第参話 神社
次の日の朝食後、ふと思いついて神社に行ってみる事にした。他にしたい事なんて何もないんだし。
「暑……」
外へ出ると熱風に体を包まれる。それでもアスファルトの照り返しがないから、東京よりは幾分かマシな気がした。
おばあちゃんに描いてもらった地図を頼りに、迷いながらもやっと神社までたどり着いた。
が、私を迎えたのは境内ではなく。ゆうに百段はあるであろう長い石畳の階段だった。痩せそう。でなくて。
まだギリギリ午前中とはいえ、日差しは強い。一瞬帰ろうかとも思ったけど、せっかくここまで来たんだし、しょうがなくなるべく日陰を通ってのぼってみた。
「長かった……」
のぼりきると、妙な達成感を感じた。
少し立ち止まって呼吸を整えてから、敷地内の玉砂利を蹴散らして境内に向かう。
とりあえずお願いでもしようと、賽銭箱に五円玉を投げ込む。さすがに五円は少ないと思ったけど、他は全部諭吉さんだったから、神様には低賃金労働してもらう事にする。
でも、お願い事が何も思い浮かばなくて、結局何も頼まないで賽銭箱から離れた。
だってあたしの望みなんて、どうしたって叶うわけがない。
境内の裏に回ってみると狐の石像があって、その周りには彼岸花が沢山供えられていた。狐の目には水晶のような透明な石が埋め込まれ、尻尾が九本ある。
何故かあたしはしばらくその狐に見入っていた。
「ねぇ」
「!」
突然誰かに声をかけられ、この暑い中あたしは一瞬凍りついた。
振り向くと、後ろに小六ぐらいの男の子が立っていた。いつの間に来たんだろう。砂利の音、したっけ?
「な、に?」
辛うじてそれだけ答える事ができた。
「何でお願いしないの?」
「え」
「せっかくお賽銭入れたのに」
細身で色白、漆黒の髪をした少年は、病弱そうで夏には酷く不釣り合いだと思った。
それが少年の違和感を助長させていて、変な気分だった。
「し、したよ……」
やだな。他人と話すなんて何週間ぶりだろ。
「何て?」
「……っ」
さっきよりも強く、心臓に、衝撃が走る。
どうして、何も願ってない事がわかったの?
何か言葉を口にしようとして顔を上げると、少年は居なくなっていた。
気味悪くなって、私は逃げるように神社を後にした。




