Chapter 12 「石造りの町テロス」
テロスの町へは4日間で無事に到着出来た。
タルタロスさんとレルム君の加入後は特に敵との遭遇もなく、特に何の支障もなく順調に来ることが出来たので良しとしたい。
ただ、2人……否、ドロシーも含めた3人は何の荷物も持っておらず手ぶらで歩いている。
せめてこの町で旅の装備を揃えたいところだ。
そのためにも、早くケルベロス騒ぎを片付ける必要が有るだろう。
門の前にはろくに鎧も付けていない若者が木の棒にナイフを括り付けただけの槍らしき武器を片手に座り込んでいた。
ただぼーっと宙を見ているので、起きているのか寝ているのかすら分からない。
一応は門番なのかもしれないが、役目を果たせているとは思えない。
「すみません、この町に入りたいのですか?」
モリ君が門番らしき若者に声をかけると、ワンテンポ遅れてから返事があった。
「えっ、この町に入る? えっ!?」
若者は明らかに動揺している。
やはり門番の役目を果たせているとは思えないが、こんな若者を駆り出さないといけないくらいに人材不足なのだろうか?
若者は一見すると騎士のような風体のモリ君をまじまじと見ると、急に立ち上がった。
「もしかして、騎士様でしょうか!?」
「いえ違います。俺達は……俺達は何なんでしょう?」
決めなければいけないポイントでモリ君が俺の方を見て助けを求めてきた。
「いやもう適当に冒険者とでも名乗ればいいよ。熱き冒険者でも、高き冒険者でも好きなように名乗って」
「そうですね、俺達は」
「こちらのアルバートさんの護衛で雇われた何でも屋だ。町の中に入れてもらってもいいか?」
モリ君がもたもたしている間にカーターが横から会話に割り込んで答えた。
「なんでも屋?」
怪訝な顔をする門番にカーターは不敵な笑みを浮かべた。
「そうそう。お金をいただけるならば、トイレの掃除から魔物退治まで何でもやりまーすがモットーの何でも屋。御用の場合はお気軽にご連絡を」
「魔物退治? もしかしてケルベロス相手でも戦ってもらえるんですか?」
「こちとら商売なんてタダってわけにはちょっと。ただし、いただけるものをいただけるならばケルベロスだろうがヘルハウンドだろうが、もうちょちょいのちょいっと」
カーターが人差し指と親指で丸を作って門番に見せた。
要するに金を寄越せということだろう。
「むひゃい!」
若者は興奮して何やら理解不能の奇声を上げると、門番の職務を投げ出して町の中へと駆け出して行った。
「なっ、交渉ってのはこうやるんだ」
「本当に聞き込みや、こういう交渉ごとだと頼りになるな」
「だって、お前が話すと安請け合いからのタダ働きをしかねないだろ。金が関わる交渉はオレに任せろ」
それからしばらく待ったが、結局門番は戻ってこなかった。
仕事をしてくれないようなので、俺達は勝手にテロスの町に入った。
町に入るとカンカンと石に楔を打ち込む音があちこちから心地よいテンポと音階でまるで交響楽団のように響いてくる。
路地を曲がれば、職人が大きな楔を石に打ち込む力強い音が響き渡る。
その向こうでは、誰かがノミで丁寧に模様を刻んでいる繊細な音色が漂ってくる。
軒先には既に加工された石柱や石畳に使われるであろう薄く削られた石材が山のように積み上げられていた。
横にはそれらの石材を運ぶための荷車……そして、それを牽く巨大な黒い牛が何頭も繋がれている。
どうやら、この町の主産業は石の加工なのだろう。
「近くの山で良い石がたくさん取れるので、この町は昔からそれを加工して売っているんです。石畳から屋根。富裕層が家に飾る彫刻の素材まで」
アルバートさんの説明を聞きながら石粉が舞う工房や街の中心部を通り過ぎて先へ進む。
そう言われて通りを見ると、確かに建材に混じって彫刻作品も並んでいる。
ただ、野ざらしで放置されているのでこれはただのサンプルかもしれない。
「アルバートさんも石の加工の仕事を?」
「いえ、私は町の雑貨店を営んでおりました。こちらです」
雑談をしながら通りに入った。
商店がいくつも立ち並んでいるのだが、その大半は鎧戸を閉めて営業をしていない。
また、焼け焦げた柱以外は何もない、ただの空き地になっている場所も多々ある。
これはケルベロスだかヘルハウンドだかに建物を完全に焼かれてしまったのだろうか?
「私の店はこのすぐ先です」
アルバートさんに付いていくと、通りの奥に小さい商店があった。
どこからか飛んできた火の粉であちこちが燻ぶった痕跡は残っているが、幸いなことに破損や焼損はないようだ。
アルバートが鍵を開けて店内を確認する。
どうやら荒らされることもなく店内は無事のようだ。
アルバートさんも店や家財が無事で胸を撫で下ろしたようだった。
「ここまでありがとうございました。私も、もう少しこの町で頑張ってみることにします」
「アルバートさんもお元気で」
ケビン君は同年代のレルム君やドロシーとの別れを名残惜しそうにしていたが、ドロシーの方はどこ吹く風だ。
何故女子はこのように幼気の少年の性癖を歪めてしまうのか。
「レルムも元気で。近くに寄ったらまた会いに来てくれ」
「うん。ケビン君も元気で」
レルム君の方は短い期間だが同年代の男子ということで友情を深めたようだ。
ケビン君は最初に町で発見した時は肉体的、精神的にもかなり弱っていたが、こうやって同じ年代の子供と遊べた事で少しは回復出来たようだ。
このまま元気に育って欲しい。
まあ、これで護衛の任務は一応果たせた。
あとはケルベロスとヘルハウンドを討伐して任務完了だ。
「そろそろ、最初に会った門番君が戻ってくる頃だと思うんだが」
「噂をすれば」
話をしていると、最初に門のところで出会った若者が息も絶え絶えに俺達のところへ走ってきた。
「ちょ……ちょうちょがおよび」
「落ち着け」
門番にまずを息を整えさせる。
バタフライがどうしたというのだ。
慌てすぎて何を言いたいのか分からない。
「町長が貴方がたにお会いしたいとのことです」
「分かりました。案内してください」
どうやら、ケルベロスと戦うことが出来る戦力を持った俺達が町にやってきたという情報が町長に伝わったようだ。
カーターが俺の肩をつついて小声で話しかけてきた。
「見事に食いついてくれたようだな。これで報酬ゲットだ」
「全部金目当てみたいな言い方はやめろよ。まあ、報酬は貰えるならば貰いたいのは事実だけど」
◆ ◆ ◆
案内されたのは町長の私邸だった。
この町がどのような体制で成り立っているのかは分からないが、この町を管理しているのは町長で間違いないようだ。
「初めまして。町長のサムソンと申します」
「モーリスです。俺……私達は万事屋です」
「何でも屋! 何でも屋!」
「旅の何でも屋です」
モリ君は初手で若干危ないところもあったが、まあ概ね間違ってはいないのでセーフだ。
だが、この後はフォローに入った方が良さそうだ。
俺がハッタリ担当、カーターが金額交渉担当だ。
「騎士団でも冒険者でもないのですか?」
最初に騎士の名前が出てきたのはモリ君の今の外観を見ての話だろう。
「私達は南の冒険者という制度のない国から来た旅人です。そのため冒険者ではありませんが、困っている方から依頼を請けて、それを解決するために対応するという点では似たようなものだとお考え下さい」
「ここから南ですか? さぞ遠いところからようこそいらっしゃいました。それで、この町にはどのようなご用件で?」
早速来たようだ。
ここからは交渉し甲斐が出て来た。
モリ君に代わって俺が前に出る。
「私達が旅をしている途中にアルバートさんという方と出会いました。なんでもお仕事で町を出てすぐの場所で変なモンスターに襲われてピンチだったとか」
「アルバートが町を逃げ出したという話は聞き及んでおりますが、逃げたのではなく、仕事だと?」
「はい。通りすがりの私には分かりませんが、確かにお仕事に向かう途中だったと聞いております。仕入れか何かだったのでは?」
まさか夜逃げしたとは言えないので、ここは適当に誤魔化しておく。
大きな港町に行けば仕事があるだろうと考えていたという話だったはずなので、就職活動……これは仕事の一環だと言って嘘ではないだろう。
多分。知らんけど。
「ただ、魔物の追撃があまりに厳しくて、山小屋に閉じ込められて2ケ月ほど立て籠もっておられたようです。そこへ、たまたま旅の途中で通りすがった私達が魔物を討伐。偶然ですがアルバートさんを救出する形になりました。その際、彼が町に戻りたいとおっしゃっておられましたので、この町まで護衛をして参りました」
「なるほど」
一応、今のところに矛盾点などなかったか、カーターに目線を送ると親指を立ててきた。
特に変なところはないという認識で良いだろう。
話を続ける。
「その際、耳にしたのですが、何でも最近このテロスの町にケルベロスなる奇妙な魔物が現れるようになったとか」
「はい。貴方がたを呼んだのもまさにその件です」
これでスムーズに本題に入れた。
後は町長の言うことを適当に頷けばOKだ。
「3か月ほど前のことです。石の切り出しに向かった者達から、採掘中に変な洞窟へ繋がってしまい、その中から魔物が現れたと報告がありまして」
「それがケルベロスだったと」
「はい。昔から伝承に100年単位でケルベロスが現れて町を荒らして回るというものがあり……」
「そのケルベロスが町を襲っているのですね」
「はい。日中は眠っているのか襲撃はないのですが、日が暮れると洞窟から這い出してきて町を襲うようになりました」
そうなると原因は洞窟か。
おそらくケルベロス以外にも魔物は潜んでいそうなので、早めに洞窟ごと塞いでしまうのが正解かもしれないが、その辺りはどうなのか?
「日中に洞窟を燻すとか、そもそも洞窟を塞ぐということは?」
「試みましたが、ケルベロスは洞窟に近寄ると日中でも這い出して襲ってくるのでうまくいきませんでした。それに、洞窟は奥で別の場所に繋がっているようで、一か所塞いだところで……というのがあります」
出現してから3か月も期間があれば、流石に素人がすぐに思いつくような対処法は既に試した後か。
その上でダメだったということであれば、俺達が同じことをやるのは時間の無駄だろう。
「町への襲撃という直接的な被害だけではなく、石切場に魔物が巣くわれると新たな石を切り出すことも出来ないので、町の産業も立ち行かなくなり困っております」
「分かりました。私達がその討伐を請けましょう」
「そうですか、ありがとうございます」
とりあえず俺の仕事は終わりだ。
カーターが手の平を出してきたので叩いて後ろに下がる。
「それで、流石にオレ達も何でも屋という商売をやっているわけで、タダで討伐の仕事を請けるわけにはいかなくて……」
あとの金銭の交渉はカーターの仕事だ。
適当にうまくやってくれるだろう。




