第十三話:依頼を受ける
言われたとおりに道を進んでいくとたしかに冒険者ギルドはそこにあった。
酒場も併設されている大きな建物。中に入ると美人の受付嬢が歓迎してくれる。
当初の目的はすでに達成しているから、来なくてもよかったんだけど折角だから冒険者に登録することにした。
「ようこそ冒険者ギルドへ。本日のご用件はなんでしょうか? 」
「冒険者に登録したいんですけど」
「なにか身分を証明するものはありますか」
「冒険者って身分証がなきゃできないんですか? 」
「いいえ、冒険者ギルドは幅広い人材を求めていますからどのような人でもなることは可能です。ただしその場合は最低のランクから初めてもらうことになりますけど」
「そういうことか。身分証ねえ、たしかここらへんのポケットに入れてたはずだけど……あった。はいこれ」
「ありがとうございます。……へ。あの、これ」
「なんかまずかったですか? 」
受付嬢の困惑の表情に俺も戸惑ってしまう。
この国の王女さまから渡されたものだから偽造のはずはないと思うけど。
「し、少々お待ちいただいてよろしいですか? 上の者を呼んでまいりますので」
俺の身分証を持ってそそくさと立ち去る受付嬢。
しばらく待っていると奥の方から渋いめのオッサンがやってくる。
「お待たせいたしました。当ギルドのギルド長をやらせて頂いておりますロバートと言います」
「チェンジで」
「は? 」
「チェンジでお願いします。美人受付嬢と仲良くおしゃべりしたかったのにどうしてオッサンが出てくるんですか! 」
憤懣やるかたない俺はそう叫ぶ。
これはあれだいわゆる美人局ってやつだ。く、なんて狡猾な罠なんだ。
「そういわれまして、王族が限られたものにしか渡すことのない王家の紋章が入った身分証をお持ちの方を下の者に対応させるわけには参りません」
「どうしても? 」
「はい」
「……オーケーオーケー分かったよ。ここで騒いでもこれをくれたガーネットの顔を潰すだけだしな。んじゃ、さくっと終わらせてくれ」
「かしこまりました」
おっさんはギルドの規約やらルール。そのほか依頼の受注や素材の買取なんかの説明もしてくれた。さすがはギルド長。わざわざ出張ってくるだけあって分かりやすくしゃべる。ち、顔が良くて有能な奴なんて嫌いだ。
そして一通りの説明が終ると金色をした金属のカードを渡された。いわゆるギルドカードと呼ばれるもので冒険者としての身分を証明するものだ。金の色はランクAの証。つまり俺の冒険者としてのランクはA。身分証がない奴はEから、ふつうの身分証持ちはCから始めるのだが王族公認の俺には信用があるということで通常よりもツーランク上からでいいそうだ。
「以上で説明を終わりますが何か質問などはございますか? 」
「いいんや大丈夫」
いつまでも男と向き合ってくることに苦痛を感じたので、冒険者カードを受け取ると受付から移動することにした。
「軽く依頼でもやってみようかな。この世界にきて戦った魔物はあの蛇だけだし、オーソドックスなゴブスラあたりとかいいよな」
遊びと言えばゲームの現代っ子の俺は某RPGと一緒に育ってきた。
だからスライムやゴブリンといった魔物と戦うのには憧れがあるのだ。
依頼が張り出されているギルド本館に隣接した酒場へ向かうと、昼時のせいもあるのか混雑していた。
「すいませーん、こっちにエールひとつ」
「北の森へ同行するやつはいるか」
広い酒場にはたくさんの木製のテーブルが並べてあるがそのどれもが満席である。店員が慌ただしく駆け回っていて大変そうだ。
「昼飯も食って行こうかと思ったけどこりゃ無理だな」
屋敷に戻ってミミルに何か作ってもらった方が良さそうだ。
ミミルはガーネットが太鼓判を押すだけあって料理の方も得意だった。今朝の朝食はかなり美味しかったしな。
そんなことを考えながら掲示板の前に移動すると知人の後姿が目に入った。
「ようスピア。お前も依頼受けにきたのか? 」
「ん? ああユニオか。あたしは冒険者だからな、暇さえあればいい依頼がないか見に来るんだがお前はどうした。王女の護衛なんだろ? ははん、さてはクビなったか 」
「ガーネットはしばらく静養するらしいからやることないんだよ。だから冒険者でもやってみようっかなーって」
俺はスピアにできたてホヤホヤのギルドカードを見せる。
「金だと!? なんで冒険者になりたてのユニオがAランクなんだ! アタシはCから初めて最近ようやくAに上がったというのに。不正だ! 何か不正をしたにちがいない! 」
「不正とは心外だな。これが俺の実力なんだよ」
知り合いの権力だろうと力は力だ。
悔しそうなスピアの顔を見ているのは気持ちがいい。
「あたしは認めないぞ」
「お前が認めよう認めまいと事実は揺るがないんだぜ? スピアがどれだけ時間をかけてランクをあげたかは知らんが、俺は初日でお前に並んだのだ。ハハハハざまあ」
「むむむ、ならユニオに本当の実力があるのか見させてもらう」
スピアは掲示板から一枚の依頼書を剥ぎ取り、こちらに突きつけてくる。
「ほほう、ランクBの依頼か」
農場の近くにレッサーオオトカゲが現れて家畜を襲うので退治してほしいというものだ。
「そう。ランクAの実力が本当にあるのなら余裕のはず。どうする? 逃げても構わないぞ? 」
「受けて立とうじゃないか。そうだな、ただ依頼をこなすのも面白みにかけるし賭けをしようじゃないか。さきにこいつを倒した奴が勝者。そして勝った方は負けた方になにか一つ命令できるってことでどうだ? 」
「ふふん、構わないぞ。負けることが分かっているのにバカなことだ。あたしが勝ったら不正な手段でランク得たという看板をつけて歩いてもらう」
「なら俺が勝ったら、語尾はにゃん、そして俺のことは様づけで呼んで貰おうか」
「「ハハハハ」」
俺とスピアは臨時パーティー登録をすることになった。
ずいぶんと予定していた冒険者デビューとは違ってしまったけどこれはこれでありだろう。俺は魔法を使うことはできても冒険者としてはまったくのひよっこ。実力者の分類に入るランクAの動きを傍で見ることができるのは幸運といえる。しかもタダで。スピアには感謝したりないくらいだぜ、まあだからといって勝ちを譲る気はないけどな。
「ミミルといったか。あいつはいいな。美味しいゴハンを作れることは良いことだ」
あれからすぐにでも依頼の方へ行きたがるスピアを制して、いったん屋敷へと戻って昼食を取ったのだが、厚かましいことにこいつは自分の分のメシも要求したのだ。
俺の客人及びラーズの妹ということもあって心優しミミルは作ってやったのだが、自国の王女さまの屋敷でそんなことをするとか肝が据わっているというか大馬鹿者というか。たぶん後者だろうな。
Sっ気のあるガーネットがいたなら面白いことになってたかもしれないが残念ながら不在だった。
それからずっとこうだ。
口を開けばメシが美味かっただの、ミミルを気に入っただの、挙句の果てに賭けの報酬にミミルを貸せとのたまう次第だ。
あまりにもうっとうしくてパーティー組んだことを後悔し始めていたが、いざ現場の農場につくとその評価は一変することになった。伊達に地力でAランクには上がっていないようで、依頼人と対面すると手際よく情報を聞き出し、魔物のおおよその位置を割り出し討伐の準備を進める。
俺はそれを横から眺めるだけだ。スピアの方も俺に期待していないようで何も言ってこない。
そしてスピアはレッサーオオトカゲの居場所を特定したらしく、腰に差した武器の調子を確かめると農場の外に出た。俺もその後を追う。
スピアの行く先には森があった。
獲物はトカゲというだけあってジメジメしたとこを好むようだ。
「はああああああ!!!」
俺が森に入るとスピアが魔物と戦っているようであった。
まさかそんなすぐに獲物が見つかると思っていなかった俺は慌てて走るが、スピアが対峙しているのはどう見てもトカゲではなく蜘蛛。レッサーオオトカゲではなさそうだ。縄張りを荒らされた他の魔物が襲い掛かってんだろう。
蜘蛛の魔物は二体いたようだが既に一体は動かなくなっていた。
「焦らせるなよもう」
手を出す必要を感じない俺は戦いに加わることなくスピアの戦いぶりを見ることにした。
細身の剣を使うスピアは一撃の重さを活かしたスタイルではなく手数で攻めるようである。腰の高さほどもある蜘蛛が噛みついてこようとするのを剣を使って牽制し、隙を見計らって側面に回り込む。
蜘蛛もそれが分かっているようでスピアの動きに合わせてお尻を向けて粘着性のある糸を放つもそこに彼女の姿はない。蜘蛛の予想を上回る速度で駆け抜けたからだ。
無防備な側面を晒してしまった蜘蛛に待つ運命は死。
彼女の兄ほどではないが素人目に見ても卓越した剣技で足を切り落とし、動けなくなった胴体を切り捨てた。
「やるじゃん」
俺の賛辞が聞こえたのか分からないが、事も無げに魔物を倒したスピアは歩き出す前に一度こちらを振り返りフッと笑っていた。
おおかた自分の実力を誇示したんだろうな。そしてお前にこれくらいできるのかという挑発も。
まったく見え透いた挑発だ。そんなものに乗るとでも思っているのだろうか。
「チッ」
まあイラっとはしたけどな。
さすが俺に似ているだけはある。何をすれば神経を逆なでることができるか分かっていやがる。
しかも首の角度が鋭角すぎてどこぞのアニメのような感じなのが更に腹立たしさを助長する。この世界にアニメなんてないだろうに、どこでそれを学んだんだよ。
だけどここでスピアを見返すために追い抜いて襲い掛かる魔物を倒したして何の意味がある。俺たちがやっているのは勝負だ。顎を天に掲げることじゃない。
獲物であるレッサーオオトカゲを倒せなければその道中にどれだけ魔物を倒したところで意味がないのだ。
「せいぜいスピアには露払いとして活躍してもらおうじゃないか」
レッサーオオトカゲが見つかったのはそれからしばらく経ってのことだった。
森の中に一際おおきな樹木がありそこにへばりついていたのだ。
オオトカゲというだけあって体長は五メートル近くありかなりデカイ。ギョロギョロとした目でこちらを観察している。
スピアは先手必勝とばかりに駆け出すも剣がその姿を捉えるよりも早く、トカゲは幹を駆け上り枝の上から俺たちを見下ろしている。
ふむ、高いな。
三階建てのビルくらいの高さにいるせいでスピアの剣は届きそうにない。
弓でも用意してれば戦いようがあるが、手持ちの武器が剣のスピアでは一撃食らわせることすら無理だろう。木をよじ登るという手もあるがその間、両手は塞がってしまい無防備な姿を晒すことになる。今は何もしていないとはいえ討伐依頼がくる魔物だ。きっとその隙をついて襲い掛かってくるはずである。
まさに八方塞がり。
やれやれ、自力でランクを上げたとか言ってたけどこのざまとはね。
何年冒険者稼業をやってたか知らないが敵の情報を集めるのは基本だろう。
もしオオトカゲが樹木の上に生息することを知っていれば遠距離道具を持ってきたはずだ。それを怠るとはダメダメですね。
「よし、俺の出番だな」
ふふふ、今度は俺が笑ってやる。
手も足も出ないスピアの肩を叩いて前に出て、魔法で軽くオオトカゲを倒し、そして首を捻ってニヤっとしてやるのだ。
そんなこと考えていたら、スピアが服の中から何かを取りだしていた。
「なんだあれは」
それは丸くて黒い物体だった。
大きさはピンポン玉サイズ。例えるならデッカイ正露丸。あんな物を投げたところでダメージを与えられるとは思わない。まだ手に持っている剣をぶん投げた方がマシというものだ。
しかしスピアはそれをトカゲに向けて放り投げた。
自分に向かって来る物に脅威を感じたのか、トカゲは口の中に閉まってあった舌を伸ばして迎撃をする。
めっちゃ長!?
サイズが通常のトカゲよりも大きいため、その舌もかなりの長さだ。下手すれば地面にまで届きそうなほど。
ゆるい放物線を描いていた黒い玉は見事に絡めとられ、トカゲの口の中へイン。
変化は劇的だった。
緑色だったトカゲの肌が赤色にかわり、微動だにしなかったのにふらつき始める。
そこで俺はようやく気付いた。さっきの黒い球は毒だったのだ。敵の攻撃手段が舌で、何でも呑みこもうとする性質を利用して地面に落とそうということだ。
俺の予想を裏付けるようにスピアはトカゲの落下予想地点に向けて走り出す。
このままだとスピアに負ける!?
「させるか! 風よ、敵を穿つ魔球となれ」
圧縮した風の塊を手の平に作って振りかぶる。
片脚を上げ、腰を捻り、力を貯めて、一気に解き放つ。
目標は枝から落下したトカゲ。
しかし甲子園球児でもない俺には動く的に当てる技術などもちろんない。
とうぜん風の球は大きく的から逸れてしまうが、ここで必殺の
「カーブ!!! 」
「そんなっ!? 」
俺の言葉に従って風の球は鋭角に曲がってトカゲを撃ち抜いた。
そして地面にぐしゃりとトカゲの死体が叩きつけられる。
剣を構えていたスピアは肩を落としてそれを見下ろしていた。
「なあ、スピア」
「……っ!」
俺の呼びかけにビクリと肩を震わせる。
なんて哀れで愚かな子羊だろう。でも俺はそんな彼女に追い打ちをかけねばならない。何故ならこれは勝負なのだ。互いの誇りをかけて挑んだものを有耶無耶になどできない。
「俺の勝ちでいいよな? 」
「……ああ」
スピアの力ない声は森のざわめきにかき消され俺の耳にはまったく届かなかった。ええもう、まったく。
「えっ? なんだって? よく聞こえないなー? 」
「ああ、そうだ」
「何がそうなの? ちゃんと言ってくれないと分からなーい」
「お前の勝ちだと言ってる! 」
「は? お前だって? 俺が勝ったら様づけと呼べと言ったよな? そして語尾はにゃんだと。まさか賭けをなかったことにしないよな? 」
「くっ……」
「セイセイセイ。ほらワンモアプリーズ。あなたは、誰に、負けましたか? 」
「……あたしはユニオ……様に負けました……にゃん」
「ぶはははははは!!!!! お可愛いことですねー。スピアちゃんは猫ちゃんですか? 」
「……す」
「あ? 」
「殺すにゃん!!!」
「やれるもんならやってみろやコラー!!! 」
俺とスピアは血の臭いに釣られてきた魔物も相手にしながら大乱闘するのであった。




