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自作小説倶楽部 第30冊/2025年上半期(第175-180集)   作者: 自作小説倶楽部
第177集(2025年03月)/テーマ 「誠実」
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10/26

01 奄美剣星 著 『エルフ文明の暗号文 15』

【梗概】新大陸副王府シルハを舞台にしたレディー・シナモン少佐と相棒のブレイヤー博士の事件捜査。


挿絵(By みてみん)

挿図/(C)奄美「ブレイヤー博士」


ブレイヤー博士:

考古学者。レディー・シナモンの学生時代学友。大学卒業後に士官学校へ進んだレディー・シナモンにスカウトされ、少尉待遇の軍属・補佐官となり、新大陸で繁栄・滅亡したエルフ文明の謎に迫る。学生射撃大会優勝者。軍人の割りに銃火器・体術がからっきしなシナモンの盾役であり、物語述者でもある。

    15 誠実


 ――ランティエ兄妹連続殺人事件で、妹のエロイーズが殺害されたアラスで確認したいことがある――



 五月八日水曜日・夜。

 王国特命遺跡調査官レディー・シナモン少佐と、彼女の補佐官である私・ドロシー・ブレイヤー博士は、翌日早朝出発のアラス行きの列車に乗るため、北駅近くに宿をとった。


 時間潰しに駅前商店街を行くと、ラジオ・ニュースや新聞は相変わらず、有名人のスキャンダルと舞台や映画といったエンタメ情報ばかりを報道していた。

 北駅の裏側に回ると操車場があり、そこから望めるのは人家もまばらな郊外の風景だった。唯一目を引くのはフォーブル=サンドニ通りとシャベル大通りとの辻にある劇場〝ウーヴル座〟という昔の兵営を改装した劇場だった。


 そこで、たまたま女性歌手ピアフのステージがあった。

 ピアフは大道芸をやっていた父親とカフェで歌手をやっていたとの間に生まれたのだが、彼女が生まれるとすぐに、母親が失踪してしまう。そのため娼婦館を営む父方祖母に預けられた。子供時代の彼女は、社会の底辺を生きる《《お姐さん達》》に可愛がられたため、独特の人生観を持つようになった。

 十九歳のときに、ナイトクラブ歌手としてデビューし、「アコーディオン弾き」を歌ってヒットさせ、レコード化されることになる。


 ピアフは小柄であることから雀を意味する源氏名だ。――実際の年齢とはかけ離れた、哀愁のある歌いっぷりが、黄金の髪をした若い貴婦人の印象に残った。


 ショーの後、シナモンが、ホテルに引き上げようとしたときのことだ。玄関先で、ピアフがシナモンを呼び止め耳打ちした。


「レディー・シナモンですね。ランティエ兄妹のことを調べていらっしゃるようだけど、ほどほどにしたほうがいいわよ。あの二人は実の兄妹ではないみたいだし、お兄さんのアベラールが死んだ後、そっくりな人を見かけたって噂も聞いたわ」


 シナモンは目を丸くして、

「ピアフ様、そのお話はどこから?」


 可憐な歌姫は世の中の裏事情にも通じているようだった。だがシナモンが答えを聞く前に、二人の周りに人垣が出来てしまい、ピアフはファンの求めに応じてサインを書き始めた。


   *


 翌九日・木曜日。

 レディー・シナモンと私・ブレイヤー博士は北駅に停車している急行列車〈ラ・リゾン〉に乗るべく、ホームに立った。

「〈姫様〉、またファンがついて来たようですわね」

 ときどき感じる黒い影がある。――何のために私達を尾行しているのだろうか?


 荷物は赤帽が運んでくれる。レディー・シナモンと私は一等室のコンパートメントに入ろうとしたとき、見たことがある人物が、同じ列車に乗るのを見た。今しがたの黒い影ではない。新大陸のシルハ副王領に本国から派遣された、連絡武官のフルミ大尉だ。


 ホームで私達を呼び止めたフルミ大尉が険しい顔をして、

「レディー・シナモン、ブレイヤー博士、〝前線〟に動きがあった。真犯人をつきとめるなんて場合じゃない。アラスへは行くな。無理なら早々に切り上げろ」

「どうしてそんな話を私に?」立ち去ろうとする大尉に、若い貴婦人が訊いた。

「個人的に貴女のファンだからだとでもしておいてくれ」


 ――ファン? 婚約者が殺されたばかりなのに、〈姫様〉を口説いているようにも聞こえる。恐らく彼なりのユーモアなのだろう。


 一等車には真鍮の手すりがついた側廊がある。そこのコンパートメントは六人掛けのクロスシートだったが、私達以外に客はいない。

 〈姫様〉と私は何気に窓越しに外を見やる。


 鉄筋フレームにガラスを貼りめぐらしたプラットホームは始発駅なので、端頭式になっている。急行列車ラ・リゾンの車掌が行き先を告げながら、乗務員のドアチェックと安全確認をして運転士に伝えると、自らも乗車した。


 前輪・動輪・後輪が二・三・一になった〝パシフィック〟タイプの蒸気機関車牽引の列車が出線して行くとき、車窓越しにノッポなフルミ大尉がまだいるのが見えた。


 臨時便の兵員輸送列車が通常ダイヤに割り込んでいる。そのため、通常ダイヤそのものが、時間帯にズレが生じていた。ラ・リゾン号は、午前六時発だったのが、五時三十分発に繰り上がっていた。食堂車プルマンでの朝食は七時で、だいぶ間がある。


 続く

【登場人物】


01 レディー・シナモン少佐:王国特命遺跡調査官

02 ドロシー・ブレイヤー博士:同補佐官

03 グラシア・ホルム警視:新大陸シルハ警視庁から派遣された捜査班長

04 バティスト大尉:依頼者

05 オスカー青年:容疑者。シルハ大学の学生。美術評論家。

06 アベラール:被害者。ジャーナリスト。洗濯船の貸し部屋に住む。

07 エロイーズ:被害者。アラスの寄宿学校教師。アベラールの妹。

08 シャルゴ大佐:シルハ副王領の有能な軍人。

09 フルミ大尉:ヒスカラ王国本国から派遣された連絡武官。

10 トージ画伯夫妻:急行列車ラ・リゾンで同乗した有名人。

11 サルドとナバル:雑誌社〈ラ・レヴュ〉報道特派員。記者とカメラマン。

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