第28話 自称ブラックサンダーとベテランの囚人
「はいはい、よく頑張ってくれたよ。あと、サングラス、役には立たなかったけど、使ってもらえたみたいで良かった」
「あ、これありがとねっ。……ほら、私も結構似合うでしょ?」
宇月さんは自分の襟に引っ掛けていたサングラスを装着した。
「うんうん、カッコいいよ」
「でしょ?これを付けてフィールドを駆け巡る私……黒い稲妻と呼んでくれよ」
「おぉ、カッコいい……。さすが帰宅部のエース」
「へへっ。松村くんはこういうのが好きだったか〜」
そう言って満足そうな顔をした宇月さんは、サングラスを外して手渡してくれるかと思うと、当然のように俺の顔に装着した。……え、なんでまた俺にかけたの。
「あははっ、松村君似合うじゃん」
江口さんにタイミング悪く気付かれてしまった。今まで天羽さんと二人で話していたのに。
「でしょ?松村くん憧れの陽キャになれてるでしょ??」
「ちゃすっ」
「ごめんやっぱなれてなかったわ」
よし、俺の陽キャ辞典からこの挨拶は抹消しよう。
「あははははっ、陽キャでもそんなあいさつしないよ〜」
横で笑い続けている江口さんの顔を見ていると、彼女は俺の視線を感じたのか、突然ハッとした様子で腕をクロスさせた。
「……あっ、ねぇ、松村君。どこ見てるの?」
彼女は明らかに自分の胸を守っている。
「い、いや、そこは見てないからっ」
「ふーん?」
「……あぁでもそういう使い方があったか」
「…………っっ!!ま、松村くんはサングラス禁止!!」
宇月さんが横から慌てて俺のサングラスを没収した。
「冗談だったんだけど」
「そ、それでもだめ!!」
そしてサングラスは定位置(宇月さんの襟)に戻ったのだった。
それから少しの時間が経ち、牢屋の中の生徒はさらに増えていた。
見た感じ、そろそろクラスメイト全員になる頃だろう。しかし感覚的にはお昼も近いので、警察と泥棒のどっちが勝つか決まる、重要な最終局面といったところだ。
「んー、辺見君たち、まだ捕まらないね〜」
座ってリラックスしている天羽さんが何気ない顔で呟いた。
「天羽さん、さっきもそんな事言ってた気がするけど?」
「あっ、そうだったね、助けに来るかもしれないんだもんね」
「いや〜友梨乃、分かるよ。私もここに入ったらなんだか安心しちゃった。追いかけられてるハラハラ感が無いから、自然と心穏やかになるしね。なんならもう外に出るのは怖いよ。ずっとここで養ってほしいよ」
……追われたいって言ってたの誰だっけ。
「ん?あれ、もしかして委員長じゃない?」
ダメニート宇月さんが指さす先には、恥ずかしそうに俯きながら牢屋の方に歩いてくる委員長の姿があった。
「鈴さん、こっちこっち」
江口さんも委員長に気がつき、こっちにおいでと手招きした。
「すみません……。捕まってしまいました」
「いやいや、いいんだよ。鈴さんとも早くお話したかったし」
「そ、そんな……」
ピピィィーーーーー!!
二人の会話を遮るかのように、突然お昼を知らせる笛の音が鳴った。こちらに合流して座ったばかりの委員長も驚きを隠せない様子だ。
「ケイドロ終了!笛が鳴ったから、午前の遊びはこれで終わりだ。あと、さっき人数を数えたんだが……まだ辺見だけ捕まってないみたいだな」
佐藤先生が、牢屋にいるB組の生徒全体に向かって話している。やはり誠一郎は捕まってないみたいだ。
「おおっ、それってもしかして……!」
「そうだな、泥棒側の勝ち。辺見のグループが優勝?みたいなもんだ」
「いぃやったぁー!!」
嬉しそうに笑う宇月さんが、俺と天羽さんに片方ずつ手のひらを見せた。
パンッッ!
お昼の時間になり、荷物置き場に弁当を取りに行く。誠一郎も戻ってきたので、久しぶりにグループ四人が再集結だ。
「ねぇねぇ、委員長も一緒に食べようよ」
宇月さんが、弁当箱を持って一人でどこかに行こうとする委員長を呼び止めた。
「え……。私がいるとお邪魔だと思うのですが……」
「そんなことないよ?みんなで食べようよ」
天羽さんも優しくフォローを入れる。
江口さんに委員長を借りる話はつけてあるので、遠慮なくこちらのグループにいてもらっていいのだ。
「じゃあ、あそこの芝生で食べようぜ」
誠一郎が誰も座っていない芝生のスペースを指差した。
「賛成」
この公園は芝生だらけなので、皆、思い思いの場所で弁当を広げている。お昼が終わったら、そのままひと眠りできそうだな。
芝生に着くと、五人とも疲れた様子で座り込んだ。
「ふぅ。誠一郎、大活躍だったね」
「おうよ!蒼汰と別れた後も隠れ場所を転々としてな。何度か追いかけられて、なかなかハードだったぜ」
「辺見くん、見つかっても逃げ切れてたんだ。すごいね」
「ほんとに。俺はあまり役に立たたなくて申し訳なかったよ」
「いや、こっちも結局助けに行く余裕なくて悪かったからな。みんなの勝利ってことでいいんじゃないか?」
「ふふっ。やっぱり勝ちは嬉しいねっ」
宇月さんが気持ちのいい笑顔を見せる。相変わらず、勝負事は好きなんだな。
「よしっ、じゃあお昼食べますかっ」
そう言うと、口元を緩めた宇月さんは早速例のアレを取り出した。
「じゃぁ〜〜ん、お待ちかねの激辛だよ」
「おっ、結局何作ってきたんだ?」
「……おにぎり!」
おにぎり?おにぎりを辛くしたのか。
見た目は赤くない……ということは、中身が気になるところだ。
「中に辛味噌が入ってるんだよ。……すごく辛い、ね」
「ゆ、友梨乃はこう言ってるけど、全部辛いわけではないんだよ?」
たしかにおにぎりは五つある。見た目では違いがなく、辛い辛くないの区別はできないが。
「この中で一つだけ違うからね」
「おぉ、一つだけ辛いんだ」
「ううん、一つだけ辛くないの」
「……なに!?」
……場に一瞬だけ緊張感が走る。
「……もしかして、全員食べるのか?」
「もちろんだよ〜!ちょうど五つあるもん!」
「わ、わたしも参加するんですか……?」
「当然!いいんちょーも一緒にも食べよっ!」
宇月さんのまぶしい笑顔。悪気などなく、純粋に一緒に楽しみたいといった感じだ。……委員長、気の毒に。
「勢い余って作りすぎちゃってね……へへ」
この中の四人……ほとんどの人が火を吹く羽目になるのか。
「デスゲームじゃん……」
「蒼汰、心の声漏れてるぞ」
「……さっ、私はどれが当たりか知ってるからね〜、皆で先に選んでよ。もちろん友梨乃も知らないから、好きに選んでくれていいよ〜」
ふと天羽さんを見ると……冷や汗をかいて体をプルプルさせている。
当たりの場所は知らないけど、きっとおにぎりの辛さは知っているのだろう。……それでも食べないといけないなんて、なんて残酷なゲームなんだ。
「じゃあ、俺はこれにするぜ」
最初に誠一郎が選び、各自次々とおにぎりを手に取った。四つ目を委員長が選ぶと、弁当箱には最後の一つが残っている。
宇月さんはその最後のおにぎりを深刻な顔で見つめると、震えた手でそれを掴んだ。
……あぁ、それ辛いおにぎりなんだな。




