頼もしい協力者 7
少ししてから、コンコンと部屋にノックの音が響いた。
「もうこんな時間になってるのね。入っていいわよ」とレジーナお嬢様が返事をした後に聞こえてきたのは、とても耳馴染みのある声だった。
「レジーナお嬢様、入りますね」
わたしはその声を聞いて、耳を疑った。小さなメイド屋敷で毎日顔を合わせて、ご飯も一緒に食べているからそれはよくわかる。
だけど、わたしたちと同じ大きさではドアをノックすることもできないはずだし、こんなにも大きな声を出すことだってできないはずだから、人違いかもと疑ってはみた。けれどやっぱり、その声は間違いなくここに来てから何度も聞いたことのある声だった。
「ベイリー、何か収穫はあったの? わたしちょっとご機嫌斜めになったから、つまらない用だったら後にして」
「あら、そうですか。なら後にしますね。ただ単にパトリシアお嬢様捜索の協力者が増えてくれたということをお伝えしに来ただけなので」
「なぁんだ。どうせあのチビメイドたちをうまく唆したってだけしょ? アリシアやわたしみたいな半分引きこもりみたいなひ弱な女の子にすら手も足も出てないような子たちじゃ、何の頼りにもならないわよ」
レジーナお嬢様がつまらなさそうにため息をついた。
「そうでしょうか。別にわたしたちは戦いをするわけじゃないのですよ。捜索をするのです。そこに弱いか強いかなんて関係はないかと」
「いや、根本的にダメでしょ。ドアを開けることすらできないあの子たちをどうやってアリシアの部屋から出すというの? 同じ部屋でグルグル回っているだけじゃ、何も見つからないわよ」
レジーナお嬢様が鼻で笑った。
「そうですね。わたしがそもそもあの屋敷のメイドたちには、むやみやたらに外に出たり、秘密を探ることを禁止していますから、どうやって外に出るのかはわかりませんね。ですが、レジーナお嬢様はほんの少しあの子たちをみくびってしまっているかと」
ベイリーがいつもの糸目で微笑みながら本棚の1段目をチラリと見たかと思うと、次の瞬間、パッチリと目を見開いた。まるで氷漬けにでもなったみたいに、わたしの背筋は凍ってしまい、体が硬直してしまう。本能的に恐怖を感じてしまっていた。
その視線の先にいるのは、間違いなくわたしだ。一瞬にして居場所がバレてしまったらしい。退屈そうなレジーナお嬢様に背を向けて、ベイリーが目をギョロリと見開いたまま、しゃがみ込み、わたしの方に手を伸ばす。それなりに遠く見えた距離も、今の大きなベイリーなら、腕を伸ばすだけで掴むことができる距離だったらしい。
「どうしたのよ、ベイリー?」
不思議そうなレジーナお嬢様の顔の前に、首から下を鷲掴みにしたわたしを突き出した。至近距離に現れたレジーナお嬢様は、アリシアお嬢様の姉なだけあって、目鼻立ちのハッキリとした美人さんだった。もっとも、性格はアリシアお嬢様の姉とは思えないくらい冷たいけれど。彼女のことは正直苦手だったけれど、手足を掴まれたまま目の前に突き出されたわたしに逃げ場はない。
「これって……」
レジーナお嬢様がわたしの眉間のすぐ前くらいに人差し指を向けてくる。
「レジーナお嬢様の言う、何の頼りにもならないチビメイド、ですね」
ベイリーの声を聞いて、レジーナお嬢様がハッとしたような表情になる。
「ちょ、ちょっと! あんたいつの間に入ってきたのよ!」
レジーナお嬢様がわたしに触れてしまいそうなくらい顔を近づけて、物凄い剣幕で話しかけてくる。大きな声に耳を塞ぎたくなったけれど、残念ながら、なぜかお嬢様たちやエミリアと同じくらいの大きさになっているベイリーに首から下を掴まれているから、塞ぐことなんてできない。
「アリシアね! あの子、わたしを騙したのね!!! 初めから仲良くする気なんて無かったんだわ!!」
レジーナお嬢様の出す飛沫が至近距離で次々顔にぶつかっていく。カカオの風味が顔中に広がっていったから、多分レジーナお嬢様はおやつにチョコレートを食べたのだろう。
「まあまあ、一旦落ち着いてください。少なくとも、レジーナお嬢様にとっては、カロリーナちゃんが忍び込んでいることは、特にマイナスではないのですから。見られたくない姿を見られたわけでもないですし。わたしとは違って」
ベイリーはクスッと笑ったような声を出したけれど、その表情が本当に笑っているのかは、無理やりレジーナお嬢様の方に体を向けられているわたしにはわからなかった。




