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第5話 1位?一緒にしないでもらえるかな

 ソファの上で起き上がると、こちらに来た凛が俺の頭に軽くチョップし、ちょこんと前に座った。


「はい、お兄よろしくね〜」


「はいはい」

 

 凛からドライヤーを受け取る。いつからか彼女の髪を乾かしてあげるのが日課になっているのだ。もう中3なのだが、何歳になっても変わらない距離感で接してくる妹をいつまでも甘やかしてしまう。


「初めての高校はどうだったの?」

 

「あぁ、ぼっち飯は回避できたってところかな」

 

「おぉ〜友達できたってこと?やるじゃ〜ん」


 相変わらず気の抜けている、おっとりした口調だ。


「お兄の高校って部活とかも盛んなんでしょ?楽しみだね〜」

 

「んー、まだ部活入るどうかは決めてない」


 中3にもなって、兄の学校での話なんて気になるものだろうか。

 凛はいつも通り話しているかと思うと、突然こちらに振り返って鼻をクンクンさせた。そして、目を輝かせながらこちらを見上げる。

  

「んん?……お兄から、女子高生の匂いがする!」


 あれ、俺さっきお風呂入ったばかりなんだけど。

 

「それは流石に気のせいじゃ……」

 

「いや、私の鼻は誤魔化せないからね〜」

 

 凛は膝立ちになると、俺の腕や胴を犬のようにクンクンと嗅ぎ直した。


「しかも、これは、かなりの、美少女だね〜」


 なんて恐ろしい嗅覚なんだ。

 これ以上踏み込まれまいと、俺は強制的に凛の体を正面に戻し、ドライヤーの風を強めて髪の乾燥を急ぐ。


「凛、学校には美少女の1人や2人、きっといるもんだよ。どこかですれ違っててもおかしくはない」

 

「ふぅ〜ん?今日だけはその言い訳で勘弁してあげるよ」


 凛の髪を乾かし終えて自分の部屋に戻る。ベッドで横になると、その日はかなり早く眠りについた。羊を数える事もなく。



 

『今日1番の運勢はB型の方〜!素敵な出会いがあることでしょう!』


 次の日。眠気で上手く開かない目をこすりながらリビングに降りると、テレビで朝の占いのコーナーが流れていた。


「お兄、今日は早起きなんだね〜」


 凛が早くも学校のカバンに弁当を詰めている。

 

「あぁ、今日は日直の仕事があるから。凛はまた朝練か?」


「そうだよ、私もついに3年生だからね〜。1日も無駄にはできないよ」


 彼女はこう見えてバレーボール部に所属している。おっとりしすぎていているため、最初の頃は母も俺も運動部で大丈夫かと心配していたが、これまで1日も休むことなく練習に行っている。我が妹ながら大したもんだ。


「あ、お兄。これあげるよ」


 凛はカバンから出した何かを握りしめ、俺の手の上に乗せた。丸くて小さなそれは、黄色で薄透明のスーパーボールだった。

 なんで今スーパーボール……?まぁいいか。

 

「じゃあ、私先に行くね〜」 

 

「お、おお。行ってらっしゃい。ウナギ星人には気をつけてな〜」

 

「はは、意味分かんな〜い」


 凛を見送った後、俺も自分の支度を済ませて家を出発した。外は清々しい程のいい天気だ。登校ルートは人通りもなく、昨日のようにカップルも歩いていない。今日もこの街は平和である。


 まだ時間が早いため人気の少ない校舎に入る。

 教室に着くと、宇月さんが窓際で花瓶に水を差していた。朝日の優しい光が、穏やかな顔で花と向き合う彼女を照らしている。

 

「あ、松村くん、おはよう」

 

「おはよう」

 

「ねぇ、どう?今日の私は」

 

「どうって?昨日と何か違うの?……あ、もしかして髪切った?よく似合ってるよ」

 

「いや切ってないわよ」


 宇月さんが顔をしかめている。

 "女の子が髪を切ったら必ず褒めるべし"というのは、俺の母からの教えだ。

 でも切ってなかったか。諸刃の剣だ……。


「今日は可憐な女子高生のようにお花と向き合ってるんだよ。カエルじゃなくて、お花だよ??」


 そんなに嬉しそうに言われても。このシチュエーションのためにわざわざ花の前で待機してるなんて、可憐じゃなくて残念な女子高生だよ。

 とりあえず彼女に向かって適当に親指を立てておいた。


「ところで今日の放課後、書道部の見学に行くこと忘れてないよね?」

 

「ああ、もちろん覚えてるよ」

 

「よかった。私書道部に入った友達がいるんだけどさ、今日の見学で私たちに書道の体験させてくれるって言ってたんだよ〜。腕が鳴るねっ」


 宇月さんはそう言いながらシャドーボクシングをしている。その動き、書道に必要ないと思うんだけど。


「書道なんて久しぶりかも。宇月さんは得意なの?」

 

「私、こう見えて字は綺麗な方なんだよ」


 そう言うと彼女はチョークを手に取り、黒板の右端にある「日直」と書かれた場所に2人分の名前を書き始めた。


「ほらね、まあまあでしょ??」

 

「おお、確かに美文字だ。……実力はよく分かったんだけどさ、"まつむらそうた"はひらがなじゃなくて漢字で書いてくれない?……せめて苗字だけでも」


 そこから俺たちは授業で使う教材の整理をしたり、軽く床の掃き掃除をしたりして日直の仕事を終えた。


  

 今日から普通に授業が始まる。まだ2日目なのに、高校生とはなんて過酷なカリキュラムを組まれているんだ。これで放課後に部活なんて超人がすることだよ。

 

 春休み明けの怠けた体で数教科続けて座学を受ける。体が慣れていないこともあり、1つ1つの授業がとても長い。そして脳が糖分を欲してきたあたりで、ようやく昼休みの時間になった。


「ふぅ〜。なんだか今日は座ってばかりで疲れたね」

 

「うん、甘いものでも摂らないとやってられないよ」

 

「あ、じゃあ私たち、ご褒美が必要だよね。今日もあれ、やっちゃいますか」


 宇月さんが俺の前に握りこぶしを突き出してきた。なるほどそういう事か。


「受けて立とう。申し訳ないけど今日は勝たせてもらうよ。俺、今朝の血液型占いで1位だったし」

 

「フッフッフ。甘いね松村くん。コーヒー牛乳より甘い。私、星座占いで1位だったから。人類を12種類で分けた中の1位だから。今日の私に君が勝てるわけないよ」


 じゃぁん、けーん!!………

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