12話 14本のクリムゾン・ブルート
『オリーム王国軍+α』と戦いに出る前に、アリスの姉であるミーリスに頭を下げて協力をお願いした。
彼女に戦力として参戦して欲しい――ではなく、『ノーゼル』のダンジョン40階層ジャングルで得られる魔物素材、鉱石、アイテムを融通して欲しいというものだ。
『ノーゼル』のダンジョン40階層ジャングルは、ビックベアーが居ることから分かる通り以前、オレが引きこもって修行場所にした『中央大森林』と似た生態系を作っているのだ。
そのせいか『ノーゼル』ダンジョン40階層で得られる魔物素材は、『中央大森林』と非常に似ている。
なので準亜神剣『クリムゾン・ブルート』を製造するために足りなくなった素材を得るため、ミーリスに頭を下げたのである。
1人で『オリーム王国軍+α』を偵察した際、ついでに『北の魔女』が住む森も見てきた。
森には多数のトラップ、魔術的防御、改造された魔物達などウヨウヨ存在した。
一応、ステータス的にオレ1人でも楽々突破して塔まで辿り着くのは難しくない。
しかし、塔にまだ子供達などが囚われている場合、人質にされる可能性があった。
そこで少しでも子供達などが危険に陥る事態やシローネ親子逃亡の可能性を下げるための対処方法を考えたのだ。
その方法が――『遠距離から問答無用で建物ごと本人達を吹き飛ばす』という力業である。
人質の安全や、シローネ親子を捕らえる方法はスキル『非殺傷』と『異相結界』で早々に確保することを思い付いたが、攻撃方法に少しだけ頭を悩ませた。
最初、大規模な魔術で吹き飛ばすことも考えたが――オレとキリリぐらいしかその方法が使えないし、意外と撃ち漏らしが出そうだった。
下手に人数を増やすとこちら側の動きが遅くなり、シローネ親子に気付かれ、逃げられる恐れがあった。
そこで準亜神剣『クリムゾン・ブルート』とレムの増えたゴーレムの存在を思い出したのだ。
『クリムゾン・ブルート』には、『注いだ魔力を発動ワードと共に解き放つ力を持つ』という能力がある。
ただのゴーレムならこの力は使えない。
しかし、レムを介してなら、ゴーレムでもこの必殺技を使えるのだ。
『クリムゾン・ブルート』1本でもその威力は地面を地平線の彼方までガリガリと削り、最後は大爆発を起こすほどだ。
それをオレとアリス、レム、キリリ、ゴーレム10体の合計14人で放ったら……。
威力はお釣りが来るぐらい十分だ。
足りない13本はミーリスから買い取った素材で製作した。
最初に製作した時は1本作るのに約1時間ちょっとかかった。
LVが上がったお陰か製作スピードが早くなって、1時間かからず作り出すことに成功する。
お陰で13本作り出すのに1日かからなかったのだ。
レムがゴーレム×10体を起動した後、アリス、キリリにも既に限界一杯まで魔力を満たした『クリムゾン・ブルート』を手渡す。
アリスは瞳をキラキラと輝かせて『クリムゾン・ブルート』を受け取る。
「……不謹慎だけど、『クリムゾン・ブルート』の実験の時、賢者シュート様が使った剣から魔法が出るのを自分もやってみたかったから、凄く楽しみ」
「確かあの時は帝国首都から離れた兵士訓練場でやったんだっけ。アリスが『クリムゾン・ブルート』の解放を目にした後、凄く興奮して『自分もやってみたい』って言っていたものな」
ふと過去を思い出す。
『クリムゾン・ブルート』の解放を目にした後、まるでヒーローショーで正義の味方と初体面した少年のごとくキラキラと瞳を輝かせて『格好いい、超格好いい』と繰り返していたな。
以後、なぜかタイミングが悪く、『クリムゾン・ブルート』の解放をアリスに使用させることはなかったな……。
正反対にキリリは頭を痛そうに抱えていた記憶がある。
しかし、今回はキリリもどこか嬉しそうに『クリムゾン・ブルート』を受け取っていた。
「確かに当時は今後のことを色々考えて頭を抱えていましたが……私だって格好いいとは内心思っていたんですよ? 機会があれば使ってみたいと思うのが人情ではありませんか」
キリリはどこか恥ずかしそうに頬を染め唇を尖らせつつ漏らす。
アリスを諫めなければならない立場上、当時は一緒に盛り上がる訳にはいかなかったのだ。
その気持ちが理解できるのでオレは何も言わず微苦笑を漏らすだけに留めておいた。
軽く咳払いをしながら指示を出す。
「それじゃ相手に気付かれる前にけりをつけよう。塔や森にあるトラップ・魔物達を無力化するために、最も効率良く互いの攻撃が邪魔にならない位置を事前に割り出したから、その位置からタイミングを合わせて攻撃してくれ」
「……了解、まかせて」
「やー」
「タイミングを合わせるのが難しそうですが、頑張ります!」
アリス、レム、キリリが返事をしつつ、事前に決めた位置へと移動する。
ゴーレムはレムが移動させるため、わざわざオレが指示を出す必要はない。
配置的にはオレを中心にして、右隣にアリス、さらに隣にキリリが立つ。
左隣にレム、ゴーレムは左右にバランス良く配置された。
皆が配置ついたのを確認すると、オレは手にした『クリムゾン・ブルート』を構える。
同じように皆が一斉に『クリムゾン・ブルート』を掲げた。
オレは問題がないことを確認して、左右に居るアリス達に声をかける。
「それじゃ皆、行くぞ――」
軽く息を吸い込み、止めて目の前にある目標――塔へ向けて構えた『クリムゾン・ブルート』を振り下ろす。
『全てを深紅に染めろ! クリムゾン・ブルート!』
オレと同時にアリス、キリリ、レム、他ゴーレムが一斉に剣を振り下ろした。
剣先を振り下ろしたと同時に、真っ赤な極太レーザーのようなエネルギーが発生。
地面を抉り、鬱蒼と茂る木々をへし折って呑み込み、塔へ向けて一直線に押し通る!
最後は大爆発を起こし、爆風や土埃、木々の破片などを周囲に撒き散らした。
爆発によって撒き散らされた土煙がまるでキノコのような形を作る。
14本同時の解放攻撃は予想以上の威力で、オレは反射的に土城壁で城壁のように巨大で分厚い壁を作り出し飛び散る岩、木々、衝撃波などから皆をガードした。
「…………」
どれぐらい経っただろう。一瞬かとも思えるがもっと長くも感じる、緊張に包まれた時間が経過する。
爆発の衝撃で地面が大きく揺れ、擬似的な地震まで起き、静まっていく。
土煙が晴れるのを待ち、土城壁を元に戻し、森の様子を窺う。
そこにはほぼ荒野と化した森の姿が広がっていた。
木々は地面ごと抉られ消失し、塔は根本どころか根本的に姿を消してしまう。『クリムゾン・ブルート』から放出されたエネルギーによる爪痕が地平線の彼方まで続いていた。
自分達の手で目の前の現状を引き起こした事実に皆の反応はというと……。
「……うん、敵を無事に倒せてよかった。これなら剣聖、大魔術師といえど無事ではすまないはず」
「やー」
「前言撤回します。機会があってももう二度と、私は使いません。えぇぇ……まさかこれほど威力があるなんて……」
アリスは無事、敵が倒せたことに満足し、レムもそれに同意するように声をあげる。
キリリは自分達で引き起こした事実、『クリムゾン・ブルート』の力の大きさを改めて実感。顔を青くして『自分では二度と使わない』と宣言さえする。
オレ自身、どちらかというキリリよりの感想だ。
子供達を魔物に改造してぶつけてくる外道に対して、自重を捨てて『クリムゾン・ブルート』量産攻撃を実行したが……。
複数で使用すると酷いことになるとは思ったが、実際に目の前にするとドン引きしてしまった。
自分でやったことにも関わらずにだ。
だが、こんなこともあろうかとスキル『異相結界』を創造し、展開していたのだ。
解除すると、元の森が目の前に広がる。
「マジでスキル『異相結界』を創っておいて良かった……」
オレは人知れず思わず感想を漏らしてしまったのだ。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
最初は『クリムゾン・ブルート』を全員に持たせて、1度だけではなく魔力を補充しつつ何度も繰り返し攻撃させる予定でした。
しかし14本の同時攻撃を書いて『あれ? これ1度でよくないか』と気付きこんな形になりました。
『クリムゾン・ブルート』を14本の同時攻撃を受けたら、こうもなりますわ。
また先日『【連載版】信じていた仲間達にダンジョン奥地で殺されかけたがギフト『無限ガチャ』でレベル9999の仲間達を手に入れて元パーティーメンバーと世界に復讐&『ざまぁ!』します!』をアップさせて頂きました!
本日も2話連続でアップする予定です。
詳しくは作者欄をクリックして飛べる作品一覧にある『【連載版】信じていた仲間達~』をチェックして頂ければと思います。
これからも頑張って書いていきたいと思いますので、是非チェックして頂けると嬉しいです!
では最後に――【明鏡からのお願い】
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