可愛い妹と過保護な姉 2
※嘔吐の描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
「だから、わたしは誑かしてなんてないですから!」
「そんなわけないでしょ! あの優しい天使みたいなアリシアがわたしに対して悪巧みをするはずがないわ」
真面目な口調でレジーナお嬢様が言い切るのを聞いて、わたしは不思議に思った。レジーナお嬢様は、アリシアお嬢様のことをかなり可愛がっているように聞こえてしまう。
けれど、レジーナお嬢様は、アリシアお嬢様のことを部屋から極力出さないようにしている張本人なのではないだろうか。そもそも、アリシアお嬢様は、レジーナお嬢様のことを怖がっているみたいだったし。何かがおかしい気がした。
「あの、レジーナお嬢様は、アリシアお嬢様のことが疎ましくて、アリシアお嬢様のことは屋敷の一室に隔離してるんじゃないんですか?」
何気なく言った言葉がレジーナお嬢様の苛立ちを誘ってしまったらしい。
「うっざ……」
レジーナお嬢様が小さな声で呟くと、わたしのことを持った右手を思いっきり上に掲げた。わたしは一気に高所に持ち上げられてしまう。目の眩むような高さに持ち上げられてしまい、怖くなってしまう
「や、やめてください……!」
「このままあんたのこと、叩きつけてやるわ」
脅しであると信じたいけれど、脅しでない可能性もある。この間見た、ベイリーに思いっきり床に叩きつけられる夢がフラッシュバックしてしまった。
「や、やめ……」
恐怖心が蘇ってきてしまい、オエっと胃液を吐き出してしまった。
「へ?」
レジーナお嬢様が間の抜けた、いつもよりも高い無邪気な声を出す。何が起きたのかわかっていない状態のぼんやりとした顔に、わたしの吐瀉物が降り注いでしまった。わたしの顔がさらに青ざめる。
「も、申し訳ありません……」
瞳が潤んできてしまっていた。怖かった。レジーナお嬢様にとんでもない失礼なことをしてしまったから、きっと酷い目に遭わされてしまうに違いない。一体どんな罰を受けてしまうのだろうかと思うと、怖くてたまらなかった。
涙を止めようと、必死に堪えたけれど、まったく止まりそうに無かった。けれど、レジーナお嬢様は逆にわたしへの怒りを静めてしまう。
「ああ、そっか……」
レジーナお嬢様が何かに納得したような声を出してから、わたしのことをソッと机に戻した。
「す、すいません。レジーナお嬢様のお顔に……」
「良いから」
レジーナお嬢様は黙ってハンカチで頬を拭った。小さなゴミみたいなわたしの吐瀉物は一瞬にして消えてしまい、綺麗な頬に戻る。わたしは震えが止まらない状態のまま、ぼんやりとレジーナお嬢様を見上げていた。
「ちょっと可哀想なことをしてしまったわね……」
レジーナお嬢様がツンツンと人差し指でわたしのことを突っついた。
「お水でも呑んだ方が良いかしらね」
そう言うと、レジーナお嬢様が何故かわたしのことをドレスの内側に隠してから、パンパンと手を叩いた。レジーナお嬢様の合図を聞いてから、ほんの5秒ほどでノックの音が聞こえて、通常サイズの普通のメイドが入ってくる音が聞こえた。
「レジーナお嬢様、どうなさいましたか?」
「お水を持ってきてもらえるかしら?」
「畏まりました」
静かにドアが閉まってから、ほんの10秒ほどでメイドが水を持ってくる。
「ありがとう」とレジーナお嬢様がお礼を言っていた。
エミリアしか出入りのないアリシアお嬢様の部屋と違って、レジーナお嬢様の部屋にはメイドがたくさん出入りしてそうだった。それに、まだ未成年のエミリアとは違い、担当しているメイドたちは落ち着いた大人の女性のようだ。
アリシアお嬢様とはまったく待遇が違うから、やっぱりアリシアお嬢様のことを疎んで適当にあしらっているようにしか見えない。けれど、それを言うとまた機嫌が悪くなってしまいそうだから、黙っておいた。




