第84話
「みんな準備を始めて。
敵がこの野営地を半円形に囲むように200m以内に入って来た。」
俺の声を受けて、仮眠組もみんな起こされた。
気配察知での反応は
人が10人
男爵のところの不寝番にも同じ内容を伝える。
こういうことは交渉スキルを持っているコリンに任せる。
夜目スキルを持っているメンバーは多いが、遠視スキルを持っているのは俺だけだ。
そして俺は夜目スキルの上位版の暗視スキルをもっている。
気配察知スキルも俺のレベル3が、この移民団では最高だ。
つまり索敵は俺の仕事ってことだ。
「150mまで近づいて来たぞ。」
コリンが伝令で走る。
すでに男爵家の騎士従士、デスタパーティは全て起きている。
移民達にも緊迫感が伝わったのか横にはなっているが寝てはいないようだ。
15分ほどが過ぎる。
「150mから近づいてこない。
ただの待機なのか、何か仕掛けをしているのか。」
状況を皆に伝達する。
さらに10分ほどが過ぎた時、木の上に登って弓を射る姿が見えた。
しかし150mも離れていては、こちらに届きはしないだろう。
焦ったのだろうか?
それとも何か意味があるのか。
「矢を射ったようだが、こちらにまでは全然届いていない。」
コリンだけでなく、解放予定の奴隷を2人一組で6組伝令役とした。
状況の変化を刻々と護衛メンバーに伝えるためだ。
騎士・従士・デスタパーティに各2組割り当てる。
またしても動きが無くなる。
さっきの矢はなんだった?
何かの合図であれば動きが無いのはおかしいし。
「サミー。ちょっと一緒に偵察に行こう。」
サミーを選んだのは、夜目と隠密のスキルを俺の次に高いレベルで持っているからだ。
イルとヒルダもわかっているのか何も言わない。
わかっているよね?
時空魔法の「フィールド移動」で先ほどの矢の到達点付近に跳ぶ。
気配察知でわかっていたことだが、周りには何もいない。
さっきの矢が何かの合図だったとしたら「矢文」で手紙が付いているか、「鏑矢」的な音を出す矢じりでも付いているだろう。
「サミー。さっき射られた矢を探してくれ。」
「何か燃やしているような燻っているような匂いがします。」
俺には何も感じられないが、狼の獣人であるサミーは嗅覚拡大スキルを持っている。
俺にはわからない何かがあるのだろう。
「どこだ?」
「こっちです。」
サミーの案内で10m程歩くと、一本の矢を見つけた。
矢にはお守りのような匂い袋のような物が括り付けてある。
「この小袋から燻っているような匂いがします。」
この世界に火薬があるのだろうか。
導火線付きで爆発させて混乱させるため?
にしては量が少なすぎるだろう。
小袋には多少派手な爆竹位の量の火薬しか入らないだろう。
袋を開けてみるとカリントウのような物が燻っていた。
「なんだこれ?」
「さぁ?」
燻したものですることなんて、蚊取り線香位しか思いつかない。
まさか毒や眠り薬とかか?
幸い俺もサミーも低いが毒耐性スキルをレベル1で持っている。
とりあえず亜空倉庫に収納し、野営地に戻ることにする。
男爵のところに、騎士やデスタ、俺が集まる。
「偵察に出て、先程われらを取り囲んでいる者が射た矢を回収してきました。」
亜空倉庫から取り出していた矢を騎士の一人に渡す。
「何かを燻しているようなのですが、毒や虫除けとも思われず。
なにかご存知でしょうか?」
「こっ、これは!」
受け取った騎士が慌てたような声を上げる。
「閣下これは。」
「うむ。」
なにが「これ」で「うむ」なのかわからない。
「これが何なのか教えていただけますか?」
デスタが口を挟んでくる。
もっともな対応だ。
「これは魔呼薬と呼ばれる魔薬だ。
持っているだけで死刑になる非合法な物で、煙で魔物を呼びよせる危険な物だ。」
ってことは?
気配察知に反応がある。
「われらを取り囲んでいた者たちとは別な方向から魔物の気配が近づいてきます。
距離は500m、数は・・・・多数。
中には強そうな反応もあります。」
これはそういうことか。
俺達の周りに魔物を呼ぶ薬を蒔いて、呼び寄せた魔物と俺達との共倒れを狙う、漁夫の利作戦。
思いついたことを話してみると皆も同じ意見だった。




