第五話
ラウルは騎士団の待機場に戻ると部下を招集した。
目的はもちろんスウォル通りにあるという怪しい店を査察するためだ。
「いいのですか、ラウル様。正規の手続きを踏まず、上長に相談なしですよね?」
「王太子殿下が許可しているのだ、問題はない」
許可と言っても応接室で盗み聞きしただけだ。だが遅かれ早かれ監査が入るのなら、先んじて手柄を立てればそれで帳消しになるだろう。そう判断したラウルは部下を集めて店があるとされるスウォル通りへと向かった。途中、古びた噴水の脇を通過する。
「珍しいですね、普通は女神像とかガーゴイルの装飾なんかがされているのに」
「壊れたか、資金が足りなくて作らなかっただけだろう。どうせ深い意味はない」
この周辺に噴水は数多くあるが、装飾がされていないものはたしかに珍しい。だが、気が焦っているラウルは部下の呟きをさらっと流した。
「店は荒屋と教会の間に建っているそうだ」
「あ、あのあたりではないですか⁉︎」
部下の指先に古びた教会の屋根が見えた。教会の目印である蔦バラの這った十字が陽の光を受けて鈍い輝きをはなっている。ラウルは部下達に合図を送った。
「あそこだ、あの隣の敷地に問題の店はある。油断せずに踏み込め!」
「はっ!」
他人から愛を奪うとは傲慢で神を畏れぬ悪行。そんなことをする人間はどんな悪知恵が働くかわからないからな。ラウルの合図で部下達は一斉に荒屋の隣にある敷地に踏み込んだ。すると目の前に鬱蒼と繁った木の隙間から生えるように建っている店の外観が見えた。彼らは白いベンチの脇を走り抜け、壊れかけた扉を打ち破るように次々と建物の奥へと踏み込んでいく。
さあ、チェチーリア。失われた君の愛を取り戻しにきたよ。愛を取り戻したら心を込めて君に贈ろう。そして愛を思い出したら……嫉妬にまみれた眼差しで、もう一度私を見てほしい。仄暗い喜びに胸を弾ませて、ラウルは建屋に足を踏み入れた。そして一歩踏み込んだ先に広がる信じられない光景に息を呑んだ。
「なっ、これは!」
一目見てわかる、そこはもはや廃墟だった。
床はところどころに穴が空いてそこから雑草が茂り、窓ガラスは割れて樹木の枝が顔を出す。腐りかけてはいたが階段を使ってかろうじて二階に上れたものの、二階にも家具は何一つ置かれていなかった。風雪により天井から雨漏りがしているし腐った床も抜けそうだ。そして地下に降りる螺旋階段は真ん中あたりから完全に崩れ落ちている。これでは地下に降りることは難しそうだ。
呆然とするラウルの隣で部下が気の毒そうな顔で呟いた。
「店を営業する以前に、そもそも人の住めるような環境ではありません。偽の情報をつかまされたのでしょうか?」
「だが、営業許可は出ていた」
「営業するつもりで許可をとったものの、途中で資金が足りなくなって出店を頓挫したという事例を聞いたことがあります。もしくは店主が突然亡くなって廃業手続きがされていなかったか。少なくとも査察を行う必要はないようですね」
朽ちかけた建物の内部にはゴミ同然の木箱が散らかっているだけだ。店として機能していないのは一目瞭然だった。さてどうするか、決めかねているうちに周囲が騒がしくなる。
「周辺住民が気づいたようです。下手に不安を煽るのはよくありません。一回、撤収しましょう」
だが後のないラウルは、このままでは終われない。何か証拠を掴まなければ。それにチェチーリアの愛はここに隠されているはず。あと探していない場所は……。
ラウルはハッとした。そして勢いよく走り出すと螺旋階段の途中まで降りたところで飛び降りた。朽ちた螺旋階段がギシッと嫌な音を立てる。落ちてくる破片を避けてそのまま転がるように地面へと着地した。
「ラ、ラウル様!」
「大丈夫だ、このまま地下を捜索してから戻る。先に全員を連れて拠点に戻っていてくれ!」
「わかりました!」
撤収の笛の音が響いた。遠ざかる人々の足音を聞きながら、ラウルは注意深く地下の奥へと進んだ。石を組み合わせただけの床は滑りやすいし足場がいいとは言えない。ただ閉鎖された空間のはずなのに思っていたよりも暗くなかった。どこかに穴が空いているか、抜け道があるからだろう。
思ったとおり――――ラウルは歪んだ笑みを浮かべた。
そうだ、きっと地下のどこかに残されているはず。
「ここにチェチーリアの愛が残されているはずなんだ!」
「そんなものはないぞ」
「誰だ⁉︎」
唐突に闇の奥から男の声が響いてラウルは剣を抜いた。
額を冷たい汗が流れて落ちる。声が聞こえてくるまで人の気配に全く気がつかなかった。声の大きさと響きからして、かなり近くにいるのに居場所がわからないとはどういうわけか。
「残念だが、ここには何も残されていない」
「っ、おまえは誰だと聞いている!」
すると闇から滲み出るように男が姿を現した。長く伸ばした前髪に、闇に紛れるような黒い服。動きやすさを重視した独特の服装には見覚えがあった。
「影のくせに騎士の邪魔をするな!」
あいつらは騎士の功績を横から奪うハイエナのような存在だ。正々堂々と戦う度量と実力がないために、隠れてちまちまと工作することしかできない臆病者。
ラウルは勢いよく剣を振り抜いた。みっともなく怯えて姿を消すだろう、そう思っていたからだ。だが男は全く動じることなく最小限の動作で剣先を避けると、驚く顔をしたラウルを鼻で笑った。
「何が面白い⁉︎」
「騎士は影の実力を一段低くみている。実物を目にしたことがないからだろうな」
「はっ、偉そうに! おまえ達は護身用の剣すら持てないじゃないか!」
「剣を持てないのではなく、我々は武器を持たない。剣も盾も潜入するには邪魔なだけだ」
気がついたときには彼の顔が目の前にあった。こんな足場の悪い場所で、いつ間合いを詰められたのかわからない。前髪の隙間から見透かすような青白い瞳と視線が合って背筋に悪寒が走る。
「気味の悪い瞳をこっちに向けるな!」
「たしかに闇に紛れていると、この目は幽鬼みたいだと嫌われる。家族以外に怖がらないのは彼女だけだからな」
男はそこからさらに滑るようにして間合いを詰めた。この身のこなし……並の技量ではない。きつく握りしめていたはずのラウルの手から男はあっさりと武器を奪い取った。
「我々が武器を持たないのは、必要ならこうして奪えばいいだけのことだからだ」
「……っ!」
ラウルを守るはずの剣が、今や彼の命を奪おうとしている。
影の実力が騎士より劣ると思い込ませたのは、そこほうが都合がいいから。
男は口角を上げて、刃をラウルの喉元にピタリとつけた。
「命は奪うなと命令されている。よかったな、命拾いをして」
騎士が武器を奪われるなんて屈辱以外の何ものでもなかった。余裕ある口調に苛立ってラウルは叫んだ。
「おまえは何者だ、何をしにきた⁉︎」
「影に誰かと尋ねる間抜けははじめてだ。地位はあっても見込みがないと騎士団でも持て余されるわけだな」
「なんだと、ふざけるな!」
地位だけで、持て余されて。青白い瞳に苦境を見透かされたような気がしてラウルは声を荒げた。すると男は興味を失った顔で剣を投げ捨てる。
「彼女が大切に守ってきた領域をおまえごときに踏み荒らされるのは忌々しい。だが、これも余罪のうちだからな。次はないとすれば彼女も許してくれるだろう」
「は、余罪? 何のことだ?」
「この店のことも、彼女のことも、おまえは一切知らなくていい。ただ我々がおまえに望むのは自分の愚かさを悔い、一生をかけて罪を償うことだけだ」
「何を言って……」
言葉が終わらないうちにラウルは膝をついた。ぐらりと視界が揺れる。麻酔薬を使われた、それと気がついたときにはすでに彼の意識は飛んでいた。ぐったりとしたラウルの体を抱えて、男は軽々と担ぎ上げる。
「本当にフォルテューナの店でもらった薬はよく効く。目が覚めたときには全ては終わっているだろうな。それこそ不安に思う時間すらないはずだ」
リゲルは担ぎ上げたラウルの体を待機していた仲間に預けた。彼らはラウルを王城まで運び、証拠とともに第一騎士団へ引き渡すことになっている。あとは法に則って、この男の処分が決まるだけだ。
「自業自得、同情する余地もない」
今回の件で、ラウルの対応は隊の規律を乱すものばかりだ。しかも盗み聞きした会話を、さも王太子からの正規の命令のように伝達した時点で完全にアウトだった。他にもいろいろやらかしているから、もう騎士団にはいられないだろう。
さて、今回の任務はこれで終わりだ。
リゲルは地下の抜け道を使って地上にあがる。店舗の入り口まで戻ると朽ちた建物を見上げ、深々と息を吐いた。外観は十年近く手付かずで放置されてきたもののように荒れて、傾いだ屋根の先に名残りのような風見鶏の姿が残されている。彼女が丹精込めて磨いていたはずのガラスは風雨にさらされ、ほとんどが割れていた。白い塗料の痕跡を残すだけの壊れた扉には、聞き慣れた音を奏でるドアベルすら掛かっていなかった。
「驚くのも無理はない、どこをどう見ても普通に廃墟なんだよな」
リゲルにすれば元々店の状態を知っているからなおさらだった。あのときの衝撃は今でも忘れられない。
フォルテューナと最後に会った日から、たった二日だ。
二日会わなかっただけでフォルテューナは姿を消し、店は廃墟となっていた。
さまざまな修羅場をくぐり抜けてきた自負のあるリゲルでもこれは驚くなというほうが無理だ。こんな状況を簡単に受け入れられるわけがない。そしてまるで嘘みたいな現実を引き起こした可能性で思いつくものなんて、たったひとつしかなかった。
――――フォルテューナの魔法が解けたからか。
壁の色、屋根の形、扉や窓の配置。かすかに店の面影を留めているということは、元々廃墟だった建物を人が暮らせる状態まで魔法で改変したということになる。リゲルに違和感を抱かせることなく虚構の空間を作り上げるなんて、規模も影響力も桁違いだ。これだけの技量を持つ彼女に魔法でできないことなどあるのだろうか。
「……っ、そうだ、フォルテューナ!」
建物に気を取られていたせいで、思い出すのが遅れた。フォルテューナはどこに、無事なのか。拐われたのか、それとも。さまざまな可能性を考慮してリゲルは周囲を駆け回る。彼の必死な様子が気になったようで、隣の教会に住む修道女が姿を現した。
「どうされたの? 誰かを探しているのかしら?」
「隣にあった店は……、店主のフォルテューナを知りませんか⁉︎」
そうだ、フォルテューナは彼女の手伝いをしていたから、彼女も異変に気がついているはず。だがカメリアと名乗った修道女は首をかしげた。
「お隣は十年以上前に家主の男性が亡くなってからずっと廃墟ですよ? それに……フォルテューナさんという方はどなたかしら?」
嘘をついているようには見えなかった。リゲルは青ざめる。記憶の改竄……まさか人の記憶にまで彼女の魔法の影響が及ぶということか。その後も店に出入りをしていた近隣住人に尋ねたけれど同じような回答が返ってくるばかりだ。彼女は意図して自分と店が存在したという記憶を周囲の人間から消し去っていた。
どうしてこんなことを。
それに、なぜかリゲルにはフォルテューナの記憶が残されている。彼女の魔法の影響を受けたはずなのに、一片も欠けることなく残された彼の記憶は何のため?
まさか、全部夢だったとは言わないよな。
今はもう、自分の記憶すら信じられない。それなら何を信じればいいのか。途方に暮れたリゲルの視線が白いベンチに釘付けとなる。
そうだ、この白いベンチ。フォルテューナの目の前でリゲルが傷を削り、白く塗り直した。このベンチだけは改変されることなく、記憶に残る姿そのままだった。今となっては、このベンチだけがフォルテューナが存在したという唯一の証のように思える。力尽きたようにリゲルがベンチに腰掛けると、彼の体をふわりと柔らかな風が包み込んだ。
加護――――やはり夢なんかではなかった。たしかに彼女はここにいたのだ。
彼女が寝床と呼んだ白いベンチ、ひっそりと残された加護の魔法。何も告げずにリゲルの元を去る、それが彼女の出した答えだった。目元を押さえつつ、リゲルは力なくベンチに座り込んだ。
「つまり置いていかれたということか」
それにしてもひどい話だ、何も言わずにいなくなるなんて。同じことをした覚えのある自分が文句を言う筋合いはないけれど、それでもこの状況には文句のひとつも言いたくなる。
「逃げるなと言ったのに」
フォルテューナの深い知性を湛えた瞳が好きだった。柔らかな唇の感触も、陽だまりのような甘い香りも。気の強さや遠慮のない率直な物言いも、熱に浮かされたリゲルの頭をなでる手の感触も覚えている。運命の乙女だからという理由以上に彼女自身を愛していたのに。
『リゲルにしましょう。狩人座の左足、青白き星の名よ』
はじめて自分の名を呼んでくれた人だった。リゲルの命をこの世に繋ぎ止めて、見返りを求めることなく支えてくれた人。ようやく掴んだ幸運を、彼女はこんな中途半端な結末であきらめろとでもいうつもりか。
冗談じゃない、あきらめてたまるか!
どうしても彼女の口から答えが聞きたかった。逃げたリゲルを追ったフォルテューナのように、今度は自分から彼女に会いに行く。心落ち着かせるように深く息を吐いて、リゲルは自嘲した。ラウルのことは責められないな。自分だって捨てられたくせに、まだこんなにも深く囚われている。
「フォルテューナを探そう」
いなくなった彼女の痕跡を探るために廃墟へと足を踏み入れた――――。
そしてあの日からずっとリゲルは逃げた彼女を探し続けている。けれど腹立たしいことに逃げた幸運の尻尾は掴めそうで、なかなか掴めなかった。
『一度逃したら二度と捕まえられないものなのよ』
そうだとしても、どこかに身を潜めているはずだ。鋭い眼差しでリゲルは朽ちた建物をもう一度見上げた。
「フォルテューナが消えた理由には今回のラウルの件も関わっているのだろうな」
ラウルがこの場所を目指していると聞いたときに確信は深まった。あれは魔法なのか、それとも積み重ねた経験則なのか。ときどき彼女は恐ろしいくらいの勘の冴えをみせることがあった。おそらくだが何かきっかけがあって今日のような出来事が起きることを察したのだろう。
オリヴィアのときのように、チェチーリアが店で愛を買い取ってもらったのかはわからない。けれど、もしラウルの勘が当たっていたとすれば、狂わされた男の執念でたどり着いたということか。
「でもラウルは婚約者を愛しているわけじゃない」
彼は婚約者が自身に与えてくれる恩恵を取り戻したかっただけだ。取り戻すためには愛が必要で、フォルテューナの店の噂を聞いた彼は失った愛がそこにあると信じた。そしてフォルテューナは買い取った愛を守るために姿を消した、そんなところだろう。
「では彼女は今、どこにいる?」
きっと誰もが思いもよらないところに隠れているに違いない。したたかで気まぐれな猫のように、物陰から右往左往している人間達をしらっとした顔で観察しているのだ。そう思うと、なんだか少しばかり腹立たしい。
「絶対つかまえてやる」
そのためには場所まではわからないにしても、せめて彼女につながる何かがほしかった。
フォルテューナの気の強さを知るリゲルは彼女が一方的にやられたままでいなくなるとは思っていなかった。彼女のことだから何か自分のいた痕跡を残しているはずだ。欠けることなく残されたリゲルの記憶はきっとそのためのもの。彼は朽ちた扉をくぐって店内に足を踏み入れた。結局あのときは何も見つけることはできなかったけれど、今でもここに何か残されているような気がしてならない。
床下から飛び出す雑草を踏み越えて、もう一度奥まで進む。このあたりは商品をしまう倉庫があったところ。だがやはり割れたガラスや折れた枝しか見つけられなくて再び出口まで戻ってくる。
周囲を見回して、間取りと家具の配置を思い浮かべる。壊れて窓枠だけになってしまったけれど、あの窓際にはテーブルがあった。テーブルには来客用の茶器や飲み物がきれいに並べられて、使わない食器は台所脇の食器棚にしまわれていたはずだ。フォルテューナの店は魔道具だけでなく骨董品も扱うだけあって、古いけれど質の良い食器が置かれていたのを覚えている。
そういえば店にあった大量の商品はどうなったのか。まさか家財道具と一緒に移動したとか……途方もない魔法の力を持つフォルテューナなら、そのくらいは余裕でできそうな気がする。
そしてここには文机があって……思い出したリゲルが手を伸ばしたときだ。無造作に伸ばした手が固さのある何かに触れる。途端にガタンという、物が落ちてくるような大きな音がした。
「……っ、罠か!」
衝撃に備えてリゲルはとっさに身構えた。だがそれ以上の衝撃は襲ってこない。
その代わり、まるでリゲルの記憶に引きずられたかのように突然文机が姿を現したのだ。
――――まさか、嘘だろう?
リゲルは震える手で文机に触れた。感触も、傷がついているところも。朽ちた建物にはそぐわない飴色になるまで大切に使い込まれた文机は間違いなくフォルテューナのものだった。
間違いない、これは本物。
きっとここには彼女に繋がる何かが残されている。リゲルは慎重な手つきで文机の細部を探った。そして最後に文机の引き出しを開ける。この引き出しには地下室の鍵がしまわれていたはずだ。すると引き出しには鍵の代わりに紙が残されていて、たった一行、文字が綴られている。
悔しかったら、つかまえてみなさい!
フォルテューナの筆跡だ。彼は何度も文字を見直すと、やがてその場に座り込んだ。ほんの少しだけ視界が滲んで安堵したように深々と息を吐く。……よかった、無事で。命に別状はないと信じていたけれど、この世に絶対はないということもリゲルは知っていた。
「まったく、心配させて」
きっと今ごろいたずらが成功したと喜んでいるに違いない。悪巧みをする猫のようなフォルテューナの笑顔を思い出して、リゲルは乾いた笑い声を立てた。この手紙は家具の配置を知る人間で、彼女を直接探しに来ることができる人間に宛てたものだ。しかも、この優しさも気遣いの欠片もない内容。間違いなく、リゲルに宛てた置き手紙。
「フォルテューナらしいというか、人を振り回すにしても限度っていうものがあるだろう」
噂をばらまいた貴族女性に、噂を聞きつけた王太子殿下、それを盗み聞きしたラウルと彼によって無駄に召集された兵士達、そして今まさにここにいるリゲル自身。
今思うと、彼女の魔法にどれだけの人間が振り回されたことか!
降って湧いたかのように突然姿を現した文机。これもフォルテューナの魔法なのだろう。彼女の手にかかれば、なんでもありなんだな……正直なところ、リゲルは彼女の魔法に振り回された記憶しかない。
「だがこれでつかまえられないと思っているところがフォルテューナの甘いところだ」
きっとつかまえてみせる。意地悪く笑うリゲルの手の中で、ひらひらと紙が揺れた。




