一本の鉛筆
……今回も、ダメだった。
最後まで使ってもらえなかった。
まだ使えるのに捨てられた。
でも…、箱に入ったまま燃やされた時よりは、ましか。
俺は、鉛筆の神。
一本の鉛筆に宿る、ショボい神だ。
この、日本という国には、実に多種多様の神がいる。
俺は、その数多の神々に属しながら、人と共にある事を願う一柱だ。
神といっても、特別にできる事は…そんなに、ない。
せいぜい、集中力をサポートするとか、その程度。
俺を手にしたとたんにものすごい才能が開花するとか、そういうのはない。
なぜなら、俺は…努力をする人間にそっと寄り添いたい、そう思ってショボい神になったからだ。
あくまでも、誰かの…才能が生まれることをサポートしたい。
誰かに才能を与えるのではなく、誰かに才能が芽生えるのを見守りたい。
…類稀な才能や力を得た誰かが活躍する、それは…見栄えする物語にはなるだろう。
けれど、それは俺の力ありきのものであって、誰かの力そのものとは少し違うのだ。
神の力を使って成功する物語は、使う誰かによってそれなりに違う様相を見せてはくれるだろう。
だがしかし、神の力がなければ生まれなかった物語は神の力ありきの物語であり、誰が手にしても紡げる量産型の物語でしかないのだ…。
変なところに拘って、自らチャンスを遠ざけているであろうことは…自覚している。
自分が、わがままをいっているとは…わかっているのだ。けれど、愚痴らずには…いられない。
……筆記用具の神になれば、よかったのかもしれない。
筆記用具というひとくくりを統べる神になれば、自分に向けられる感謝は、今とは比べ物にならないくらい集まるはずだ。絶対数が増えるのだから、より取り見取りで満足の出来る物語を垣間見ることができるだろう。
けれど…、それでは、一人の人間から深く感謝される経験は叶わない。
数多の筆記用具を見渡しながら、一つの奇跡に出会うことは難しい。出会ったとて、すでに物語の終焉に差し掛かっているパターンだって少なくない。
100万人のうちの一人の物語は、薄いのだ。
一人のうちの一人の物語は、濃いのだ。
俺は、濃い物語を、希っている。
切ないほどに、追い求めているのだ。
濃い、乞い、恋、来い……。
………。
……そうだな、今度は、4Bの鉛筆に宿ろう。
濃い鉛筆ならば、きっと…わざわざ買いに来てくれるような誰かに出会えるはず。
HBのあふれる鉛筆界で、わざわざ4Bを選ぶような誰かだったら…きっと大切にしてくれるはず。
ゴミ箱の中のキャラクター付き鉛筆からスゥッと抜け出し…芸術大学近くにある、文房具屋に並ぶ4Bの鉛筆に乗り込むことにした。
これで、俺の望む展開が!!
展開が…。
…。
……今回も、ダメかなあ。
ダメ、なんだろうなあ……。
はあ~。




