第弐話 伝承
電車を乗り継いで三時間と少し。駅に着くとセミがうるさく自己主張していて、余計体力を奪われた気がした。
手に持っていたお土産が重くて、傍らにあったベンチを軽く蹴った。
それからバスで四十分。更に歩いて十五分。不便すぎる。
どうして田舎ってこんなに坂が多いんだろう。
馬鹿みたいに長い斜面をのぼりきると、やっと目的地が見えた。
純日本風の古い家。広い庭には蔵なんかがあったりする。
「あら〜、いらっしゃい。よく来たねぇ」
祖母は庭に柄杓で打ち水をしていた。太陽の光が反射して眩しい。
こんなあたしが、こんな明るい場所に居ていいんだろうか。罪悪感がこみ上げてくる。
「八月十三日に、稲荷神社でお祭りがあるのよ。行ってきたら? 菜月ちゃんこっちのお祭りは初めてでしょ?」
おばあちゃんはそう言って、夕食後にあたしが持ってきた水ようかんを出してくれた。
開け放した縁側の窓から涼しい風が入ってくる。都会とは大違い。
「そだね。浴衣着ようかなぁ」
「そのお祭りね、必ず狐のお面を付けていないといけないって決まりがあるの」
「何で?」
「じゃないと良くない狐に連れて行かれちゃうって伝説があるのよ」
「へぇ、不思議だね」
田舎の伝承は突飛なものが多い気がする。だって河童が出てきたり天狗が襲ってくるなんて現実に起こるわけないし。
だけど、おばあちゃんのこの話はあたしの関心を強く惹きつけた。




