File.51「独善・協調」
◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)
本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆明智 柚葉 (あけち ゆずは) 15歳(高1)
フレンドリーなクラスのムードメーカー。可愛いものが大好き。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆宇紺 慎弥 (うこん しんや) 15歳(高1)
苧環の取り巻きで、暴力的で短気な性格から『狂犬』と称されている。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆外村 大和 (そとむら やまと) 15歳(高1)
入試では40位合格を果たした、気弱で大人しい性格の持ち主。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆根茂平 侑 (ねもひら ゆう)16歳(高1)
陽彩とは隣の席で、清楚な見た目ながら芯が強く、プライドが高い。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆牡丹田 朱里 (ぼたんだ あかり) 27歳
厳格な性格で、常に冷静沈着。
戦闘護衛部隊"クロッカス"の総指揮官を務めている。
10年前、この国は未曾有の被害に見舞われた。
”トキシー・カタストロフィ”――日本人口の約10%に及ぶ命が失われた地球最大規模の大惨事。
人々の生活を脅かす”悪性AI兵器”はやがて”トキシー”と呼ばれるようになり、出現から約1ヶ月後、トキシーを殲滅するための特殊部隊”クロッカス”が設立された。
クロッカスの尽力もあり、事態はおよそ1年で収束したが、この事件は瞬く間に世界中に報道され、日本は”世界一の兵器大国”と揶揄されるようになった。
集中攻撃を受けた過疎地域の機能は完全に停止したが、中心都市を基点とした”Pシェルター”の設置、メモリングによる位置情報システムの確立などにより、国民の生活は徐々に光を取り戻していった。
俺はまだ6歳かそこらだった。幸いにも俺の街はトキシーによる被害は無かったが、当時の惨状は今でも鮮明に覚えている。泣き喚く俺やすずを宥めてくれていた親父も、きっと心細かっただろう。クロッカスが設立されるまでの1ヶ月間は、本当に生きた心地がしなかったと親父は語っていた。
それからの10年は、閉鎖的で普遍的な日常を過ごしていた。トキシーによる被害を耳にすることもほとんど無くなっていた。
気がつくと俺は高校受験を控える年齢になっていた。成績を順調に伸ばしていくすずに対し、俺は無意味な現実逃避を繰り返していた。
そして、トキシーに襲われ命を落としかけたあの日――俺の人生は大きく変わった。
そうだ、今度は俺が戦わなきゃいけない。
……でも、何のために?
翡翠先輩の後ろ姿に憧れ、釣られるようにして入学したヒュドール学園。良い友人に囲まれ、恵まれた環境での充実した高校生活。
不満は無い――でも、これで本当に良いのだろうか。
俺はここで何を成し遂げるべきなのか。
『そうですね……正義のヒーローでも目指してみましょうか』
そうだ、正義のヒーロー。桔梗先輩に言われてたっけ。
いざ敵を前にしたとき、俺は胸を張って彼女の隣に立っているだろうか。
たとえ大切なものを失っても、絶望的な窮地に立たされても、カッコよくて勇敢で全人類から”ヒーロー”と称される存在を俺は演じ切らなければならない。
それが如何に困難であるかを思い知らされるのは、まだ先の話になるだろう。
————————————————————◇◆
「……んんっ」
眼球を焼き付けるような閃光が直撃している。
「うっ……眩しい」
斜陽が海面に反射し、この学園全体を暖かく照らしている。そして俺は保健室のベッドに仰向け状態だ。
「うぅ……御角くん……よかったですぅ~~~!」
涙ぐむ明智が安堵の表情を見せて急接近してきた。試験はまだ終わってなかったはずだが……
「んっ、明智さん……?それに……」
「起きたか、御角」
明智の後方から牡丹田が顔を覗かせていた。ダメだ、脳内が混乱して状況が整理できない。
「指揮官……俺、どうしちまったんだ……?あと、白百合さんも……」
「お前は試験終盤に気を失って倒れたんだ。それと、白百合は隣のベッドで今も眠っている。命に別状は無いから安心したまえ」
右隣のベッドはカーテンで仕切られているが、人影が薄っすらと写っている。どうやら俺は約6時間にわたり意識を失っていたようだ。
「そっか、よかった……」
ほっと一安心した俺は身体を捻るようにして起き上がり、部屋全体を見渡す。他には誰も居ないようだ。
「先程、全グループの試験が無事終了したところだ。この後教室で合格発表を行うが、お前はどうする?」
時刻は16時、第3グループの試験終了から30分ほど経っている。
「御角くんっ、もう少し休んでても――」
「いや、大丈夫だ。心配してくれてありがとな。それよりも、白百合さんの様子を看てあげてくれないか?ほら、女の子同士の方が何かと都合が良いし、目を覚ましたときに誰も居なかったら寂しいだろうからな」
「そうですねっ、いってらっしゃいませですぅ~!」
「あぁ、悪いな」
俺は指揮官の背中を追うようにして保健室を後にした。
しばらくして、牡丹田が薄ら笑みを浮かべながら俺へと振り返る。
「明智に気を遣ったのか?珍しいな」
「べっ、別にそんなんじゃないっすよ……」
俺たちのチームだけ不合格だったとしたら明智に恥ずかしい思いをさせてしまうからな。テキトーに辻褄合わせをしたつもりだが、この人にはそんな計らいも容易く見破られてしまった。
そんなことよりも、一つ気がかりなことがある。
「そういえば指揮官、アカツキは何処へ……」
「ああ……充電が切れかけていたから、今は私の自室だ。内部プログラムの調整もするから、今晩は預からせてもらうぞ」
「そうですか……」
俺だけじゃなく、アイツも相当体を酷使しただろうからな。
「それよりも……すまなかったな。アカツキがまたお前に迷惑をかけてしまったようで」
「いえいえ!アカツキに無理を言ったのは俺の方ですし……まさかあんな奥の手があったなんて……」
「ああ、”オーバードライブ”は余程の緊急時でない限り使うことはないからな。見えなくなったこの右目も、その代償みたいなものだ」
「代償……」
出会った当初から薄々感じてはいたが、右目の違和感は失明によるものだったらしい。
「とにかく今後”あれ”を発動するのは極力控えてくれ。お前のためにもな」
「……わかりました」
そうこうしているうちに教室の扉の前まで辿り着いた俺たちは、自然と会話を終えた。
「諸君、待たせたな。諸般の事情でまだ全員は集まっていないが、これから試験結果の発表を行う。席に着きたまえ」
牡丹田が扉を開けたと同時に教室内は瞬く間に静まり返った。結果は既に分かっているようなものだが、彼女の鋭い眼光が生徒たちに余計な緊張感を与えている。
俺も目立たないように席に着くと、隣の根茂平が眉間に皺を寄せ、小声で話しかけてきた。
「陽彩くん、大丈夫だった?」
「ああ、まあな。正直、俺よりも白百合さんの方がヤバそうだけどな……」
「結衣ちゃん、かなり無理してたみたいだもんね……」
白百合の暴走を直接は見ていないだろうが、きっと他の生徒から噂を耳にしたのだろう。悪い方向に伝播していないといいのだが……
「過酷な条件下となってしまったが、ご苦労だった。今回の試験内容は、クロッカスの活動内容のほんの一例に過ぎない。討伐ポイントや救助ポイントなんてのも、あくまで指標だ。君たちは来月から各チームに所属することになるが、詳細は後日説明する」
チームでの活動――いよいよ本格的にクロッカスの一員となるのか。まず俺は追試に受かる必要があるけどな。
「留意しておけ。第一に救助者の命、己の命は二の次だ。優先順位を決して誤るなよ」
牡丹田は力強い口調で俺たちに視線を向け、クロッカスの行動指針を示した。いざという時、自分よりも他人の命を優先する――クロッカスとしては至極当たり前のことだろうが、正直なところ今の俺にはまだその覚悟があると言い切る自信がない。
「……長くなったな。では、試験結果を発表する。前方のスクリーンに注目してくれたまえ。不合格者は明日の朝10時より追試を行う」
牡丹田が手元のタブレット端末を操作すると、間もなくしてスクリーンに試験結果が表示された。
一つのチームを除き、全員が合格だ。
だが、その不合格となった2名には、俺の名前も、明智の名前も載っていない。
「……!?あれっ、なんで俺――」
「どーゆーことだよ!!!!指揮官!!!!」
殆どの人間がほっと胸をなで下ろしているなか、机を叩く割れるような音と同時に教室内に突如として怒声が響き渡った。
「どうした宇紺、教室では静粛に」
想定済みだったのか、牡丹田は表情を何一つ変えない。
「どーしたも何も、俺のチームだけ不合格って、おかしいだろうがよ!!!!俺も外村も、合格ラインに届いてたぞ!!間違いねぇ!!」
「……」
無言の外村も控えめにコクリと頷く。
「結果は正しく反映されている。不備は無い」
「……は?……はぁ!?」
宇紺は全く理解が追いついていないようで、頭を抱えながらパニック状態になっている。無論、俺も同じだ。
俺は手を挙げながら立ち上がり牡丹田に視線を向ける。
「指揮官、明智さんはともかく、少なくとも俺の討伐ポイントは80ptを下回っていましたよ……?それに白百合さんのチームに加担もしました。俺たちのチームが不合格なはずじゃ……」
「そっ、そうだよ!!落ちるのはコイツらだ!!」
宇紺は俺に指を差し、結果を全力で否定する。
「まあ落ち着きたまえ。そもそも御角は80pt以上を獲得している。それは事実だ」
「なっ!?」
どういうことだ……!?確か、俺が倒れた時点で明智は50pt、俺に至っては僅か35ptだった。残りの僅かな時間で俺の分までポイントを稼ぐなんて不可能に等しいはずだが……
「それに、白百合をあのまま放置していたら怪我人が出る恐れもあった。協議の結果、御角の勇気ある行動は例外として扱い、特別にノーカウントとした。つまり、御角は合格ラインをクリアしているということになる。これで納得したか?」
結果オーライではあるが、俺の行動は何一つ間違っていなかったということだ。牡丹田が明示している通り、俺と明智はこの試験で合格を果たしたということになる。
「……コイツの合格理由には納得した。だが俺の不合格理由は?それも開示すべきだろうが……!」
段々と余裕が無くなってきている宇紺は、息を荒げながら詰問を続ける。
「この試験は単に君たちの戦闘能力を計るだけの試験では無い。それは理解しているか?」
宇紺の態度に乗っかるようにして、牡丹田も冷徹な目つきで腕を組む。
「それは……」
「心当たりが無いようだから結論から言おう。宇紺、お前は試験中に大きな過ちを犯している」
「過ち……?俺が外村に手を上げたことか」
「あの行動は論外だが……2回目の一斉メールが届いた後、お前は何をしていた?」
「あんっ?”高配点トキシーが人工森林に出たから向かえ”とかだっけ……?」
「そうだ。お前たちはずっと荒廃都市エリアに居たようだな」
確かに、コイツらのチームはあれ以降一度も姿を見ていなかった。
「そりゃそうさ。あの時点で討伐ポイントは合格ラインに達してたしな。リスクを考えたら動くだけ無駄だろ」
「つまりお前は指令を無視した。間違いないな?」
「まあ、言いようによっちゃあ、そうなるな」
「その独善的な行動こそが、お前が不合格となった最大の理由だ。試験中の映像も確認したが、外村が人工森林に向かおうとしたのを脅し半分で止めたそうじゃないか。試験とは無関係だが、訓練中の低俗な行為や発言も報告を受けている」
明智が試験中にさらっと考察していたが、やはり試験の合格基準は討伐ポイントや救助ポイント以外の隠れた部分にも存在していたらしい。
宇紺の自分勝手な行動は、一見黒華と何ら変わりはない。だが黒華のように器用な人間は、この試験で不合格になるような真似はしない。そこが黒華と宇紺の埋まらない差なのだろう。
黒華に追いつきたい、離されたくないという宇紺の自我がかえって仇となってしまったのだ。
「チッ……あの筋肉バカ、チクりやがったな……!」
宇紺は小声で徳川先輩への愚痴を零した。当然、この教室内の全員には聞こえているが。
「戦場において、指令を無視するのは論外だ。事実として、そういう行動を起こした人間は何人も殉職している。お前もそうなりたいのか?」
「うっ……」
彼女の放った言葉は、命の重さやクロッカスの厳しさを語るには十分だった。
「宇紺、お前には協調性の欠片も無い。そんな人間はここには不要だ」
「……」
正論で次々に責められた宇紺は、さっきまでの虚勢が嘘であったかのように静まり返ってしまった。
「……クソがっ!!!!」
宇紺は再び机を拳で強く叩き、誰とも視線を合わせることなく教室から走り去ってしまった。
俺はヤツの悲壮感漂う背中を目で追いかけることしかできなかった。
「アイツにも……」
アイツにもきっと、ここに来た理由があるはずなのに。
こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。
不本意ながら合格を果たした陽彩。しかし宇紺はまさかの結果に腹を立て、教室を後にしました。
彼の行く末は、そして陽彩や結衣の今後は如何に……
次回、第4章完結です。
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