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第十八話:幼女

ドラゴンの情報がもたらされるのはそれから二週間後だった。


依頼を受けた冒険者たちの報告によると、

ヘルズ山の周りは魔物が大人しい。

空を飛ぶ化物を見た。

大きな足跡が残っていた等の伝聞がヘルズ山周辺の村に残っていたらしい。

冒険者たちは作り話だろうと判断していたが、ガーネットが調べた資料などと照らし合わせればそれは本当の出来事だと思われた。

情報を分析し、ドラゴンの目撃情報があった位置や方角などを検討した結果、山の北側がどうやら怪しいらしいと結論が出た。

王位継承の義が近いこともあって俺はすぐにヘルズ山へ向かうことにした。


ヘルズ山はセントラル王国の北に位置する霊峰であり、周囲の村々からは山岳信仰の対象にもなっている山だ。

標高は高く、切り立った崖なども多いことから山頂まで登った人はいないらしい。

もしドラゴンの巣があるとするならそこだろう。


「ただ、別の魔物が住んでいる可能性があるか」


冒険者たちが集めた情報の中に唯一現在の話があって、それは夜に大きな地響きが聞こえることがあるというものだ。ガーネットはそれを大型の魔物だと判断した。

ドラゴンのいなくなった巣穴を別の魔物が利用しているのだろうと。


「まあでも余裕だろう」


タイラントスネークあたりなら何の問題もない。

あのレベルの魔物であれば何匹いたところで脅威じゃない。

俺が倒れたのは自爆ともとれるほど無駄に魔力を使ったからだしな。


「おや、あんた冒険者かい? 」


道を歩いていると籠を背負った男が俺に話しかけてくる。


「ああ、そうだけど」

「少し前にも冒険者の人間が来てたがこんな村に何の用があるんだい? 」

「俺の用はあっちだよ」


俺は山の方角を指さす。


「あっちってあんた。その先は御山しかないぞ? 」

「そ、山に用があるのさ」

「何が目的かは知らんが、御山に行くなら気を付けた方がいいぞ」

「夜な夜な地鳴りがするって話だろ。それなら知ってるさ 」

「それもあるが、……出るんだよ化物が」

「化物だって? 」


男は怯えた表情になるが、魔物がはびこる世界で化物と言われてもあまりピンとこない。

この世界では、ゾンビ、幽霊、エイリアンなど元いた世界では得体のしれない存在だったものでもすべて魔物にカテゴリーされている。

だから男の言う化け物もきっと魔物だと思うのだが。


「笑い声がしたんだよ。このまえ御山に行ったとき、山菜を取っているとどこからともなく粘りつく視線を感じてな。魔物かと思って周りをみても何にもなくて、気のせいだろうと山菜取りを再開すると今度はクスクスと誰かが笑う声がしたんだ」

「そいつは天狗だ。天狗の仕業にちがいない」

「天狗がいるのは西の山だぞ」


天狗も実在すんのかよ!?

もうやだこの異世界。ホラーもオカルトも全部魔物で片付けて、情緒もへったくれもない。

この世界の人間は呪いのビデオから貞子が出てきても素材や経験値目当てに戦闘しそうで怖いよ。笑い死にそうで怖い。


親切な村人に礼を言って山を目指す。

とはいっても俺は登山家ではないから徒歩で登ることはしない。俺にはこれがある。

魔力で翼を作って大空へテイクオフ。翼を羽ばたかせ宙を翔ける。


鳥のように空を飛ぶというのは何度やっても気分がいい。

重力から解き放たれて風といったいになる気がする。

しかし、空を飛ぶ行為というのは魔法が発達している世界でも相当珍しいことなので普段は自粛しているのだ。

だからこういう機会がないとなかなか楽しむことができない。


「そういえば、車の外に手を出すとおっぱいの感触に似ているって話があったな」


強い風圧によって疑似的なエアーおっぱいを顕現させる童貞の召喚術。

真偽のほどは分からないが、たしかそういう都市伝説があったはずだ。


ふと、そんなことを思い出していると俺の脳に稲妻が走り、悪魔的な発想が浮かんできた。

手で風を感じればおっぱいを揉める。では体全体を使ったらどうなるんだ?

いま俺は自分の身ひとつで飛んでいる。風を遮るものは何もない。

ならばこのまま速度をあげればおっぱいに包まれる感触、つまりは全身パイズリを味わえるのではないか?


やってみる価値はあるな。

風の抵抗をカットしていた魔法を解除してみると風圧が俺に襲い掛かってきた。

いいぞいいぞ。もっとだ。

一番おっぱいに近づく時速はどれくらいだったかな。四十? 五十か? いや六十だった気がする。

翼に力を込めてスピードを上げていく。顔に当たる風の勢いも強くなっていく。

やがて俺のからだは時速六十キロ近くにまで達する。達する。


「これがおっぱいか」


目を閉じて自分にかかる風圧に意識を集中。


……。

…………。

………………。

ふぅ。


「ダメだ。さっぱりわからない」


そもそもおっぱいを揉んだことがないので比較ができないのだ。童貞だから当然のことだけど。

唯一俺がおっぱいに触れたのはミミルの当ててんのよ状態であるのだが服越しで尚且つ背中だったから実のところ感触はよく分からなかった。

だから冷静にどんな弾力でどんな肌触りなのかを考えた場合、俺の中に確固たるおっぱいというものは存在しない。想像力で補おうとしても限界がある。妄想と現実の壁は生半可な事では壊せない。つまり非実在青少年が現実に影響を与えることはないのだ! 偉い人にはそれが分からないんとです!



失意に暮れる俺が目を開くと山肌は目の前だった。

つい本来の目的を忘れて遊びに夢中になりすぎていたのだ。俺は山に向かって飛んでるんだからブレーキをかけなければぶつかるのは必然。

柔肌と山肌って響きが似てるよなーなんて考えてる暇もなく、ゴツゴツとした岩の斜面に叩きつけられ高速で転がっていく。


「あばばばばばばば」


車は急には止まれないし、おっぱいは弾んで揺れる。

すべては慣性の法則という神の定めた絶対のルール。その法則に従って転がり続けた俺だが終わりというのは必ずやってくる。


「ぐはっ」

「ぐふっ」


ぽっかりと空いていた穴に落っこちた俺はそのまま地面に叩きつけられた。体は魔法で強化していたからかすり傷ひとつ付いていないし痛みも無い。しかし三半規管までは強化してなかったので視界がぐるぐる回って周りの様子がよく分からない。


揺れが収まるのを待ってから改めて周囲の様子を確認してみるとそこは自然に出来た洞窟のようだった。高さと広さはかなりありドラゴンが住んでいてもおかしくないほど。

上を見上げるとぽっかりと空いた穴があり、そこからは青い空が確認できた。

あそこから落ちてきたんだよな俺は。

ざっと見て五階建てのビルの高さくらいはありそうだ。もし俺が魔法など使えない一般人だったなら確実に死んでいただろう。


さて、現状、目に見える範囲には魔物はいない。

これだけ広い空間なら何かしらの魔物が住処にしてそうなのだがその気配はない。

地鳴りが聞こえるのは夜らしいから、もしかしたら昼は別のところに行ってるのかも。

だったらそいつが帰ってくる前に用事を済ませておこうかな。


俺の目的はドラゴンに関する物を探すことだ。

牙や爪、ウロコなどドラゴンの物ならなんでもいい。山頂まで人が来ることはないってことだから何か残っていそうなんだが。


うつ伏せ状態だった俺は立ち上がろうと膝を立てる。

すると膝に水風船を踏んづけたような感触が返ってくる。

おかしいな、と思って頭を横に向けると。


「きゅー」


白目をむいた幼女がいた。

俺の腹の下に幼女が横たわっていた。

ちょうど俺と幼女が十字になるように折り重なっていたのだ。

俺は落ちてきた天井を見る。そして幼女を見る。

導き出される答えはひとつ。俺が数メートルの高さから腹を出して寝転がっていた幼女にボディープレスをかましたということ。

普通だったら死んでいてもおかしくない事故にも関わらず、幸いにも彼女は生きていた。今はダメージによって気絶しているだけ。

俺はそそくさと幼女の上からどいて、彼女の肩をゆさぶる。


「おい! 起きろ! 」

「……う、ううん。ここは」

「よかった。目が覚めたんだな。こんなところで眠っていたから心配したんだぞ」


もちろん嘘である。

まさか上から押し潰してごめんなどと言えるわけがない。

幼女は起き上がるもしばらくの間ぼーっとしていたがおもむろに腹部に手を当てて不思議そうにする。


「……なぜかお腹が痛い」

「ははは、腹を出して眠てれば痛くなってもおかしくないぞ」


誤魔化してみたけど、すでに彼女は俺のことを見ていない。

自分の記憶を探るように空を見上げて考え込んでいた。


「わ、わらわ。妾は」

「www」

「その腹だたしい顔はやめい! 妾を誰だと思っている。妾は五百年の時を生きる古代龍ぞ」


俺のことをキッと睨みつけるとそう言った。

この見た目ぷにぷにな幼女がドラゴンだと? ハハハ、ご冗談を。


「それはすごいねー。でも、ここは危険だからおうちへ帰ろうねー。君の家はどこかな? お父さんとお母さんは? 」

「ほう人間。信じておらぬようだな。まったく妾のことを崇め奉るから大人しくしていたのだが、どうやら甘やかしすぎたようだ。どれ、少しドラゴンの恐ろしさという物を思い出させてやらんとな」


幼女の瞳が猛禽類のそれに変わる。


「なっ!? 」


変化はそれにとどまらない。頭からは二本の角が生え、背中には翼、そして長い尻尾がお尻のところから出ている。その姿は龍と人間の混ざったもので、竜人とで呼ぶべきものであった。


「まさか、本当にドラゴンだと言うのか! 」

「そうだと言ったろう」

「でもなんで人間の姿なんかに」

「妾の真の姿を維持するには莫大なエネルギーが必要でな、用がないときにはこのように人間の真似をしてエネルギーの消耗が抑えているのだ」

「もしかして子供なのも」

「この姿が気になるか? まあそれはそうだろうな。人間は同族意識が高い生物だ。まして庇護すべき子供が相手では剣が鈍るか。いいだろう、やりにくいというなら……」

「つまり大人バージョンにも変化できるってことだな。結構なことじゃないか」

「……」

「ぜひともおっぱいの大きい妖艶なお姉さんの感じでお願いします! 」

「……やっぱりやめだ。お前はこのまま叩きのめしてやる! 死ね! 」


幼女は指を鋭い爪に変えて襲い掛かってきた。

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