第三話
終わったみたいね。
鍵のかかる気配を感じて、フォルテューナは階段を降りていく。
扉の前では鍵を握りしめたジュリエッタが燃えるような眼差しで虚空を睨んでいた。彼女の目の前に誰の顔が浮かんでいるかなんて聞かずともわかる。フォルテューナに気がついた彼女の顔に色鮮やかな笑顔の花が咲いた。
愛を捨てただけで、こんなにも変わるのか。フォルテューナはジュリエッタの美しさに見惚れてしまう。彼女の髪色は紅茶にミルクを垂らしたような淡い茶色、そして瞳は夜明けの海を思わせる青だ。愛らしさと妖艶さが混在する奇跡のような輝きがある。婚約者は別の女性を選んだというけれど、彼女の何が不満だったのかしら?
「ジュリエッタの瞳は宝石みたいね。そうやって顔を上げるとラピスラズリの瞳に金糸のような虹彩がキラキラと輝くの。蠱惑的で、吸い込まれそうで……ずっと見ていたくなるわ」
「光が当たるまで気がつかなかったでしょう? 顔を上げないようにリカルドに言われていたのよ。珍しい金の虹彩を気味悪く思う人もいるからって」
視線だけじゃない、表情も顔も服の好みも全部だ。リカルドに言われるがまま、地味におとなしく目立たないようにと生きてきた。彼なりに心配してくれて、それが愛だと思っていたから。その優しさが全部ジュリエッタから自信を奪うためのもので、誰かの支えが必要な頼りない娘に見えるように印象を操作するためのものだったなんて思いもしなかった。
「やめるわ、バカバカしい」
「それがいいわ。だって今のジュリエッタのほうが何倍も素敵だもの」
でもね全部が全部、策略というわけではないと思うのよ。生き生きと動き出したジュリエッタを見ていればフォルテューナにはわかる。今も昔も変わらない。愛が拗れるのは、たいてい嫉妬が原因だ。
「これからどうするつもり?」
「まだちょっと思いつかないけれど、やり返したいとは考えているところ」
フォルテューナは口角を上げた。身分の差を越えて、ジュリエッタは友人として扱ってくれる。彼女が一矢報いるのなら友人として手伝いをしなければ、それこそ幸運の名折れというものだ。
「リカルド様にご兄弟や男性の親族はいらっしゃらないの?」
「四人兄弟の三男よ。それに彼の家は男系らしくて親戚の子供もほとんど男性なの。それがどうかした?」
大当たり。リカルドはたまたま同じ時期に生まれたという幸運だけで、彼女を手に入れることができた。おそらくだけど成長するに従って美しくなっていくジュリエッタは、ジョルダン侯爵家の男性達から深く愛されてきたに違いない。
自信を失わせて、地味に装わせたのは兄弟にジュリエッタを奪われたくなかったから。それなら大切にすればいいものを、別の女性との関係を切り捨てることができないでいる。
自分だけを愛してくれる相手に出会うことは幸運以外の何物でもないというのに。幸運を当たり前だと思っているから、大切なものを失うの。
人だって運だって、大事にされるから一生懸命働く。感謝すらできないような人間からは幸運だって逃げていくものだ――――もちろん、愛情もね。だからこそ愛を買い取るなんていう怪しい商売が成立するのだ。フォルテューナはジュリエッタに見えない角度でひっそりと口角を上げた。
「ねえ、ジュリエッタ。ジョルダン侯爵家とリッツォーレ伯爵家の婚約なのでしょう。ならばあなたの婚約者はリカルド様でなくてもいいのではなくて?」
「え? あ、そうだわ……今まで考えたこともないから思いつきもしなかった」
ジュリエッタは口元を押さえる。そして次の瞬間、深く息を吐いた。
「愛とは尊いものではあるけれど、愚かにさせる罪深い一面もあるのね」
「だから買い取るの。愛を捨てることで幸せになれるように」
「こんな清々しい気持ちで明日を迎えることができるなんて思わなかった。あなたはすごい人だわ」
「違うわ、あなたに運があるからこそ、この店にたどり着いた」
そう、彼女には運がある。しかも、とびっきりの幸運が。店主の顔でフォルテューナはジュリエッタの手に薬瓶をひとつ握らせた。瓶の内側で、青みを帯びた液体が不気味に揺れる。
「あなたは本当に運がいい。これはつい最近、ようやく手に入った希少な品です」
「何かしら?」
「使い方はこの紙に書いてあります」
取扱説明書に目を通したジュリエッタの顔が青ざめる。
「……嘘でしょう、これ本物?」
「私の店で偽物は扱いません。これは愛を捨てた友人への特別サービスですわ」
「これが本物なら、とんでもない代物よ?」
「もちろん、通常なら表に出しません。ですが、これをお渡しするのは今のあなたに必要なものだから」
紙を見る限り、効果効能はおそろしいものだ。だが満たされた毒は、そうとは思えないほどに限りなく青く澄んで美しい。
「使うか、使わないかはお任せします。ただ使い方によっては、より速やかに高確率でリカルド様とセーラ様をジュリエッタの周囲から遠ざけることができるでしょう」
「副作用は?」
「ありません。私自身が証拠ですわ。そうでなければ人に勧めません」
黙って揺れる液体を見つめていたジュリエッタだったが、紙とともに薬瓶をそっと鞄に忍ばせる。
「いただくわ。おいくらかしら?」
「お代はいりません。その代わり、私も計画の一部に参加させてください」
「いいの?」
「ええ、私の友人が教えてくれたのですよ。毒で毒を制する、と。それが現実になるのか見てみたいのです」
フォルテューナは微笑んだ。腹の底を読ませない顔で愛を買い取り、希少な毒を平然と販売する彼女は、実のところおそろしい存在ではないだろうか。だけどジュリエッタは彼女のことが嫌いになれない。
だって彼女からは自分と同じように、愛を失った者の悲しみを感じるから。
優しく愛らしい顔の裏で平然と人を裏切るセーラと、おそろしい表の顔の裏で同じ悲しみを抱くフォルテューナ。どちらのほうが信頼できるかなんて考えるまでもない。
決めた、手伝ってもらおう。
「今度来るときはおすすめのケーキ屋さんを紹介するわね!」
「まあ、うれしい!」
フォルテューナは差し出されたジュリエッタの手を握り返した。
「ジュリエッタに幸運を。さらなるご活躍を心よりお祈りしております」
――――
そこからジュリエッタの動きは早かった。
「さあ、反撃開始よ!」
リカルドとセーラはジュリエッタを舐め切っている。反抗のできないお人形だと甘くみているのだ。それはむしろ好都合。思考の曇りが晴れた彼女は、もはや負け犬のように生きるジュリエッタじゃない。
リカルドとセーラに知られないよう細心の注意を払いながら、明らかに浮気しているだろう二人の情報を集める。結果はグレーどころか真っ黒だ。数年前から直近のものまで、写真や証言は山ほど見つかった。書類の束の前で、ジュリエッタは深々とため息をつく。愛は盲目とはよく言ったものね。
この証拠を彼らに突きつけるのは最終局面で。まずは根回しと外堀を埋めるところから始めないと。そのためには、父ともうひとり、攻略すべき相手がいる。
ジュリエッタは、今まさにその相手と向かい合っていた。誤解を避けるため、貴族に人気のレストランの一室を借り受けた。ここならたくさんの人が出入りするから、誰が誰に会いに来たのかわからない。リカルドには知られない状況で、どうしても彼に会いたかったのには訳がある。
「アルセニオ・ジョルダン様。お忙しい中、お時間をいただいて申し訳ありません」
「いやかまわない。だが秘密裏に弟の婚約者から呼び出されるなんて、穏やかではないな」
彼はジョルダン侯爵家の次男。リカルドの二歳上の兄だ。国に剣を捧げた騎士であり、第一騎士団に務めている。第一騎士団は精鋭揃いと聞いているから剣の腕前だけでなく優秀なのだろう。服の上からはわかりにくいけれど、たくましい腕や肩の筋肉から鍛えていることがわかる。どちらかといえば線の細いリカルドと並ぶと兄弟とは思えない。騎士として鍛え上げられた彼の鋭い視線が、問いただすようにジュリエッタを射抜いた。
「弟のことか?」
「はい、そのとおりです」
臆することなく視線を受け止めて跳ね返す。するとほんの少し驚いた顔をした彼が微笑んだ。
「その表情。懐かしいな、昔はよくそんな顔をしていたね」
「小さいころに遊んでいただいたときは心配をおかけしましたわね」
「俺と張り合って木に登ってきたときは仰天した」
「まだしぶとくあのときのことを覚えているのですか!」
「さすがにお転婆が過ぎるからな。あれを簡単には忘れられないよ」
ジュリエッタは恥ずかしくて顔を赤らめた。それを眩しそうに見つめたアルセニオは真剣な表情を浮かべる。
「もしかして君が木に登らなくなったのはリカルドの影響か?」
「はい、女の子なのにはしたないからと止められました。ですが、彼が私にしたことはそれだけではありません」
ジュリエッタは写真と証拠の一部を見せる。大きく目を見開いて写真と証拠を確認したアルセニオはうろたえたように顔色を悪くした。そこへ追い討ちをかけるように今まで彼がジュリエッタに何を言い、何をしてきたのか洗いざらい全て話したのだ。聞き終えたアルセニオは青ざめた顔で、額を押さえた。
「一種の洗脳だな。だから君はリカルドの言いなりだった」
ジュリエッタはうなずいた。徹底的に否定して、私の自信を奪い、思考を鈍らせて支配する。あのまま結婚していたらリカルドとセーラに伯爵家そのものが乗っ取られていたかもしれない。
「問題はそれだけではないのです」
「というと?」
ジュリエッタは領収書の束を取り出してテーブルに並べた。花やお菓子などの日用品から高級レストランの食事代、ドレスショップで仕立てた男性用のタキシードや女性用のドレス、アクセサリーショップでの一点もののネックレスやイヤリングなど。請求先は全て同じリッツォーレ伯爵家。
「これは全てリカルドが伯爵家に請求書を回してきたものです。ちなみに女性物は全てセーラへの贈り物でした」
「なっ!」
「失礼ですが侯爵家は当家からの支援で家を維持しています。こんな高額の支払いに回す余裕はありません。ですからリカルドはこうして請求書を当家に回して支払いをさせていたのでしょう」
いずれは自分が当主となるのだから許されるとでも思ったのか。領収書の内容にはびっくりするような高額品もあって、あわてて問い合わせるとただ一言、払っておけ、とだけ書かれた手紙がきた。
「私には社交を禁じておきながら、セーラの付き添いでリカルドは夜会に出席していました。それもあってタキシードや装飾品は必須だったのでしょう」
社交界での彼らの振る舞いは噂となってジュリエッタにも入ってくる。病気がちだというわりに足繁く社交の場へ通うセーラと、婚約者がいながら当たり前のように付き添うリカルド。まるで恋人同士のように親しく振る舞う彼らの衣装が金をかけた高級品であることは見る人が見ればわかる。心配した親戚などがそっと教えてくれたのだ。
「だが、こんな高額の支払いを一体どこから……」
「私財からですわ」
「は?」
ポカンと口を開けたアルセニオの顔が面白くて、ジュリエッタはクスリと笑う。まあ、普通の貴族令嬢なら無理でしょうね。
「アルセニオ様はジュリという画家をご存知ですか?」
「人前に姿を見せない謎めいた人物で、描いた絵は飾った側から高額で売れていくという人気画家……ま、まさか」
「ええ、私です」
ジュリは私の愛称だもの、ここまで聞けばすぐにわかるわよね。セーラに会いに行ったときも画材道具を抱えていたのはこれが理由だ。
「リカルドは君が画家であることは知っていたのか?」
「いいえ。両親には伝えていましたが、リカルドには内緒にしていてほしいと伝えていました。絵を描くことだけは奪われたくなかったので」
知られたら絶対にやめさせられる。そうしたら私の自我は壊れてしまうだろう。だから操られながらも、私の自我は必死にこの秘密だけは守っていた。それが唯一、私に残された希望だから。
「ですがどれほど蓄えがあろうが、さすがにこれはやりすぎです。私財をずいぶんと減らして心許なくなってきましたから、そろそろ父に相談しようと思っていました」
「申し訳なかった。弟に代わって、お詫びする」
騎士らしく、胸に手を当てて謝罪の姿勢をとったアルセニオの拳が震えている。さまざまな修羅場に慣れているだろうアルセニオもさすがに動揺を隠せなかった。これが明らかになれば伯爵家からの支援が打ち切られるのは当然で、それだけでなく恩を仇で返したことになる侯爵家の信用も地に落ちるだろう。そうなっては、もはや家の存続は難しい。
「嫡子であるダーリオ様の婚約もようやく整ったと聞いております。ですがこれが明らかになれば継続は難しいかもしれませんね」
もともと金銭的に厳しいと知られているジョルダン侯爵家に嫁いでくる貴族令嬢はいなかった。だがようやく他国の商家のお嬢様との婚約がまとまったのだ。相手は爵位と国内での足掛かりを求め、こちらは金銭的な援助を受けるための完全な政略だ。
だが政略にも関わらず、ダーリオ様とお相手のお嬢様は相思相愛でたいそう仲がいいらしい。それを聞いて、同じ政略でもリカルドとジュリエッタとは大違いだと胸を痛めたことを覚えている。アルセニオ様は深々と息を吐いた。
「この件は私が預かり、父に伝える。資料を預かってもいいか?」
「ええ、もちろんです。よろしくお願いします」
「後日、あらためて父から謝罪をさせる。そのうえで、いつまでかかるかわからないが弁済も、必ず……」
「いいえ、弁済はけっこうですわ。幸いなことに金銭的な被害を被ったのは私です。家の資産ではありませんので私の裁量でいかようにでも処理できます。今回のことはリカルドをつけ上がらせた私にも非がありますからジョルダン侯爵家からの弁済は不要にしますわ」
「だがそれでは……!」
「失礼ですが、これだけの金額を弁済するとなれば資金の乏しい侯爵家では賄いきれませんでしょう? ダーリオ様の婚約者になられたお嬢様のご実家に頼ることになるはずです。私とリカルドの状況を見て、それを最善と言えますか?」
アルセニオ様が言葉に詰まった。対等である今は良好な関係を築いているけれど、こういうことが度重なれば対等な関係はいつか崩れる。そうなってからでは取り返しがつかない。
「せっかくのめでたい話を私とリカルドのせいで拗らせるのは本意ではありません。私の提示する条件を飲んでくださるのなら、領収書の件は父に言わないでおきましょう」
「どんな条件?」
「ジョルダン侯爵家側の婚約者を変更してください。そして今後一切、私にリカルドを関わらせないで」
これが一番波風を立てず、それでいてリカルドに大打撃を与えることができる手だ。祖父同士の約束を反故にすることもない最善最良の策。
現在のジョルダン侯爵家には四人の子供がいる。長男のダーリオ様、次男がアルセニオ様、三男がリカルドで、四男がジュリエッタの二歳年下の、セスト様。婚約者がいないのはセスト様と……目の前にいるアルセニオ様だ。彼は目を丸くして、ほんの少しだけ口角を上げた。
「ここに俺を呼び出した理由はそれか」
「はい。アルセニオ様、もしくはセスト様のどちらかに私を選んでいただきたいのです」
「どちらか、というのは? 俺ではないのか?」
訝しむように眉を顰めたアルセニオに、ちょっと迷ったけれど用意してきた理由を説明する。
「それはリカルドがこう言っていたからです。私がジュリエッタを選んだわけじゃない、と。だから、お二人で話し合ってどちらかに選んでいただけたら……」
「ッ、あいつ! ふざけたことを吐かして……いっそ殺るか」
「いえいえいえいえいえ、穏便に! もう終わった話です!」
さすが騎士だけに、怒るとめちゃくちゃ怖い。涙目になったジュリエッタに気がついて、アルセニオは平謝りする。そしてあきらかに不愉快という顔でこう説明してくれた。
「実はジョルダン侯爵家でも君の婚約者を変える話が出たことがあったんだ。それをアイツが歩み寄る努力をするからと真剣に頼んできたから父が継続してもいいと渋々許した」
「えっ、そうなのですか⁉︎」
「完全に内輪の話で、君の父上に話をする前に終わったから君が知らないのも無理はない。ただし、次はないとも言われていたが」
理由はリカルドとセーラの関係が不適切と思われたから。だが当時のジュリエッタはわかりやすくリカルドを愛していたので、本人の意思を確認するまでもないと許すことにしたらしい。それならジュリエッタが婚約者の変更を望めば話は通りやすいだろう。
「ちなみに候補は誰だったのですか?」
「俺だ」
「……え?」
「俺が君を望んだから、婚約者を変更するという話が出た」
理解できなくて固まる。それを少しずつ噛み砕いていくうちに、じわじわとジュリエッタの首筋から顔にかけて真っ赤に染まった。
「……嘘でしょう」
「嘘じゃない」
「でも、アルセニオ様には昔から好きな人がいると……、だから婚約しないのだって……」
「それは君のことだ」
アルセニオにはずっと想いを寄せる人がいる。彼の友人がそう言っていたから本当は相談するのをやめようかと思ったくらいだ。ただ、いくらしっかりしていても少年の域を脱していないセストに男女関係の揉め事を相談するのはためらわれてアルセニオのほうを選んだだけだ。彼が恋を諦めて婚約してくれるならありがたいし、やっぱり婚約できないというのならそれでもいい。せめてセストにも選択の余地を残してあげたかった、その一心だけで……。全く想定していなかった状況にジュリエッタはうろたえた。呆然としたような彼女をアルセニオはここぞとばかりに追いつめる。
「俺は君が好きだ。木登りを教え、一緒に魚釣りをしたときからずっと君のことしか視界に入らない」
「で、でも、そんなことは一度も」
「生まれた瞬間から君の隣にはリカルドがいた。君は弟のことを誰よりも愛していたし、この思いは一生言わないでいようと決めていた。それでも婚約者を決めなかったのは君が忘れられなかったからだ」
でもひどい扱いに耐えかねて婚約者の変更を申し出たのだという。そういえば、リカルドが婚約者として最低限の義務にこだわるようになったのは途中からだった。つまりあのくらいの時期に婚約者の変更の話が出たのだろう。
「愛する人が捕まえてくれとばかりに自分からやってきたのだから逃しはしない」
アルセニオはテーブルを挟んで座るジュリエッタの手をそっと手繰り寄せた。剣を握るせいか、ごつごつとした力強い手だ。でもこの大きな手に包まれていると、なぜか安心する。
「だから俺を選んで、ジュリエッタ」
挑むように笑って、アルセニオは彼女の手首に唇を寄せた。ああどうしよう、ジュリエッタはもうこの手を離すことができないかもしれない。あわよくば捕まえるつもりが、むしろ捕まってしまったような気がするのは思い過ごしじゃないみたいだ。
「どうする? 今ならまだ逃げられる」
「……っ、その言い方は意地悪だわ」
逃す気なんてないくせに。ジュリエッタは真っ赤な顔で、唇を震わせた。
ラピスラズリの石言葉には、真実、崇高、幸運などがあるそうです。ジュリエッタのイメージはラピスラズリから取りました。そんなところも含めて、お楽しみいただけるとうれしいです。




