが、この森で命を置いていくわけにもいかず、翼は月下先輩の提案を渋々受け入れた。


 そして、元気を取り戻した月下先輩は俺にグッドサインを送る。


「ひいろっち!つばさっちのことよろしく頼んだぞっ!」


「えっ、俺っすか!?」


「ああ、任務中はずっと付き添ってもらうから、ゆいっちとつばさっちのことは、ひいろっちに任せた!」


 ○○っちが多すぎて混乱しそうだが、要するに俺は翼の監視役に任命されたらしい。


「後ろはわたくしがサポートするから、安心してね♪」


 翡翠先輩は俺と翼に眩い笑顔を向けた。


「ヒョッ!!あ、ありがとうございます……」


 毎度キモい反応をしてしまっている気がするが、これは不可抗力だ。


「はぁ……ミーの出る幕は無さそうですわね。つまんないですわっ!」


「こらこら」


「イデッ!」


 無遠慮な発言をしたアカツキに俺は軽くチョップを食らわせた。


 ……まあ、気持ちは分らんでもないけどな。


「さてと!準備して一狩り行こうぜっ!」


 やる気満々な月下先輩を先頭に、俺たちはトキシーが潜んでいるであろう南西エリアへ向かうことにした。



————————————————————◇◆



 午前11時、任務開始から2時間経過――


 6月上旬の北海道とはいえ、近年は異常気象の影響もあってか、この時期でも昼頃はかなり暑さを感じる。


「おーい……ひいろっち、オレも負ぶってくれよぉ……もう疲れたぁ〜!」


 白百合を背負いながら1時間以上歩いている俺に対して、翼は駄々をこねながら俺に寄りかかってきた。


「無理に決まってんだろ……!あと、その呼び方やめろ」


「じゃあ……陽彩は、何でクロッカスに入ったんだ?」


「ん、俺か?それは……その……」


 俺の隣を歩く桔梗先輩は『言わないんですか?』みたいな視線を向けているが、当の本人が近くにいる以上、かなり言い難い状況だ。


 同じチームに所属したというのに、俺はあの時のお礼を未だに言えていない。


「……俺も、翼くんと同じような経験をしたんだ。それがきっかけかな」


 決して嘘ではないが、かなり濁した。


「そうなのか?」


「ああ、俺も長年親父と仲が悪くてな。でも、クロッカスを目指すってなってからは和解して、俺を応援してくれるようになったよ。もう一生分かり合えないって思ってたのにな!ははっ!」


 話しているうちに、つい思い出し笑いをしてしまった。自分の意見は絶対に曲げないような頑固親父が、俺の些細な行動で思わぬ一面を見せてきたのだから。


 そんな俺を横目に、翼は小さく溜息を零す。


「……陽彩は、強いんだな」


「いやいや、俺なんてまだまだだよ。でも、壁にぶつかったときは親父に言われた言葉を思い出すようにしてるんだ」


 俺は拳を天高く突き上げた。


「『自分を信じろ、迷ったら進め!』ってな……男臭い台詞だろ?」


「自分を信じろ……迷ったら進め……」


 翼は俺の言葉をオウム返しすると、拳を口元に当てて考え込んだ。


「おう!だから、帰ったらもう一回母ちゃんと話し合って、翼くんの想いを伝えてみるんだ。超~頑固な俺の親父ですら何とかなったんだ、まだ諦めるのは早ぇぜ!」


 俺は突き上げた拳を翼に向け、後押しするように突き出した。


「……そう、かもしれないな……ありがとう、陽彩」


 翼は少し照れつつも、俺と拳を突き合わせた。


「おうよ!」


 この子も、これがキッカケでクロッカスを目指したり……なんて、淡い妄想をしてしまった。


「はうっ……!ゔぁっっ……!!!」


「んっ!?どうした、白百合さん!」


 突如として、和やかな空気を破壊するような呻き声が、俺の背中から飛んできた。


「ゔぁあああああああああああああああああああっっ!!!!!!!!!!!」


 鼓膜を突き破りそうな叫声が生い茂る木々に木霊する。同時に、俺の背中を掴む彼女の指先が、肉体に食い込むほどの異常な力で軋んだ。


「いっ、痛ってぇ……!相変わらず凄ぇパワーだ……!」


 異常事態であることは一目瞭然――事情を知らない翼は、鬼の形相で暴れ回る白百合を前に戦慄した。


「御角くん!君嶋くん!直ちに白百合さんから離れてください!」


 桔梗先輩は即座に俺に指示を出し、ウイングを剣に変化させる。


「えっ、で、でも――」


「近くにトキシーがいるぞ!!構えろ!!」


 躊躇っている俺には目もくれず、月下先輩は全体に向けて声を張り上げた。


「フフッ、望むところだネッ☆」


 俺とは対極的に、黒華は高揚感を露わにしつつ前髪を掻き上げる。


 そして、黒百合と化した白百合が俺の背中から飛び降りると、早くも森林中を奇声を上げながら走り回っており、俺が制御できる範疇を軽く超えてしまっている。


 己の無力さを痛感していると、桔梗先輩が俺に近づき、冷ややかな口調で耳打ちをしてくる。


「御角くん、白百合さんはもう手遅れです。今は君嶋くんを守ることだけを考えてください。白百合さんは私が何とかします」


「……わかりました、お願いします」


 ……そうだ、今は与えられた役を全うすればいい。戦場に加わりたいなんて幼稚な我儘は忘れるんだ。


 俺はアカツキに掌を翳し、深呼吸をする。


「アカツキ、シールド!」


 アカツキは俺と翼を完璧に覆うほど巨大な盾に変化した。


 そして、一瞬の間だけ月下先輩が俺に目配せすると、僅かにトキシーの蠢く気配のする方へ体を向け、体勢を低くする。


「さあ行くぞ、”うずらっち”!!」


 月下先輩の掛け声と共に、黒華と黒百合を追う桔梗先輩が森林内へ駆け出していった。

こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。


陽彩と似た境遇の少年、そして黒百合の暴発……


果たしてうずらっちは初任務を無事に終えることができるのでしょうか?


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