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第69話 閑話 ヒルダ 1

もう死ぬんだ。


少し前まで痛くて仕方なかった身体から痛みを感じなくなってきた。


目はもう両方とも見えない。


耳はたぶん両方ともちぎれてて、かすかに音だけは聞こえる。


右手はもう無いし、体中切り傷や打撲で激痛と鈍痛が常に襲ってくる。


こんな奴隷にはもう価値は無いのか食事も二日に一回、硬いパンと味のないスープだけだ。


長く苦しむよりいっそ死んでしまったほうが良いと思う。


朝方奴隷商が少年と言葉を交わしていたような気がする。


詳細は聞こえなかったし、たぶん私のことを話していただろうってくらいの貧弱な根拠だ。


でもいままでは私のことを話題にするような客も、興味を持つような人もいなかった。


もしかしたら、万に一つの可能性で私も生きながらえることができるかもしれない。


そんなかすかな希望を抱きながら意識を失った。




天にも昇るような気持ち良さで、意識を取り戻す。


目や腕や耳といった、失った部位が温かく癒された感じがする。


「んっ」


体を起こす。五体満足だったころより調子が良い感じがする。


両腕を伸ばす。


ん?


今までずっと纏わりついていた痛みが無い。


不思議に思い、見えるわけでもないのに両腕を体の前に移し、昔のように見ようとしてみる。


両手がある。


見えるはずのない目に、あるはずのない左手が見える。


急に視界がぼやける。泣いているようだ。


手を開いたり閉じたりしてみる。


本当に有る。有る。なくなったはずなのに。


顔を触ってみる。無くなったはずの耳もある。


「耳がある。手がある。全部ある。」


信じられない。


失ったものすべてが元に戻ったようだ。


「大丈夫?」


知らない男の人が声をかけてくる。


「いたく、痛くない。」


体から痛みは去っている。


この男の人が治療してくれたのだろうか。


治療院に行けば私を何人も奴隷に身売りしても払えない位のお金を払わないと治療はしてくれない。


「うん。もう大丈夫だよ。安心して。」


男の人の優しい声が困惑している私の頭に響いてくる。


「わたし、あのまま死ぬんだと・・・」


むしろ早く死んでしまいたかったと。


「もう大丈夫。絶対死なせたりしないから」


救世主だ。いや救生主だ。


この人が私を助けてくれたんだ。


痛みからも。絶望からも。


「ご主人様~。」


目から汗があふれ出る。


体はご主人様に縋りついている。


もう言葉もろくに出てこない。


「ご主人様」ばかりで呆れられないだろうか。


男の人は私の頭を両手で抱きしめ、


「大丈夫、怖くない。大丈夫。」


と何度も癒してくれる。


ご主人様の取り巻きらしき人が現れたが・・・




そこでシリアスは去り、私の腹の音が大きく『グゥ』と響く。


ご主人様。こんな私を見捨てないで。


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