Chapter 16 「入り江」
南米のこと。
急に現れた謎の人物、カーターのこと。
問題が山積みすぎて、何から整理すれば良いのか分からなくなってきたが、ここは一度気持ちを切り替えよう。
まず最初に片付けなくてはならないのは、溢れ出したユッグの対策だ。
俺たちは竜車に揺られて12時間。
海岸の漁村の北にあるトゥンガという町にたどり着いた。
漁業と農業が中心の、のどかな町だ。
俺たちが今までいた軍事施設はソーラーパネルなどを駆使して確保した電力を使った人工の明かりで照らされていた。
だが、この町には近代文明は微塵もないようだった。
太陽が昇ったら起きる。
日が暮れたら寝る。
そんな昔からの生活がそのまま続いているようだ。
なので、日が暮れかけている時間のせいか、通りに人はまばらにしか歩いていない。
露店が開いていたと思われる場所も、ほぼ荷物が片付けられている。
あちこちから漂ってくる料理の匂いは、食堂ではなくて、それぞれの家庭の夕食だろう。
長時間同じ体勢で座っていたので、背中が痛い。
腕を伸ばして背伸びをした後に、軽く柔軟体操をする。
「ついでにラジオ体操でもやるか」
「なんだよ、オッサンくさいな」
「オッサンじゃない。23歳ですけど」
「23……えっ? 23!?」
しまった。
さりげなく話しかけてきたカーターについ年齢を教えてしまった。
なるべく情報を隠すつもりだったのに、その作戦はいきなり破綻しようとしていた。
「ラビさんは中の人がオッサンですもんね」
「だからオッサンじゃなくて23歳の社会人2年目」
「中の人がオッサン?」
モリ君との会話でまたもカーターに余計な情報が漏れる。
もうダメだこれ。
「待ってくれ。オレが聞いていた話と全然違うんだが」
「誰に聞いたんだよ」
「それはもう……州知事だよ」
州知事の名前を出すまで少しだけ時間がかかった。
もしかすると、州知事がカーターを騙すためにフェイクの情報を伝えた可能性もなくはないが、それよりも情報ソースは別の人間、州知事の名前は隠れ蓑として使ったと考える方が自然だ。
「皆さん、もう日が暮れます。急ぎの調査ですが、暗くなってからの調査は困難ですので、本日は宿に入ります」
リプリィさんが話しかけてきたので話はそこで中断になった。
「じゃあそういうことだから」とカーターが離れていく。
今のところはそれでいいだろう。
そのうちにボロを出す。
ボロを出しているのは俺たちの気もするが、気にしたら負けだ。
「おっ、アルパカだ」
人だけではなく、アルパカの群れまでが道を歩いている。
牧場主を先頭にして、羊の群れのように列を作って規律正しく歩いている光景が面白い。
日が暮れるので、どこかの放牧地から牧場へ帰るのだろう。
「アルパカの毛を使った紡績業はこの国の主要産業ですからね。牧場はあちこちにありますよ」
「やっぱり牧場にも被害が出ていたりするんですか?」
「それなりには報告が上がってきています」
人間はもちろん大事なのだが、動物も大事だ。
「カピバラさんかわいそう」
「エリちゃん、あれはアルパカだよ。カピバラは大きなネズミ」
「なんか混じるんだよね、アルパカとカピバラって」
エリちゃんの気持ちは分かる。
頭の中では別物だと分かっていても、たまに名前がゴチャゴチャになる。
ここに、アルパカとよく似た外観のリャマが登場するともうなんだかわからなくなる。
整理しておこう。
アルパカは首が長い羊と山羊の合いの子のような生き物で、カピバラはなんかぬぼーっと間抜け面の巨大ネズミだ。
モコモコしているのがアルパカで、大きいのがリャマだ。
カピバラも南米原産だったはずなので、近くに生息地域があるのかもしれないが。
少なくとも、この町についてはかなり平和に見える。
首都近郊は街道の閉鎖だの、討伐作戦だの、負傷者の搬送だの、暗くなったらなるべく出歩いてはいけないだの。
規制につぐ規制で大混乱が続いているので、そのギャップからこれほど何もなくて良いのかと不安になってくる。
この日は軍が確保していた宿に泊まり、翌日早朝から行動を開始することになった。
◆ ◆ ◆
翌日の調査は、まだ暗い早朝から始まった。
「ユッグは火に弱いということで、こちらを用意した」
リプリィさんの指示で長髪の兵士、ランボー……サンクさんが聖火ランナーが持っているような金属製の松明のようなものを木箱から取り出した。
俺たちに一人一本配っていく。
「これはオイルトーチだ。下の棒の部分がタンクになっている。中には可燃性のオイルを入れて火を点けたら8時間以上は燃え続ける」
「長時間使えるのはありがたいですね」
まだオイルが入っていないというのに、俺の手にはずっしりとしてかなり重い。
オイルを入れるとさらに重くなるはずだ。
ただ、重くともユッグに対しては有効な武器になるのだから、手放さず持っている方が良いだろう。
「あまり丈夫ではないので、これで何かを叩いたり、壁にぶつけたりはしないでくれ。破損すると中のオイルが漏れ出して危険だ」
「高価な機材ですのであまり壊さないようにしていただけると助かります」
リプリィさんの補足を聞いたので落とさないように改めて握り直した。
オイルトーチは高性能なのかもしれないが、最悪の場合、鈍器として使える松明の方が良い気がしないでもない。
「それで、捜索範囲ですが、この町から最初の巨人が目撃された場所まで約20キロあります。遺跡はその中のどこかにあるはずです」
「オイオイ、随分と範囲が広いな。もう少し正確な位置は分からないのか?」
カーターがリプリィさんに突っ込んだ。
実際その通りだと思う。
20キロはそれなりの距離がある。
まっすぐ歩けば良いということではなく、何かを探しながらとなると、これも丸々一日は余裕でかかるだろう。
「遺跡の場所が詳しく書かれた地図はないのか?」
「人が住んでいない地域は詳細な地図を作っていないんです。ですので、遺跡は町と村の間のどこかにあることしか分かりません」
「その町と村の海岸線の距離が20キロと」
「そういうことです」
それは仕方ない。
この世界に伊能忠敬はいない。
人がそれほど住んでない地域まで正確な地図を作る必要がなかったのだろう。
生活に直結しない遺跡の場所などなおさらだ。
「遺跡の調査をしている学者はいないんですか? 今回のようなことがあるのならば、国内の遺跡の調査はしておくべきだと思いますが」
「叔父が遺跡の調査をしていますが、長期の海外調査に出ていて、この国にはいないですね」
「なんで海外に?」
「祖母の指示です。私には知らされていませんが……」
リプリィさんが少し寂しそうな顔をした。
祖母は州知事、父はパナマに駐留、叔父は学者で海外に行ったまま。
もしかすると、幼少期から仕事で忙しい家族に放置されて育ったのかもしれない。
「親ってのはそういうものだよ。子供のことなんて全然考えてない」
エリちゃんはそう言うとリプリィさんの手を取った。
何か通じるものを感じたらしい。
「うちの親もそうだった。リプリィさんが軍人をやってるのも、親に言われたからとかそんなだったりする?」
「いえ……私は自分でこの道を選びました。両親と比べられないように、強く生きないと」
「そうだよね。自分だけでも頑張れるように、強くならなきゃ」
「そう……ですね」
「でも、20キロをこの人数でローラー作戦で調査をやるのは無茶だぜ。例の……斥候だっけか? そいつにその不審者を尾行させるとか出来ないのか?」
エリちゃんとリプリィさんが打ち解けそうな良い雰囲気の中、空気を読めないカーターが割り込んできて話題を無理矢理元に戻した。
なんなんだよこいつは。
「不審者の存在を確認できたのが一昨日ですのでさすがに。現在も調査は継続中ですが、その調査報告を待っていられないので、並行で動く必要があります」
リプリィさんもそれに軍人としての役割で答えた。
顔も軍人のものに戻っている。
「お前、ちょっとは空気を読めよ」
「空気を読むよりも、今は調査を進めようぜ。急ぎなんだろ」
カーターが正論で返してきた。
正論なだけに、俺も反論のしようがない。
仕方ないので、俺も仕事モードで応対することにする。
「不審者はボートで買い出しにやってきたということなので、多分海岸線沿いで船を着けやすい場所にあるんだろう。そうなると範囲はある程度絞れる」
調査をするならば、足で稼ぐよりも効率が良い方法がある。
俺は群鳥を呼び出した。
余計な負荷は少しでも減らしたいので、4羽を即解放する。
残った1羽を手の上に止まらせた。
「とりあえず空から怪しい建造物などがないかどうかを調べてみる」
「その鳥はそんなことが出来るのか?」
「ラビさんの鳥は使い魔として、鳥が視た映像を中継できるらしいです。ちょっとしたドローンですよ」
モリ君が俺に代わって説明をしてくれた。
……してくれたのは良いのだが、こうやってカーターに情報が筒抜けになるのは少し気にはなる。
もしこいつがスパイだった場合、それぞれの能力は隠しておいた方が切り札になるからだ。
「スキルの持続時間もそれほどないし、何より俺の体力が持たないから半径500メートルってところだけどな」
実際には2キロほどの距離を偵察に飛ばすことはできるが、カーターに情報をあまり出したくないので、過少申告をしておく。
スキルを使うと俺の疲労もそれなりにはあるので、常に限界値を求められると、さすがに体力が持たないという理由もある。
まずは町の近くの海岸から鳥を飛ばしてみる。
首都近郊には木が多く生えていたが、この漁村の周辺は雨量が少ないのか背の高い木や草が少なく、半分は砂漠のようになっている。
これならば遮蔽物が少ないので、何かあれば意外とすぐに見つかるかもしれない。
太平洋の潮風を受けながら、延々と海食崖や岩礁が続く光景の横を通り抜けていく。
あまりの壮大で美しい眺望に思わず本来の目的を忘れてゆっくりと観光したくもなるが、スキルの持続時間もあるので、そうはのんびりしていられない。
一通り飛行させてみて、人工物はないこと、人が潜んでいそうな洞窟や鍾乳洞などがないことを確認して、一度能力を解除する。
頭痛などは今のところない。
最初の頃に比べると、能力を使用した時の負荷が格段に軽減している。
慣れなのか、それとも魔女が間に入ってサポートしてくれているからなのか。
《練習してるからだよ》
魔女の声が聞こえた。
突然に俺がスキルを使っていないのに勝手に鳥が出現していることがあるのはそういうことか。
俺が眠っていて意識がないうちに、魔女が勝手に体を乗っ取って色々と何かをやっていたらしい。
何か余計なことはやっていないだろうな?
《別に》
少しだけ怪しいが、今は追及しない。
油断も隙もないとはこういうことだ。
「周辺にはそれらしい形跡はないですね。もっと南下しましょう」
「助かります」
「もっと地味なローラー作戦を予想していたんだが、こりゃ楽だね」
「使い魔のコントロールで大変な俺は楽じゃないけどな」
そうやって少し南下しては偵察という行為を繰り返す。
町から10キロほど離れた場所で、ようやくそれらしい建造物を発見することに成功した。
日は一番高く上った時刻から少し経っている。
時間が分からないが、おそらく昼過ぎだろう。
「時間が分かればな」
「13時40分だな。日没まではあと3時間ちょっとってところか」
カーターがスーツの左袖をまくって、腕時計で時刻を確認しながら答えた。
大きな銀色のボディに銀色の金属ベルト。
有名ブランドの腕時計だ。
「待て待て待て、なんで腕時計なんて持ってるんだ?」
「いいだろう。ヴィンテージのロレックスだ」
「えっ、だって異世界召喚……」
この場でこれ以上突っ込むのは止めた。
カーターが身分を隠しているのか、全く隠す気がないのか、釣りなのか、もうさっぱりわからない。
ここからカーターが突然スマホを取り出して通話を始めても、これ以上突っ込んだら負けの気がしてきた。
三方は切り立った崖が取り囲んだ入り江になっている。
船がなければ容易に立ち入ることができない場所だ。
まるでプライベートビーチのような砂浜を抜けた先。
一番奥の崖に面したところに、どうやって資材を運んで建てたのか分からないが、一軒の西洋風の洋館が建っていた。
館は木造で、一部の壁などに強度を確保するためか、それとも装飾のためかレンガを使用しているようだ。
二階建てで表面には小洒落たバルコニーや出窓などが作られている。
いかにも中世らしく、窓にはめられたガラスはかなり小さい。
中世ヨーロッパの世界、もしくは現代の観光地にホテルとしてこの洋館が建っているならば違和感はないだろう。
だが、ここは中世の南米で、しかも太平洋の荒波と潮風が常に当たる場所だ。
時代も地域も雰囲気に全く合致していない。
それに、入り江になって直接波や風が当たることはないとはいえ、海が近い場所である。
木材やレンガがもっと潮風で劣化したり汚れたりしていてもおかしくないはずなのに、建物はまるで建ったばかりのように見える。汚れがほとんどないのは不自然だ。
館の上空を軽く旋回させると、館のすぐ裏は切り立った崖になっており、崖と館の間のスペースに石造りの柱のようなものが立っているのが目視できた。
館から再度海岸に向かって飛行させると、入り江入り口の小さい桟橋にボートが一艘だけ係留されていた。
おそらく不審人物の潜伏先はここで間違いないだろう。
屋敷の裏にあった石柱も気になる。
古代遺跡の一部なのかもしれない。
俺はスキルを解除して、鳥で確認した洋館についての情報を他の6人に伝える。
「事前の情報とかなり一致する点が多いので、入り江の洋館が不審者の潜伏先と見て間違いはないかと思います。ただ、船でしか行けなさそうな場所ですので、どうやって踏み込むかですが」
「町まで戻って船を調達していると時間がかかりすぎますね。崖の高さはどれくらいでした?」
「そうですね……40メートルくらいでしょうか?」
館の高さを15メートルと仮定する。
脳内でそれを縦に積み上げると、だいたい3倍くらいだったので、40から50メートルの間だろう。
目算なので外れている可能性はあるが、そこまでかけ離れた数字ではないはずだ。
「ロープで降りられない高さではないですが、帰りが困りますね」
「不審人物が使っているボートを押収して、誰か一人がそれで一度町まで戻れば良いんじゃないのか? 全員が乗れる船くらい借りられるだろう」
カーターの提案にリプリィさんが「それで行きましょう」と乗った。
俺としてはロープで降りるなんてとんでもないので却下したかったのだが、あまり時間をかけると不審者がどこかに行ってしまう可能性もある。
あまり強くは反対できなかった。
館がある入り江近くの崖にやってきた。
海沿いだとかなり強い海風が吹いてきている。
ロープで降りるのは危険かもしれないと様子を見に来たのだが、館が建っている入り江部分は比較的風の影響も少なく、安定している。
ロープを実際に垂らしてみると35メートルだった。
予想とそれほど外れた値ではなかったようだ。
「私は降下訓練も行っておりますので、不安はありませんが、皆さんはどうでしょう?」
「初めてですけど、せっかくなので挑戦したいと思います」
「同じく」
モリ君とエリちゃんの体育会系夫婦はまあ良い。
エリちゃんに至っては、そのまま崖から直接飛び降りても平気そうではある。
「俺はロープで降りるのはちょっと自信がないけど、一つだけ試してみたいことがある」
リプリィさんから借りたオイルトーチを右手で持ち、真横に構える。
「浮遊」
オイルトーチが「箒」として認識されたのか、ふわりと浮き上がった。
さすがにこれを握って全体重を維持するような握力などない。
巨人戦のように空中を自由に駆け回るというようなことは不可能だろうが、オイルトーチにロープを引っかけてぶら下がれば、昇降くらいは出来るだろう。
一人用の簡易エレベーターだ。
オイルトーチは脆いという話だが、俺の能力のサポートがあれば耐えられるだろう。
何しろ、普通に体重をかけたら折れる木の箒ですら平気だったのだから。
しかし、この「箒」のガバガバ認識は何なのだろう。
ある程度長い棒で先が膨らんでいればなんでも良いというのか。
「ズルいぞ!」
カーターがふわりと浮かぶ俺の箒……もとい、オイルトーチを指さして何やら喚いている。
「お前は頑張ってロープで降りろよ」
「いや、こんなの初めてで挑む高さじゃないだろ。せめて10メートルくらいから練習させてくれ」
「何か役立ちそうなスキルはないのか?」
「オレのスキルは割とストレートだしコスト後払いだから、応用が利くようで全然応用が利かないんだよ!」
愚図っているカーターに気付いたのかリプリィさんが近寄ってきた。
「それでは、サンクとサティンクにサポートさせましょう」
「う、うん……まあよろしくお願いしますよ」
最初にランボーことサンクさんがまず崖にハンマーを使って杭を打ち込んだ。
そこにロープを固定するとロープの強度と安全を確かめるようにしながら崖伝いに降りて行った。
サティンクさんではなくランボーが来たのは、ランボーの方がこういったレンジャー的な作戦が得意なのだろう。
慣れているのか、カラビナと補助ハーネスだけでロープをスルスルと降りていく。
ランボーは一番下まで降りると、ロープが垂れている場所にあった大きな石や草などを横に除け始めた。
降下地点の安全を確保しているのだろう。
しばらく様子を見ていると、一通りの作業が終わったのか、崖の下で手を振った。
それを見たリプリィさんもランボーと同じように何の躊躇いもなくスルスルと降りて行った。
さすがはプロの軍人さん。手慣れたものである。
モリ君とエリちゃんも、上に残ったコマンドーことサティンクさんにロープの結び方と降下方法についてのレクチャーを受ける。
足を使えだの、体重を腕だけで支えない道具やハーネスの使い方、足でのバランス調整、手繰り寄せ方などの説明を真摯に聞いている。
まずエリちゃんが降下を始めた。
滞りなくロープを引いて制動をかけながらスムーズに降りていく。
とても初めてとは思えない無駄のない動きだし、何かのアトラクションだと思っているようで楽しそうだ。
続いてモリ君。
運動能力はエリちゃんほどではないものの、ランクアップによる筋力の強化があったからだろう。
片手だけでもうまく制動している。
そりゃ余裕なわけだ。
最後にコマンドーに抱えられるようにして、カーターがヒィヒィと情けない悲鳴を上げながら降りていく。
その真横を俺はオイルトーチにぶら下がりながらゆっくりと降下する。
「なんでそんなことができるんだよ!」
「魔女ですけど」
「ちょっとオレだけが不遇すぎない?」
そんなことは知らない。
なにはともあれ、全員が崖の下の砂浜に降り立った。
モリ君とエリちゃんは初めてのロープ降下が楽しかったようではしゃいでいる。
対してカーターはというと
「異世界転生マンガでこんな地味な作業をやってるところなんて見たことないぞ」
と何やらぶつくさ言っている。
何なの俺より年上のはずのこのオッサンは。
洋館を改めて見る。
今のところ物音もしなければ、人の気配も全く感じない。
今では一番五感が優れているであろうエリちゃんにも確認したが、やはり人の気配は感じないとのことだ。
「でも、中からペタペタと音を鳴らして動き回っているような音は微かに聞こえるよ。もしかしたらあの蛆虫がいるのかも」
外から窓を見るが、中には何もいないように見える。
だが、エリちゃんの予想が正しければ、洋館の中に蛆虫が潜んでいる可能性は高い。
もし迂闊に館に踏み入れば、奇襲を受けることになる。
もちろん、実際に目で確認したわけではないので、音を発しているものは別の存在である可能性もある。
「まだここが無関係の家屋である可能性はゼロではありませんので、まず私とサンク、サティンクの3人で任意の事情聴取という形で呼びかけます」
「大丈夫ですか、3人だけで?」
「私たちは訓練を積んだ軍人です。屋敷の中からユッグが出てきた場合でも、少数ならば私たちで対処します。ですが、あまりにも数が多い場合……」
「俺たちが援護に入れば良いんですね?」
「はい、頼みます」
リプリィさんが前に出る。
その後ろで、ランボーとコマンドーが拳銃に弾丸を込めて、いつでも撃てる体勢で付いていく。
俺たちは少し距離を取り、何かあった場合にはすぐに対処できるよう位置取りを決める。
「ラビさんは遠距離から仕掛けられる準備をお願いします。俺とエリスは洋館からは見えない位置で待機します」
「分かった。じゃあカーターは俺の隣で待機でいいな」
「……分かった、それでいい」
少し間を開けてからカーターは答えた。
全員の配置を確認したモリ君が、静かに宣言した。
「では、作戦開始です」




