頼もしい協力者 9
「ここは……」
わたしの記憶では、間違いなくアリシアお嬢様たちと同じくらい巨大なベイリーに踏み潰されていたはずだった。だけど、わたしが目を覚ました場所は普段と変わらない、いつも使っているベッドの上だった。
「わたし、まだ生きてるの……?」
大量に血を流したはずなのに、そんな跡もまったくない。手を握ったり開いたりしてみても、特に異常はないし、痛い箇所もまったくない。
上半身を起こして首を傾げていたところに、ベッドの側にいる人物を見て、動きを止めてしまった。恐怖で歯がガチガチと音を立て始めてしまう。
「……目を覚ましたかしら?」
わたしの顔をジッと見てくる、わたしと同じくらいの見慣れたサイズのベイリーを見て、怖くて震えてしまっていた。
「や、やめて……」
「カロリーナちゃん、どうかしたのかしら?」
先ほどまでの、わたしを簡単に摘んでしまえるような巨大なサイズではない、普段屋敷の中で見るのと同じようなサイズのベイリーがいるだけのことだ。本来怖がるはずなんて何もないベイリーのはずなのに、わたしは呼吸が荒くなる。
「な、なんで……」
「息が荒れてて苦しそうよ。どうかしたの?」
姿を見ただけで、わたしは先ほどのことを思い出して泣き出してしまった。
「カロリーナちゃん、大丈夫?」
「い、嫌……」
先ほどまでの怖かったベイリーではない、いつもと同じ穏やかな糸目で微笑む姿なのに、恐怖を感じてしまった。
そんなわたしの方に、ベイリーがゆっくりと体を近づけた。
「落ち着いて、カロリーナちゃん。何があったの? 怖いことでもあったのかしら?」
何も知らない様子のベイリーを見て、ようやく一番ありそうな状況が思い浮かんだ。
「もしかして、夢……?」
ほんの少しだけ落ち着いたわたしのことを、ベイリーが優しく包み込むように抱きしめた。先ほどの恐ろしい強い力ではない。とっても優しく、ふんわりとしたハグ。ベイリーがわたしのことを胸に埋めて、優しく頭を撫でてくれた。
「よくわからないけれど、怖い夢でも見ていたのかしら……? とってもうなされていて、心配になってずっとそばにいたのよ」
「夢……、だったんですね」
わたしはホッと息を吐いた。よく考えたら、あれだけ強い痛みがあったのに、今のわたしはとくに怪我をしている様子もないわけだし、きっと夢だったのだろう。安心したら、いっきに涙腺が緩んで、涙が止まらなくなってしまっていた。
「あらあら、よっぽど怖かったのね」
「ご、ごめんなさい。わたし、ベイリーさんに踏み潰される夢を見て、怖くなっちゃって……。ベイリーさんは何も悪くないのに。危うくベイリーさんのこと怖くなっちゃいそうでした……」
「わたしの方こそごめんね。夢の中のわたしがとっても怖がらせちゃったのね」
「いえ……。勝手にベイリーさんを夢に出しちゃったわたしが悪いんで、謝らないでくださいよ……」
ずっと泣いて、鼻を啜るわたしをベイリーは優しく撫で続けてくれた。普通に考えたらわかることではないか。こんなに優しいお姉さんみたいなベイリーが、あんたにも恐ろしいことをするわけがない。そもそもあんなにも大きいわけがないのだ。
このところアリシアお嬢様と巨大な空間にいることが増えたり、エミリアやレジーナお嬢様から怖い思いをさせられてしまったから変な夢を見てしまったのかと納得する。
「すいません、ありがとうございました」とお礼を伝えてから、わたしはゆっくりとベイリーの体から離れた。
「いいのよ。もう落ち着いたかしら?」
はい、と大きく頷いたら、ベイリーもホッとした表情を見せた。
こんなに優しいベイリーがあんなにも恐ろしいことをしてくる夢を見るなんて、わたしはやっぱり無意識のうちにこの大きさに恐怖心を抱いてしまっているのだろう。寂しいけれど、少しアリシアお嬢様と会う回数も減らした方がいいのかも、と思いながら呑気に大きく伸びをしていたのだった。




