参拾弐巻
今回は短いです。
が、一度切った方が良いと思い投稿しました。
また、次回からは試練に向け一気に話が進み始めます。
最後までお付き合いくださいませ。
祝羅。一人の鬼の名であり、この氷鬼山の主を指す。
この修行で幾度となく手合せをしたが、今の今まで手を抜いていたのだろう。
それは威圧感、恐怖、畏怖となって襲い来る。
だが、それ以上に胸の内には喜びに満ち溢れていた。
やっと認められたと。
そして、今まさに互いを敵として認識している。
それが何を意味するか?
「クカカカ、小童が粋がりよる」
「今までの恨み晴らさせてもらうぜ」
こんな言葉の応酬でさえも、空気が震えた。
「小童、こんな借り物の力ではなく、【妖】として闘おうではないか」
お互いが身に纏っていたどこか神聖な空気を振り払うと、どす黒く禍禍しい相応しい力を身に纏う。
今までのは神に認められた者たちだけが纏える【神気】。ここからは【妖気】を使う。
本当は分かっていた。
種族が白狐から妖狐になった時に。俺は化け物の名に相応しい存在になったのだと。
けど、認めたくなかった。
俺は人間だったから。
これを使ったらもう戻れなくなると思ったから。
だが、もう迷いはない。
自分を認め、決して否定せずに受け入れる。
するとこの禍禍しい力も案外悪いものではないのだと感じた。むしろ心地いい。今までにないくらいにスッと体に馴染んでくれる。
「クカカカ、良い姿だなぁ。小童!」
目の前に一段と迫力が増した鬼が佇んでいる。白かった肌は黒く、肌だけじゃなく全てが闇へと融けていく。もはや、そこにあるのは紅く輝く双眸のみ。
おそらく俺も同じような姿をしているのだろう。これで正真正銘の化け物だ。後戻りはできない。
しかし、必要なのだ。力が! これからの迫りくる試練とやらを乗り越えるには。だから、最後に胸を借りる。二番目の師匠よ!
「行くぞっ!」
疾走。白黒の世界で金と赤の光がぶつかり合う。
俺と祝羅の瞳は互いを捉えて逃さない。
「【三連突】」
真っ黒になった七本の尾が祝羅に向かう。尾だけは【人化】しても消えなかったのだが、戦闘面ではとても使い勝手がいい。
一本の尾につき三回、計二十一回神速とも呼べる突きが繰り出される。
最初の十回で、祝羅が手にしていた七支刀の防御を剥がし、次の十回で左腕による防御を潜り抜ける。そして、最後の一撃を無防備な腹へと繰り出した。
だが、祝羅はそんなもの眼中に無いとばかりにこちらに大きく踏み込み、大きく頭を引いた。
「グッ!」
「ガァッ!」
突きと頭突きが互いに炸裂したのは同時。
さらに苦悶の声を漏らすのも、後ろに吹き飛ぶのも同時。
それでも、立ち上がり飛び掛かるときには治ってしまう。それは【妖気】を纏っているから。【妖気】は妖が使うと、莫大な力を与えるが、やはりそれにも使用制限がある。それは暗い場所、夜である事、または神域でない事。
このどれでもない場合、例えば今の様に神域で、朝、暗くない、という条件の場合、本来の力を十分の一も発揮できず、また、とてつもない負担が精神へと圧し掛かる。
これに耐えきれなかった場合、【落陽】という現象が起こる。字の通り、二度と日の目を見ることは出来ず、そして、己を律することが出来なくなる。
力に溺れる。
そんな甘美な誘惑と闘いながら、祝羅と闘い続けるのは至難の業だ。
おそらく、もって数秒。言葉を交わす余裕はない。
闘いはさらに加速する。
次第にこの世界での刀の扱いにも慣れてくる。
ただの突きが【二連突き】に、ただの振り下ろしが【飛斬】に、そして、刀を一度鞘に納める。
この大きな隙を祝羅は見逃さない。
空気を切り裂き、七支刀が振り下ろされる。
尾を幾重にも重ね、直撃を避ける。何本か尾が斬り落とされたが些細な事だ。
景色を歪めるほどの熱量を持った拳が振るわれる。意識が飛びかけ、歯が砕かれるが些細な事だ。
死にさえしなければ些細な事だ。
そして、時が満ちた。
「【居合斬り】」
その刃は振るった俺でさえも捉えることが出来ない。
刃に妖気を纏わせ、剣筋に沿って闇が広がる。
光の世界を切り取るように、闇が支配する。
だが、それもすぐに終わる。赤い血とともに。
「クカカカ、見事だ。行け、小次郎」
「ありがとうございました!」
血とともに出た言葉は俺の本心を表していた。
最後の最後で俺に花を持たせてくれた。祝羅が本気ならば、あの拳の一撃で頭部は吹き飛んでいた。
斬られる直前、祝羅には似つかわしくない慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。
この日、修行の日々が終わった。
里に向かっている途中で、晶角蜘蛛の群れを相手に戦った。
ものの数分で戦闘が終わる。登ってきた時は大違いだ。
走りながら下る。ふと懐かしい気配を感じ、さらに加速した。
「みんな!」
妖艶さが増した寧々を中心に、隣で灰色になった髪を後ろで結び撫でつけた時宗が刀を振るい、龍の絵が描かれた大きな斧を持った劉石が寧々の背を守る。そして、少し背が伸び大人びた鈴が刀と風を操り縦横無尽に駆けまわっている。
少し見ないうちに皆も強くなっていた。その事実が無性に胸を打つ。
鈴が最後の【炎皮山羊】を倒すと、こちらに目を向けた。
「もしかして、小次郎?」
俺が知っていた少女の声は今や大人の女性のものへと変わり、それ相応の落ち着きがあった。
「ああ、そうだよ」
微笑む。そして、両手を大きく広げた。鈴がこちらに走ってくるのが見えたから。
変わらない。ここだけは変わっていなかった。
俺たちは妖怪だ。だから、成長により急激に姿かたちが変わるときもある。
けど、変わらないものもあるのだ。
俺の居場所は変わらずここにあった。
鈴を受け止めた着物は嬉しさと喜びで少しだけ濡れていた。
名前:小次郎
種族:七尾の妖狐
位階:八位
スキル:【魅惑の瞳】【魅了・極み】【鋼毛】【迷彩】【操尾術自動化】【見切り】【身体強化術/早/速/力/硬/神】【咆哮・衝】【状態異常耐性】【付与術】【スキル合成】【三連突】【居合斬り】【飛斬】【狐陽】【陽炎】【鬼陽】【人化】【伸縮術】【火属性魔法強化】【火属性魔法・最上級】【耐性:火/水】【成長促進】【災厄】【長寿】【狐神の化身】【狐神へと至る道】
【居合斬り】 体力を消費して、斬撃を放つ。その威力は最高峰。しかし、一度納刀をしなければならない。
【飛斬】 体力を消費して、斬撃を飛ばす。飛距離によって威力は増減する。




