可愛い妹と過保護な姉 3
「とりあえず、お水を飲んだ方がいいわ」
わたしのことを持ち上げて、ガラスのコップの上に持っていく。
「……ところであなた、どうやってお水飲むのよ?」
どうやって飲めば良いのかは、通常サイズのグラスのすぐ上に持ち上げられているわたしの方が聞きたいのだけれど……。
「服のまま沈めても良いのかしら?」
レジーナお嬢様は無邪気に首を傾げていた。
「沈めるって……」
わたしが困惑していたけれど、レジーナお嬢様は気にせず、「まあ、良いわね」と言って手を離すと、わたしのことをそのまま水の入ったコップに沈めてしまった。重たいメイド服を着ているから、うまく体勢を取れなかった。
「ちょ、ちょっとどういうつもりですか……!」
溺れないように必死にもがくわたしを、レジーナお嬢様は頬杖をつきながら、上から見下ろしていた。
「もうお水もう飲めた?」
レジーナお嬢様は必死にもがいているわたしとは違って、のんびりと尋ねてくる。
「飲むどころじゃないですから!」
飲むというか、溺れている間に口から水が入っていると言った方が近い気がする。
「満足したかしら?」
「したから、はやく引き上げてください!!」
あまり飲んだ気はしないけれど、早く掬い上げて欲しかった。
「じゃ、掴まってくれて良いわよ」
レジーナお嬢様が人差し指を水の中に入れるから、必死にそこにしがみついた。釣られた魚みたいな気分で、ゆっくりと引き上げられる。
ずぶ濡れのまま、わたしは机の上に乗せられた。拭けるものもなかったから、少しはしたないけれど思いっきり首を振って、水を飛ばした。こんなところソフィアに見られたら間違いなく注意されてしまうだろう。
「ビシャビシャね。着替えた方が良いのかしら?」
「着替えがあるんですか?」
予備のメイド服があるのなら、それに越したことはない。
「あるわ。ちょっと待ってなさい」
立ち上がったレジーナお嬢様が地響きを立てて去っていったかと思うと、部屋の端っこから、わたしよりも背の高いドール人形を持ってきた。
「こうやって並べるとあなたのお姉さんみたいね」
横に並べられたのは、わたしの1.5倍以上あるドール人形。本来の大きさならきっと可愛らしいのだろうけれど、3メートル近い無機質なドール人形は少し不気味だった。レジーナお嬢様は何を思ったのか、ドール人形の着ていたピンクの派手目なドレスを脱がしていく。
「これでも着なさい」
わたしの前に投げ捨てられた巨大なワンピース。レジーナお嬢様にとっては、片手で軽々持てるドール人形が身につけていた小さくて軽い服かもしれないけれど、わたしにとっては3メートル以上の背丈の超高身長少女の体にピッタリの衣服なのである。普通に着ても間違いなく引きずる。というか、そもそもこのピンク色の可愛らしいワンピースそのものがわたしの背丈よりも大きい。
「あの、どうやって……」
「あんた、そのメイド服はどうやって着たのよ? 服くらい自分で着られるでしょ? まさかと思うけれど、次期当主のわたしに着させてっていうつもりじゃないでしょうね?」
「いえ、だって……」
「なによ?」
レジーナお嬢様がムッとした表情をこちらに向けてくるから、わたしは諦めて、ワンピースのスカート部分から頭を突っ込んだ。服という暗幕の中を匍匐前進して首元まで進んでいき、そこから頭を出す。
ダボダボのワンピースは、まるで幼児が大人の服を着た時みたいに大きかった。そんなわたしの姿を見て、レジーナお嬢様が人差し指を向けながら高笑いをする。
「何よ、それ! ブカブカだわ。ちょっと可愛いかも」
レジーナお嬢様がわたしごとワンピースを軽々持ち上げて、目の前に持ってくる。
「そうね、たしかにチビメイドにはおっきすぎたわね。もうちょっとちゃんとした服を用意するわ」
今度はもうワンサイズ小さなドール人形を持ってきた。どうやら、先ほどの大きなドール人形の子供バージョンのようで、目の前にはわたしよりも少し背の高い、5歳くらいの幼児をモデルにしたドール人形が立っていた。幼児の見た目のドール人形に見下ろされているのは少し不気味な感じもしたけれど、先ほどの3メートルの人形よりは恐怖心はなかった。
「これなら着られるわよね?」
「一応着られますけど……」
重たいドール用の子供服を手に取った。派手なフリルのついた、明らかに子供の着るような服。首元がとても大きくて、肩からずり落ちてしまったようで、思いっきり片胸が出てしまっていた。半裸のような形になってしまっていて、恥ずかしい。
「何よ、あんた下着つけてないじゃないの……」
レジーナお嬢様が巨大な人差し指で、無防備になったわたしの右胸を突いてきた。
「ちょっ、ちょっとやめてくださいよ」
「なんで下着つけてないのよ?」
人差し指でクリクリとわたしの胸を回すようにして触りながら、尋ねてくる。多分レジーナお嬢様は人形の体を触るくらいの気持ちで触ってきているのだろうけれど、わたしは生身の人間だ。綺麗なレジーナお嬢様の前で乳房を晒して指で突かれるのはかなり恥ずかしい。
「や、やめてくださいってば……」
必死に巨大な人差し指をどかそうとしたけれど、まったく反応はない。結局、レジーナお嬢様が飽きて触るのをやめるまで突かれてしまった。
「なんか変な気分になっちゃったんだけど……」とレジーナお嬢様に聞こえないように小さく呟いた。




