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誘われし狐  作者: こう茶
34/44

参拾壱巻

氷鬼山の主、夜叉である祝羅と出会い、修行と言う名の地獄に叩き落される。

だが、半年にも及んだ続いた地獄も終わりが見え始める。

 長かった地獄が終わる。

 その様な内容を伴った言葉を耳に入れた時には天にも昇るような気持だった。実際、その時天に昇りそうな状況だった。




 ◆◆◆




 俺の頭を踏みつけながら、高笑いすると氷鬼山の主、祝羅は言った。


「クカカカ、なかなか良い動きをするようになったな!」


 頭を上げようと踏ん張るがビクともしない。これだけの力の差を見せつけながら、良い動きをするようになっただと? 嫌味かよ。


「今日はお前に話が合ってな。ああ、よいよい、そのままで聞け」


 クソがッ! 本当にビクともしない。その強靭な体を手に入れるために、どれだけの時間を費やし、どれだけの敵を屠ったのだろう。俺では想像すらできないのだろうな。


「でな、明朝より、ここの鬼たち恒例の娯楽が開催されるのだ。その前座としてお前に出てもらいたいのだ」


「ぐ、俺が、出る、意味は?」


「もちろん、ある。お前が勝てば修行は終えたものとみなそうではないか」


 その言葉を聞いて押さえつけていた足を押しのけ、跳ね起きた。


「本当なのか!?」


「ああ」


 だが、一つ疑問がある勝ち負けのある前座とは、一体なんだ? そこはかとなく嫌な予感がする。


「いったい何をすればいいんだ?」


「我ら晶鬼族だぞ、決まっているだろう?」


 なあ、と続けられた言葉を聞くと、回れ右をし、逃げようとした。だが、尾を掴まれて逃げられない。


「そんなに喜ぶな。だが、先ほどはいささか驚いたぞ。もう動けないものかと思っていたが、まだまだ余力がありそうだな」


 その後、日が落ちるまで前座までの準備運動は続いた。




 ◆◆◆




 と言うような事があり、満身創痍、もう動けない動きたくないと言いたいところだが、今の俺は傷一つない健康体そのもの。自分の回復力が恨めしい。

 しかし、それならそれで今日に全力を出すのみ。これで終わらせるのだ。


 俺がやってきたのは、ここに初めて来たときにやけに印象に残った土俵だ。

 どこか神聖な雰囲気を醸し出す大きな結晶から切り出して作られた土俵。

 そこに向かうにはこれまた透き通った石で作られた鳥居。会場は既に熱気に満ち溢れている。朝だというのに元気な事だ。


「さて、本日一人目の挑戦者は善狐族の小次郎だぁぁぁッ! こいつは半年間族長を相手にし続けた。ごしゅう……なんて羨ましいんだぁぁッ! さあ、今日はその実力を存分に発揮してくれよぉぉッ!」


 会場中に響き渡るは一人の男の声。その声は楽しそうで、笑っている。これから行われる催しが楽しみで仕方ないという様に。


「やれやれ、こっちの気苦労も知らないで」


 一歩一歩進む。土俵を挟んで向こう側にはそれぞれ独特の雰囲気を纏った四人の鬼たちが立ち並んでいる。

 今日闘うのはこいつらだ。一対一で闘い、勝ち抜く事で晴れて地獄の終焉が訪れるというわけだ。


「さあさあさあ、始まるぜぇッ! 神鬼祭の始まりだぁッ! その土俵に上がる前に分かってるとは思うがルール説明だ! 

 単純明快だ。背中が地面に着くか、土俵外へと弾きだすかだ。小次郎、お前は腹が地面に着いたら負けだ!

 よっし、ルール説明終了ッ! さあ、早く始めやがれぇッ!」


 そうこの一歩、この一歩から始まるのだ。

 瞬間、感じる悪寒。俺は今闘いの場へと踏み込んだ。

 

 刹那、喉が切り裂かれ、地面へと沈んだ。


「遅い」


 俺の目の前に立っていたのは小柄な鬼だった。自分の体に合っていない着物を着て、口元を隠している。

 

「けど、甘いのお前の方だったな」


 立っている鬼を尾で上から押しつぶした。

 術を解くと、血の海に沈んでいた俺は消えた。

 沈黙、先ほどまでの熱気が嘘のように静まり返っている。

 その後、すぐに剽軽な鬼を筆頭に騒ぎ始めた。


「おおっと! これは幻術だぁッ! 汚い! けど、そこがいい! じゃあ、次だ」


 俺の前に立ったのはかれこれ半年の付き合いになった源太。


「お次は晶鬼族きっての麒麟児、源太だ! さあ、どんな熱い闘いを見せてくれるんだ?」


 お互いに土俵に入っているが、まだ手は出さない。いや、出せない。現在の俺たちの力は拮抗しているから。


琥心くしんに勝つなんてやるね。もっと時間がかかるかと思ってたよ」


「まあな、ルール有りの勝負だからな、そうじゃなきゃもっと長引いてたさ」


 分かっている。さっきの琥心だったか。あいつと俺との力は大差なかった。本当の殺し合いなら、あいつももっとやりようがあったと思うし、まあ、お互いにだが事前に情報を集めていなかったからな。要は運が良かったのだろう。


「へえ、謙虚だね。あの琥心に勝ったんだ。もっと誇っていいと思うよ。それとも、なにかいあの程度では舞い上がりもしないというわけかい?」


 思わず笑いが込み上げる。あいつの常とう手段だ。


「要らん挑発はよせよ。そろそろ始めようぜ」


 源太はやれやれと肩をすくめた。


「口車に乗ってくれたら、やり易かったんだけどねえ」


 あんな言葉を吐いているが、本当に俺が挑発に乗ってくるとは思っていなかっただろう。俺から片時も目を離さないのがその証拠だ。


 じりじりと距離を詰める。

 動き出しは同時。

 この洞窟で採れる透明な鉱石で作られた長い槍と尾が交差する。

 武器と生身ではこちらの分が悪い。強化し、硬化はさせているがそれでも少しずつ尾に傷が増えていく。

 不意に源太がフッと笑った。


「出し惜しみかい?」


 ああ、そうかい。あいつは余程俺に本気を出させたいようだ。出来れば、後に二人控えているから、余力を残しておきたかったがしかたない。まあ、元々全力を出さずに勝てる位相手じゃないしな。

 その挑発に乗ってやるよ。、けど、一瞬で決めてやる。


「分かったよ。これでも喰らえ」


 槍をさばき続けている俺は消え、源太の真後ろに現れる。

 【陽炎】で姿を隠し、【鬼陽】で極限まで肉体を強化し、【狐陽】で最高威力の爪をたたき込む。

 爪は【狐陽】と同化し、光り輝き圧倒的な熱量を放つ。

 身体は【鬼陽】により青白い炎に包まれている。

 その威圧感は【陽炎】により隠されているはずだった。


「そう来ると思ったよ、小次郎」


 ニヤリと笑みを浮かべた源太が振り返った。

 激突する爪と槍。

 まき散らされる熱気と冷気。

 土俵を囲んでいた結界が浮かび上がり、悲鳴を上げた。


 そして、俺の奇襲は耐えきられてしまった。


「小次郎なら手を抜くはずないよね」


 やはり、この半年間で俺の癖や性格は見切られてしまっていたようだ。

 

「だから、これはお礼だよ。よく見ておくと良い。晶鬼族の秘術――」


 【鬼神化】、と。


 源太から放たれた不可視の圧力はいとも簡単に結界を突き破る。

 やっとの思いで目を開けると、そこには鬼神がいた。

 上半身の着物は弾け飛び、腰には化粧まわしと呼ばれる大きな縄が巻かれていた。その姿はさながら力士の如し。

 その威圧感たるや、祝羅と相対している時に感じるものと同じだ。


「さあ、構えてくれ」


 槍を頭上で回して、構え直す。槍から迸る圧力も先ほどまでとは段違い。

 そして、源太の姿が消える。

 土俵が一部弾ける。次第にゆっくりとした世界に入って行く。

 その世界の中で俺は既視感を感じていた。


「ああ、祝羅と会った時と同じ感覚だ」


 そうか、俺はまた……


「諦めるのかい?」


 そんな声が聞こえる。姿は見えないが源太が口元を吊り上げて馬鹿にするかのように笑っているのが想像できた。

 俺はまた負けていいのだろうか?

 俺の意志はその程度だったのだろうか?

 いや、そんなはずはない!


「誰が諦めるかよぉッ!」


 言葉を発するのと槍が俺の肩に突き刺さるのは同時だった。

 激痛の中、必死に強化と回復を行った。このまま貫かれたら、終わりだと分かっているから。


「やらせるかぁぁぁッ!」


 俺の身体で押さえているおかげで、やっと源太の姿を捉える事に成功した。恐ろしい速さと力だ。なるほど、鬼神の名に相応しい技だ。

 だが、それでも諦めない。


 尾を伸ばす。次に槍に絡みつかせて、一気に力を込めた。


「ハアアァァァ……アアッ!」


 そして、鈍い音を立てながら槍は砕け散った。

 何とか貫かれずに済んだが、すでに槍は源太の手から離れ、俺は宙に浮いている。

 このままだと場外に落ちて負けだ。

 まだ地面には着いていない。なら、諦められない。


「帰るんだよ、あいつらの元に!」


 尾を伸ばして、土俵へと突き刺す。

 予想以上の硬さに、一本だけでなく他の五本の尾も向かわせる。

 六尾の力を集約させて、突き刺さった。一気に体を土俵内に引き戻す。

 源太が待つ、土俵に向かう中で俺は光に包まれた。




 ◆◆◆




 さっきまでの喧騒が嘘のような静謐な白い空間。どちらが地面で、どちらが天井なのかもわからない。

 だが、俺は立っていた。


「よう来たの。主がここへ至るのを待っておったぞ」


 狐の面を付けた着物の女を前にある日の記憶が呼び起された。


「夢じゃなかったのか? それとも同じ夢?」


「くくく、違うぞ。主が自らここに来たのじゃ。いや、いたったと言っても良い」


 俺がここに? 今さっきまで源太と闘っていたはずだが。


「そんなはずはないんじゃないのか?」


「いや、主がここへと至ったのじゃ。己の姿をよく見てみい。それで分かるじゃろう」


 すると床が鏡へと変わった。そこには異形の者の姿が映し出された。

 七本の尾を持った大きな化け狐だ。尾の先はそれぞれ血に塗れたような赤に、白かった毛皮の上半分が黒く染まり、足は黒と白が混じり合い混沌とした色合いだ。純白を保っているのは腹部だけだ。

 そんな姿になっていても、金色に光る瞳は変わらず目を惹いた。鏡に映った自分だというのにふらふらと近づき、己が手に入れたいくらいに欲した。


「さて、大体わかったかの」


 パチンと手を叩くと同時に鏡は消え、元の白い空間へと戻る。


「主は強大な力を手に入れた。故にここに至った。ここは妾だけの、いや、狐神だけに許された空間。つまり――」


 突然の宣告に俺の頭が追い付かない。

 それじゃあ、まるで俺が狐神みたいじゃないか。俺が神に?


「そう、主は妾と同じ狐神じゃ。と言ってもまだまだ見習いと言ったところじゃがの」


 音を立てずに俺の前まで狐神は俺の前に立つと以前と同じように頭を撫でた。

 俺も無意識のうちに撫でやすいように頭を下げていた。


「愛いのう。この様な童に重荷を背負わせたくはなかったのだがの。開いてしまった扉から来た主には背負ってもらわねばならん」


 愛おしそうに撫でながら、悲しそうに言う。


「恨みたくば、妾を恨むのだ。それが一番だ。しかし、恨まれてもなお、主にはやってもらわねばならぬ」


 狐神からは並々ならぬ覚悟が感じ取れた。


「俺はこれから何をするんだ?」


 すると、狐神は両手を大きく広げ俺を包み込んだ。


「まだ主は狐神として完全ではない。故にそこへ至ってもらう。そこに至るには試練を乗り越えねばならぬ。

 それこそ、主が望む、望まずともじゃ。

 それは辛かろう、苦しかろう、悲しかろう」


 ひどく悲しそうに辛そうに告げながら、狐神は続けた。

 「そういう時は妾を恨め」と。

 

「妾からできるだけの事はしよう。だから――」


 どこまでも悲しそうな態度に苛立った。


「俺は、俺はそんなに弱いのか?

 俺を信用できないのか?

 俺が頼りないか?

 俺を侮るなよ」


 そうだ、俺は誰かを悲しませたくてここに来たんじゃない。俺は――。


「試練? 望むところだ! 俺は誓う決してアンタを恨まないと。

 辛い? 苦しい? 悲しい?

 そうなったら、全部俺の責任だろうが!

 それに、俺もアンタも気に食わない運命なら変えてやる」


 その面の下で狐神が呆けているのが手に取るようにわかった。


「そ、それでいいのか? その運命は決して揺るがぬものかもしれぬのだぞ?」


「力尽くでも変える」


 しばらく、睨み合った後、狐神は口を開いた。


「そうか。ならば、何も言うまい。だが、気を付けるのだ。とてつもなく嫌な予感がする」


 その後、言伝と言うよりも神様からだから信託と呼ぶのか? そのような言葉を貰うと意識が再び遠退いてきた。


「戻ったら、己の力を確かめるのだ。主が望む力が手に入っていようぞ。では、今度は同格の狐神として会おうぞ」


 そして、光が晴れる。




 一人残された空間で狐神は面を外し呟いた。


「運命を変える、か。出来ぬじゃろうなぁ」


 小さな妾を想い、涙が零れ落ちた。




 ◆◆◆




「へえ、驚いたよ。戦いの最中に存在昇華ランクアップするなんてね」


 源太の声で我に返る。

 盛り上げ役が何やら騒いでいるが無視だ。

 俺が望む力ってやつを確認しないとな。


「……ほう」


 この贈り物には笑みを隠せない。いい仕事してくれるよ、本当に。


「さあ、行くぜ」


 大きな土俵半分ほどの大きさになってしまったため、源太がやけに小さく見えた。

 眼下では俺のつぶやきに合わせて身構えているのが分かる。

 例の【鬼神化】も変わらずの圧力を放っている。

 だが、今の俺ならわかる。あれはまだまだ拙いと。


「【人化】」


 会場中が灰色の煙に包まれる。

 そして、俺の身体の中不思議な感覚が暴れまわっていた。

 痛みはない。だが、なんだこれは? むず痒いというか、力が只管に凝縮されているような感覚だ。

 煙が晴れると、真っ先に肌色の腕が目に付いた。

 動かせる。これで刀を扱える!


「小次郎、なんだろうね。ははは、全く――」


 一気に追い抜かれてしまったな、そんな呟きとともに源太は地に沈んだ。


『オ、オオォォォォツ! これは何という事だあッ! あの、あの麒麟児が一瞬で――』


「少し、静かにしてくれ」


 まだあどけなさが残る若い声が響く。それだけで辺りが静まり返った。

 この状態に満足すると俺は刀を次の標的へと向けた。


「面倒だ。二人いっぺんに掛かってこい」


 負ける気はしなかった。




「せいっ!」


 盾と槌を持った鬼を峰で場外へと弾き飛ばすと、大剣を持った鬼を剣ごと切り裂いた。

 そして、思う。最初に手に入れたこの刀は斬れすぎると。


「手加減が難しいな」


 大剣を持った鬼も死んではいない。剣を切り裂き、身体に当たる前に峰へと向きを変えたからだ。

 この体中に充実する力を持ってすれば何でもできるような気がしてならなかった。

 再び、刀を相手に向ける。


「降りて来い。帰る前にぶちのめしてやるよ」


 刀を向けられた鬼は獰猛な笑みを浮かべていた。


 名前:小次郎

 種族:七尾の妖狐

 位階:八位

 スキル:【魅惑の瞳】【魅了・極み】【鋼毛】【迷彩】【操尾術自動化】【見切り】【身体強化術/早/速/力/硬/神】【咆哮・衝】【状態異常耐性】【付与術】【スキル合成】【三連突さんれんとつ】【狐陽きつねび】【陽炎かげろう】【鬼陽おにび】【人化】【伸縮術】【火属性魔法強化】【火属性魔法・最上級】【耐性:火/水】【成長促進】【災厄】【長寿】【狐神の化身】【狐神へと至る道】


【人化】 人の形体に成ることが出来る。また、それに伴い一部能力が制限される。


【狐神の化身】 病気にかからなくなり、防御力が常に2倍。また、狐族の特性がさ代限まで引き出せる。


【狐神へと至る道】 過酷な試練を呼び寄せる。しかし、それを乗り越えた先に狐神へと成る事が約束されている。

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