第二十二話:第一部完
「はむ、はむ、むしゃむしゃ」
「どうでしょうか? お口に合いましたか? 」
「うむ、ご主人様が太鼓判を押すだけはあるな。どの料理も絶品だ」
「ありがとうございます」
「見た目も良いし、腕も良い。妾の物にしたいくらいである」
「あははは……」
街中にドラゴンが現れたことによる混乱と政務の引継ぎなどに時間がかかるということで、ガーネットが女王になった正式なお披露目は後日ということになった。
周辺国の要人もやってくる戴冠式には国の象徴であるドラゴンもいた方が伯が付くのでそれまで山に帰らず逗留してもらおうとガーネットが提案し貴族たちも賛成したのだが、ドラゴンの滞在場所で少し揉めた。
国賓として王宮でもてなそうと言うガーネットに対し、貴族たちは難色を示したのだ。
彼らにとってドラゴンは魔物や猛獣と変わらず、それが檻にも入らず自由に歩き回るものだから身の危険を感じるのはしょうがないことでもある。
そこでドラゴンの行く先としてガーネットの邸宅に決まったのだが。
このドラゴン――今は幼女の姿に変化しているが――俗世に馴染みまくっている。
「食べる物も美味く、見目麗しい美少女に囲まれるここは素晴らしいな。ここを妾の新しい巣とするぞ」
「お前の巣じゃないからな。お前はあくまで居候だ」
「だが妾はこの国の王より偉いんだぞ。なら一番偉いのではないか? 」
「お前が王より偉いならそれの主人である俺は神だな。ドラゴン風情が図が乗るなよ雑魚が」
「ぐぬぬ」
ずっと独りで山にいたせいなのか幼女はどうにも浮かれているようだ。
調子に乗って何かやらかさないよう俺がしっかり手綱を握らなければならないな。
「……なあ神ご主人様よ」
「なにその糞ダサい呼び名。俺に対する嫌がらせか? 恥ずかしいからご主人様の前に神つけるの禁止な」
「ご主神様はめんどうくさいな」
「全世界の宗教にケンカ売るのも止めような。俺はアマテラスでもなければキリストのお父さんでもないからな」
「じゃあなんと呼べばいいんだ!」
「普通にご主人様と呼べばいいだろ! 逆ギレすんな! 」
「うぅぅぅ」
俺が叱ってやると幼女はシュンとして大人しくなった。
ふう、まったく手間をかけさせやがって。しかしどうしたのだろうか。ダイニングにはいつものメンバーがいて騒々しい感じだったのだが今はシーンと静まり返って俺とドラゴンの方を注目しているじゃないか。
しかも目付きが冷たい気がするんだけど……。
「――っ!? 」
そこで俺は致命的なミスに気づいてしまった。
この、目の前で「計画通り」って感じの顔つきをしている幼女を見てようやく罠にはめられたのだと悟った。
圧倒的な威容を持っていたドラゴンに対して俺が強い口調で何か言っても嫌悪感を持つ人間はいないだろう。むしろ勇気のある男として見られるかもしれない。
しかし、ここにいるのは年端もいかない幼女の姿だ。それを少年の姿とは言えだいの男が上から目線で押さえつけようとする光景を見たらどう思うだろうか。
現代社会でやろうものなら通報されネットに晒し上げられ逮捕されることは間違いない。
「……あ、飴ちゃん食べる? 」
「いらんわ! 」
取り繕うためポケットから飴玉を取りだして渡してみるが叩き落とされてしまった。
懐柔失敗だ。コロコロと床を転がっていく飴玉が物悲しい。あ、スピアが拾って食った。
「ご、ごほん。それでお前は何を言おうとしたんだ? 」
仕方がないので話の方に意識を持っていく作戦に打って出ることにする。
「聞きたいのか? そんなに妾の話が聞きたいのか? ご主人様がどうしても聞きたいと言うのなら話してもよいが」
椅子にふんぞり返って俺を見る幼女。ドヤ顔だ。
ぼろくそ言って凹ましてやりたい気になるが今の状況では下手に出るしかない。
「ハイ、キキタイデス」
「そうか、そうか。いやなに、大した話ではないのだがな。ここで暮らしていくことを決めたら名前がないとなにかと不便だろう? だから良い案がないか聞こうと思ったのだ」
「……」
クソどうでもいい内容だった。
「名前ですか」
「たしかに呼び名があったほう便利ね」
「ガリガリ」
だが女性陣の食いつきは良い。
流れを変えるには乗るしかないこのビッグウェーブに。
「ロリゴンってのはどうだ? 」
「却下だ」
「それはちょっと……」
「ダメね。可愛くない」
「ガリガリ」
とりあえず適当に候補をあげてみたが女性陣から総スカンを食らってしまった。
「やれやれご主人様にセンスを期待した妾の見込み違いだったかな」
「むむむ」
「妾に似合う気品があってそれでいて可愛らしさのある名前など思いつかなくてもしょうがない」
そう言われてしまうと一泡吹かせたくなるのが人情だ。
俺は猛烈な勢いで頭の中から人物名を引き出してこいつにピッタリの名前がないか考える。
うーん、何かないかな?
「……ペドラ。いやペトラなんてどうだ? 」
「ふむ、悪くないな」
「だろ? お前はペトラだ。これからもよろしくな」
「ご主人様は妾のご主人様だからな。よろしくしてやろう」
ちなみにペド+ドラゴンが由来していることは俺だけの秘密である。
女性陣にも好評でワイワイと盛り上がっていた。
俺は一人ダイニングを抜けて自分の部屋に戻るとベッドに横になって手を持ち上げた。念じれば体の中の魔力を消費して魔法という名の炎が出現する。
しかしそれはあの真っ白い空間で作った時よりも弱弱しいものであった。
この世界基準でいえば十分なものではあるのだが、その炎は能力の減衰を否応なく理解してしまう。
俺の庇護者であるガーネットが王になったことで俺の身分は安泰と言ってもいいだろう。彼女の性格からして用済みとして捨てられることはないだろうし、俺にはペトラという強力な戦力もあるのだ。
このまま現状の生活を維持するだけなら能力が弱くなったところで影響はない。
しかしそれはガーネットの夫の座を諦めることを意味するのだ。
彼女は以前、俺に自分の物になれといった。それは次期王族のレースを勝ち抜くためには俺の存在が不可欠だったからだ。
しかしガーネットは王になってしまった。俺が王にしてしまった。
今の彼女には俺の力は前ほどには価値がなくなっている。すでに王となる目標を達してしまったからだ。
だが俺が結婚したいと言えば受け入れてくれるはずだ。
俺のチート能力は必要性がなくなったとはいえ他所へ行かれては困る代物だ。
貴族どももドラゴンの主である俺を王とすることに異は唱えないだろう。
だが力を失ってしまえば前提はひっくり返ってしまう。
女王の夫という地位を何の取柄もない平民に預けておくほど甘くはないはずだ。
この構図はプロポーズされた時から変わってはいないが、能力が減ったことにより俺はこの先どうするかを強く考えざるを得なくなった。
俺はどうしたい?
安泰した地位で誰か別な人と付き合うことになるか?
それともガーネットやミミルを自分の物にすることを目指すか?
もちろん後者に決まっている。
その為には俺は強くならなくてはならない。たとえ神の呪いでチートを失ったとしてもガーネットたちに相応しい男でいる為にチートに頼らない力を得るしかないのだ。
だからこそ俺は。
「旅に出よう」
この国ではドラゴンの存在はおとぎ話の存在であった。
しかしドラゴンは生きていた。幻想や空想が実在するものだと裏付けたのだ。
ならばこの世界にはそんな物がまだ眠っている可能性が十分にある。
勇者の剣、魔王の杖、英雄の鎧、魔導士の魔術書。
中には俺のチートを超えるものもあるかもしれない。
なら力のあるうちにそれらを見つけ出してしまえいいのだ。
「まずはラーズに相談してみるかな」
チートに頼らない力を手にするなら当然、自分の肉体も鍛えなければならない。
勇者の剣を手に入れても重すぎて使えませんでは話にならないし、それ相応の技術も無ければ宝の持ち腐れだ。
技術はラーズに教えてもらうとして、それを扱う肉体は自分で筋トレするしかない。
俺は寝転んだままの上半身を持ち上げ腹筋を開始する。
一、二、三、四、五。
千里の道も一歩からという。ならばこのカウントは俺の脱童貞への歩みとイコールなのだ。
「うおおおおおお」
俺の野望はまだ始まったばかりだ。
一部完結しました。
なんて嘘です打ち切りです。
ほぼノープロットだったのでなんとかキリのいい場所までこれたのはほっとしてます。
大まかな想定ではこのあと主人公は筋トレやら世界を回ってチート以外の能力を得ていく予定でした。




