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収穫祭の魔女  作者: れいてんし
Episode 3. Tomb of the Red Queen
49/333

Chapter 6 「大人の聞き込み」

 赤い女が何かの魔術を使用してどこかへと逃走したこと。

『荷物』なる謎のワード。

「北にある(ヒキガエル)の遺跡で待っている」というメッセージ。

 

 それらについてリプリィさんに報告を行った。


「拘束できなかった件については申し訳ありませんでした」

「いえ。どの道、私たちだけでは逃がしていたわけですから」


 リプリィさんはそう言うが表情は硬い。


 容疑者は逃亡。

 令状を取ったのに成果が少ないのは立場がないのだろう。


 やはりというか、ホテルの部屋にも何の手がかりも残されていなかったようだ。


「蟇の遺跡というのは、おそらくチョカンの港に現れた不審人物が向かったという遺跡の名前と一致します」


 ということは、やはり赤い女はゲームマスター絡みか。


 パナマの次はホンジュラスに寄港予定だったので、そこは当初から変更の必要はない。

 来週の船の出発を待てば、一週間後にはホンジュラスには到着できる。


「遺跡というのは、港から近い場所なんですか?」

「いえ……港からかなり離れた場所にあるはずです。現地には古代遺跡の研究をしている学者が滞在していますので、そこで場所や詳細について確認しましょう」

「つまり、この件はこのパナマで聞き込みするよりも、その人物に会えば、手がかりが得られるんですね」

「はい。古文書や碑文、伝承などの話や、実際の遺跡周辺の地理などにも詳しいです。なので、今はもう1つの『荷物』とやらに集中しましょう」


 専門家がいるならば、そちらから話を聞いた方が間違いないだろう。

 遺跡がどういうものか、そこまでのルートや地元の噂も含めて色々な情報を教えてくれるはずだ。


「このパナマには3つの港があります。商用の港は2つですが、どこに届く予定だったのか」

「1つはこの港として、別の港があるんですか?」

「北側のカリブ海側に2つ港があります。1つは軍港で、もう1つは商用の港です」


 北側の商用の港とは、つまりカリブ海からの荷物を受け取ったり、逆に南側の港から陸路で運んだ荷物をカリブ海へ運ぶための港か。

 パナマの軍港はリプリィさんの父親が勤めているはずだ。

 現在いる太平洋側の、南側の港と合わせて3つだ。


「荷物は北側の港に届くはずだった。もう1つは俺たちが乗ってきた交易船に既に積まれていた。最後は軍を狙った兵器的なものだった」


 モリ君が指折り数えていく。その解釈で間違いないだろう。


 今のところ、どこに荷物を届ける予定だったのかは不明だ。

 タイミングとしては、俺たちの乗ってきた船から下ろした荷物を北側へ運ぶ可能性が高そうだが。


「おい、そんなことがあったのに、なんで起こしてくれなかったんだよ」


 俺たちが悩んでいるところに、カーターが頭を振りながらフラフラとやってきた。

 酒を浴びるように呑んで、今まで寝ていた奴が何を言うのか。


「頭がいてぇ。水を持ってないか?」

「全く仕方がないな。水だけだとミネラルも不足するから、なんか食え」


 水筒に入れた水をカップに注いで、ついでに保存食の干し肉をカーターに渡した。

 カーターはカップの水を一気に飲み干した。

 おかわりを注ぐと、今度は干し肉を食べながら水をまた飲んだ。


「よし、スッキリした。要するにその赤い女と荷物について聞き込みしてくりゃいいんだろ」


 まだ酔いが抜けていないのか、顔を真っ赤にしたままのカーターが「聞き込みなんてさも簡単なこと」と豪語し始めた。


「お前らは良い子ちゃんの優等生過ぎるんだよ。こういう聞き込みはオレみたいなダメ人間の方が向いてることもあるんだ」

「いや、お前がダメ人間だってのは知ってるけど」

「辛辣だねラビ助は」


 肝心な時に酒を飲んでダウンしている奴に対して辛辣で何が悪いのか?

 全く理解できずにいるところへカーターは俺に向かって手を伸ばしてきた。


「ママン、聞き込みしてくるから、お小遣い頂戴」

「お前は酒を飲みたいだけだろ」

「いいや、こういう聞き込みは酒が入らないと聞けない話ってもんがあるんだ。だから小遣い頂戴」


 カーターの言葉から「なんとしても酒を飲みたい」という強い意志が伝わってくる。


 酒の席だと会話が弾むというのも分からなくはない。


 だがカーターの場合はただ呑むだけで終わりになる気しかしない。

 こいつに金を渡しても無駄にしかならないのではないだろうか?


「日本円で1万円分くらいあれば良いですか?」


 俺が悩んでいると金の管理をしているモリ君がカーターに硬貨を渡し始めた。


「ちょっ、モリ君何やってんの?」

「今のリーダーは俺です。その俺がカーターさんを信じて渡すのだから、否定するならば、ラビさんも合理的な理由を説明してください」

「うっ」


 そう言われると否定はしづらい。


 カーターの素性が怪しい、生活態度がだらしないというのは、どちらも今回の調査とは一切関係ない。


「風俗店も覗いておきたいから、もうちょっとくれないか?」

「風俗とかそれ絶対ダメだろ!」

「ラビ助、お前女子に染まりすぎだろ。あと風俗と言っても別に娼館に行くって話じゃねえよ。キャバクラだキャバクラ。ねーちゃんたちが相手してくれる夜の酒場だ」


 キャバクラ?

 それならセーフなのだろうか?


 その辺りの基準がよくわからない。


「それは良いですけど情報はちゃんと集めてきてください。ただの無駄遣いだけなら、今後もう小遣いはなしですよ」

「話が分かるねぇ、お前も一緒に行かないか……ってそれは、嫁さんが怒るから止めておこう」

「誰が嫁さんですか!」


 カーターは誰のこととは明言していないのに、エリちゃんが激昂して会話に割り込んだ。

 そういうところだぞ。


「そうですよ。モーリスさんは真面目なのでそんなところには行かせられません」


 リプリィさん、お前もか。


「でも、お前一人で行かせると、ソース不明の謎情報を持ってくる可能性もあるだろ。せめて誰か一人は連れていけ」


 この理屈ならばモリ君も否定できないだろうと俺は確信した。


 カーター1人で行かせることは問題だ。

 だけど、モリ君が行くことは嫁さん(仮)たちが否定している。


 この状況だと、自動的に大人の俺が同行することになる。

 そうすれば、俺がカーターの行動を監視できる。


「そう言われると否定できねえな。……じゃあ、ロンゲのあんた、頼めるか?」

「私……ですか?」


 カーターが指し示したのはリプリィさんの部下のランボー……サンクさんだった。

 ランボーの方も、急にカーターに指名されたことを困惑している。


「待て待て待て、なんで俺じゃダメなんだよ!」

「どこの世界に子連れで風俗店に行くアホがいるんだよ。オレが幼気な少女を騙して夜の店へ連れ回してるアウトな絵にしかならんわ!」

「むぅ」


 あっさりと俺が同行する案が否定された。納得できない。


「そういう頬を膨らましてるところが染まってるって言ってるんだよ!」


 確かに今の俺が風俗街を歩くのはそれだけで確実にお巡りさん案件にしかならない。

 

 それはそれとして俺はそんなに少女に染まっているのだろうか?

 ショックを受けて固まっている間に俺抜きで話は進んでいた。


 結局カーターはランボーと一緒に夜の街に聞き込みに向かった。


 夜遊びだけして何の成果も得られませんでしたということだけは避けて欲しい。


   ◆ ◆ ◆


「というわけで確認取ってきたぞ」


 カーターが戻ってきたのは翌日早朝だった。

 一晩飲み歩いていたわりには元気そうだ。

 顔は少し赤いものの、そこまで泥酔した様子もない。


「一晩中飲み歩いてたのかよ! よく1万で足りたな」

「いや、途中から寝てた。さっき起きた」


 開いた口が塞がらないというのは今のような状況のことだろう。

 言いたいことは山ほどあるはずなのに呆れて二の句を継げない。


 一緒に出掛けていたサンクさんが恨めしそうな顔でカーターを見ている。

 迷惑をかけて、本当に申し訳ない。


「では情報だ。赤い服を着た女は3日ほど前に急に現れた。作業員の1人が、女を娼婦と勘違いして声をかけたが、自分は宝石商だと名乗ったらしい。今は北の港から宝石が届くのを待っていると説明したとか」


 随分と具体的な話が出て来たなと驚く。


 もちろん、カーターが超越者Bから謎ルートで入手したソース不明の情報である可能性もある。

 同行していたランボーの顔を見ると「私もその話ならば一緒に聞いた」と話した。


 ランボーが嘘を言うはずもないので、信ぴょう性の高い情報だと思っていいだろう。

 

「北の港というのは、どこからの船が来るんですか?」

「カリブ海側にキューバ島という大きな島があります。カリブ海からの荷はキューバに一度集めてから、パナマにまとめて送ってくるんです」


 これには、パナマ周辺の情報に詳しいであろうリプリィさんが答えた。


「荷物とやらはキューバ経由か……」


 キューバはあくまでも経由地だ。


 実際はどこから荷物が送られてくるのか分からない。

 それこそ北アメリカ大陸からやってきてもおかしくはないだろう。


「ホンジュラスからキューバへの直行便は出ていないんですか?」

「メリダという町があると聞いたことがあります。そこを経由してくるはずです。詳しいことは北側の港で聞けばわかるとは思いますが……」

「ヒキガエル? の遺跡でしたっけ」


 モリ君が覚えていてくれたようだ。


「ああ。それならば赤い女の行動が繋がる。蟇の遺跡からメリダを通してキューバ経由でパナマに届く。いや、メリダがどこなんだか分からないけど」


 町の位置は今はいいだろう。

 北の港で詳しい話を聞けばいい。


「そうそう、3日前には着いているはずの交易船の到着が遅れているって話だったぜ」

「そういうことは、思い出したように後出しするんじゃなくて、最初に全部話してくれ」


 カーターが後だしで情報を出してきたので文句を言った。

 全部の情報が出てこないことには推理できないではないか。


「でも、それで赤い女が3日前に現れた理由が説明できるのか。北の港の荷物を受け取るために……なんで北の港にいなかったんだろう」

「この南の港から、荷物を送り直すためじゃないんですか? 多分、タウンティン本国に」

「それだ。巨人やユッグで失敗したので、次なる攻撃として、「荷物」をタウンティン本国へ移送予定だった」


 モリ君の推理は合っていそうだ。

 これならば動機などの説明がつく。


「あとは宝石とやらが何を指しているかだな。文字通り宝石なのか、何かの暗号なのか?」


 色々と考えられるが、推論の域を出ない。


「それでどうだ? オレの調査能力は」

「さすがに否定はしないよ。助かったよカーター」


 これだけ働いてくれたのならば評価せざるを得ない。

 モリ君やエリちゃんならば頭を撫でに行くところだ。


「赤い女が撤退した以上は当面の脅威は去った。あとはどのタイミングで再開されるかだな」

「赤い女はヒキガエル? 遺跡で待ってるから、すぐに来ないとしても、他に誰か代わりの工作員が来るかもしれないですね」

「それもそうか。後任に引き継がれたら、すぐに計画は再開するかもしれないのか。それこそ眼鏡マンとか」


 モリ君が議論に参加してくれるようになったので本当に助かる。

 俺が気付かないことを補足してくれると、会議も進めやすい。


 あと、リプリィさんはモリ君が鋭い推理を出す度に、さすがですと小さくガッツポーズを取るのをやめてください。


「念のために北の港を見ておくべきだと思います。もしかしたら到着が遅れた交易船から、宝石を赤い女に代わって回収できるかもしれない」

「リプリィさん、北の港までどれくらい時間がかかるか、ご存じでしょうか?」


 リプリィさんに尋ねるとすぐに答えが返ってきた。


「距離にして80キロ。竜車ならば3時間と少しです。ただ、交易用の竜車には乗れないので、運河工事の作業員用の乗り合い竜車を使うことになりますので、乗り継ぎを含めると半日程度の所要時間が必要ではないかと」

「パナマの滞在日数はあと5日。時間的な余裕はあるので、行くだけ行ってみるべきです。異論ありますか?」

「ありません。さんせーい」


 隅で置物になっていたエリちゃんが挙手した。

 もちろん俺も賛成だ。


 パナマでの行動方針は決まった。

 パナマの北の港の調査だ。

 

「それでは、私は念のために南側の通関にも連絡して、レイナ=ロハ宛の荷物が流れてこないか、もし流れてきた場合は通関で止められないか、手続きを進めておきます。北と思わせておいて、本命は南だったという可能性もありますし」

「北側の方にも警告を出しておけないですか?」

「そうですね。南側の通関には無線機があるはずです。詳細は後で直接会って話すとしても。まず、工作員が動いているという情報だけ先に伝えておきましょう」

「助かります」

「いえ、これで面目も保てるというものです。こちらこそありがとうございます」


 一応これで、令状を取って捜査を行ったリプリィさんの面目は保てただろう。


 容疑者を確保できればもっと良かったのだが。 

 

   ◆ ◆ ◆


 トリケラトプスが引くワゴン車は3時間ほどかけて地峡の北側を流れる大河、チャグレス川に作られたダムの前に到着した。


 タウンティンで乗った竜車は、軍用最新型だけあって振動はほぼなかった。

 

 だが、パナマで使用されている竜車は民生用だけあってそんな振動緩和の装備などなかった。


 デコボコが有る度に激しく振動するので、乗車時間は3時間だがそれ以上に疲れた気がする。


 もう振動はないというのにまだ体が揺れている気がするので、身体を伸ばしたり飛び跳ねたりして何とか体調を戻そうとした。


 カーターに至っては、酒を飲んだ状態で乗ったのがまずかったのか道の脇で激しく嘔吐を繰り返していた。


「ほらハロウィンだぞ。水をやるぞ」

「そこの川で汲んだ奴じゃないだろうな?」

「そんな陰湿なことをするかよ。蒸留された水を水筒に入れておいたものだから安心して飲め」

「ありがとうママン」


 飲酒からの嘔吐による脱水で倒れられても困るので、水はしっかりと飲ませておく。

 

 俺達はボロボロなのに対して流石にリプリィさんと部下のランボーとコマンドーの3人は何事もなかったかのように立っている。

 

 さすがプロの軍人だけのことはある。


 改めて周囲の景色を見る。

 

 チャグレス川はかなりの川幅があり、水量もかなり多い。


 川のすぐ横にある原生林の近くから水が湧き出しているようだ。


 上空には奇妙な鳴き声を上げながら翼竜も飛行している。


 そしてたまに聞こえてくる爆発による破砕音と蒸気機関のスチームの上がる音が響いてくる。

 すぐ近くで大規模な土木工事が行われているのだろう。


「ここがパナマ運河?」

「将来的には多分。この川をベースにダムを作ったり、南側にも川を延ばしたり、ダムの水で高さを調整したりすれば完成……のはず?」


 エリちゃんにはそう答えたが、俺もうろ覚えの知識で知っているだけだ。

 実物を見たのは初めてなので一切自信はない。

 今のところの感想は「なんか大きな川」でしかない。


「北方面への竜車乗り継ぎ場所までは少し歩きます。案内しますので付いてきてください」


 リプリィさんから声が掛かったので案内されるままに付いていく。


 未舗装の道を歩いている途中、道の脇には何本もの丸太が転がっていた。

 一部ジャングルの木を伐採、丸太に加工しているようだ。


 このまま建築資材として再利用されるのだろう。


 たまに道の脇に「安全第一」と書かれた石の祠が置かれており、中に地蔵だか女神像だか判別しがたい石仏が祀られている。

 日本文化と現地文化が中途半端に混じっているのが分かって微笑ましい。


 工事現場で奴らが何か仕掛けてくると思ったのだが、この分ならば今のところ何も起きていないようだ。


 いや、これから交易船で届く「何か」によって起きるのかもしれないが。


「北の港は軍港と商用港の二か所があるんですよね」

「軍属ではない皆さんが軍港内に入場するには、手続きが必要です。それは私が進めておきますので、皆さんは商用港の方の確認をお願いします」


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