03 柳橋美湖 著 『アッシャー冒険商会 33』
【梗概】 大航海時代、商才はあるが腕っぷしの弱い英国の自称〈詩人〉と、脳筋系義妹→嫁、元軍人老従者の三人が織りなす、新大陸冒険活劇連作掌編。今回はフランス・ルイジアナ植民地領都セントルイスで行われた魔法使い会議についてだ。
挿図/(C)奄美「ダンジョン行」
33 魔法使い協会新大陸支部(長寿)
――ロデリックの視点――
「新大陸の魔法使い諸君、ようこそ、セントルイスへ。――クラッピーはここの名産品でね、堪能したまえ」
そう言ったのは、ホストを務めるダレット伯爵なるフランス人だった。
五大湖に近いあたりに端を発し南流するイリノイ川は、やがてミシシッピ川としてメキシコ湾に注がれる。フランスは一六七三年に先住民と友好関係を築き、八十年に川の西岸にニューオリンズ砦を築いた。――イリノイ川にはおびただしい淡水魚が棲息するため、漁業が盛んだ。
クラッピーは淡水性のスズキだ。その身は鶏肉に近く、議場となった食堂で供されたムニエルやフライといった料理は確かに、絶品だった。
三角帆のキャラベル船を曳船に、数隻の艀を連結させ、川を上り下りさせる。会議場となったのは、桟橋に係留された艀を改装した水上賭博場で、そこを借り切ったのは〝魔法使いギルド新大陸支部〟だ。
十七世紀末の北米大陸は、東にイギリス、中央にフランス、南にスペインが植民地を領し、北端のアラスカにはロシアがちょっかいをかけようとしていた。英仏間にあるアパラチア山脈一帯や、西海岸あたりはまだ空白地だが時間の問題で、各国領土が国境を接するのは時間の問題だろう。
そんなきな臭い世相を反映してか、列強植民地はそれぞれ、本国との交易は盛んだったものの、他の植民地との間では、ほとんど交流がなかったのである。
*
水上賭博場を拠点に、僕ら会員はボートで対岸に渡り、そこから馬に乗って、西へ十マイル(十六キロ)ほど行ったカホキアと呼ばれる場所にたどりついた。
ダレット伯爵は言う。
「会員諸君、気が付かぬかね。我々が立っている広場は昔、先住民たちが築いた都市が埋まっている。広場の縁辺にある大小二十からなる丘はすべて人工物でね。よく見ると二段になった墳丘で、山頂と犬走が平場になっていることに気づくだろう。――最も大きな墳丘モンクス=マウンドは、長さ三十四ヤード(三一メートル)、幅二十六ヤード(二十四メートル)の長方形で、高さ三十三ヤード(三十メートル)の規模を誇っている」
「伯爵、こ、これはピラミッドの一種では?」
「さよう、墳墓だ。古代エジプトや古代マヤ文明に匹敵するもので、先住民長老の話しによると数百年前に疫病が流行って、百年くらい前に最後の住民が街を去り、原野に帰ったのだそうだ。我々は墳墓の一つを密かに発掘調査している」
墳丘法面の一端が開口し、モッコを担いだ先住民作業員が代わる代わる、内部の土砂を外へ掻きだしていた。
「では内部へご案内しよう。我々はとある遺物を発見した。――それがこれだ」
桟道の奥に玄室があり、奥に、白骨化した王者とおぼしき被葬者が玉座に腰かけ、こちらに対面していた。――床には、翡翠や真珠、それから銅製品といった副葬品が積み上げられている。一際目を引いたのは玉座の王が手にしていた〝マカナ〟だ。マカナというのは木剣に溝を穿ち、黒曜石プレートをはめ込んだ武器だ。アステカ文明の戦士たちが帯剣していたものと共通している。
伯爵が指差したのは石積みの壁で、そこに緑錆を噴いた銅板が意味深にはめ込んであった。――毛彫りで意匠が描かれてはいたのだが、文字というほどの規則制はなく、記号化されていない。――だが絵や、銅板自体に込められた製作者の残留思念から、およそ何を言わんとしていたのか、察することがきた。
北米フランス領ルイジアナでの主要産業は、先住民との毛皮交易、イリノイ川での漁業、そして私掠だ。私掠というのはつまり盗賊である。
いつの間にやって来たのだろう。マスケット銃を携えた男たち二十人ばかりが、我々がいる開口部を取り囲んでいた。
「旦那方って金持ちなんだってな。人質にして家族から身代金をふんだくってやる。ついでに、発掘したお宝も戴くぜ」
けれども伯爵はニヤリとして、盗賊たちのほうに振り向くと術式を詠唱しだした。
「ご来賓諸君、申し訳ないが、おあつらいの〝生贄〟がきた。賊どもを〝王〟に供じ、これをして我らが発掘した無礼を詫びることにしたい」
――魔法使いに喧嘩を売るとは片腹痛い。
僕を含む魔法使いたちは先住民の作業員たちを手伝って、二十人の盗賊たちを玄室に放り込み、入口に掻き出した残土を戻し、塞いだ。――その際、玄室の奥から次々と、黒曜石の剣〝マカナ〟で、身体が斬り刻まれてゆくような音がした。
僕がアッシャーの荘園屋敷に帰った翌年、ダレット伯爵から『ルルイエ異本』なる書籍が送られてきた。
伯爵は、地球外の神々を〝蕃神〟と呼び、そのうち旧神に反逆した眷属神を旧支配者と呼んだ。知性を保ったままアンデット・モンスター〝エルダーリッチ〟になった墳墓に葬られた王によると、旧支配者オサダゴクアが、カホキアの街にやってきて暗黒の儀式と饗宴を催して災厄をばら撒き、街を崩壊に導いたのだと述べる一節をみつけた。
了
〈登場人物〉
アッシャー家
ロデリック:旧大陸の男爵家世嗣。新大陸で〝アッシャー冒険商会〟を起業する。実は代々魔法貴族で、昨今、〝怠惰の女神〟ザトゥーを守護女神にした。
マデライン:男爵家の遠縁分家の娘、男爵本家の養女を経て、世嗣ロデリックの妻になる。ロデリックとの間に一子ハレルヤを産んだ。
アラン・ポオ:同家一門・執事兼従者。元軍人。マデラインの体術の師でもある。
その他
ベン・ミア:ロデリックの学友男性。実はロデリックの昔の恋人。養子のアーサーと〝胡桃屋敷〟に暮らしている。
シスター・ブリジット:修道女。アッシャー家の係付医。乗合馬車で移動中、山賊に襲われていたところを偶然通りかかったアラン・ポオに助けられる。襲撃で両親を殺された童女ノエルを引き取り、養女にした。




