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収穫祭の魔女  作者: れいてんし
Episode 5. Yee-Tho-Rah
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Chapter 7 「廃ホテル」

 ホテルの施設はほぼ無事なことが分かった。


 ただフロアを分けると何か有った時に緊急対応が取れないということで、全員2階の部屋へ泊まることにした。

 何かあればすぐに1階に戻って対応できるからだ。


「それで1階の設備は?」

「無事だな。大鍋なんかの食器類はこれからの旅で使えそうだから活用したい。アルミだから強いぞ」


 ウィリーさんが嬉しそうにアルミの鍋をアルミのお玉でカンカンと打ち付けて鳴らしていた。


 人力だとこのサイズを持ち運ぶのはほぼ無理だが、今は馬車が有る。


 金属の器は色々と活用出来そうだ。

 いただいていこう。

 

「あとは陶器の水タンクがあった。ここに水を貯めておけば補給に使える」

「今はドロシーの調子が良いのでスキルで埋めさせましょう。多分一発で全補充出来ます」

「それは助かるな。あとは調理設備だが、残念なことにここはガスコンロだ。当然ガスの供給がストップしているから使えない」

「薪を炊けそうなところは?」

「木炭のオーブンもあるが煙突なんかが生きているかどうかは不明だからな。下手に焼けた炭を突っ込んだら火災事故になるかもしれない」


 それは残念だ。

 調理は別の場所でやるしかないだろう。


「シャワーも備え付けられているが水道が死んでるので無用の長物と化してるな。1階はそんなもの」

「それだけじゃないですよ。なんと備品に未使用の歯ブラシやタオルがありました」


 ガーネットちゃんが嬉しそうに歯ブラシを見せてくれた。


 それは朗報だ。

 歯ブラシやタオルなどは嵩張らないし、いくら予備が有っても良い。

 

 その後に俺とエリちゃんに手招きをした。

 何事かと近寄ると小声で小さい袋を渡しながら言ってきた。


「未使用の生理用品もありました」

「それは助かる」

「マジ助かる」


 後で男性陣に見つからないようこっそり3人で回収に行きたい。

 月のものはあれから毎月やってきて困っているので本当に助かる。


「未使用の避妊具もありましたけど」

「自重しろ中学生」

「それはダメ。絶対ダメ」


 おっとそこまでだ。何を見付けてくるんだ中学生。

 まさか自分で使うつもりか中学生。

 ウィリーさんが逮捕されるから本当に自重しろ中学生。


「でもエリスさんはモーリスさんと」

「違うから。うちは絶対違うから」

「ならラヴィさんがモーリスさんと」

「冗談でも止めて」


 そこまで女に染まったつもりはないので本当に止めて欲しい。


 寝室は一人一部屋。

 ただし、エリちゃんとドロシーは同部屋で眠るということだった。


 監視という意味でも、精神的に落ち着かないドロシーを寝かしつけるという意味でも丁度良いだろう。

 エリちゃんが立派に母親役をやってくれるので本当に助かる。


「それじゃあおやすみ。明日は朝からまた調査なのでよろしく」

「おやすみなさい」

「おやすみー」


 3人がそれぞれの部屋に入っていたのを確認して、俺は部屋の扉を閉じる。


 ついに誰にも邪魔されない1人だけの時間がやってきた。


 こういう機会がなければとても恥ずかしくて出来ないことをやってしまいたい。

 召喚されてからずっとやりたかったものの、今まで機会がなく欲求だけが溜まっていた。


 ただ、これをやっていることは絶対に他人には知られてはいけない。


 やっているところを人に見られたら流石に恥ずかしくて死んでしまうし、今まで積み上げてきた俺の信用も崩壊する。


「防音はそれなり。隣の部屋の音が聞こえることはなし! 窓の外に誰かいるということもなし!」


 ついに、ついにアレを試せるのだ……


 あまりの緊張に激しく心臓が鼓動し始めるのを感じる。落ち着くために唾を飲み込む。


「ではやるぞ。本当にやるぞ!」


 まずは手を前に伸ばして一言。


「ステータスオープン!」


 何も起こらない。

 まあ、これは分かっていたので特に問題はない。


「アイテムウインドウ! アイテムボックス! アイテムクリエイション! アイテムショップ! アイテム合成! アイテム強化! この際なんでもいいからウインドウオープン!」


 何も起こらない。


「セーブ画面出ろ! ロード画面! 検索! ヘルプ! メニュー画面! あとは何だ? 魔力探知! アイテムサーチ! デバッグウインドウ! チートコード入力画面! 昔のofficeに付いてきたウザイルカ! イルカ! キモイルカ! 人差し指の絶対時間(ステルスドルフィン)!」


 思いつく限りを一通り叫んでみたが、やはり何も表示されることはなかった。


 これで心の奥底に溜まっていたモヤモヤは晴れた。


 基本的に何も出ないことは分かっている。


 ただ、何も試していないので、もしかしたらという気持ちだけはあった。


「ああ、あと一個だけあったか……限界突破! 上限解放! 才能開花! 聖杯転臨!」


 俺達はおそらくソシャゲのキャラがモデルになっている。


 ならば、様々なゲームに実装されている、レベルMAX状態のキャラのレベル上限値を上げるシステムもランクアップと同じように実装されていてもおかしくはないはずだ。


 そう思い、右手をかざすしながら色々と声に出すが、何も起こらない。


「ダメか。伊原のようにランクアップを繰り返せということか」


 実に無駄な時間を使った。


 明日も朝は早い。さっさと寝てしまう。


「あっ、そういえば、こんなのもあったな。限界超越」


 そう言葉を発した瞬間に、脳内に2つの映像が流れ込んできた。


 環状列石の祭壇の中に立つ白いドレスを着た少女、その後ろに舞い踊る無数の鳥と虹色の球体。

 死に装束のような純白の着物、日の丸の付いた鉢巻きを巻いて刀を構えた金髪の侍少女。

 そして……なんだろう? 学校の屋上?


 映像はそこで止まった。


 身体をまさぐってみるが、特に何が変化したということはない。


 まるで「限界超越」なる何か実行しようとしたが、アイテムなり能力なりが足りないせいで途中でコマンドがキャンセルされたような、そんな感覚がある。


「もしかして、この機能は実装されているのか? あるのか、レベル上限解放機能が……」


 おそらく白いドレスを着た少女が(ラヴィ)の進化系。

 そして、もう一つの映像は侍少女、オウカちゃんの進化系。


 相変わらず2人分が混じっているところは問題ではある。


 いや違う。

 俺の中に2人分……否、3人分あることが障壁なのか?


 3人の魂が俺の中で喧嘩して壁になっているのか?


 魔女……否、巫女の正統進化系である俺。

 侍から進化したオウカちゃんの分。

 そして……。


 この壁を取っ払えばいいのか?


 俺は2人分が混じったカードを見る。


「限界を……壁を取り払う……」


 まさかな。


 ベッドに潜り込んで布団を被る。


「ていうかもう寝よう」


   ◆ ◆ ◆


「ラビさん起きてください」


 誰かに揺さぶられるのを感じて目を覚ますとモリ君の顔が目の前にあった。


「急にどうしたんだ? 夜這い? そういうのはエリちゃんにしてあげなさい」

「冗談は良いです。早く起きてください」

「それで何があった?」


 流石に3か月も一緒に旅をしていれば、モリ君の空気の読めなさは理解している。

 目が覚めたらドアップで顔があるくらいのことで動じる要素などない。


 まずは状況確認だ。

 

「このホテルの周りを何かが取り囲んでいるみたいで」

「人?」

「違います」


 そう言われて窓の外に目をやろうとしたところ、モリ君の手が俺の目を遮った。


「見ないで。こちらはまだ相手に気付いていないと思わせておいた方が良さそうです」

「わかった」


 事態の緊急性は理解できたので、服を着て帽子を被り、箒を持って部屋を出る。


 箒廊下に出るとエリちゃんとドロシーも既に部屋から出てきていた。


 エリちゃんは既に臨戦態勢だが、ドロシーは頻繁に目を擦っており、油断するとまた寝落ちしそうな状態だった。


 同じようにガーネットちゃんも部屋から出てきた。


「馬達は?」

「やっぱり外の何者かの気配を感じ取っているのか、落ち着かないようでウロウロしています」

「興奮して暴れ出さないようになだめた方が良さそうだな」


 俺は階下に降りて、抱き着くようにして馬の首筋を撫でた。

 しばらく撫でていると、安心したのかようやく大人しくなってきた。


 クッキーを食べさせて水を飲ませてやる。


 俺が馬を落ち着かせていると、エリちゃんがドロシーを連れて階段を降りてきて、そのまま馬車の中へと運び込んだ。

 どうやらドロシーは睡魔に負けて寝落ちしてしまったようだ。


 ハセベさん、ウィリーさんは臨戦態勢。

 ガーネットちゃんも寝ぼけまなこでは有るが、既にフル武装済だ。

 

「それで、俺は全然見てないんだけど、どんな敵なんだ?」

「巨大な口のような敵です。窓ガラスから外を見ると、何匹かが町の上空を飛び交っているのが見えました」

「日中はそんなものを見なかったので、日が暮れると現れる敵か」

「おそらくは」


 単体ならば今の俺達ならば難なく倒せるだろう。


 だが、数が分からない以上は迂闊に手は出せない。


 どこから攻撃が来るのか、どれくらいの数がいるのかが不明だし、もし俺達は無事でも馬車や馬がやられてしまっては、ここで立ち往生になってしまう。


「このまま息を潜めて待つか、それとも討って出るか」

「まずは待ちましょう。相手がその気ならば、こんなホテルの窓ガラスくらい簡単に破れるはずです。なのにそうしてこないということは、こちらの存在に気付いていないということです」

「どれくらい待つ? 夜が明けるまで?」

「最悪は」


 ホテルでゆっくりするはずだったのにとんだ災難だ。


 馬に水を飲ませたり擦ってなだめたりしながらひたすら待ち続ける。


 なるべく音を立てないでじっとしているだけだが、相手の動きが直接見えないのが不気味だ。


 体感だと半日くらいだが、実際には6時間位だろう。

 ようやく外が白み始めた頃に、窓ガラスに映り込む影はその姿を消した。


 閂を外して扉を少しだけ開ける。


 その隙間から召喚した鳥を1羽、使い魔として先行で外に出して周囲の様子を確認する。


 ホテルの周辺をグルリとひと周りさせたが、モリ君の言うような敵の姿は確認できなかった。


「いないな。本当にどこから来てどこへ帰って行ったんだ?」


 今度は鳥をホテル周辺から移動させて射程距離2kmの限界まで町の上空を飛び回らせるが、やはりそれらしき敵の姿はない。

 あれだけの図体の敵がそこらの木や建物の陰に身を潜められるとは思えない。


 やはり魔術的な何かの力で隠れているのだろうか?

 全て幻覚という可能性も否定出来ないが、このまま宛もなく探していてもキリがないのは確かだ。


 使い魔を解放(リリース)して捜索を打ち切る。


「見える範囲にはいない。ただ、そこらに隠れているとも思えない」


 そう言うとエリちゃんが無言で階段を昇っていった。

 おそらく一番上に有る4Fの部屋の窓から外を確認するつもりだろう。


「モリ君、一応エリちゃんの護衛を。必要ない可能性の方が高いけど念の為に」

「分かりました……本当にうちの女性陣は思いつきで勝手に動くやつばかりだな」

 

 モリ君は小声でボヤきながら階段を昇っていった。


 ……もしかして、その勝手な女性陣に俺も含まれているのか?


 いや、俺は思いつきではなくきちんと考えてから動いているので違うだろう。


「さて、どうする? あいつらの正体を探るのか、それともこんな危険な場所なんて無視してエリア51へ向かうか」

「出来れば無視したいところだが、流石に補給拠点なしで砂漠を歩き回るのは厳しいだろう」


 ハセベさんの意見としてはあいつらの発生原因調査と討伐ということで良いだろうか。


「今のところ日が暮れたらあいつらが出現する、こうやってホテル内に潜んでいれば襲われることはないということは分かっている」

「つまり、日中の間にあいつらの発生原因の調査を行う……という解釈で良いでしょうか」


 ハセベさんは頷いた。


「でも、調べるってどこの何を調べるんだ?」

「まずはあの役所だな。ここの宿泊名簿や新聞だけで得られる情報はわずかだ。実際に生きた人々が残した記録を知りたい」

「そこは間違いなさそうですが、もう1か所。例の発電所も調べたいところです」


 俺はハセベさんに続いて発電所も調べるべきだと主張した。


「発電所の新設備へ出資したレイナ=ロハという名前は赤い女がパナマで使用した偽名です。これは無関係だとは思えません」

「発電所の方にも何か有ると」

「つまり両方だな。チームを2つに分けるか?」

「いや、ここで戦力を分散するのは愚策だ。たとえこの町にもう1日滞在することになっても、全員で両方を調べよう」

 

 それで良いだろう。

 出来れば魔術やら運営についての知識を持っているカーターがここにいると助かったのだが、いないものは仕方ない。


「まずはあの役所を調べる。それから発電所の内部だ。いいな」


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