Chapter 9 「ホンジュラス」
パナマを出港して1週間。
交易船は次の中継地点、チョカンの町にあるアマバラ港に到着した。
ここでも水や燃料の補給、貨物の荷下ろしのための停泊は1週間。
その間に事件を解決させる必要がある。
恒例のラジオ体操で体をほぐす。
相変わらず船室ではやることがなさすぎて虚無だったので、久々の陸地は全てが新鮮に感じる。
モリ君は……今のところ普通には見えるが、何かぎこちない。
リプリィさんとは顔を合わせようとしないし、お互いに微妙に距離を取ろうとしている。
表向きは前と同じなのだが、どこか元気がない。
リプリィさんの方も、会話が妙に事務的だ。
もしかすると、モリ君の件で俺たちに愛想を尽かして、あくまでも仕事だけの関係と割り切ってしまったのかもしれない。
だとすると悲しい。
リプリィさんとは次に交易船が出航する時に別れることになる。
この微妙な状態だけは解消して、最後くらいは笑顔で別れたいところなのだが。
「なんか暑くない、ここ? 今は11月のはずだよね。パナマより暑く感じるんだけど」
「海流なんかの関係だろうな。どのみち、赤道にかなり近いからここは年中夏だよ。それでも日本の夏に比べたらこれくらいリゾート感覚だろ」
「本当に、日本の夏の方がはるかに暑い」
いや本当にどうなってるんだよ21世紀の日本は。
世界地図を脳内で広げる。
ホンジュラスはメキシコの南。
中央アメリカの有名なコーヒーの産地であるコスタリカ、ニカラグア、グアテマラが近くにある。
現代の地球だと、カリブ海に面した北部はサンゴ礁を生かした風光明媚な観光地として開発されて、多くのアメリカ人が観光に訪れているはずだ。
この世界ではメリダ方面に抜ける船があるらしいので、ゲームマスターや赤い女関連で行くことがあるかもしれない。
本場のコーヒーに興味はあったのだが、スペイン人がまだ侵略に来ていないこの世界だとコーヒーやバナナといった農作物を育てる農園は存在していないだろう。
そして、ここが、タウンティンの勢力圏の北限でもある。
厳密にはここはタウンティンの領土ではない。
メキシコ方面に向かう際の寄港地として便利なので、経済的支援をしている場所だ。
理由は何であれ、町にタウンティン……海外の投資がされているということは強い武器になる。
金が集まる場所には人と物資が集まる。
周囲をジャングルに囲まれたこの都市は、この世界の一般的な都市水準と比較して、明らかに近代的な発展を遂げていた。
「おーい、こっちだー!」
船にかけられたラダーを降りるや否や、口と顎に髭を蓄えた初老のやや小太りの男が一人こちらに手を振りながら駆けてきた。
髪と髭は元々黒かったのだろうが、今は白いものが混じりマーブル模様になっている。
「おおリプリィちゃん久しぶり。大きくなったね」
「お久しぶりです教授。でも私はもう成人していますので、ちゃんはちょっと……」
「確かに。それは済まない」
何やらリプリィさんとは旧知の仲のようだが、何者なのだろうか。
「あの、こちらの方は?」
「こちらは国立大学で歴史……考古学を研究されているアンカス教授です。私との関係は義理の叔父です」
「どうも、アンカスです。見ての通り、あちこちを飛び回って歴史の研究をやっております」
「モーリスです。よろしくお願いします。こちらは仲間のラヴィ、エリス、カーターです」
モリ君が代表で教授に握手で応じた後に俺たちのことを簡単に紹介した。
全員で握手をするほどではないようなので、帽子を脱いで簡単に名前だけを名乗って会釈をした。
「もしや、こちらの方々は例の『神の戦士』?」
教授の視線がモリ君、エリちゃん、俺の順番に向けられた。
そういえば俺たちのような召喚者は「神の戦士」と呼ばれているのだったか。
カーターはなぜか無視されていた。
服装がスーツでコスプレ感がないので、召喚者かどうか判断がつきにくかったのだろう。
「私の妻は知事の娘……日系二世なこともあって『神の戦士』には非常に興味があってね。良ければ色々と話を聞かせてもらいたいところだ。この世界には古くから、あなたたちのような異界の人間が召喚されていたことから文化と文明の進歩に――」
「――教授、ここではなんですので、どこかで食事でもしながら」
リプリィさんが慣れたものとばかりに、何やら早口で語ろうとする教授の話を途中で遮った。
おそらく語り出したら止まらないタイプ……現代のオタクに似た性質の学者なのだろう。
「おお、そうだった。研究のこととなるとつい多弁になってしまい申し訳ない。だが、神の戦士は古代の――」
「――そこの店で良いですね、入りましょう」
また早口で語ろうとする教授の話を半ば強引に遮り、なし崩し的にレストランになだれ込むことになった。
◆ ◆ ◆
料理は蟹や魚をトマトソースで煮込んだような料理と、トウモロコシ粉で作ったナンのようなものが何枚か運ばれてきた。
各自がナンのようなもので料理を包んで食べろということだろう。
教授やリプリィさん、部下の軍人は手慣れたもので、蟹の殻を綺麗に剥いて身を取り出し、ナンに包んで食べている。
そうして巻いて口に頬張った時点でようやく気付いた。
これはナンではなくトルティーヤだ。
トウモロコシ粉で作った皮がトルティーヤ。
これで食材を包んで食べるとタコス。
真似して一口頬張ってみると、やたら唐辛子の辛みが強い。
激辛唐辛子は中央アメリカ原産のものが多い。
味自体は美味しいのだが、まず辛さが来るのでなかなか食は進まない。
飲み物として出された甘いココナッツウォーターで流し込むも、甘さのおかげで逆に辛さが増したように感じる。
普通の真水が欲しい。
「今回は北にある遺跡群を調査するとか」
「はい。今のところ蟇の遺跡という名前以外の情報はありませんが」
「この辺りは遺跡だらけだが、蛙がどうのは、正式名称じゃなく俗称だな。誰かが勝手に名付けただけなんじゃないかと」
教授が紙の大きな地図を広げた。
そこにはあちこちに赤いペンで書き込みがなされていた。
ペンで記載された場所は十数個ほどあるように見える。
これらの遺跡を全て調査するとなると何日……いや、何年かかるだろうか?
俺たちがこの街に滞在していられるのは船が出航するまでの1週間だけだ。
その間にカタを付ける必要があるが、1週間だと回れてもせいぜい2、3か所だろう。
総当たりするにはあまりに時間が足りない。
ハズレを引かないように情報を集めて絞り込む必要がある。
「このペンの場所は全て遺跡でしょうか?」
「その通りだ。この町から近い場所にはオルメカの影響を受けた遺跡が多いが、その蛙とやらは他にどんな特徴が?」
オルメカはヘルメットを被った巨大な頭の像「オルメカヘッド」で有名な……それ以外はよく分かっていない文明だ。
スペイン人が来た頃には既に滅んでいたので詳細は不明という、あらゆる意味でも謎の文明である。
「すみません、名前だけしか」
「ふむ……まあ、それらしい候補の遺跡はいくつかある。蛙を神と崇めた遺跡はこの周辺には複数ある。この地域にはヤドクガエルという毒を持った――」
教授の長い語りがまた始まった。
どんどんと本題から逸れていく。
俺が大学時代に講義を受けた教授にも似たような人物はいた。
研究肌の人間は似るのだろうか?
どのみち、今のところ情報は名前以外はわからない。
現状を正直に説明して追加の情報収集を行うしかない。
「ヒントとしては、赤い服やタキシード姿の男など、この場所にそぐわない服装の人物がいたかどうかです」
「なんだと……遺跡に特徴があるわけではないのか」
教授の顔が落胆に染まった。
どうやら州知事から伝えられた報告が、伝言ゲームのように「奇妙で珍しい遺跡」と歪んだ形で伝わっていたようだ。
「この町で少し聞き込みをしたいと思います。それで情報が入れば、細かく絞り込めると思いますので」
「それならば、探掘家たちが集まっている酒場が近くにある。そこなら色々と情報が集まるだろう。仕事の仲介もしてくれる」
「今から行っても大丈夫でしょうか?」
「いや、あそこは夜からの店だ……それに……まあ、少し……いや、かなり品が悪いから若いお嬢さん方には刺激が強すぎるかもしれない」
教授の手が俺とエリちゃんに向けられた。
教授の話を聞いて、脳内で洋画などで荒くれ者どもが集まるストリップバーのような映像が思い浮かんだ。
おそらく、イメージとそこまでは乖離していないと思う。
まあ、変な絡まれ方をしたとしても、リプリィさんの部下であるランボーとコマンドーに付いてもらえれば、変にウザ絡みしたやつが逆にやられるというやはり「洋画で見た」という光景になるので、大丈夫だろう。
リプリィさんは軍の手続きがあるとのことでチョカンの町の軍部に向かっていった。
俺たちは夜を待ってアンカス教授と共にその酒場を訪れることにした。
◆ ◆ ◆
「許してくれ! 生活のためにどうしても金が必要だったんだ。遺跡を壊すつもりなんて本当になかった。頼まれてやっただけなんだ!」
怯えた声で部屋の隅に逃げていく男の肩に俺は鳥を1羽乗せる。
「いや、あなたの事情は別に聞いていないから質問に答えてください」
「命ばかりは……」
なぜこうなった?
それには少し時間を戻して説明が必要だろう。
俺たちは教授に紹介していただいた酒場を訪れたのだが、いきなり下卑た男たちが俺を完全スルー。
エリちゃんに群がって下品なセリフを吐いて絡んでくるという、やはり「洋画で見た」という光景が始まった。
仕方ないので、やはりランボーかコマンドーに間に入ってもらって話を円滑にまとめようと思った時に、破落戸の一人が
「なんでこんなところにドラム缶があるんだ? キッズはママのところに帰れよ」
などと決して許されざる暴言を放った。
軽く脅してやろうと鳥を喚び出した結果がこの惨状である。
特におかしなことはしていない。
薄暗い店内で青白く光る鳥を5羽喚び出して飛び回らせたら、恐れ知らずのはずの破落戸たち数名が露骨に怯え始め、
「ククルカンの祟りだ!」だの「魔女が呪いをかけにきた!」だの大騒ぎを始めたのである。
無反応でコップを洗う店長と、全く動じていない一部の客もいるのがシュールさを増している。
確かに「洋画で見た」シーンで間違いはない。
ただし、眼前で繰り広げられている場面は、刑事ドラマやアクションの聞き込みシーンではなく「ホラー映画の導入で怪しげな魔術師が登場する」シーンである。
どうしてこうなった?
「この鳥はどういう仕組みで動いているんだね?」
「仕組みは分かりませんが、私の自由に動かすことができます」
鳥の1羽をアンカス教授の肩に止まらせると、興味深そうに羽を撫でたり、ひっくり返して腹を触ったりし始めた。
俺と鳥が触覚を共有していたら大惨事になるところだが、特にそんな機能はないので、支障は発生していない。
「すごいな。何かのエネルギーで構成されているのは分かるが、身体構造自体は野生の鳥そのものだ。義父や義母の能力以上に意味が分からない。日本人というのはみんなこういうことができるのか?」
「いえ、日本人全員が同じことをできるわけではなく、この世界に召喚された人間のみが使える能力です」
教授の中の日本人像は一体どうなっているのだろうか?
まさか日本人は超能力者の集団とでも思われているのだろうか?
「つまり、これから航海技術が発達して、太平洋を渡って日本へ着いたとしても……」
「能力者はいないと思います」
「それは残念だ……実に残念だ」
教授は本当に残念そうに言った。
「ということは、義母と同じで、この技術について何も分からないし、他人に継承もできないのか……惜しい、実に惜しい」
「はい、すみません」
教授には簡単に答えておく。
どのみちこの力は運営に急に押し付けられて使えるようになった力なので、原理を聞かれても答えようがない。
――そして、話は冒頭に戻る。
とりあえず鳥は消した。
パニックが収まらないからだ。
なのに、破落戸たちはテーブルの下に隠れたまま出てこない。
「私たちは蟇の遺跡というものを探していますが、聞いたことはありますか?」
「名前だけ言われてもわからねえよ。何か他にないのか?」
破落戸に質問したが、当然の答えが返ってきた。
別にこれは破落戸が悪いわけではない。
俺の質問が悪いのだろう。
別の方向で攻めてみよう。
「カーター……そこの背の高い男と似たような服を着た人物を見たかどうかを確認したいのですけど」
「それなら2週間前に来た」
「本当ですか? 何をしていましたか?」
思わず身を乗り出すと、またも破落戸が怯え始めた。
「カエルがどうのとか言って意味不明だったが、町外れに住んでるジジイが吹聴している話に似ていると言ったら、そっちへ会いに行くと言って消えた。それ以降は知らない」
カエルうんぬんは、赤い女が言っていた蟇の遺跡とやらのことだろう。
さらに詳しく聞き込みをする必要がありそうだ。
「そのジジイとやらは何者なんですか?」
「嘘つき爺だ。マヤやオルメカとは系統が違うデカい神殿を見つけたと、与太話をいつも喋ってバカにされている」
「嘘という根拠は?」
ゲームマスターがわざわざ動いているということは、その話は真実の可能性が高い。
ならばなぜ嘘つき扱いされているのか確認しておきたい。
「そんな巨大な神殿があればみんな盗掘に行ってるはずだ。なのに誰もそこに行った奴がいないってことは、そのジジイが嘘をついている以外考えられない」
それは、あまり嘘の証明にはならなさそうだ。
行った人間がいないということと、存在しないことは別の話だ。
ゲームマスターらしき人物が動いており、赤い女の言葉もある以上は、嘘つき爺さんの言葉は真実である可能性が高い。
おそらく運営は、その神殿とやらで何かの工作をしている。
ただし、目撃が2週間前というのが微妙なところだ。
ゲームマスターが律儀に俺たちを遺跡の奥で2週間も待っているという暇なことをしているとは思えない。
ボスキャラがダンジョン最深部でいつも待ちかまえているのはゲームの中だけだろう。
眼鏡マンや邪神の神官のような雇われの中ボスには会えても、ゲームマスターの身柄確保は望み薄だろう。
「次の質問です。深紅のドレスに赤い帽子を深々と被った美女を見ませんでしたか? 派手な見た目だからすぐ分かると思います」
「それなら先週に街で見かけた。ただ歩いているのを見ただけで、それ以上は何も知らない!」
やはり、赤い女もこの近くに来ているようだ。
女がこの町にいたのが先週の話ならば、もしかしたら遺跡内部で会えるかもしれない。
「色々と迷惑をかけてすみませんでした。ハロウィンですよ。クッキーをどうぞ」
お詫びとしてクッキーを手渡すと、男はガタガタ震える手でそれを受け取った。
「おいラビ助、それでどうすんの、この惨状?」
「知らないよ。俺は鳥を呼び出しただけだぞ」
「やっぱり、オレ1人で聞き込みに来るのが正解だったんじゃねぇかな」
「それが良かったかもな」
「この酒場への迷惑料も一緒に払うから金をくれ」
「仕方ないか」
俺たちの活動資金は州知事から貰った金のみだ。
この後に入手できる機会がどれだけあるかは分からないのだから、なるべくは無駄金を使いたくはない。
だが、今回ばかりは俺の失態で招いたことなので仕方がない。
カーターにある程度の金を握らせておく。
カーターはそれを受け取ると、酒場の席に座って酒を注文した。
そして、カウンターの上に酒一杯分よりも多いコインを並べた。
さすが店主は堂々としたもので、無言でその金を受け取ると、カーターに酒を出した。
酒場内を見回すと、やはり動じずに酒を飲んでいる客もそれなりにはいる。
「ここにいる連中は、古代の神の祟りに怯えつつも遺跡に潜って盗掘をしているからな。そんな時に祟りとしか思えない現象が起こったので、ついに神の呪いが自分のところにやってきたと思ったんだろう」
教授がざわついた酒場内を見回しながら言った。
「そんなに盗掘が多いんですか?」
「古代遺跡からの発掘品は高値で売れるんだ。だから一攫千金狙いや、脛に傷を持つ連中が危険なジャングルに踏み込んで盗掘を繰り返している」
教授は大きなため息をついた。
「本来なら貴重な遺跡を傷つける彼らの行動を規制したいところだが、ジャングルの中に命をかけて突っ込む盗掘屋……もとい探掘家がいなければ調査は何一つとして進まない。それに彼らの生活基盤を奪うわけにもいかない。困った話だよ」
「でも大丈夫なんですか? 光る鳥を見たくらいでこの怯えっぷりで、とても遺跡に潜れるメンタルがあるとは思えないんですが」
俺はガタガタ震えている破落戸を見ながら言った。
遺跡探索のガイドは必要だとは思うが、こんなメンタルの連中に勤まるとは思えない。
「確かにそれは気になる。私の知っている探掘家は、こんなことには動じない豪胆な連中が多い印象だったが」
「呪いだよ」
奥の席にいた客が俺たちの話に割り込むように言った。
破落戸どもと違い、全く動じずに酒を飲んでいる。
20代後半くらいの女性だ。
筋骨隆々で鍛え上げられた肉体は、一見すると男と間違うくらいだ。
胸板も厚く、その上に豊かな胸がある。
頬にある目立つ大きな傷以外にも、よほどの修羅場をくぐってきた勲章であろう傷が全身に見られる。
そもそも、この治安の悪い酒場で破落戸たちに絡まれることもなく、一人で酒を飲んでいる時点でただものではない。
女は低い声で言った。
「1ヶ月ほど前から、遺跡を掘りに行った連中が奇妙な鳥を見かけた、襲われたと話題になっていた。実際、知り合いを含め、それなりの実績を持つ探掘家が、何人も密林から戻ってきていない」
そのような事情があるならば、「光る鳥」に対して、ここまで過剰な反応を見せるのは分かる。
ククルカンがどうのというのはそういうことだろう。
その鳥もゲームマスターが仕込んだ何かだろうか?
本題ではないが、ユッグのように怪生物があちこちを荒らして回った前例はある。
今のところ町にまで被害は及んでないが、一応は調べておくべきだろう。
「ところで、さっきから興味深い話をしているな? ヒキガエルの遺跡? 嘘つき爺の話は私も知っているが」
女性が立ち上がった。
「実在するんだな、その遺跡は」
「存在する可能性が高いです」
「しかも未探索。何の話も出ないということは、その遺跡は誰にも荒らされていないはずだ。違うか?」
未探索かどうかは分からない。
赤い女とゲームマスターが動いているからだ。
だけど、遺跡の存在が噂の域を出ていない。
今のところ分かるのは、誰にも知られていないので、盗掘はされていないだろうということくらいだ。
「私を雇わないか? その遺跡から発掘される宝を分けてさえもらえれば、お前たちと一緒にその遺跡の調査に行ってやる」
「どうします、教授?」
遺跡の専門家であるアンカス教授に確認する。
「発見された遺物は国が買い取るという条件で良いだろうか? これは雇う上での必須条件だ」
「教授はそれでいいんですか?」
「遺跡に置いたままだと朽ちていくだけだ。調査と状態保存のために一部は持ち帰る必要はある」
「でも、それも一人ではできない」
「遺物の運搬にも労力と、正しく運ぶための知識が必要だ。それに、変なところで勝手に売買されるなら、国の管理下においた方がマシだ」
教授の顔は渋い。
理由は先ほど言っていた通りだろう。
盗掘は止めたいが、盗掘がなければ調査は進められない。
この町も、密林についてはほぼ手つかずのまま放置されており、開発はほとんど進んでいない。
未開のジャングルに踏み込む無謀な人間など、ほとんどいないということだろう。
だけど、金さえ払えば遺跡を調査して、中の資料を運び出してくれる人間がいるので使わない手はないということか。
「こっちは、きちんと見つけたものを買い取ってくれるならば客を選ぶつもりはない」
「人足の手配の経験は?」
「それは何度もやっている。そこの店長に聞くといい」
教授は酒場の店長に顔を向けた。
「実力派の親から仕事を受け継いだ二代目で、知識も経験も豊富だ。遺跡を無駄に損壊しないのであんたには向いているだろう」
店長は端的に語った。
「何人もの探掘家が集まるこの酒場の店長の言うことだ。信じても良いだろう」
「店の信用問題に繋がるからですね」
「そういうことだ。ジャングルを進むのと遺跡の調査には、経験豊富な探掘家の知恵と知識が有用なので、どのみち誰か雇うことは決めていた。そこらの机の下で震えている連中より肝が据わっていて安心できそうだ。反対する理由はない」
「モリ君はどう思う?」
リーダーであるモリ君に意見を確認する。
「俺たちはジャングルや遺跡の調査については素人ばかりなので、専門家は必要です。ラビさんも人はそれぞれ得意分野があるって分かってますよね、カーターさんの件でも」
確かにその通りだ。
聞き込みなどではカーターが優秀なことは事実だ。
実際、素人の俺が聞き込みに参加した途端に、この惨状が起こっているので、全く向いていないのは間違いない。
近接戦闘はエリちゃん。
回復と防御はモリ君。
探索と最大火力は俺。
1人で頑張るよりも専門分野で分ける方が効率は良い。
そう考えると、ジャングルと遺跡の調査という未知の分野部分に関しては専門家の力を借りることに異論はない。
「というわけです。俺たちは賛成です」
モリ君が教授に俺たちの意見を伝えた。
教授の方も、すでに結論は出ていたようだ。
女探掘家に握手を求める。
「私はアンカス。歴史学者だ。君を正式に雇いたい」
「パタムンカ。見ての通り探掘家だ。遺跡への出発の日になったら教えてくれ。私はここで待ってるよ」
とりあえず女探掘家と約束を取り付けた。
次は蟇の遺跡の情報を持ち、ゲームマスターが接触したであろう嘘つき爺とやらに会いに行くとしよう。




