お屋敷案内 1
〜登場人物〜
カロリーナ……突然メイド屋敷に連れて来られた少女。まだ状況があまり把握できていない
ベイリー……気品溢れる先輩メイド
「まずは2階の奥から案内していくわね」
入り口を出て右に曲がって奥の方に進んでいく。廊下の突き当たりまではすぐに辿り着いた。
これまで会っただけでもわたしを含めてメイドが5人もいるから、てっきり大きなお屋敷かと思ったけれど、2階はわたしが眠っていた部屋と同じくらいの規模の部屋が4部屋あり、その半分くらいの広さの部屋が廊下の突き当たりの左右にそれぞれ1つずつあるだけだった。
ご主人様たちは1階にいるのだろうか。でも、そうだとしたら、アンバランスなくらい1階が大きいことになってしまう。まさかメイドの居住スペースの方がご主人様の居住スペースよりも広いわけはないし。この屋敷の構造が一体どうなっているのか、不思議だった。
「まずは一番奥の左側から入りましょうか。カロリーナちゃんも、早く着替えたいでしょ?」
「わたしもメイド服着られるんですね!」
さっきの3人のメイド服姿は、正直そんなにメイドという雰囲気がしなかったけれど、ベイリーが目の前で着こなしている服は本当にメイドとして働くことになったことを実感させてくれる。スラリと伸びる手足や、優しい微笑み、そして真っ黒な髪の毛、わたしが想像していたメイドさんというものを体現してくれている。そんなベイリーの姿を見ていたら、メイド服を着てみたい感情が一気に押し寄せてきたのだった。
「サイズがあんまりないから、ちゃんと合ってくれたら良いのだけど……」
ベイリーがハンガーごとメイド服を取り出して、わたしの前で当てがってくれた。3種類の大きさのメイド服を順番に当てがっていく。
「真ん中のサイズならちょうど合いそうね」
ベイリーは大きく頷いてから再びハンガーかけに使わないメイド服を戻した。
「じゃあ、少しの間廊下に出ておくから、その服に着替えてもらっても良いかしら。古いほうの服は明日メイドのお洗濯当番を覚える時にでもついでに洗ってもらおうかしらね」
そう言って、ベイリーはわたしを部屋に置いて外に出ていった。
部屋の中を見回すと、メイド服が数着かかっていて、布団や毛布も綺麗に畳んで置いてあった。わたしは一応汚れた服も丁寧に畳んで、一旦裸になる。下着は纏っていなかったから、正真正銘の素っ裸である。裸の状態から上にキチンとしたメイド服を着ると、なんだかスースーして変な気分になってしまう。けれど、こうやって着るしかないから仕方ないかと割り切ってメイド服を着ていく。
「着れましたよ」
ゆっくりと扉を開いてベイリーに見せると、ベイリーが微笑んだ。
「うん、すっごく似合っているわよ」
ベイリーに褒めてもらって、嬉しくなった。クルクルと回ってみる。本当は自分の姿を見てみたかったけれど、鏡のように姿を確認できるものがなかったから、それは諦めた。
「次はどこを案内してくれるんですか?」
ワクワクしながら尋ねたけれど、ベイリーはあまり乗り気にはなってくれなかった。
「案内するなんて言っちゃったけど、実はこの家に面白いものはそんなに無いのよね」
メイド服の置いてあった部屋の向かい側の扉を開きながら、苦笑いをしていた。
「一応、ここが物置になっているから、部屋に必要なものがあったら適当に持っていってもらってもいいわよ。まあ、あんまり部屋に荷物を置きすぎたら家が揺れた後、戻すのが大変なので推奨はしないけれど」
「地震の多いところなんですか?」
「まあ、そんなところですね」
物置という割には、あまり物はなく、綺麗だった。埃もほとんどないから、きちんと定期的に掃除もされているみたいだった。
「あとは2階は各人の私室だけよ。カロリーナちゃん、リオナちゃん、キャンディちゃん、メロディちゃん、4人の部屋があるだけ」
「一応聞いておきたいんですけど、さっきまで寝ていた広い部屋って、わたし専用のお部屋になるんですかね?」
「ええ、そうよ。メイドはみんな一人一室よ」
「てっきり何人かで一緒に使う部屋だと思ってました。一人一室なんてすっごい豪華ですね!」
「わたしたちの部屋は小さなスペースで済むから、一人一部屋でも、共用で使っても、あんまり変わらないのよ」
「一人一室だと場所取っちゃいません?」
一人に一部屋が与えられているのなら、かなりのスペースを取る気がしたから、なんだかベイリーの言葉には違和感があった。
わたしの質問を聞いて、「ああ、そうね。そうだったわね」とベイリーは意味ありげに笑った。
「じゃあ、2階は一通り見たから次は1階に行きましょうか」
ベイリーがわたしの部屋の横にあった階段を降りていくから、それに続いてわたしも降りていく。