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収穫祭の魔女  作者: れいてんし
Episode 3. Tomb of the Red Queen
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Chapter 17 「それぞれの別れ」

「はい、動かないでくださいね」


 戦闘で負った傷はマリアの回復スキルのおかげで治癒された。


 モリ君のヒールもそれなりの治癒能力はあるが、やはり専門家は違うのだろう。

 俺が受けた傷は最後に高所から飛び降りて負ったものも含めて見事に完治した。


「回復ありがとうございます」

「いえいえ、あなたのおかげで強敵を倒すことが出来ましたから、せめて私にも出来ることをと」


 確かに旧神の印(エルダーサイン)による弱体化の効果は完全に決め手になった。

 これを教えてくれたカーターにも後で礼を言うべきだろう。

 

 蛙の神が倒れても、俺達の仕事はまだ微妙に残っていた。


 まずは、祭壇の下の地下通路には数個の赤い宝石……寄生生物の駆除。

 これは「魔女の呪い」による「収穫」を使えば簡単な話だ。


 蛙の神の死骸もまとめて霧化して消滅させておいた。


 巨人(イソグサ)と同じパターンならば、魔女の呪いで霧化させてしまえば、二度と復活は出来なくなるはずだ。


 これで、この遺跡をゲームマスターが悪用してタウンティンを攻撃することはもう出来ないだろう。


 それに、俺達が離れてしまえば、奴がタウンティンを攻撃する口実は全くなくなる。

 タウンティンの文明をリセットするというのを考えたとしても、俺達というゲームでかつショーの駒のいない場所で地道な活動はさすがにしないはずだ……多分。


 ついでに遺跡内に寄生体や赤い宝石が残っていないか「収穫」で完全に霧に変えて調べる調査だ。


 こちらもOK。

 確認できる範囲内にはもう寄生体は残っていない。


「ということは、この宝石は本物と」


 例の祭壇、蛙の神がいた場所からは緑や黄色の巨大な宝石がぶら下がった首飾り「だったもの」が発見された。

 おそらく太古の昔は紐が通されて首飾りだったのだろうが、現在は紐の部分が朽ちてしまっており、ただの宝石が残るのみだ。


 ただ、かなりの価値があることは素人でも分かる。

 現代の地球ならば大英博物館やスミソニアン博物館と言った世界有数の博物館送りになりそうな品だ。


「これは私が貰っても良いんだな?」


 パタムンカさんが若干声を震わせながら言った。


「こいつは凄い。売ればとんでもない金になるぞ」

「貴重な資料なので国へ寄贈して欲しいが、それが探掘家というものなら規制は出来んな」


 教授はその宝石の調査を行いたいようだったが、契約上は遺跡内で見つかった宝は渡すということになっている。


「最終的には国の持ち物になるだろう。タラスカの王家だか他の国が買うかは知らんが」

「うちの共和国は買わんだろうな。義母が予算を出す気はしない」


 それは分かる。

 あの知事は石炭や石油、鉄鉱石に興味は有っても、宝石や美術品、工芸品には何の興味もなさそうだ。


「セレファイスあたりへ売り込みに行くか」


 パタムンカさんが妙な名称を出した。


「セレファイス?」


 メキシコ周辺では聞いたことがない地名だ。

 どこかの町の古い名称だろうか?


「北の大陸にある大きな町だよ。今はメリダから交易路が繋がっている」

「北の大陸? アメリカに?」

 

 おかしい。

 今の時代は中世のはずだ。

 

 北アメリカ大陸の大半は砂漠地帯なだけあって、沿岸部にネイティブアメリカンがわずかに住んでいるくらいで、まともな文明は存在していないはずだ。


 それなのに交易路が繋がる町?


 興味はあるが、流石に俺達が進むルートとは異なる。

 寄り道している余裕はない。


 俺達とクロウさん達も一応は取り分として小さめの宝石を1つずつ貰うことにした。

 売れば当分の飯代にはなるはずだ。

 

 アンカス教授とパタムンカさんはこの遺跡の調査をしばらく続けるということで、ここで別れることになった。


「赤い宝石」はもう残っていないとは思うのだが、まさかということはある。

 念には念をという意味を込めて、口を酸っぱくして言っておく。


「教授もお元気で。もし知事に会うことはあれば、よろしく伝えておいてください。色々と助かったと」

「ああ。この遺跡の調査が終われば、一度本国に戻るつもりだから、その時に伝えておくよ」


 短い間だったが、教授やパタムンカさんにも世話になった。

 本当に感謝したい。


「赤い女」のミイラは遺跡の近くに穴を掘って埋葬することにした。


 色々とあったが、死んでしまえばただの屍というのは日本人的な価値観なのだろうか?


 どこの誰なのか、出身地がどこなのかは知らないが、博物館や古物商に売られて見世物にされるよりは、まだ埋葬されて土に帰る方が良いだろう。


「こいつは結局何だったんだろう」

「無貌の神の模倣だろうな。トラペゾヘドロンもどきを使うところまで模倣」


 カーターが相変わらずよく分からない話を始めた。


 何故こちらが知っている前提でよく分からない単語を交えて話すのか?

 そこが分からない。


「カーターは何か知っているのか?」

「いやもう終わったことだ。気にするほどのことじゃない」

 

 そう言われると余計に気になるのだが、まあ確かに終わったことだ。

 もうこんな奴を相手にすることはないだろう。


   ◆ ◆ ◆

 

「というわけで、これから俺達は日本へ帰るための情報を調べるために、アメリカのサンディエゴを目指すつもりです」

「日本に戻るための情報があるという話は実に興味深いな」


 赤い女対策を優先したため、後回しにしていた説明をクロウさん、ハセベさんへ行った。

 まだ未確定だが、サンディエゴに行けば知事の昔の知り合い……50年前にこの世界に召喚された日本人が住んでおり、1人を日本へ帰すことに成功したという話だ。


「確かにその話は興味深い。だからその旅には同行したい……と言いたいところだが、残念ながら船を返しに行かないといけなくてな」

「船?」


 船とは何のことだろう?

 チャーターでもしたのだろうか?


「オレ達はキューバの漁師に個人所有のヨットを借りていて、それに乗ってここまで来たから、当然ながら、その船を持ち主のところへ返しに行かないといけない」

「私が風の力で船を押したんです」


 ガーネットちゃんが得意げに言った。


「私としてはこのままヨットを頂戴しても良いかと思うのだが」

「レオナ、それはダメに決まっているだろう。借りたものは必ず返さないといけないに決まっている」

「だが」

「それに、無理な航海で船をあちこち壊してしまったので、その修理代の補填と謝罪も必要だ」

「何もそこまで……」


 クロウさんは風貌から荒々しいチョイ悪系だと勝手に思い込んでいたのだが、実はかなり生真面目な性格のようだ。

 レオナさんへ色々と説教する内容からそれが伝わってくる。


「カッコいいでしょう、クロウさん」


 マリアさんが俺の肩に手を置いて、まるで自分のことのようにクロウを褒め称え始めた。


「私って(水着)じゃないですか。そんな恰好だからみんなに見られていたところを『それの何が悪い』って言ってくれて」

「ああ、そういえばマリアさんは(水着)なんですね。俺は(ハロウィン)です」

「えっ? 名前の後ろにカッコ付きの人って私の他にいたんですか?」

「うん、まあ。多分、俺達二人だけだと思うんだけど」


 俺は改めて肌の大半を露出しているマリアさんの姿を見て改めて思う。


 (ハロウィン)で良かったと。

 (水着)でなくて良かったと。


「はい、ハロウィンですよ。クッキーをどうぞ」


 (ハロウィン)であることを証明するために俺はクッキーを取り出してマリアに差し出す。


 本当はカードも見せられれば良かったのだが、残念なことに俺のカードはランクアップ時に全てが文字化けして全く読めないものになっている。

 それを見せたところで何がどうなるものでもないだろう。


 マリアさんは俺が出したクッキーを喜んで受け取ってくれた。


「凄いですね、このスキルって」

「まあ、戦闘では全く使えないので万能ってわけにはいきませんけど」

「私もお菓子を出すスキルが欲しかったな……私なんて出るのは水なんですよ、水!」


 (水着)だから水が出るのだろうか?

 いくらなんでも安直すぎると思うのだが、今更それを言っても仕方ないだろう。


 ただ、旅をする上で水が出し放題というのは、それはそれで役に立ちそうだ。

 攻撃にも使える上に、飲料水としてもOK、風呂も入り放題、洗濯もやり放題は羨ましい。


「もう少し早く知り合えれば友達になれたと思うんですけどね」

「いや、今からでも大丈夫。同じ日本人同士なんだから仲間でしょう」

「なら、私達は友達ってことで」

「ああ、よろしくマリアちゃん」

「そうだねラヴィ……ラビちゃん」


 俺を「ラビちゃん」と呼ぶ仲間が増えてしまったが、まあいい。

 ラビ助よりはマシな呼び方だと信じたい。


 それに仲間……友達が増えるのは良いことだ。


「まあそういうわけだ。船を返したら、オレ達も別ルートからサンディエゴに向かおうと思う。君達と同行は出来ないが、約束しよう。近いうちに再会すると」

「はい、よろしくお願いします」


 クロウさんと握手をする。

 別ルートでサンディエゴに向かうということなので、現地で会えることもあろうだろう。

 

「では、ハセベさん達もお元気で」

「そうだな。私達もすぐに追いつく。だから、サンディエゴで会おう」


 ハセベさんには遺跡の頃から世話になっている。


 一緒に行けないのは名残惜しいが、今回の別れは以前のようにお互いの安否すら解らないようなものではない。

 同じ目的地を目指す、再会を約束した一時的な離脱だ。


「短い付き合いだったけど、オレは仲間だと思ってるからな」

「皆さん、また会いましょう」


 ウィリーさんとガーネットちゃんとは短い付き合いだが、俺達も仲間だと思っている。

 再会したら今度こそ一緒に冒険をしよう。


 そしてクロウさん、ハセベさん達とはこの遺跡で別れることになった。


 今は一時的な別れだが、またすぐに再会できるだろう。


 そのためにも俺達は向かわなくてはならない。

 アメリカのサンディエゴへ。


   ◆ ◆ ◆


 それから一日半かけてチョカンの街に戻った。


 リプリィさんが、まずは軍部に今回の任務の報告があるということで、一時離脱していった。

 ただ、夜までには戻ってくるらしい。


 その間に、俺達はまず、遺跡で手に入れた宝石を換金した。


 流石に宝石なんて持っていても仕方ない。

 旅費に変えるほうが建設的だ。


 売却額は日本円換算で約30万円。

 十分な成果だとは言えよう。


 その後に報告に向かった。

 相手は遺跡の情報提供者であるシカップ爺さんだ。


「おい、まだ5日だぞ! 途中で諦めて帰って来たんじゃないだろうな」

「いえ、遺跡は全部攻略してきました。あの寄生体も駆除してきましたので、もう存在しません」

「でもどうやって……」

「魔法の力です」


 魔法ではないが、こう答えておくのが良いだろう。


 一応遺跡から持ってきた小さい石像を渡す。


 お高い品はパタムンカさんに渡すということになっていたので、俺達が渡せるのはせいぜいこれくらいだ。


「今はパタムンカさん……女性の探掘家の方が調査を行っています。もうしばらくするとこの町へ人足を雇いに戻って来るので、そうすれば遺跡の所在とシカップさんの話が嘘ではなかったと証明されます」


 シカップ爺さんはそれを聞くと眉に皴を寄せたまま無言で壁の方を向いて「そうか」と呟いて酒を飲み始めた。


「全く、余計な真似を……今日は酒を飲んで寝るからもう帰ってくれ」


 どうやらもう帰れということらしいので、俺達はシカップ爺さんのいた小屋を後にすることにする。

 ドアを閉めて小屋を出ていく直前に声がかかった。


「ありがとうな」


 これで俺達の遺跡探索話は終わりだ。


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