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誘われし狐  作者: こう茶
37/44

参拾四巻

次回動乱と言ったなあれは(ry……


申し訳ございません、書いている内に分けた方が良いかと思い直したので、今回は導入部分のみです。

 刀を支えに立ち上がる。まだ倒れるわけにいかない。


「俺一人相手にこの様か?」


 正直に言えば、少し休みたい。だが、さも余裕であると言わんばかりに胸を張り睥睨した。


「それは聞き捨てならない言葉だね」


「この馬鹿狐、調子に乗らないでよね」


「この程度で俺が沈むとでも思うてか?」


「勝って、お魚たくさん買ってもらうんだから」


 四人の勇士が思い思いの言葉と共に立ち上がる。

 一人目は斬れ味と耐久力を兼ね備えた太刀【月華】と何から何までが純白の小太刀【小雪】の二本の刀を持つぬらりひょんの時宗。整った優しげな風貌からは想像が出来ないほどの鋭い太刀筋は少しでも気を抜けば、頭と体がくっ付いていないという事に陥るだろう。また、ゆらりゆらりと掴みどころの無い足捌きも若草色を基調とした着物と袴に隠されている。 

 二人目は絶対零度の蔑んだ視線を向ける妖艶な美女で雪女の寧々だ。宝石が散りばめられた白い杖を片手に隙あらば、体の芯まで凍える氷属性の魔法と雪女一族が誇る冷気を操る攻撃を放ってくる。彼女が好きな花である桜が描かれた白と桃色の着物はどこか浮世離れした美しさを醸し出す。

 三人目は【滅龍斧めつりゅうふ】と呼ばれる龍が描かれた大きく重い斧と土属性を武器に闘う地天狗の劉石。彼は俺たち五人の中で一番大柄で筋肉質だ。背丈は八尺を超え、鍛え抜かれた筋肉が服の上からでもわかるくらい、膨れ上がっている。以前は白い面を付けていたが、今では朱色の面を付けている。何でも一族の長老たちに認められるとこの面を付けることが出来るらしい。俺たちの中で面の下を見た者はいない。

 四人目は疾風の如き、素早い動きで相手を翻弄しながら、風を操る魔法の込められた短刀で攻撃を加える猫又の鈴だ。存在昇華ランクアップし、外見はより人に近くなり妙齢の女子のように華やいでいる。着物も向日葵が描かれた赤と黒を基調にしており、彼女の元気さと明るさを前面に押し出している。肩に着くか着かないかの白と黒が入り混じった短い髪が激しい動きに合わせて、揺れる。ちなみに、本気で怒ると逆立つ仕様になっている。

 俺は彼らに対して、一人で戦っている。【神気】を纏った神刀と袴の下から生えている七本の尾を主に武器として扱っている。俺が来ている白と赤を基調とした着物は【人化】した時に、自然と身に付いたものであり、いわば俺の毛皮のようなものだ。また、このような武器のほかに種族の特性として火を扱うのが得意だ。寧々の扱う氷と正面からぶつけ合っても、力押しが出来るほどの威力を誇る。

 そして、俺たちは来る試練に備えて、各々の力を確認し合うとともに、俺は【神気】と【妖気】の制御の精度を高め、彼らは【神気】の影響下での【妖気】の扱い方を訓練していた。


 言葉の応酬により、小休憩を挟んだ後に再開する。


「喰らいなさい!」


 寧々による冷気の壁を【鬼火】を纏う事で力尽くで押し通る。それを越えた先に待っているのは正面に劉石、左右から時宗、鈴が白刃を煌めかせる。


「【神衣かみごろも】」


 続けてきた訓練により、【神気】を衣の様に辺りに展開し、防御力を上げる術だ。だが、今回は妨害用の術として使わせてもらった。


「ぐぬぅっ」


「くっ」


「うぅっ、嫌な空気」


 三人が纏う【妖気】が揺らぎ、目に見えて動きが悪くなる。


「三人とも情けないぞ!」


 動きの鈍くなった三人を尾で薙ぎ払う。すると、砕け散った。


「なにっ……!?」


 咄嗟に【神気】と【妖気】を無理やり使い、身を守る。


「【覇斬】」


 劉石が土の陰から飛び出し、斧に莫大な魔力を込めて必殺の一撃を放つ。

 それを蜥蜴のしっぽの如く、尾を犠牲に後ろへ飛ぶ。


「【絶刀】」


 極限までに気配を立った時宗が突然背後から現れ、刀が突き出される。

 刀を持つ腕とは逆方向に現れたために、防御が間に合わず。仕方なく素手で受ける。幸いなのは劉石と比べて威力が斬り落とされるまではいかないところだ。


「【疾風乱舞】」


 これは風と刀の【乱舞】を組み合わせたスキルだ。一撃の威力は時宗よりもさらに落ちる。だが、確実に足が止められ、身動きが取れなくなった。


「【氷断】」


 鈴の攻撃の合間に伸ばされる白く傷一つない腕。その細腕が俺の身体に触れた途端凍り、砕け散った。


「お見事」


 岩の上から飛びおると額の汗を拭った。

 ここ数日間は四人には【陽炎】で作り出した俺と闘ってもらっていた。

 おかげで、俺は大分【神気】と【妖気】の扱いも上手くなった。実戦中に少しの間だが、併用できたのも大きい。

 それに加え、寧々も【氷断】を反動無しで使いこなし、その前の連携も見事だった。


「だけど、決め手に寧々というのは危なくないか?

 素早いわけでもないのに、前に出てくるというのはな」


「そんなこと分かっているわよ!

 それに【氷断】なら距離があっても使えるわよ。ただそれをすると疲れるし、敵味方関係なくなっちゃうしで大変なのよ」


 俺相手だと、容赦のない罵声を浴びせてくる。しかし、これが時宗相手ともなれば、口調が変わり態度も柔らかくなるのだから不思議だ。



「あー分かった分かった。

 じゃあ、遠距離でも使えるってことでいいんだな?」


「もちろん!」


「それなら、それを活かせる戦術を組み立てなければな。

 時宗、後で打ち合わせでもしよう」


「ああ、了解したよ」


 そう言って手拭を収納袋の中から取り出すと、俺に手渡した。それをありがたく受け取って、汗を拭く。

 周りを見ると、鈴はヘトヘト、寧々も顔には出ていないが座ったまま動かないのは疲れ果てているのだろう。時宗は経験故か、力配分が上手くまだまだ余力を残していると言ったところ、劉石に至っては俺以上の持久力を持つため、準備運動程度にしかならないだろう。


 龍顔の男、龍爪との会談の後、俺たちは力や翠を始めとした師匠の知り合いと狩猟組合で仲良くしていた犬神の職員、みやびにはこれから起こるであろう事を説明した。

 後は各々が粛々と自己研鑽を行うだけだと思っていたが、周囲のものたちは俺の予想の上をいく対応をしてみせた。

 まず、雅は上層部の者たちと会議を行い、最近やって来た者への事情聴取、そして、何らかの異変が起こっていることを確認すると組合が自腹を切って依頼を発行。この里の周囲の巡回と、等間隔に人員を配置し、何かが起こった時に情報が即座に伝わるようにした。また、里の者への集団戦闘訓練への強制参加の通達。出来る限りの事をしていた。

 俺たちも実力の底上げを行っていたが、如何せん時間が足りない。

焦りだけが募っていた。


 そんなある日だった。いつものように修行を終え、里への帰路に着いていた時、突如警報が鳴り響いた。


 東に沈む夕陽は真っ赤に大地を染め上げていた。まるで、これから起こることを予期するかのように。

 名前:小次郎

 種族:七尾の妖狐

 位階:八位

 スキル:【魅惑の瞳】【魅了・極み】【鋼毛】【迷彩】【操尾術自動化】【見切り】【身体強化術/早/速/力/硬/神】【神衝咆撃じんしょうほうげき】【状態異常耐性】【付与術】【スキル合成】【四連突よんれんとつ】【二連斬】【居合斬り】【飛斬】【狐陽きつねび】【陽炎かげろう】【鬼陽おにび】【人化】【伸縮術】【火属性魔法強化】【火属性魔法・最上級】【耐性:火/水】【成長促進】【神衣】【災厄】【長寿】【狐神の化身】【狐神へと至る道】


【神衝咆撃】 神気を声に纏わせ、相手を威嚇、または吹き飛ばす。


【神衣】 神気を纏い、防御力を上げる。


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