第30話 ポケットの中身は誰だってファンタジー
昼休憩が終わると、俺たちは時間通りB組の集合場所に来ていた。午後の活動について佐藤先生から話があるという事なので、みんなガヤガヤと話ながら集まっている。
「今からはレクレーションの時間だ。ルール説明するから、よく聞いておけよ〜」
佐藤先生が説明したルールは大体こんなところだ。
まず、クラス全員にランダムで公園の地図が配られる。地図自体はすべて同じもので、普通に公園の全体マップだ。だが、地図毎にそれぞれ違う場所に×印がつけてある。地図を受け取った生徒から、その印の場所に行けという事らしい。
つまり、とりあえずここからは一人行動になるわけだ。
「蒼汰、お前の目的地はどの辺りだった?」
地図を受け取った誠一郎が、自分の地図を眺めながら確認してきた。
「俺は北の端っこの方だよ。……ここからかなり遠いなぁ」
「そうか、じゃあ俺とは違う方角だな。ま、午前中みたいに走ったりしなさそうだし、良かったじゃないかよ」
「それもそうだね。のんびり行くとするよ。……あ、でも宇月さんにみつかったら『どっちが早く終わるか勝負ね』とか言われそうだし、俺はさっさと行くことにするよ」
「ハハッ、たしかにあいつなら言いそうだな。んじゃ、急いで出発するか。また後でな」
「うん、また」
俺は誠一郎と別れ、すぐに一人で歩き始めた。
昼食後の無気力な状態で黙々と歩みを進める。……満腹で体が重いし、目的地まではやはり遠い。一体今日はどれだけ歩かさせられているんだろう。
芝生でドッジボールをしている他のクラスの生徒たちを横目に、所々雑草が生えたアスファルトの道を歩き続ける。
高校生にもなって公園か……と思っていたが、案外みんな楽しんでいるようだ。かくいう俺も、今となってはガヤガヤしている観光地より良かったかもと思ってしまっている。
結局、プライベートではあまり外出する機会がない同級生たちと出掛けるとなれば、どこへ行ってもそれなりに楽しめるのだろう。俺もちゃんと高校生しているという事だ。
のんびりと歩いたため、10分ぐらいかかっただろうか。ようやく地図に印された場所に着くと、そこにはポツンと宝箱が置いてあった。正確には、"宝箱"と書かれた小さめの段ボールがあった。
そういえば遠足の前、佐藤先生が何人かの生徒に事前準備を手伝ってもらったと言っていた。おそらくこの段ボール……じゃなくて手作り宝箱がそうなのだろう。
段ボール製とはいえ、なんだかんだ宝箱の中身は気になるので、早速開けてみる。甘いおやつでも入ってたらいいな。
…………中には、新しい地図と小さな紙が入っていた。
"あなたの番号は13番。新しい地図を持ってもう一人の13番を探せ。ここまで使っていた地図は宝箱の中に置いていけ。"
紙にはそう指令が書かれている。
"もう一人の13番"という事は、他の宝箱を空けたクラスメイトの誰かが、俺と同じ13番を引いているという事だろう。
で、一緒に入っていた新しい地図は……よく意味が分からない。
この公園の一部を写したような地図だが、どこかに印があるわけでもなく、文字も書かれていない。
指令には"この地図を持って"と書かれているし、相方を見つけるために使うのか?相方がこの地図の範囲にいるという意味だろうか??
最初に先生から受け取った地図と見比べたところ、新しい地図はどうやら公園の東側を拡大したものらしい。
……まぁ、とりあえず地図の範囲に向かってみるか。
再び歩き出し、トボトボとアスファルトの道を進んでいると、委員長の件が頭をよぎる……。
委員長は過去の親友とのいざこざがあって、今の控えめな性格になってしまっている。誠一郎の顔が見たいというお願いは、最終的には昔のように明るい委員長に戻ってほしいという事なのだろうが、今日初めて委員長と話した俺にできることなんてあるのだろうか……?
顔を隠す理由なんて触れられたくないという可能性だって大きいし、無関係な俺が下手に過去に干渉するのは良くない。
委員長は人の恋を応援したことがトラウマになっているのに、俺が誠一郎の恋を応援するのは、皮肉で残酷な事なのではないか。
彼女の悲しい過去を知った手前、無邪気にメガネを外してもらう事はできなくなってしまったな。
一人で考えながら歩き続けていると、自分が進んでいる方角に設置されている自販機が目に入った。
喉も乾いてきたし、何か買って少し休憩するとしよう。
自販機にたどり着き、どれにしようかなとラインナップを眺めながらポケットに手を突っ込む。
…………しまった。そもそもお金なんて持ち歩いてなかった。
「お兄さんっ、私のおすすめはこのジュースです!価格はお手頃160円!なんと、今ならスマイルは0円ですよ?いかがですかっ??」
「うわっ!宇月さん、いつからいたの?」
自販機の横から急にジュースを指差してきたのは、15分ぶりの宇月さんだった。
「ここで座ってたらね、なんだかボーッとしてる松村くんがこっちに向かってきてたから、自販機の影に隠れてたんだよ。やっぱり気づいてなかったんだね」
本当に驚いた。考え事をしていたせいで、かなり視野が狭くなっていたのだろう。
「うん。誰もいないと思ってたからびっくりしたよ」
「でしょ?……で、松村くん、どれにしますか??」
「え?あぁ、じゃあオススメしてくれたコレがいいな。……でも、ごめん。今お金持ってないから、貸してくれない?」
「え?お金?あは~は~……」
なんだその苦笑いは。
……そういえば、見たところ彼女は何もドリンクを持っていない。……まさか。
「宇月さん、ここでドリンク買って休憩してたんじゃないの……?」
「そのつもりだったんだけどぉ……お金、持ってなかったから…誰か来るの待ってたんだぁ……」
「そ、そっか。…………ハ、ハハッ……」
「…………で、松村くん、ど、どれにします……?」
「………………じゃ、じゃぁ、スマイルください……」
「へ……へへっ……」
宇月さんは少し首を傾けながら、照れ臭そうに笑顔を見せた。




