Chapter 18 「ゾス神の祭祀場」
「オイルトーチの使い方ですが、先端の火の噴き出し先の近くにねじがあります。少しだけ緩めてください」
リプリィさんの説明通りにオイルトーチについたねじを少しだけ回すと、可燃性オイルのなんとも言えない臭いが立ち上ってきた。
「その横に別のダイヤルがあります。重いと思いますが回してください。点火されて火が点きます」
「なるほど、オイルライターと同じ仕組みか」
ダイヤルを勢い良く回転させると火花が散ってトーチの先に火が点いた。
「ねじの開け閉めで火力は変えられます。ユッグとの戦闘ではなるべく開いて火力を上げてください。もちろん、火を強くするとオイルが早く燃え尽きるので気を付けてください」
「ということは、戦闘しない限りは火力最低でいいんだな」
「明かりとしても使うので、中くらいで良いと思いますよ。今回の作戦だと2時間持てば良いので」
「それもそうか」
ねじを調整して火力を整えたところで、改めて隊列を組みなおす。
「では行きましょう。俺が前に出るので付いてきてください」
モリ君がオイルトーチを掲げて遺跡の入り口にある石の門をくぐった。
オイルトーチの淡い炎が遺跡内部をほんのり赤く染める。
続いて中衛の俺たちが中へ入ると、遺跡の壁がなぜか赤緑青黄紫とド派手にゲーミングカラーに光り始めた。
「変な仕掛けがあるな。ゲーミング遺跡かよここは」
「いえ、虹色に光っているのはラビさんです」
「俺!?」
自分を指差した時に、なぜ壁がゲーミングカラーに光っているのか理由が分かった。
「魔女の呪い」を使用すると、しばらくは全身に浮かんだ紋様が虹色に輝く。
その光が思っていたよりも明るかったようだ。
火力調整をして光量を下げたオイルトーチより明るく遺跡内を虹色に照らしているのだ。
「ブフォッ」
突然、背後から下品な笑い声が聞こえた。
「誰だ、今噴き出したやつは?」
確認するまでもなく笑い声の主はカーターだった。
「こっちは別に好きで光ってるわけじゃないんだよ」
「いや、悪い。分かってる……分かってるんだが」
口では悪いと言っているが、顔は何が面白いのかニヤけたままだ。
本当にこいつは失礼なやつだ。
少しはリプリィさんを見習ってほしいものだ。
今も任務が大切と無表情で……はなかった。
頬を限界まで膨らませ、目を見開き、顔を紅潮させたまま下の方を向いてプルプルと震えている。
やはり魔女は孤独な呪われた存在だ。
その存在意義を誰にも理解されず、世界から排除されるのだ。
「ふざけてないで先を進みますよ。気を引き締めてください」
そんな状況でも笑わずにモリ君が仕切り直してくれた。
実際そうなのだ。
ここから先は敵の本拠地なので、気を抜いてはいけない。
「それよりも階段があるみたいなんですけど」
モリ君がトーチを掲げて洞窟内を照らすと、通路の先に上り階段が見えた。
「鳥よ来い!」
5羽の鳥を喚び出して、1羽を階段へと向かわせる。
4羽は真上で照明代わりに旋回させておく。
俺がスキル1の群鳥で作り出した鳥も、青白く光る粒子で構成されている。
鳥の移動ルート上が少し照らされて、階段の先の様子が少しだけ明らかになった。
どうやらここは元は海蝕洞窟で、それを削って加工して作った遺跡のようだ。
壁に沿って幅2メートルほど、人が2人並べばギリギリくらいのわずかな足場が続いている。
すぐ左側は真っ暗な闇……聞こえてくる波の音からして、海のようだ。
外から入り込んだ波が、すさまじい勢いで寄せては返しているようで、流れが相当速い。
足を踏み外せば、明かり一つない海に沈んで、上がれるかどうか怪しいというわけだ。
「一歩でも足を踏み外せば海中にドボンか」
「しかも光のない闇の海にな。足場に戻れるならいいが、一度陸を見失うと、暗い海から抜け出せず延々と彷徨うことになる」
俺が説明すると、カーターとモリ君の喉がゴクリと鳴った。
「全員、足を踏み外さないよう気を付けてくれ」
「気を付けろって、この暗い中で足元と前を同時に照らすのは難しいぞ」
「そうですね……ラビさん、俺と一緒に先頭に立ってもらえませんか?」
モリ君がよくわからない提案をしてきた。
「なんで?」
「色はともかく、ラビさんが立っている場所だけは明るいので、足元が安定します。みんなが歩きやすいように、ラビさんが前に立つのが安全なんです」
「なんか騙されている気がする……」
理屈は分かる。
分かるのだが、納得はできない。
それでも否定はできないので、俺とモリ君のツートップ体制で先頭に立った。
空気の循環があまり行われないからか、濃縮された磯臭さが鼻を突く。
温度は低いはずなのだが、湿度が高くてかなり蒸す。
足元まで虹色に照らされているおかげで、確かに足を踏み外す可能性は減りそうだ。
海面が近いだけあって、足元の岩は海藻だか水垢だかで黒く染まっていた。
試しにつま先で軽く蹴ってみると、かなり滑る。
しっかり足元を確認して歩かないと、ぬめりに足を取られて転倒する危険がある。
「ここで転倒すると大怪我に繋がりかねないので注意して欲しい。滑って転んでも無理に助けに入ると二次被害が発生しかねないから誰も助けないぞ」
おかしい、俺はリーダーのポジションをモリ君に譲ったはずだ。
なのに何故俺がまたリーダーポジションに立って仲間に警告をしているのか?
そもそも魔法使いは後方で常にクールで戦況を確認するポジションだ。
こうやって先頭に立っていること自体、かなりおかしいことのはずだが。
「うわっ、なんだここは? 滑るぞ」
たった今警告を飛ばしたにも関わらず、早くも背後から尻もちをつく音が聞こえた。
振り返るとカーターが見事にぬめりに足を取られて滑って転んでいた。
「お前は何をやりたいんだよ」
「仕方ないだろ。オレはインドア派なんだよ。だから地上に残るって言っただろ」
「ごめん、聞いてない」
一応こんなのでも足手纏いになると困るので、起き上がるのに手は貸してやる。
そもそもなんだ、その滑り止めもなければ水気にも弱そうなオシャレ全振りの革靴は?
「本当に全員気を抜かないようにしてくださいね。足を踏み外したら助けられませんから」
モリ君が振り返って、再度警告を飛ばした。
そして、振り返った直後、トーチの灯り、そして俺の紋様から発せられる虹色の光に照らされて、無数のフナムシのような生き物が進路上の階段からカサカサと音を立てて引いていくのが見えた。
「ヒエっ」
フナムシの群を見たモリ君が情けない悲鳴を上げて俺の腕に掴まった。
モリ君は相変わらずパーソナルスペースの概念が壊れているから困る。
俺だから良いものの、女子にいきなり抱き着くとか普通はセクハラになるんだぞ。
顔も行動も、まあイケメンの頼れる男が、虫が怖いというギャップを見せるとコロッと騙されるチョロインが現れても仕方ないというのは分からなくもない。
そうやって騙されたのが後ろを歩いている女子2人だ。
「モリ君は虫がダメな奴? 蛆虫は克服したはずじゃ」
「不意に来るとダメです。ラビさんはよく平気ですね」
「エビとかカニは怖くないだろ。虫も冷静に見たらカニと同じだからそこまで気にするものではないよ。後ろの女子にカッコ悪いところを見せるなよ、頑張れ少年」
頭をポンポンと叩いてやると、安心したのかモリ君は俺の手から離れていった。
「こらそこ、イチャイチャしない!」
「いつ敵が出てくるかもしれないのですから、もう少し真面目にやってください」
後ろの女性陣から俺に対して苦情が飛んできた。
女3人寄れば、かしましいとはこういうことか。
俺は保護者なので子のモリ君とは無縁だというのに。
普通の女子扱いされても困るぞ。
「仕切り直しだ。真面目に行くぞ。モリ君も虫を怖がってないでシャキッとしなさい」
危険な足場を乗り越えて20分ほど進むと、ようやく広い場所に出た。
オイルトーチの灯りだけでは端の方まで見ることができない。
学生時代に日本のあちこちを旅行したが、日本海側の集落では、ここと似たような場所を「聖地」として扱っているのをいくつか見た記憶がある。
それらの「聖地」には祠などが建てられ、やはり神聖な地として祀られたりしていることが多々あった。
この海蝕洞窟も同じように、遺跡を作った古代人は神聖な場所……神殿か祭祀場として使用していたのではないだろうか?
何かの儀式を行っていた場所だという説明とも一致する。
陽の光も入って来ておらず、ただ暗闇だけが広がっていた。
相変わらず端の方は激しい波が流れているし、滑るのは同じだが、広い分だけ安心感がある。
――そして
「早速出てきたな」
暗い海中から垂直の崖をナメクジのように体をうねらせてユッグが這い上がってきているのが目視で確認できた。
これも俺たちをこの先に行かせまいという何者かの意思なのだろう。
「ラビさん、先制で可能な限り倒してください。残ったのは俺たちが仕留めます」
「分かった。なるべく多くを巻き込むように当てる」
熱に弱いユッグに対しては特効な極光を放つ。
暗い洞窟内を虹色の光が明るく照らす。
その明かりで見えた個体を仕留めていく……1、2、3……
床を歩いている個体だけではなく、天井にも張り付いているのが見えた。
「天井から仕掛けてくるやつもいるぞ! 全員奇襲に警戒!」
警告を飛ばしつつ、可能な限り多くを薙ぎ払った。
一瞬で表面の粘液が泡立ち、中の白い蛆虫が爆発する。
残るのはケミカル臭だけだ。
もちろん、極光の射程と持続時間には制限が多いため、全てのユッグを倒すことはできない。
「エリス、ラビさんと位置を交代だ。一緒にこっちであいつらを焼くのに専念してくれ」
「わかった。ラビちゃんは照明係をお願い」
「任された。極光が再使用できるようになったら、またポジション交代だ」
全員がオイルトーチを攻撃に使うと照明がなくなってしまい、視認性が落ちるとまともに戦えなくなる。
必然的に、腕力がなくて重いオイルトーチを長時間振り回せない俺が照明係になる。
「浮遊」
オイルトーチを少し高い場所に「箒」として浮遊させた。これならば手が塞がることもない。
ついでに、ないよりはましなので、鳥たちを頭の上で旋回させて、明かり代わりにする。
「後ろからも来ました。注意してください」
リプリィさんがオイルトーチを向けてユッグを追い払おうとしている。
ユッグはいくら火に弱いとはいえ、オイルトーチくらいの炎だと一瞬で爆発するわけではない。
倒すには20秒から30秒は火をかざさないと燃えてくれず、また当然の話だが、ユッグも抵抗して動き回るので、長時間当て続けるというのは難しい。
「カーター、お前はこっちでリプリィさんの支援だ。後ろから攻撃されて挟み撃ちの形になればまずい」
俺は棒立ちで特に何もしていないカーターに指示を飛ばす。
今までの行動を思い返すが、カーターは今のところ特に何もしていない。
手を抜いているのか、それともやはり敵で三味線を弾いているのか。
「オレはこんな害虫駆除みたいなのじゃなくて、もっと英雄っぽい戦いがやりたくて来たんだけどな」
「英雄になる道も、最初は地道にコツコツとだぞ」
「わかったよ」
俺が催促すると、ようやくカーターはスーツの中から銀色に光る何かを取り出した。
それは一体何に使うのか分からない、銀色の巨大な鍵だった。
金庫でも開けようというのか?
「俺のスキルは召喚系の能力。モンスターを呼び出したり、罠を仕掛けてそこから様々な攻撃を放ったりできる」
「能書きは良いから、早くなんとかしろ」
「はいはい。火に弱いってのならばこれだな。出ろ、火精!」
カーターが銀色に光る何かを振りかざすと同時にユッグの近くの空中に窓くらいの大きさの両開きの扉が出現した。
その扉が自動的に開いたかと思うと、そこから真っ赤な炎が噴き出しユッグの全身を覆い尽くした。
炎に包まれたユッグは表面の粘液のあちこちから泡を噴き出し、そしてそのまま崖から離れて下へと落ちていった。
「やればできるじゃないか」
「当然だ。もっとオレを褒めてもいいんだぞ」
「まだまだユッグは出てくるから、この調子でどんどん頼むぞ」
「いや、このスキルは連続使用はできないからあと1分ほど待ってくれ」
「そうか、連射できないのか」
連射不可なのは、俺の極光と変わらない。
これは魔法使い系の宿命のようなものなので仕方ない。
「スキルが連発できないのはみんな同じだ。仕方ない。それまではオイルトーチの火で迎撃を頼む。スキルが再使用出来るタイミングになったら、また攻撃」
「全く、人使いが荒いな」
ぶつくさ言いながらもカーターはリプリィさんと一緒に迫ってくるユッグにオイルトーチの炎を向けている。
前衛の方はどうかというと、やはり協力関係が確立できている2人は強い。
モリ君とエリちゃんの2人がスキルによる通常攻撃とオイルトーチを組み合わせ、特に言葉を交わすこともなく、それでもお互いに助け合って巧みにユッグを撃退している。
リプリィさんには悪いが、2人の間に入り込む余地はないよな。
こうしてユッグとの地味な格闘が30分ほど続いた。
なんとか誰も怪我を負うことなく、ユッグの群れを撃退することに成功した。
ただ、全員かなり疲れが出てきているようだ。
ここらで一度休憩と言いたいところだが、休憩中にユッグがまた復活してきても厄介だ。
「そろそろ50分ですが、ラビさんどうします? 片道にかけられる時間の目安は1時間ちょっとですよね」
「だから今のリーダーは君だ」
「分かりました」
モリ君は全員を見回した後に、通路の先へオイルトーチの明かりを向けた。
「みんな疲れているかもしれないが、ここは少しでも先に進みたい。歩くのに50分じゃなく、そのうち30分は戦闘だ。帰りはその時間を短縮できるはずなので、もう少し進むのに時間を使いたい」
「具体的には?」
リプリィさんが軍人の顔でモリ君の顔を見た。
数字の根拠を出せということだろう。
「1時間20分……あと30分だけ進みます。往路は50分になりますが、戦闘と休憩を省けば40分で戻れる想定です。途中、また別の戦闘が30分かかるとしても想定内の時間で収まります」
「妥当な数字だと思います。承知しました」
カーター以外に異論は出なかった。
一人だけ返事をしなかったカーターは隅の方でへたり込んで虚ろな目をしていた。
明らかに疲労が目に見える。
「ほら、肩を貸してやるから一緒に行くぞ。こんなところで座り込んでいるとまたユッグが来るぞ」
「すまん」
カーターの手を取って俺の肩に回して立ち上がらせる。
だが、何故小柄で体力のない俺が、大柄な大人の男に肩を貸しているのか?
立場は完全に逆ではないのだろうか?
「綺麗なお姉さんが良かった」
あまつさえ酷いことを言い始めた。
「それで、お前は誰かから命令されて動いてるのか? それともそのヘロヘロなのも演技か?」
「だからオレはインドア派だって何度も言ってるだろ。もう足だってガックガクだっての」
カーターはぶつくさ言いながらも歩き始める。
「チート能力持ちの女性が多いパーティーだって話を聞いてたんだよ。そうしたら子供と貧相なネカマしかいないとか何のギャグなんだよ」
デリカシー皆無のカーターを崖から突き落とそうとしたところにモリ君からストップが入った。
「なんで2人ともそんなに険悪なんですか! ラビさんは誰にでも人当たりは良い方ですよね。ちゃんと仲良く出来ますね」
「色々あるんだよ」
「ツンデレってやつ?」
「デレ要素がどこにあるんだよ? こういうのは辛辣って言うんだよ」
カーターは早く正体と、知っていることを全て話した後に敵として倒されて、リプリィさんに収監されて欲しいと心から願った。
海蝕洞窟をさらに10分ほど歩くと、また雰囲気が変わった。
天井や床からは槍衾のように尖った鍾乳石が無数に生えており、周囲の岩の質も変わっている。
海蝕洞窟から鍾乳洞か何かに繋がったのだろうか?
今まで定期的なリズムで聞こえていた波の音はほぼ聞こえなくなった。
ユッグも出現しない。
その代わりなのか、定期的に鍾乳洞の奥の方から生暖かい風が獣の咆哮のような音と共に吹き付けてきている。
風の合間に天井の鍾乳石からポタンポタンと水が垂れて地面から生えた鍾乳石の先端で弾ける音がたまに鳴っているのが聞こえる。
「さっきと雰囲気が違いすぎない? こっちの道で合ってる?」
「いや、当たりだよ、この道は」
カーターがオイルトーチを翳しながらスタスタと鍾乳洞の壁面に向かって迷いなく歩いていく。
俺たちはそれに続く。
壁面の一部が平らに削られて、そこに壁画のようなものが描かれていた。
壁画は、元々稚拙なのか、それとも長い年月で崩れたり摩耗して元のデザインがまともに残っていないのかははっきりしないが、長方形をいくつもパズルのように組み合わせて絵にしたような、あちこちが直角でカクカクした独特のタッチで描かれている。
絵は4枚。
最初の絵は山のような塊が3つ描かれており、そこから嘴が付いたチンアナゴのような謎の物体が何本も飛び出している。
2枚目は単眼の人間のようなものが、小さいキノコと一緒に、さらに小さな人間を追い回している絵だ。
3枚目は空から降り注いだ光によって山のような塊が追いやられ、巨人やキノコが燃やされている光景が描かれていた。
4枚目は……絵と言って良いのだろうか?
五芒星の中央に目のようなものが付いた一筆書きの図形だ。
指で1、2、3となぞる。
何かの魔術的な意味があるのだろうか?
「ゾス神の壁画だな」
「ゾス神?」
オウム返しに問い返す。
「この黒い塊の一番奥がガタノソア、真ん中がイソグサ、手前がゾス=オムモグ。ゾスの三神と呼ばれる邪神の絵だ」
イソグサは分かるし、ガタノソアの名前にも聞き覚えがある。
昔の特撮番組の最終話前に出現した最強の怪獣だ。古代遺跡から蘇り、人類を石化させて世界を崩壊に導く。
その圧倒的な力にヒーローすら負けて石化させられてしまう。
だが、ヒーローに対して世界中からの応援が届いて奇跡の復活からのグリッターティガへの変身。
V6の主題歌が流れて逆転という美しい最終回だった。
「この黒い塊は巨大すぎる本体の一部が見えているだけなんだと思う。飛び出してる嘴がついたチンアナゴは……直接戦ったあんたなら分かるだろう」
「あの頭から生えた触腕か」
いや、それはおかしい。
それならば、この手前にある単眼の人間のようなものとキノコは何だ?
この単眼の人間のようなものがイソグサではなかったのか?
そこまで考えた時点で気付いた。
「小さな単眼の人間に見えるのはあの60メートルの巨人だな。そして周りにいるキノコはユッグ」
「そうだ。で、こちらの山のように見えるのがイソグサ本体の一部」
だとすると想像を絶する巨大さだ。
山のような……ではなく山そのものが敵のようなものだ。
「こんなものをどうやって倒せと?」
「邪神は人間に倒せる存在じゃない。だから、復活を阻止する。そのためにここへ来た」
知事はあの巨人も端末に過ぎないという予想はしていたが、こうはっきりと絵で説明されると辛いものがある。
あれだけ苦労して倒した巨人が、本体と比較するとこれだけ矮小な存在になるのか。
「カーターさん、何故あなたがそんなことを知っているんです?」
さすがにモリ君も当然のように壁画を解説するカーターに不信感を抱いたようだ。
「こいつにも言ったが、オレは敵じゃない。時期が来たら話すよ」
「ということだ。今は敵じゃないらしいので、しばらくは情報源として活用させてもらう」
「……なんか色々事情がありそうですけど後でちゃんと説明してくださいね」
俺たちは謎の不審人物、そして巨人やユッグを召喚する魔術的儀式が行われているであろう場所を目指して鍾乳洞を進む。




