エピローグ
「さあ、今日はいよいよ合格発表の日です! 行きましょう、タロンさん!」
『……俺は連日の仕事探しで疲れているんだ、どうせ受かってるだろうしこのまま寝る』
「次の就職先が見つからないダメなちお父さんみたいな台詞は止めてください! 待ってください! 私ひとりじゃ寂しいです、落ちてた時に誰も慰めてくれないじゃないですか!」
『…………』
「もう、タロンさんの薄情者!」
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そんな訳で、私は今寝ているタロンさんと一緒にモルターリア学院へ結果発表を見に来ています。
ところで身体は動いているのにタロンさんはどうやって寝ているんでしょうか?
少し気になります。
『タ、タロンさーん!』
『……………』
三日間の間に覚えた口に出さない心での会話を試してみましたが反応がありません。
ううぅ、不安です、周りの皆さんも心なしかこちらを見ているような気がします。
私浮いているんでしょうか?
「おっ、嬢ちゃんじゃねえか。結果を見に来たんだな」
なるべく目立たないようにと縮こまっていると前から男の人に話しかけられました。
見上げると、茶色くて短い髪を逆立てた体の大きな人が私を見ていました。
「レオニス先生!」
「覚えていてくれたか、嬉しいねえ。うんうん、最後に見た嬢ちゃんは何だかおっかなかったが今日は普通だな」
「あっ、えへへへへへ」
そうだ、この前の試験ではタロンさんが最後にレオニス先生と話していたんでした。
誤魔化すように笑う私にレオニス先生は特に疑問を持たなかったようです。
そのままいくつかの世間話をしていると、レオニス先生は急に思い出したかのように声を上げます。
「そうだ、丁度いい。嬢ちゃんには特別な話をしなきゃならないんだった。結果もそっちで伝えるから、悪いんだが応接室に来てくれ」
「? わかりました」
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『それで、応接室に通されてどうなったんだ』
「合格だって言われました! ほら、見てください! これが証明です」
『そうか、まあ合格はしてるだろうな。おめでとさん』
応接室での話の後、ようやく起きたタロンさんと一緒に今は街の中を歩いています。
『それで、それだけじゃ終わらなかったんだろう。他には何を話したんだ?』
「私を成績優秀者として入学金や学費を免除してくれるそうです! もちろん、入学後も成績を落とさないのが条件ですけどこれで孤児院の皆の為にいっぱい、お金を稼げます!」
『優秀者として学校に入ることの目的がお金っていうのもなかなか珍しいよな。まあ何にせよこれで第一目標は達成したな』
「はい!」
素直に褒めてくれたタロンさんでしたがここで疑問に思ったのか私に質問をしてきます。
『それで今は何をしてるんだ? もう仕事を探す必要も無いだろう』
「今までは宿に泊まっていましたけどこれからは寮暮らしになるのでその為の準備をしようと思って」
『ああ……学校に通うとそういう物も必要になるのか』
「そういえばタロンさんって学校に通っていたんですか?」
思えば私はタロンさんのことをほとんど何も知りません。
知っていることと言えば別の世界から来た、アルカナ術式という謎の魔術を使う、男の人、それくらいじゃないでしょうか。
これは由々しき事態です、寝食を共にしている方の事をこれしか知らないとは。
シスターも言っていました『仲良くなりたいなら自分からガツンといくんだ』と。
中を深める為にもここは頑張りどころです、私。
『学校何て通える環境に居なかったな。まあたとえ通えるとしても行かなかっただろうけどな……って聞いてるのか? 何か変な顔してるが』
「い、いえ聞いてますよ! 他には何かないんですか、えっと年齢の事とかタロンさんのいた世界のこととか、何でも聞きますよ!」
『何だいきなり……俺の話なんて今まで聞いてこなかったから興味ないもんだと思ってたんだが』
「き、聞きそびれていただけですよ!」
『自分の身体に他の人間が入っているのに大した拒否感を持たなかったり、異世界から来たと言えば簡単に信じるし、もしかしたらヤバい奴何じゃないかと思ってたんだが……何か少し安心したわ』
私、タロンさんにそんな風に思われていたんですね……た、確かに年頃の女子としては少し警戒心が薄いのかもしれません。
『それで年齢だっけ? 正確な歳は知らないが大体同い年ぐらいなんじゃないか』
「えっ?」
『そのえっ、はどういう意味のだ』
「もっと年上だと思っていました、あっでも確かにそう言われると納得です。タロンさん結構可愛いところありますもんね」
『はぁ!?』
「だって私が着替えたりする時意識反らして見ないようにしてますよね? それにそういう時に限ってタロンさん反応悪いですもん」
『…………』
正解だったようでタロンさんは黙ってしまいました。
【恋人】と呼ばれたあのアルカナを使ってから何となくタロンさんの気持ちがわかる時があります。
「でもそのおかげで私はちょっと安心です! 男の子ですしエ、エッチな事言われたりするのかなって心配だったんですけど、タロンさんは安全です。私が保証します!」
『…………』
「そんな訳で今から制服の採寸に行きますけど私は気にしません! 行きましょう!」
『…………』
「タ、タロンさーん?」
もしかして私、また何か変な事を言ってしまったんでしょうか!?
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制服の採寸が終わる頃にはいつものタロンさんに戻っていました。
今度は変な事を言わないように気をつけて質問をしなくては。
「そういえばアルカナ術式ってタロンさんが作ったんですか?」
『いや違う、俺は生まれた時には既にこの力を持っていた。継承されるもんなんだよコイツは。持ち主が死んだら次の奴へ、使えるのは世界に一人だけだ』
「じゃあタロンさんはラッキーだったんですね。そんな珍しい力を持ってたなんて」
『どうだかな。こいつは色々と曰くつきでな、持っているだけであっちでは罪人扱いだ。確かにこれがあったおかげで得する事もあったが、こうして別の世界に来ることになった原因も結局はこれだ』
「罪人……す、すいません、私無神経な事を言ってしまいました」
『気にするな、ここに来た今ではもう終わった話だ。曰くってのもここでは関係ない、だから安心してアルカナを使え』
そういうタロンさんの口調はいつも通りのぶっきらぼうなものです。
ですが、わかってしまうのです、繋がる心からわずかに漏れた感情を。
「タロンさん、絶対に方法を見つけて身体を取り戻しましょう! そしたらこの世界で好きなように生きて下さい、その時は手伝えることがあれば何でもしますから!」
生まれた時には既にその世界では罪人だった。
何もしていないのに、ただ生まれてきただけなのに……そんなのは間違っています。
私は遠い遠い世界から来た彼を閉じ込める籠ではなく、彼と共に飛ぶ鳥になりたいのだから。
『そうだな……まあ弟子が出来たばかりだ。急いじゃいないが、いつかきっとな』
「はい!」
『ついでに魔術だけでなく、その天然とお人好しも直してやろう』
「わ、私は天然でもお人好しでもないです! 普通の女の子です! それよりタロンさんて女の子の好みとか――」
茜色の空の下、そんな他愛もない話を続けながら私たちは帰路につくのでした。
短くはありますが、読んで頂きありがとうございました。
あらすじの通りですので今回の作品はここまでとなります。
よろしければ次の作品もぜひよろしくお願いします。




