4話 怒り
敵軍『オリーム王国軍+α』は野営を開始する。
見通しのよい街道脇に移動し、慣れた様子で準備に取り掛かる。
さほど時間もかからず食事が始まり、雑談が風にのって微かに聞こえてきた。
さらに時間が経つと日が完全に落ちて、夜の闇を迎える。
篝火が焚かれ、槍を持った兵士が周囲を警戒していた。
開戦予定地までまだ距離はあるが、闇夜に紛れて魔物が襲いかかってくる可能性があるため警戒に手は抜けない。
兵士達の士気はあまり高くないが、真面目に警戒をし続けている姿には好感が持てた。
(好感を持つのは良いが……オレは今からあの警戒網を抜けて、幌馬車まで近付かなくちゃいけないんだけどね)
今夜は曇って月明かりが薄く、一人で動けば夜の闇に紛れやすいだろう。
とはいえ、敵兵士達は真面目に警戒し、周囲も見渡しが良い草原だ。
本来なら近づき、警戒網を抜けて幌馬車に近付くのは難しいが、
(『スキル創造』のお陰で隠密系のスキルが充実しているから、楽に――とは言わないが幌馬車の中身を確認するぐらいはいけるだろう)
いざとなれば『転移』でさっさと逃げればいい。
最初は『転移』で幌馬車まで飛ぶことを考えた。
しかし、『転移』は着地の音までは消せない。
下は草でそこまで大きな音はたてないと思うが、念には念を入れて隠密系スキルを駆使して警戒網を抜けることにしたのだ。
(まさか異世界で忍者の真似事をするとは想像もしなかったな)
オレは頭から爪先まで黒い衣服に固めた姿で草原を俯せで匍匐前進する。
頭、顔も黒い布で覆い目だけを出している状態だ。
風の音に紛れつつ、少しずつ近付く。
兵士達の警戒網、篝火が届かない影を縫いながら内側へと滑り込む。
慎重に周囲の気配を探りつつ、スルスルと幌馬車へと近付いていった。
幌馬車はオリーム王国軍野営地から若干距離が取られて止められていた。
まるで危険物を隔離しているような扱いである。
(本当に中身はなんだ? まさか黒色火薬とかじゃないだろうな……)
こういった異世界転生系のお約束として、『黒色火薬』を作り出すのは定番である。
オレ以外の転生者、転移者が大魔術師と接触。
その知識を与えた――なんて可能性もゼロではない。
ほぼあり得ないだろうが。
(もし本当に黒色火薬だったら、このまま焼き払うのもありか。後他にありえるとしたら、あの異形達が食べる特殊な食料品の可能性もあるか?)
体の一部が魔物化している異形兵士達は、食事も摂らず一箇所に集まって体を休めている。
魔物同様に『魔石の力で食事を殆ど摂る必要のない』のかもしれないが、まったく食べないということはありえないだろ。
その場合も戦略的に焼き払っておいた方がいいのか?
(あー、でも彼らの食べ物を焼き払ったせいで、異形兵士達が暴走して共食いや一般兵士達に手を出したら不味いか)
オレは闇夜に紛れ幌馬車の中身を予想しながら、こっそり移動し続ける。
数分もかからず、幌馬車の側に到達することが出来た。
周囲に気を配りながら、中身が確認できる隙間を探す。
ちょうど一番後ろの搬入口部分の布がめくれるため、ソッと少しだけ動かし中身を確認する。
鬼が出るか蛇が出るか。
(鉄格子? ……ッゥ!?)
危なく声が漏れ出そうになる。
幌馬車の中には10人ほどの少年少女達が詰め込まれていた。
スキル『暗視』のお陰で暗くても十分確認できた。
年齢は10~12歳前後で、男女関係なく詰め込まれている。
衣服もボロボロで、靴も履かせず、毛布一つなく直接床に座らせていた。
幌馬車も鉄格子が嵌められ簡単に外へは出られないようになっていた。
(どうして幌馬車に子供が居るんだ? 人質? まさか兵士達の慰撫用とかじゃないだろうな……。もしくは異形兵士の食料がこの子達とかってオチなのか!?)
想像しただけで気分が悪くなり、怒りがこみ上げてくる。
(いかん、いかん……折角上手く隠れられているのに怒って気配が漏れたらもったいない。とりあえずもっと詳しく確認するため鑑定をしてみるか)
『鑑定LV9』。
凶化暴走水精霊のようにLVが上で、根本的に狂乱していたらステータスがバグって上手く確認できないだろうが、子供相手ならそんなことは起きないだろう。
――正直、あとから振り返るとこの時、軽い気持ちで『鑑定』するべきではなかった。もう少し最悪を想定して『鑑定』すれば、周囲に気付かれることなく撤収も出来たと反省している。
今更振り返っても後の祭りだが。
「ッ!? がぁあぁっ!」
『鑑定』後、自分が隠密系スキルで隠れているのも忘れて怒りが声に漏れ出てしまった。
さすがに自分から声を出せば、いくら隠密系スキルで隠れていても気付かれてしまう。
「おい! 貴様、そこで何をしている!?」
「敵襲! 敵しゅ――おおぉわぁ!?」
警備兵士がオレの姿に気付き槍を突き出す。
もう1人が警告を与えるため大声を出していたが、途中で異形兵士がオレに向かって突撃してきたため驚きで声が遮られてしまう。
「うがあぁぁあぁッ!」
一番オレと距離が近かった右腕がカマキリの異形兵士が、最初に襲いかかってきた。
オレは怒りを内心で抑えつつ、幌馬車から大きく距離を取る。あの右腕の鎌で馬車ごと子供達を切り裂かれては最悪だ。
「うがぁ! うがぁ! うがあぁぁあッ!」
異形兵士は唾液を撒き散らし、理性の無い瞳でがむしゃらに右腕の鎌を振るう。
オレはその全てを回避しつつ、頭を冷やす。
(必要な情報は手に入れた。これ以上、ここに居る意味はない。とりあえず一度引いてアリス達の元に戻らないと)
何より現状では幌馬車に居る子供達を助ける手段が自分にはない。
恐らく無理をすれば出来なくもないが、全員は助けられず一部死亡させてしまう可能性があった。
全員を助けるためにも一度ここは引くべきだ。
「うがあぁぁあぁッ!」
「いい加減、五月蠅い!」
こっちが真面目に考えているのに、しつこく食い下がる異形兵士を蹴り飛ばす。
当然、手加減して殺さないように調整しつつ、さらに向かってくる異形兵士達の群にぶつかり足止めになるよう調整した。
まるでボーリングのピンの如く、異形兵士達が吹き飛ぶ。
オレはその隙に光魔法を行使した。
「フラッシュ!」
一瞬だけ、夜の闇を払い昼間のように明るくなるほどの光を生み出す。
「目が! 目がぁぁ!?」
「くそ! 目潰しか! 何も見えねぇぞ!」
「おがあぁぁぁあッ!」
「ぎいぃいいッ!」
一般兵士や農民、異形兵士も巻き込んで強烈な光に目が眩む。
オレはその隙に『転移』ですぐさま離脱した。
上空へ逃避し、眼下で騒ぐ敵兵士達を一瞥した後、アリス達が待つダンジョン都市『ノーゼル』へ短距離転移で進路を取る。
「クソが! 『ドラゴンの牙』以上に外道なマネをしやがって……ッ。人として越えてはいけないラインを越えすぎだろうが! クソッ!」
オレは珍しく怒りを吐き出しつつ、急ぎその場を離脱。
本来であればダンジョン都市『ノーゼル』へ帰還する筈だったが……。
今回の戦争の主格である剣聖&大魔術師を完膚無きまでに叩きつぶすためにも、彼らが居る場所などの情報を得るためさらに北上することを決意する。
「絶対に叩き潰してやる! 覚悟してろよ!」
『転移』で移動しつつ、オレは苛立ちを叫び続けたのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
シュートがブチ切れ!
『ドラゴンの牙』以上の外道行為とは!?
明日も引き続きアップするので是非是非お楽しみに!
また以前からお伝えしていた『【連載版】信じていた仲間達にダンジョン奥地で殺されかけたがギフト『無限ガチャ』でレベル9999の仲間達を手に入れて元パーティーメンバーと世界に復讐&『ざまぁ!』します!』をアップさせて頂きました!
本日も2話連続でアップする予定です。
詳しくは作者欄をクリックして飛べる作品一覧にある『【連載版】信じていた仲間達~』をチェックして頂ければと思います。
頑張って書きましたので、是非チェックして頂けると嬉しいです!
では最後に――【明鏡からのお願い】
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