お屋敷案内 2
「階段を降りて、すぐ右側にあるのがお手洗いとシャワールームよ。水回りの都合でユニットバスになっているから、集団生活をするのにはとっても面倒くさいのよね」
ベイリーが少し申し訳なさそうに笑った。確かに、それなりの大所帯でシャワーを浴びている時間帯にお手洗いが使えないのは不便そうだ。
「で、その奥が——」
「あの、ここの部屋は何ですか?」
ユニットバスの向かい側にはわたしたちの私室よりも少し広そうな部屋があった。ベイリーはその部屋の案内は割愛しようとしていたみたいだけれど、気になったから尋ねておく。
「ああ、それね……」とベイリーが小さくため息をついた。
「もう一人メイドがいるのよ。ピンク色のおさげ髪でメガネをかけた、根暗な子が」
今まで優しかったベイリーが顔を顰めた。あまり聞いてはいけない話なのだろうかと思って、深くは追及しないようにしようと思ったけれど、先にベイリーが教えてくれた。
「ソフィアっていうメイドがいるのよ。あなたが会っていない最後のメイド。わたしは苦手。元々お嬢様たちの家庭教師役も兼任していたメイドよ。いちいちめんどくさいから、あんまり関わっても良いことないと思うわよ」
「そ、そうなんですね……」
常に余裕を持っているように見えたベイリーがこれだけ文句を言うソフィアというメイドは、一体どんな人なのだろうか。少し怖くなってしまう。きちんと話をする前のリオナも怖かったけれど、それよりも怖いのだろうか。だけど、それ以上のことをベイリーは語ろうとしなかったから、結局、ソフィアがどんな人かは詳しくわからないまま、次の部屋に向かっていく。
次にやってきた部屋はダイニングのようで、4人掛けのテーブルを2つくっつけてたくさんの人が座れるようになっていた。思っていたよりも広い食事スペースだった。ベイリーがソフィアを最後のメイドと言っていたから、合計6人のメイド全員が一同にここに座れるようになっているみたいだ。
「ここがダイニングキッチンよ。一応みんなで同じ時間にご飯を食べるようにしているから、きちんと時間は守ってね。毎日朝が6時、昼が12時、夜が6時。食事の時間はそれぞれ30分間だけよ。その時間を超えたらご飯は出せないから、気をつけてね」
「あの、時間に気をつけるって言っても、時間を見る術がないんですけど……。時計もないし、窓がないから大体の時間も検討がつきません。わたしは今が朝なのか夜なのかもわからないんですけど……」
「そうね。わたしとおさげ根暗……、ソフィアの部屋からしか時計は見られないもの」
ベイリーは自然な言い方で、さらりとソフィアのことをおさげ根暗と呼んでいた。
「どうして時計がないんですか?」
「どうしてって……」
困ったようにベイリーが顎に手を当てていた。
「まあ、いろいろと事情があるのよ……、ってことで納得してもらえるかしら?」
苦笑いをするベイリーを見て、一応頷いておいた。納得できたかと言われれば、正直あんまり納得はできていないけれど、これ以上尋ねても、答えはもらえなさそうだし。
「とりあえず、時間の確認はできないってことですね」
時間がわからないのはまあ良いとして、ご飯を食べ損ねたらどうしようかと不安になった。時間を守らなければならないのに、時間がわからないなんて意地悪なやり方だと思う。もしかして、ご飯を食べられないようにして、屋敷の食費を浮かせるためにするような作戦では、とよからぬことを考えてしまった。けれど、ベイリーは和やかに微笑んで、そんなわたしのひねくれた考えを否定した。
「時間はわからないけれど、少なくともご飯の時間にはわたしかおさげ根暗のどちらかが呼びにいくから大丈夫よ」
「なんだ、それなら大丈夫ですね」
ご飯を食べられそうで、胸を撫で下ろしていたら、「ご飯よりも仕事の心配もしてほしいけれどね」とベイリーが苦笑した。
「ダイニングの奥にはキッチンもあって簡単なものなら作れるけれど、悪いけど、カロリーナちゃんは当面の間は入らないでおいてね」
「わたし、食べるの専門なんでむしろ料理させられる方が困っちゃいますし、自分から入ったりなんてしませんよ」
そこは胸を張って答えておいた。むしろ、ご飯当番みたいなものをさせられたらどうしようかと思ったから、助かった。
「お料理はわたしたちが作るわけじゃないから大丈夫よ。そもそも使える材料は最低限しか置いていないから、さっきのお粥みたいに簡単なものしか作れないのよ」
「料理担当のメイドが屋敷のどこかにいて、ご飯を作ってくれるってことですか?」
「そうね……。まあ、その解釈でいいわ。ここにいるメイド以外に料理担当のメイドがいるって言った方がわかりやすいものね」
「じゃあ、屋敷の外からメイドさんがご飯を持ってきてくれるってことですか?」
「そんな感じね。わたしか根暗女のどちらかがご飯を取りに行ってくるのよ」
ベイリーが苦笑してから案内を続けようとしてくれた。
「次はこのドアですかね」とわたしがダイニングの向かい側にあるドアノブに触ろうとした時に、ベイリーが大きな声を出した。
「ダメよ、そこを開けたら外に出てしまうわ!」
「えっと……、外に出たらダメなんですか?」
そう尋ねると、ベイリーは穏やかな表情のまま、しっかりと頷いた。




