第75話
アクトック商会はこのデスタの街有数の奴隷商である。
先輩組と別行動をとったのも、サミーとイルがここで売られていたからだ。
嫌な思い出のあるところに連れていく必要は無い。
ヒルダは違うのだが、ヒルダだけ連れていくと残りの二人が拗ねそうだったから。
ルドは未だ小間使い扱いなので多分大丈夫。多分・・・
「お久しぶりです。」
俺が声をかけると商館内がざわつく。
「神」とか「キタァ」とか聞きたくないものがほとんどだ。
「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件で?」
商館序列ナンバー2のワルサーが奥から応対してくる。
さすがに幹部クラスとなれば内心と表面上の対応を誤ることはない。
「また増やそうかと。アウトレットと低価格帯で十人位を目安にお値段次第ということで。」
低価格帯に限定したのは予算の都合や人数の確保もあるが、一番の理由は、高額な奴隷であれば買われた
先でも大事にされるだろうが、低額であれば使い捨てとして酷使される可能性が高いと思ったからだ。
それなら遠くても解放されるほうが良いだろうし。
「かしこまりました。少々お待ちください。」
そういうと、俺たちはバレーコート程の広さの応接間のような部屋に案内された。
「以前の件もございますので、本日はご紹介します奴隷につきましては、どの奴隷でも一人当たり二十万ゴルとさせていただきます。お値段以上の価値は確実にございます。」
以前の事件のせいか、さらにお得になっているようだ。
壽眼で確認してみるとワルサーの言葉に嘘はなかった。
一般
戦闘用地人、三五歳♀、スキル:斧1、鎚1、鍛冶1、工作1 四〇万ゴル
戦闘用獣人(柴犬)、一八歳♀、スキル:短剣1、農夫1、嗅覚拡大 三五万ゴル
戦闘用獣人(黒熊)、一五歳♀、スキル:格闘1、狩人1、夜目 三八万ゴル
愛玩用獣人(黒猫)、二九歳♀、スキル:短剣1、性技1、料理1 四〇万ゴル
勤労用獣人(獅子)、二二歳♀、スキル:裁縫1、料理1、メイド1 三八万ゴル
勤労用獣人(鼠)、二三歳♀、スキル:商人1、経理1、交渉1 四〇万ゴル
勤労用獣人(狸)、二三歳♀、スキル:農夫1 二十三万ゴル
アウトレット
戦闘用獣人(熊)、三〇歳♀、スキル:長柄1、格闘1、野営1 二八万ゴル 右手欠損
勤労用陸人、二五歳女、スキル:耐性(火)1、操船1、風魔法1 二三万ゴル 顔火傷
勤労用陸人、一五歳女、スキル:テイム2、酪農1 二〇万ゴル 両手欠損
「これが現在、当商館におります四〇万ゴル以下の低価格帯の奴隷でございます。」
十人の女が俺の前に整列している。
壽眼で確認してみてもそれぞれスキルを持っている。
「皆と話をしたいんだけど良いです?」
「では、十分ほど席を外します。」
これで、デルソル公国での解放についての意見を聞ける。
ワルサーが部屋を出るのを見計らって皆に質問をしてみる。
「奴隷から解放されるなら異国でも構わないなら右手を上げて。」
少しざわついたが全員が右手を上げる。
「安心できるかどうかはわからんが、場所はデルソル公国だ。人種差別も無いと聞くぞ。」
俺のそのセリフに全員が心なしかほっとしたような表情になる。
「デルソル公国では、奴隷でも国が解放して一般国民にしてくれるらしい。
国で買い取って解放してくれるってことだな。
だぶん、その後で数年は働けとか定住しろとか、なんか条件はあるんだろうけどさ。」
みんなの表情が明らかに変わる。
明るい方向に。
「だから、俺は出した金額以上の利益を得る。
みんなは奴隷から解放される。
デルソル公国は欲しかった国民が得られる。
誰も損をしない取引だ。」
笑顔が見えた。
みんなで笑いながら顔を見回している。
「問題はちょっとだけ遠いのと、途中で魔物や盗賊が出るかもしれないってことなんだけど、自衛位は大丈夫だろ。
移動は馬車を準備する予定だし、みんなにも武器も配布する。
俺を含めて護衛につく。
総勢は百人を超すからザコな魔物は襲ってこないんじゃないかな。」
とりあえず判断材料としての情報は出した。
あとはどう判断するかだ。
奴隷とはいえ、無理やり従わせるってのは趣味じゃない。
「それでも良いって人だけ手を挙げて。もちろん俺の仲間に残りたいって人は残っても良いし。」
全員が笑顔で手を挙げた。
「よし、じゃあ全員購入するんでよろしくね。」
少ししてワルサーが部屋に戻ってくる。
「全員を買います。」
「ありがとうございます。」
だいぶお財布が厳しくなってきたが、将来への投資でもあるし、なにより気分的に何十倍も良い。
奴隷契約を確認すると、皆に装備を配布するために街を連れ歩く。
「服を一人二着と、靴、短剣か槌の武器に革鎧。
制限時間はに三十分。予算は一人十万ゴルだ。」
といって一人一人に金貨一枚を渡していく。
これを持って逃げるようなら、最初からいないと思ったほうがいい。
こちらが信頼して厚遇していることを理解してくれる人間だけが残ったほうが、今後いろいろとやりやすくなる。
もちろん逃げる奴隷がいたとしても、契約上の制約があるため碌な未来はないだろうが。
「遅れたらお昼ご飯から一品減らすよ~。」
皆ダッシュで店に消えていった。
個性はいろいろなようで、ぎりぎり予算いっぱいまで使った者や、最低限だけのものにして半分程度余らせた者などいろいろだ。




