第39話
三度目に遭遇した最後の魔物との遭遇を俺のメイスで締めくくった後に、みんなで地上に戻った。
「サミー。大丈夫か?」
サミーは一切活躍できなかった。
活躍どころか、ろくに武器も振るえなかった。
身体がガチガチに強張っている。
トラウマやPTSDであれば大変だ。
「はい、大丈夫です。
ご心配をおかけしました。」
念のため首筋に手をあてて脈を見る。
早い、早いが一定だし、戦闘後だ。
声も震えてない。
顔色も普通、態度も普通、声も普通。詳しくは知らないが、大丈夫っぽい。
「みんなも問題ないか?」
サミーだけ贔屓してるように見られてはいけない。
ハーレムを目指すためには、気を使う必要がある。
「ご心配ありがとうございます。」
「問題ないです。」
うん。こっちは大丈夫のようだ。
「とりあえず、昼飯にしよう。あとは地図も買わなきゃだけど。」
昼飯のためにデスタの町に戻る。
探索者ギルドで15階層までの地図とボス情報を入手する。
バラエティ居酒屋三号店でお昼を買うことにする。
この間教えたばかりの、ピザだけでお昼の営業をしている三号店はメチャクチャ流行っている。
赤ワインとミートソースピザの弁当を人数分の倍ぐらいの量を買って、公園で食べる。
「考えてみればD級にこだわらなくてもいいんだよなぁ。」
「俺が冒険者D級で、パーティがD級になったんだから、みんな冒険者ギルドに登録してしまえば、別に探索者じゃなくたってさ。」
探索者D級を目指すのをやめて、みんな冒険者に乗り換えることを提案してみる。
異口同音に反対された。
うん。自由な意見交換ができている。
けど、俺にはいくつか不安なことが思いついて仕方ない。
「身体の傷はさ、治るんだよ。
死なない限り、ほとんどは。
魔法もあるし。
でも精神についた傷はさ、身体よりずっと治りづらいんだよね。
俺の魔法じゃ治せない。
精神の傷はさ、普段は何にも無くて、大事なところででるんだよ。
急に動けなくなったり、パニックになったり、心臓がバクバクいったり。」
サミーが身を強張らせる。
「無理なら無理って言わないと、自分だけじゃなくてみんな一緒に終わるんだ。
俺は、俺の周りの誰も死なせたくない。
傷口を抉るようだけど、ダンジョンの十一階層と陸人族。
これのトラウマを解消しないと探索者よりは冒険者したほうが良いってことになる。」
「イル、ヒルダ。
悪いけど午後は二人で、ダンジョンの3階層位までで、適当に訓練しておいて。
二人なら、大丈夫なはずだから。回復薬も渡しておくし。
サミーと俺は、ちょっと別行動するから、夕飯の時間にいつもの居酒屋に集合で。
それまで宿には来ないように。」
一旦解散して、イルとヒルダを送り出す。
LP回復のポーションや、毒消草なんかも持たせたから大丈夫だとは思う。
少なくともサミーよりは。
「サミーには、ショック療法を受けてもらいます。」
とみんなにも宣言しておいた。
二人がダンジョンめがけて出て行った、十数分後の宿の部屋。
「サミー。君に提案があるんだ。」
俺は、考え付くいくつかの将来について提案する。
「ダンジョンとか魔物とか関係ない人生を歩むか、今と同じように戦うかを何の制限も無く選べると
したらどうする?どちらもなんの制限も無いとしたら。
戦いたくないなら、町の中だけでの有る程度裕福な生活が保障されるとしたら。」
サミーがそっちを選ぶなら、俺の経済畑での右腕になってもらおう。
脅しにもなれる力もあるし、用心棒兼経営者。
そっちでも問題なく実力を発揮できるだろう。
「私は、要らないんですか?」
サミーは、今にも泣きそうだ。目が潤んでいる。
冒険者として生計を立てるとすでに言っている。
街にずっといるという提案は、サミーにしてみれば「お前は連れて歩けない」と聞こえたのだろうか。
「違う、そうじゃない。」
誤解を解くのももどかしく抱きしめる。
「前にも言ったけど、俺には君が必要だ、大切だ。」
こっちの世界に飛ばされて、知り合いの一人も居なかった俺。
もともとコミュ難の気が有る俺が、みんなとのくだらない会話に俺がどれだけ救われてきたことか。
でも、俺にはどうしたらいいのか分からない。
「でも、いまのサミーは何をしても、しなくても傷つきそうだ。
どうしたらいい?どうしたら君を守れる?どうしたらサミーを失わずにすむ?」
肩を手でつかみ少し距離をとる。
トラウマになった経緯を考えるに、
自分が何もできずに手足を失ったことや、仲間を失ったこと、自分が無力だったこととかが原因なんだろう。
なら、それを取り除かなければいけない。
強さを与えることはできている。
と思う。
あとはなんだ?