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収穫祭の魔女  作者: れいてんし
Episode 2. Ythogtha - The Old One
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Chapter 16 「入り江」

 南米のこと。

 急に現れた謎の人物、カーターのこと。


 問題が山積みすぎて、何から整理すれば良いのか分からなくなってきたが、ここは一度気持ちを切り替えよう。


 まず最初に片付けなくてはならないのは、街に溢れ出したユッグの対策だ。


 俺達は竜車に揺られて12時間。

 ようやく海岸の漁村の北にあるトゥンガという街にたどり着いた。


 話に聞いていた通り、この街にはユッグは現れておらず、平和そのものだ。

 街は商店などが立ち並んでいて活気に溢れており、多くの人が武装もせず平然と歩いている。


 首都近郊は街道の閉鎖だの、討伐作戦だの、負傷者の搬送だの、暗くなったらなるべく出歩いてはいけないだの。

 規制による規制で大混乱が続いているので、そのギャップからこれほど何もなくて良いのかと不安になってくる。


「おっ、アルパカだ」


 人だけではなく、アルパカの群れまで人に連れられて街道を普通に歩いている。

 

「アルパカから取れる毛糸による紡績業はこの国の主要産業ですからね。綿羊牧場はあちこちにありますよ」

「やっぱり牧場にも被害も出ていたりするんですか?」

「それなりには報告が上がってきています」


 人間はもちろん大事なのだが、動物も大事だ。

 アルパカみたいな日々も守らないといけない。


「カピバラさん可哀そう」

「エリちゃん、あれはアルパカ。カピバラは大きなネズミ」

「なんか混じるんだよね、アルパカとカピバラって」


 エリちゃんの気持ちは分かる。

 頭の中では別物だと分かっていても、たまに名前がゴチャゴチャになる。ここにリャマが登場するともうなんだかわからない。


 アルパカは首が長い羊と山羊の合いの子のような生き物で、カピバラはなんかぬぼーっと間抜け面の巨大ネズミだ。


 カピバラも南米原産だったはずなので、近くに棲息地域があるのかもしれないが。


 朝に出たというのに、街に着いた時にはもう日暮れ前だったので、まずはこの街で一晩宿を取り、翌朝から行動を開始することになった。


   ◆ ◆ ◆


「ユッグは火に弱いということで、こちらを用意しました」


 リプリィさんの指示でランボーが箱から聖火ランナーが持っているような金属製の松明のようなものを取り出した。

 俺達にそれを一人一本配っていく。


「オイルトーチです。下のタンクに可燃性のオイルが入っていますので、一度火を付けたら8時間以上は燃え続けます。ただし、あまり丈夫ではないので、これで何かを叩いたり、壁にぶつけたりはしないでください。破損すると中のオイルが漏れだして危険です」


 オイルが入っていることもあり、(ラヴィ)の手にはずっしりとしてかなり重い。

 ただ重くとも護衛用の武器になるのだから、手放さず持っている方が良いだろう。


「それで、捜索範囲ですが、この街から最初の巨人が目撃された場所まで約20kmあります。この間のどこかに不審者の拠点があると見込まれます」

「オイオイ、随分と範囲が広いな。その範囲をこの人数でローラー作戦やるのは無茶だぜ」


 カーターがリプリィさんに突っ込んだ。


「例の……斥候だっけか? そいつにその不審者を尾行させるとか出来ないのか?」

「不審者の存在を確認出来たのが一昨日ですので流石に。現在も調査は継続中ですが、その調査報告を待っていられないので、並行で動く必要があります」

「なるほどね」

「不審者は街にボートのようなものでやってきたということなので、多分海岸線沿いにあるんだろう。そうなると範囲はある程度絞れる」


 俺はそう言うと鳥を呼び出した。

 即、4羽を解放(リリース)する。


「とりあえず空から怪しい建造物などがないかどうかを調べてみる」

「その鳥はそんなことが出来るのか?」

「ラビさんの鳥は使い魔として、鳥が視た映像を中継出来るらしいです。ちょっとしたドローンですよ」


 モリ君が俺に代わって説明をしてくれた。

 

「そうは言ってもスキルの持続時間もそれほどないし、何より俺の体力が持たないから半径2kmってところかな。まあ地上と違って遮蔽物のない空からならば、10kmくらいは見渡せるんだけど」


 まずは街の近くの海岸から鳥を飛ばしてみる。


 首都近郊には木が多く生えていたが、この漁村の周辺は雨量が少ないのか背の高い木や草が少なく、半分は砂漠のようになっている。


 これならば遮蔽物が少ないので、何かあれば意外とすぐに見つかるかもしれない。


 太平洋の潮風を受けながら、延々と海蝕岩が続く光景の横を通り抜けていく。


 あまりの壮大で美しい眺望に思わず本来の目的を忘れてゆっくりと観光したくもなるが、スキルの持続時間もあるので、そうはのんびりしていられない。


 射程内を一通り飛行させてみて、人工物はないこと、人が潜めそうな洞窟や鍾乳洞などがないことを確認して、一度能力を解除する。


 頭痛などはない。


 最初の頃に比べると、能力を使用した時の負荷が格段に軽減している。

 慣れなのか、それとも魔女(ラヴィ)が間に入ってサポートしてくれているからなのか。


「周辺にはそれらしい形跡はないですね。もっと南下しましょう」

「助かります」

「もっと地味なローラー作戦を予想していたんだが、こりゃ楽だね」

「使い魔のコントロールで大変な俺は楽じゃないけどな」


 そうやって少し南下しては偵察という行為を繰り返すと、街から15kmほど離れた場所で、ようやくそれらしい建造物を発見することに成功した。


 三方を切り立った崖が取り囲んだ入り江になっており、船がなければ容易に立ち入ることが出来ない場所だ。

 

 まるでプライベートビーチのような砂浜を抜けた先。

 一番奥の崖に面したところに、どうやって資材を運んで建てたのか分からないが、一軒の西洋風の洋館が建っていた。


 館は基本的に木造で、一部の壁などにレンガを使用しているようだ。


 二階建てで表面には小洒落たバルコニーや出窓などが作られている。


 いかにも中世らしく、窓にはめられたガラスはかなり小さい。


 中世ヨーロッパの世界、もしくは現代の観光地にホテルとしてこの洋館が建っているならば違和感はないだろうが、ここは中世の南米で、しかも太平洋の荒波と潮風が常に当たる場所だ。

 時代も地域も合っていない。

 

 それに、入江になって直接波や風が当たることはないとはいえ、海が近い場所である。

 木材やレンガがもっと潮風で劣化したり汚れたりしていてもおかしくないはずなのに、建物はまるで建ったばかりのように見える。汚れがほとんどないのは不自然だ。


 館の上空を軽く旋回させると、館のすぐ裏は切り立った崖になっており、崖と館の間のスペースに石造りの柱のようなものが立っているのが目視出来た。


 館から再度海岸に向かって飛行させると、入り江入り口の小さい桟橋にボートが一艘だけ係留されていた。


 おそらく不審人物の潜伏先はここで間違いないだろう。


 屋敷の裏にあった石柱も気になる。

 あれが古代遺跡の一部なのかもしれない。


 俺はスキルを解除して、鳥で確認した洋館についてを他の六人に伝える。


「事前の情報とかなり一致する点が多いので、おそらくその入り江の洋館が不審者の潜伏先と見て間違いはないかと思います。ただ、船でしか行けなさそうな場所ですので、どうやって踏み込むかですが」

「街まで戻って船を調達していると時間がかかりすぎますね。崖の高さはどれくらいでした?」

「40mくらいかと」


 館が15mと仮定すると、だいたい3倍にちょっと満たないならそんなものだろう。

 目算なので外れている可能性はあるが、それほどかけ離れてはいないはずだ。


「ロープで降りられない高さではないですが、帰りが困りますね」

「不審人物が使っているボートを接収して、誰か一人がそれで一度トゥンガまで戻って、全員が乗れる船を借りてくりゃいいんじゃないか?」


 カーターの提案にリプリィさんが「それで行きましょう」と乗った。


 俺としてはロープで降りるなんてとんでもないので却下したかったのだが、あまり時間をかけると不審者がどこかに行ってしまう可能性もある。

 あまり強くは反対できなかった。


 館がある入り江近くの崖にやってきた。


 海沿いだとかなり強い海風が吹いてきてロープで降りるのは危険となったのだが、館が建っている入り江部分なので比較的風の影響も少なく、安定している。


 ロープを実際に垂らしてみると35m超だった。

 予想とそれほど外れた値ではなかったようだ。


「私は降下訓練も行っておりますので、不安はありませんが、皆さんはどうでしょう?」

「初めてですけど、せっかくなので挑戦したいと思います」

「同じく」


 モリ君とエリちゃんの体育会系夫婦はまあ良い。

 エリちゃんに至っては、そのまま崖から直接飛び降りても平気そうではある。


「俺はロープで降りるのはちょっと自信がないけど、一つだけ試してみたいことが有る」


 リプリィさんから借りたオイルトーチを右手で持ち、真横に構える。


浮遊(フロート)


 オイルトーチが「箒」として認識されたのか、ふわりと浮き上がった。


 流石にこれを握って全体重を維持するような握力などないし、巨人戦のように空中を自由に駆け回るというようなことは不可能だろうが、オイルトーチにロープを引っかけてぶら下がれば、昇降くらいは出来るだろう。


 一人用の簡易エレベーターだ。


 しかし、この「箒」のガバガバ認識は何なのだろう。

 ある程度長い棒で先が膨らんでいればなんでも良いというのか。


「ズルいぞ!」


 カーターがふわりと浮かぶ俺の箒……もとい、オイルトーチを指さして何やら喚いている。


「お前は頑張ってロープで降りろよ」

「いや、こんなの初めてで挑む高さじゃないだろ。せめて10mくらいから練習させてくれ」

「何か役立ちそうなスキルはないのか?」

「オレのスキルは割とストレートだしコスト後払いだから、応用が利くようで全然応用が利かないんだよ!」


 愚図っているカーターに気付いたのかリプリィさんが近寄ってきた。


「それでは、サンクとサティンクにサポートさせましょう」

「う、うん……まあよろしくお願いしますよ」


 最初にランボーことサンクさんが崖にアンカーを打ち込んで、そこにロープを固定するとロープの強度と安全を確かめるようにしながら崖伝いに降りて行った。


 一番下まで降りると、ロープが垂れている場所にあった大きな石や草などを横に除け始めた。

 しばらく様子を見ていると、一通りの作業が終わったのか、崖の下で手を振った。


 それを見たリプリィさんが何の躊躇いもなくスルスルと降りて行った。

 ただのチョロインと化したものの、さすがはプロの軍人さん。手慣れたものである。


 モリ君とエリちゃんも、コマンドーことサティンクさんにロープの括り方と降下方法についてのレクチャーを受けると、滞りなくロープを手繰り寄せてスムーズに降りていく。

 とても初めてとは思えない無駄のない動きだ。


 最後にコマンドーに抱えられるようにカーターがヒィヒィと情けない悲鳴を上げながら降りていく。


 その真横を俺はオイルトーチにぶら下がりながらゆっくりと降下する。


 全員が崖の下の砂浜に降り立った。


 モリ君とエリちゃんは初めてのロープ降下が楽しかったようではしゃいでいる。


 対してカーターはというと「異世界転生マンガでこんな地味な作業をやってるところなんて見たことないぞ」と何やらぶつくさ言っている。

 何なの俺より年上のはずのこのオッサンは。


 洋館を改めて見る。

 今のところ物音もしなければ、人の気配も全く感じない。


 おそらく今では一番五感が優れているであろうエリちゃんにも確認したが、やはり人の気配は感じないとのことだ。


「でも、中の方で何かがペタペタと音を鳴らして動き回っているような音は微かに聞こえるよ。もしかしたらあの蛆虫がいるのかも」


 エリちゃんの予想が正しければ、もし迂闊に館に踏み入れば、ユッグからの強襲を受けることになる。

 もちろん、実際に目で確認したわけではないので、杞憂の可能性もある。


「それでは、まず私とサンク、サティンクの3人で任意の事情聴取という形で館に踏み入ります。何もなければそれで良し。屋敷の内部からユッグが出てきた場合、少数ならば私達で対処します。ただ数があまりにも多い場合……」

「俺達も援護に入れば良いんですね?」

「はい、頼みます」


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