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自作小説倶楽部 第30冊/2025年上半期(第175-180集)   作者: 自作小説倶楽部
第179集(2025年05月)/テーマ 「浮気」
21/26

04 らてぃあ 著 『事件の後』

梗概/浮気調査なんて碌でもないと思って書いた話。


挿絵(By みてみん)

挿図/(C)奄美「マダムの午後」


「仕事は終わったはずよ」


 夫人は一見穏やかな微笑を浮かべて俺に言った。よく見ると瞳の奥に剣呑な光が宿っている。獲物に飛びかかる蛇を連想した。俺は少し息を吐き、用意していた台詞を口にする。


「当探偵事務所はアフターケアも万全なんですよ。契約時に説明したでしょう? なに、30分もかかりません。お話させてください」


 夫人は一瞬、扉を閉めようとドアノブを掴む右手に力を入れたようだが、マンションの通路の曲がり角から住人のおばさんがこちらの様子を伺っているのに気が付き、俺を部屋に招き入れた。


「引っ越し作業中で食器も無いからお茶も出せないし椅子も無いわよ」

「かまいません」


 段ボール箱に足を引っ掛けないように廊下を歩き、居間に入るとそこは本当に何もない空間になっていた。仕方ないので立ったまま資料を取り出して、やはり立っている夫人に差し出す。


「以前の浮気調査に誤りがあったので訂正させていただきます」

「それはもう必要ないわ」

「何故?」

「知っているでしょう? 調査の次の週に夫は死んだのよ。浮気を理由に慰謝料を取ることも出来なくなったわ」

「訂正したいのはそこですよ。旦那さんは浮気をしていなかった」


 俺は取り出した写真を突きつけた。派手な化粧をした女性が美容院を出るところが写っている。ただそれだけの写真だが夫人にだけは違った。顔色は見る間に悪くなった。

 驚愕で声も出せない様子なので俺は続ける。


「監視カメラの映像ですよ。入手方法は企業秘密ですがね。貴女が店に入る時から撮影されています。最近のカメラは高性能でしょう? しかしもっと驚きなのは貴女の返信能力の高さです。俺も仕事で変装はするが白旗を上げそうですよ。清楚な人妻が派手な浮気女に姿を変えて、一人二役とはね。旦那さんには気分転換に化粧を変えてデートしようと誘ったのでしょう。貴女は間抜けな探偵を利用して夫の浮気をでっち上げた」

「いつから私を疑っていたのよ」

「おかしいな。と思ったのは最初からですよ。まず、一日だけピンポイントで浮気調査というのがありえない。旦那を懲らしめるにせよ、離婚するにせよ浮気の継続性の照明が必要ですからね。まさか2度変装して旦那を殺すとは思いませんでしたが。今も警察は現場で目撃された派手な水商売風の女を追っている」

「何が狙い? お金?」


 夫人の視線に軽蔑が混じる。


「あくまでアフターケアですよ。理解しがたいと思いますが、確かに探偵の仕事なんて他人のプライバシーを掘り返したり碌なことはしない。でも余計なことに気が付くと知らんぷりするのも気が滅入るのでやっているんです。一つだけ、どうしてもわからないことがあるので質問させてください。どうしてすべて一人で背負おうとしたのですか? 貴女の旦那は浮気こそしていなかったが、DVに職場でのパワハラ、ライバルへの嫌がらせ等々、反社とも付き合いもあり、まるで人間の形をした災厄でした。彼を恨んで、喜んで共犯になる人間なんてたくさんいたでしょう?」

「私にもよくわからない」


 夫人は床にへたりこんだ。


「ある人、いえ、私の浮気相手。私の方が浮気していたんです。その人から、夫の殺害を持ち掛けられたんです。貴女の手は煩わさない。山奥に埋めるのまでやってくれるって。その時に夫が自分の知らないところで殺される可能性があるって気が付いて、それが我慢ならなかった。探偵さん。それは私は夫を愛していたからだと思う?」


 俺は返答に困った。探偵なんて役立たずだ。


 了

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