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収穫祭の魔女  作者: れいてんし
Episode 5. Yee-Tho-Rah
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Chapter 6 「廃都マインガル」

 コロラド川上流にある湖、ミード湖に到着した。

 この湖は少し高台に有るためか、湖畔からかなり遠くまで見渡すことが出来た。


 少し離れた場所には、おそらくラスベガスの町が砂漠のど真ん中に存在しているのが見えた。

 

 他に建造物も山もないのでやたら目立つ。


「……巨大なカジノはないって話だったけど、どう見てもあれカジノなんだけど」

「カジノですね」

「カジノじゃないかな?」


 遮蔽物のない砂漠の真ん中にあるためか、かなりの距離があるというのに町の全貌がはっきりと分かる。


 いくつもの高層ビルが立ち並び、それぞれの建物には何やら看板のようなものが取り付けられている。

 まだ明るい時間のために詳細は分かりにくいが、夜になるとネオンサインが煌々と輝くのだろうか?


 ただ、今までの経験から真っ当な町だとは思えない。


 そもそも、あんな砂漠のど真ん中で孤立無援の町がまともに機能しているとは思えない。


 もし、人が住んでいるならば、あんな砂漠のど真ん中ではなく、水資源が豊富なミード湖周辺の方へ移動してきているはずだ。


 だが、ミード湖の湖畔には何の人影も見当たらない。


「あれがどこかから転移してきた廃墟の町か」

「なんか不気味だな。あんなところを拠点に出来るのか?」


 ウィリーさんは若干懐疑的のようだ。


「そうは言っても、他に補給地点はないですからね。砂漠の真ん中で砂に埋もれてキャンプするよりは、屋根があるだけマシですよ」


 モリ君の言う通りだ。


 これからエリア51へと向かうためには、モンスターが巣くう廃墟だろうが、あの町で補給と休憩をするしかない。

 もしも人がいる普通の町ならラッキーくらいの考えで行けば良いだろう。


「あの町に着くころにはどの道日が暮れるんだ。こんなところで立ち止まっても仕方がないし、行くしかない」


   ◆ ◆ ◆

 

 砂漠に真っ赤な夕日が延びてきたあたりで町へ近づくことが出来た。


 ただ、予想通りというか、やはり人の気配はまるで感じない。

 町から聞こえてくるのは風が吹き抜ける音のみで、人の声が一切聴こえてこないのだ。


「今晩はここで宿泊して、明日は1日かけて町の調査だな」

「まあ、砂漠でキャンプするよりはマシだろうけど」


 町の入り口にはアルファベットに似ているようで違う、不思議な文字で記された看板が飾られていた。


 常識的に考えると「ようこそ〇〇の町へ」というウェルカムボード、この町の名前が記されているはずだ。


「なんでしょうね、この文字は?」

「分からない。アルファベットに似てるけど微妙に違うし。似ている文字を無理に拾うとムニグルとかマインガーとかそんな感じになると思う」


 少なくとも確実なのは、この町はラスベガスではない。

 同じ場所に存在しているだけの、全く別の町だ。


 やはり別の場所から転移で飛んできたのだろうか?


 違和感といえばもう一つ大きなものがあった。


「アスファルト舗装だし、車が対向して走れるようにセンターラインまで入ってる」

「中世ってアスファルト舗装はあるんですか?」

「あるわけないだろう。日本でも全国の道がアスファルト舗装されたのは戦後に日本列島改造計画が出た後だぞ」


 よく見ると道の脇には交通標識らしきものまである。


 絵柄や文字などは全く見覚えがなく、何を示しているのかは意味不明だが、どういうわけか数字だけはアラビア数字なので意味が分かる。


「60」は時速60km制限の意味か?

 いや、マイルなのかもしれないが。


「今までの町は、中世とか古い時代の町ばかりだったけど、この町は明らかに近代の町だ。流石に21世紀じゃなくて20世紀という感じだけど」

「でも、やっぱり人はいないんですね」

「逃げ出した……とも考えられるけど、この規模の町だと人口は数万規模だろ。それだけの人数が動いたら周辺の町や村は食糧難や住宅難が発生してもっとパニックが起こっていたと思う」


 馬車を町の中心部へと進めてみるが、やはりどの建物も無人なことに変わりはない。


 窓ガラスが割れたり、ドアが破損していたりするが、建物自体は意外と綺麗だ。


 ただ、何があったのかは不明だが、壁が半ば崩れ落ちて骨組みが露出している建物もある。


 そして、道端にはたまに石を積み上げて焚き火台のようなものを組んで、何かを燃やした形跡が残っている。


 近くに住んでいるネイティブアメリカンあたりが調査に訪れたのだろうか?


「怪しさしかないけどこの町で宿泊だな。そこの野営の跡地でキャンプしても良いけど。実績として安全が保障されているわけだし」

「でも、せっかく屋根のある建物があるっていうのに野営ってのも……」

「それはある」


 そうは言っても、流石にいつ崩れてくるか不明な建物で泊まる気はしない。


 比較的状態が良くて、それでいて例の人食い家のように新しすぎない建物がないかを探すと、三角屋根のレンガ作りの古めかしい建物を見つけた。


 かなり大きく、屋根の下には大きな時計も付いている。

 もちろん電気の供給が止まった時点でデタラメな時間を指して停止はしていたが。


 元は役場だったのだろうか?


 問題は、入り口に材木などを組み合わせて針金で止めた簡易のバリケードのようなものが設置されていることだ。


 一部は破壊されて入れるようにはなっているが、このような物を設置しないといけないような事態が何かあったのだろう。


 バリケードの隙間から中を覗いてみると、ガラス張りの玄関扉が破壊されて吹きっ曝しになっていた。


 流石に何か有ったこと確定のこの建物は用心が悪すぎる。


「人の手によって何かの事件があったことに間違いないが」

「調査は明日に行いましょう。今晩はまず宿を探した方が」

「そうだな。もうすぐ日も暮れる。この建物よりも密閉された建物を探そう」


 役所らしき建物の調査は後回しだ。

 他に泊まれそうな建物を探す。


 しばらく捜索すると、町の外れに4階建てコンクリ造りの頑丈そうな建物が健在なのを見付けることが出来た。


「ここが一番マシかな? あまり中も荒らされていなさそうだし」


 窓ガラスも割れていない。

 壁面にヒビも入っていない。

 扉はしっかりと閉じている。


 宿として使うには割と理想的な建物だ。


「誰かいますか?」


 念のために声を掛けながら重い扉を押し開けた。


 扉の蝶番は油切れなのか、ギギーと重い音を立てて開いた。


 扉を開いた先にはロビーが広がっていた。


 大理石の床にはひびが入り、ロビーの真ん中には天井から落下したであろう、かつてシャンデリアだった残骸が転がっていた。


 凝った内装からして、ここはそれなりの高級なホテルだったのだろう。


「どうせ廃墟みたいだし、用心のために馬車も建物の中に入れておくか」

「でもどうやって?」

「ダイナミック入店で」


 入り口の扉を全開にして馬車を進ませると、なんとか馬車をロビー内に収めることが出来そうだ。


 シャンデリアの残骸で馬達が怪我しないように箒で掃いておく。


「扉は締めておいた方がいいよな」

「もちろん。侵入者のこともありますし、寒い風が入ってくると辛いので」


 ウィリーさんが扉を閉めて閂をかけた。

 これなら安心だろう。


 無理に扉を開けようとすれば、流石に気付くことが出来る。


 ここで鳥を5羽召喚。


 1F部分を飛び回らせて偵察を行うが、やはり人はいないようだった。


 白骨化した遺体や血痕、争った跡などが残っていないかも確認してみたが、そちらもなし。


 本当に人間だけがいなくなった感じだ。


 不気味では有るが、窓ガラスや勝手口のドアなどが破られた形跡もなし。


 流石に天井付近には蜘蛛の巣が張られているが、放置されていた建物だから仕方がない。

 

 この建物は人間がいなくなって何年か不明だが、密閉状態を保ち続けてきたのだ。


 一応安全と判断して良いだろう。


「こっちにエレベーターがありますけど?」

「ボタンを押してみて。多分何の反応もないと思うけど。もしエレベーターが動くようなら逆に罠の可能性が高いから出よう」


 モリ君が何回かエレベーターのボタンをプッシュするが、電気が止まっているのか何の反応もなかった。


 鳥達を解放(リリース)する。


「捜索は明日から始めるとして、今晩はこの建物で良さそうだ」

「建物内の設備次第だが、ここを拠点にしても良いのではないか?」


 ハセベさんが、かつてロビーのフロントカウンターとして使われていたであろう机に手を置きながら言った。


「扉も窓も閉められて密閉されていたからか汚れも少ない。流石に埃は多いが、叩いて埃を払えばそのまま使えそうだ」

「では、この建物の整備から始めましょう」

「ならオレは1階部分を見て回ろう。行くぞガーニー」

「はい、ウィリーさん」


 ウィリーさんとガーネットちゃんは一階部分の調査だ。


「じゃあ俺達は2階を。ラビさんとハセベさんは3階と4階をお願いします」

「ああ。何かあれば大きな声を出して、この入口ホールへ戻るように」


 モリ君とエリちゃんはドロシーを連れて階段を登って行った。


「では、私達はまず3階を」

「ちょっと待ってください」


 ロビーのフロントカウンターにあった机を漁ってみると、一冊の帳簿が見つかった。


「これは宿泊者帳簿か?」


 やはりアルファベットに似ているようで違う文字が記されているのみで何が書かれているのかさっぱり分からなかった。


 数字部分はアラビア数字なので判別は出来るが。


「完全に異世界ですね。全く読めない」

「いや、これはギリシャ文字じゃないか?」


 ハセベさんが帳簿をなぞりながら言った。

 

「ギリシャ文字ってあのアルファベータガンマの?」

「ああ。私もうろ覚えではあるし、これは全て手書きのサインなので判別が更に難しいが」


 そう言われてみるとギリシャ文字のように見える。


 それを前提に読み直すと、文字だけはギリシャ文字に近いが、名前などは英名が読み取れた。


「上からトーマス、アーサー、ケビンにジョンか。確かにアメリカっぽくなりますね」

「チェックイン日が途絶えたのは1943年10月だな。一番最後が10月27日チェックイン」

「10月27日にチェックインした客は10月28日にチェックアウトしていない?」


 年代は約80年前。

 この時代に何があったというのか?


「それを前提にすると、この新聞をどう思う?」


 ハセベさんが新聞を机の上に広げた。


「ホテルが宿泊客のために購読している新聞だろう。日付は1943年10月27日」

「客がいるロビーに古新聞を放置しておくとは考えられないし、10月27日に何かがあったということでしょうか」


 10月27日と言えばモリ君やハセベさん達が召喚された日だ。

 年の違いはあるが、日付が一致しているのは気になる。


「新聞の1面記事は……新型の発電設備を使用した発電所が稼働で良いのかな?」


 文字の違いこそあるが単語も文章も英語だ。

 これならば受験英語知識でもなんとか読める。


 内容自体は大した記事ではない。


 単に町の水力発電所に新型の機器を入れることになったとかそういう話だ。


 どこかの富豪の寄付でどうのとか書いてあるようだが、割とどこにでもある話だ。


 町に住んでいる住民にとっては大きなニュースかもしれないが、これがそれほど重大事件に繋がるとは思えない。


「異世界ですけど、他の記事の内容自体はほぼ1943年のアメリカでの出来事ですね。ドイツや日本軍の動きの話まで書いてあります」

「では、ここはアメリカだと? もしかしたら異世界のラスベガスなのか?」

「それも違うと思います」


 俺は新聞の天気欄と広告を指差した。


「天気予報のところに載っている地図が完全にアメリカ東海岸なんですよ。地名は全く聞いたことがないものばかり並んでますが」

「マニソー? ウムルガン? なんだこれは?」

「そして、それで分かりましたが、この町の名前はマインガルです」

「聞いたことがないな。これはアメリカなのか?」

「異世界のアメリカなんでしょう。おそらくイギリスでもフランスでもない謎の国がこの大陸へ入植して作った謎の国」


 アメリカの地名はだいたい当時のイギリスやフランスが地元や有力者が命名した集落がベースになっているはずだ。

 ならば当然、入植した国が変われば名前も変わる。


「天気予報の簡易地図を信じるならば、この町が元々あった場所はフィラデルフィアですね」

「そんな場所の都市が何故こんなネバダ州の砂漠のど真ん中に?」

「さあ。他の場所に起こった転移事件と何か関係しているのかもしれません」


 ハセベさんは新聞記事に目を通し始めた。

 何かヒントが隠されていると信じているのだろう。


「明日には役所を調査してみましょう。もしかしたら、その古新聞よりも詳しい資料があるかもしれません」

「ああ。ただこの関係者の名前だけはチェックしておきたい」


 ハセベさんが机に備え付けられていたメモ用紙を一枚千切ったが、一緒に置かれていたペンは乾燥して使えないようだった。

 なんとかインクを出そうとペンを振り回しているハセベさんにポケットから鉛筆を渡した。


 ただのキャラ設定の味付けのために用意されていた初期所持品が意外と役に立ってくれる。


「頼れるのはローテクですよ。アメリカがペンの開発をしている間にソ連は鉛筆を使ったんです」

「ああ。ローテクが一番だ」


 ハセベさんがメモ用紙に2人分の名前を記載した。


「この町の町長と、融資した富豪の名前だ」


 俺はその名前を見て眉をしかめた。


 町長のジェームズ=スミスは良いとしよう。

 問題はその富豪の名前だ。


 レイナ=ロハ。


 パナマで赤い女が偽名として使用した名前だ。


 これは偶然の一致なのだろうか?

 それとも……


 それに、何かが引っかかる。


 フィラデルフィア。1943。

 何かで見た組み合わせなのだが、思い出せない。


「まあ、明日以降に調査をしよう。何か分かるかもしれない」


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