19話 41階層
「あー、畜生が、41階層は相変わらずくそ暑いぜ……」
39階層まで蒸し暑いジャングルだったが、40階層ボスを倒し、41階層に進むとそこは火山地帯になっている。
赤い溶岩がドロドロと目と鼻の先で川のように流れているため、ジャングルとは比べられないほど暑い。
『ドラゴンの牙』リーダーであるアイゼンも、いつもの唯我独尊的勢いが暑さによって殆ど失っていた。
アイゼンだけではなく、副リーダーのエリットや他パーティーメンバーも似たような態度だ。
41階層は暑すぎて、威張り散らす気力さえ奪ってしまうが、人を貶める話題には別らしい。
「暑いのは最悪ですが、35階層の騒動に比べればまだマシですわ」
「だな! スキルマスターのガキ共も今頃、魔物災害に巻き込まれて死んでいたりしてな!」
「だとしたら笑えるな! なにが『スキル創造』の力を持つだ! 魔物災害に負ける程度の雑魚が調子に乗るから死ぬんだよ!」
「さすがに死にはしないだろう。帝国の知力ゼロが体を張って止めるだろうし。眼帯の従者女が足止めして逃げ出しているんじゃないのか?」
「だとしたらもったいねぇーよな。あの眼帯従者が死ぬ前に一度ぐらい犯っておきたかったぜ」
「俺は知力ゼロ皇女だな。あの真っ白な顔を殴って血まみれにして、泣かせながら犯したいぜ」
「ぎゃははは! ドSかよ! 女の子はもっと優しく犯してやらないと!」
『ドラゴンの牙』メンバー達が好き勝手に騒ぐ。
彼は35階層にシュート達が到着するタイミングを計って、別チームがダンジョンに引き入れたストリートチルドレンの子供に『魔物誘引剤』を持たせてジャングルを走らせた。
それを見届けた後、すぐさま彼らは36階へと移動。
現在、41階層まで辿り着いていた。
「しかしアイゼンリーダー、よかったんですか? 『魔物誘引剤』まで使って。もしスキルマスター達に子供や『魔物誘引剤』を押さえられたら……」
「ああん、俺様がそんな失敗する訳ないだろうが。ガキが暴走した魔物から逃れてジャングルを出られるはずがないし、保険として『魔物誘引剤』には自爆用魔石を仕掛け済みだ。指定した時間が経過すれば『ぼんッ』で証拠はガキ共々おさらばよ」
『それに』と付け足す。
「ダンジョン攻略で1ヶ月近く潜るのも珍しくない。それだけ潜っていれば魔物災害も落ち着いているだろう。誰も俺様達を疑う奴はいないって寸法だ」
「おおぉ! さすがアイゼンリーダー! 完璧じゃないっすか!」
「がははははは! オマエ達とはここが違うんだよ、ここが!」
アイゼンはメンバーの持ち上げに気分を良くして、暑さに辟易しながらも気分良さげに笑い声をあげる。
しかし彼らは知らない。
シュートが違和感に気付き子供を発見、スキル『転移』で一瞬で確保し、さらに『魔物誘引剤』も時間停止機能を持つ『アイテムボックスLV8』内部に入っているため、自爆用魔石の時間が未だにたっぷり残っていることを。
彼らはシュートの実力を低く見積もり過ぎた結果、彼に作戦を真っ正面から潰され、証拠をまるまる握られてしまったことなど夢にも考えていなかった。
気分良く笑うアイゼンの側で副リーダーのエリットが付け足す。
「オマエ達も覚えておくといいぞ。ダンジョンは内から外へ荷物を運び出す際、厳しい検査があるが、外から内側に荷物を持ち込む場合の検査は緩い。『魔物誘引剤』だろうが、ご禁制薬物だろうが、持ち込み放題だって」
「副リーダーも流石っす、マジで頭がキレますね」
「ふふふ、そうでもないさ」
エリットも部下から褒められて機嫌を良くした。
「!? 止まれ」
アイゼンの指示に無駄口を叩いていたメンバーが黙り、目つきを変える。
どんな事態になろうともすぐさま動けるように臨戦態勢を整えた。
性根は腐ってもダンジョン攻略トップチームである。練度は非常に高い。
アイゼンが前方を睨む。
彼の視線の先――『ドラゴンの牙』メンバーの1人が戻ってくる。
彼は本体と距離を取り先行し、進む方角に魔物、罠、毒ガス、地図作製、進路に問題がないかなど確認をする先行部隊の1人だ。
彼は汗だくになりながらも喜色満面の笑みで戻ってくる。
アイゼンの側まで来ると、すぐさま報告する。
「報告します。地図に無いエリアを偶然発見。対応求むです!」
「!? マジか! すぐに俺様達も行く! 案内しろ!」
「はい!」
アイゼンを含めたメンバー全員が喜々として先行部隊メンバーに案内され未発見エリアへと向かう。
なぜこれほど彼らが喜んでいるのか?
簡単に説明すると未発見エリアには当然、誰もまだ手を付けていないためお宝が多数眠っている可能性あるのだ。
41階層まで来られるチームは少ないが、長い年月行き来しているため各自製作している地図はかなり正確である。
なのに新しいエリアを見つけるなど大発見と言って良いレベルだ。
先行部隊メンバーの案内で川のように流れる溶岩前まで来る。
いつもなら通れないルートだが、
「海の満潮などのように流があるのか、この時間は通れるようです。くそ暑いので魔法で一時体、周囲を冷やし一息で抜ける必要はありますが」
「エリット、頼むぞ。半分は付いてこい。もう半分はここで待機して荷物を見ていろ」
アイゼンが素速く指示を出し、皆それに従う。
ある意味、悪質な体育会系的チームであるが、上の指示にすぐさま従うメリットもまた存在した。
エリットの魔法で体を冷やし、アイゼン達は無理矢理マグマの川を飛び石のように出ている石を走り抜ける。
渡りきった反対側をさらに進むと――鉄扉の門が姿を現す。
先行部隊チームを預かるトップは既に門の鍵を解錠済み。
アイゼン達が到着するまで待っていた形だ。
彼らが到着するとすぐに中へと入る。
外の灼熱地獄とは違い扉の内側はまるで王族が眠る静謐な墓地のようだった。
床、天井、柱など全て大理石のような石材で作られていた。
どこにもレリーフや飾りなど掘られてはいないが、アイゼンが数人手を繋いでも手が回らない巨大な柱を前にすると見入ってしまう迫力がある。
気温もなぜか扉外とは違って吐く息が白くなるほど寒い。
一般人なら寒暖の差ですぐさま体調を崩すほどだ。
「す、すげぇ、なんじゃこりゃ……」
ダンジョン攻略最前線を進む『ドラゴンの牙』リーダーのアイゼンですら思わず声をあげて、呆然と見入ってしまうほどの空間が扉の内側に存在していたのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
『ドラゴンの牙』は未発見エリアで何を発見したのか?
――まぁろくでもないことになるのは確定なんですがね(暗黒微笑)。
次話も是非是非お楽しみに!
では最後に――【明鏡からのお願い】
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