幕前 ◤◸”空蝉”◹◥
※ここに、後で表紙が入ります。
本編↓
——暑い。
蝉達の自由な表現に彩られた通学路。
降り注ぐ陽射しとともに、今日もまた同じ道を歩く。
暑さに耐え、足は自然と校舎へ引き寄せられていた。
しばらく歩くと、見慣れた校門が近づいてくる。
その傍らに、人影が一つ見えた。
おっ、先生が立っているな。
ここは、いつも通り元気な挨拶でもしようかな。
そう思い、小さな歩幅を前に進める。
一歩、また一歩と。
タイミングを見計らい、口を開いた。
ここだっ!
「……お、おはようございまーす……」
先生は笑顔で返してくれた。
「——ん?——あい、おはよう。」
——って、違ぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!
そう、これがいつも通り。
元気なのは”内側”だけ……
”外側”はあまりにつまらない。
——『内』と『外』は、巨大な壁で覆われているのである……
○○○
——男女比3:7の教室。
「おはよー!”魔法の生命”。」
「今日もかわいいねぇ。」
「今度、これ着て~♡」
これに適当な相槌を返す。
そんな日々を送っている。
その魔法のような容姿から、付いたあだ名は”魔法の生命”。
え?”魔法のような容姿”?
もしかしてイケメン?
違う。
そうじゃない。
——背が伸びなかったんだ……。
——顔にも変化もなかったんだ……。
——十六歳 男性 身長:131cm ウルトラ童顔。
——どう頑張ってもダメだったよ。
”童顔”だけにね。ハハッ……
——それが、”鹿田 真面目”に与えられたステータスだった。
小中高一貫校だったから、男らしくなるタイミングもなく、時間が過ぎて。
こんな見た目で、幅広く薄い交友関係を続けたらどうなると思う……?
——男子達には”マスコット”に、女子達には”マスコット”にされていた。
いや、正確には”自分からそうなった”。
相手が求める自分を演じることしかできなかったんだ。
代わりに得たのは、内なる君達と会話をする癖と、自分の中で様々なキャラクターを演じる趣味。
この瞬間、自分がこの人なら、こういう言動をして……
もっと——劇的に。
もっと——この場面を彩れるキャラクターで。
もっと——偽らない自分で……
そんな理想も空しく、周囲に求められた愛嬌を振りまいていた。
……それでも、一矢報いたこともあったりしたんだ。
今からそれを、ご覧頂こう♪
そして、徐に椅子から立ちあがり、後ろで座る女子に話しかける。
「……昨日は本貸してくれてありがとう。俺はね、このキャラが好きだったよ!」
その後、少しの会話をして、自分の席に戻った。
……どうだ?
——”俺” を使いこなしているだろう?
毎日、かわいいなどと言われ続け、自分は本当に男なのだろうかと。
——そんなことを思う日もあったよ?
——けど、まだ伸びると。
——男らしくなれると。
そう信じ、高等部に上がる時、僕から”俺”にコッソリ一人称を変更したのだ。
それが相応しいのか、誰にも指摘されていない。
成長している。
——俺が、俺の《《アイデンティティ》》なんだぁぁ――!
○○○
——少し早く家に帰ると、すぐに”作業”に取り掛かる。
家の階段を駆け上がり、自作の防音室の中に入った。
PCを起動させ、ペイントソフトを立ち上げた。
——俺は、とにかくキャラクターを作るのが好きだ。
頭の中での『こうしてほしい』を叶えてくれるキャラ達。
”この瞬間”、”こんなキャラクター”が、”こんな展開”にしたら最高だろうなと。
そう妄想し続ける。
……作業を続けていると、自然と口が動いてキャラのセリフがこぼれた。
…………。
——いや、本当は気付いている。
キャラクターじゃない……
——『自分が動き、喋って作りたい』のだ。
——『こうしてほしい』は、『こうしたい』なのだ。
だから今日も、孤独の防音室で、俺は喋り続けていた。
…………。
……だが、それが出来ないのも分かっていて。
自分には”勇気が無く”、”人との関係が壊れてほしくはない”。
相手が求める自分の像を壊す。
それは、自分が誰から必要とされなくなるのでは……?
そう考えてしまうのだ。
それに、今が物凄く嫌。——というわけではないしね。
人畜無害を演じているだけで、ある程度は楽しいし、周りは優しくしてくれる。
——それが自分の『やりたいこと』から外れているだけで……
○○○
……設定を打ち続けたキーボードの音がやんだ。
————このぐらいにしておこうかな……
————今日は少し、熱中し過ぎたみたいだ……
……何時間ぐらい経ったのかな?
……まあ、いいや。
…………異常に疲れた。
…………瞼が重い。
………………………………
————こうして、俺の視界は暗闇に包まれた。
満たされなかった渇きと、真夏に飾られた小さな部屋の中で……




